「これで終わりではないぞ!成り上がりの餓鬼共が!忘れるなよ、お前達を目障りに思っているのは俺達だけではない事をな!」
「夜明けの地平線団もアンタだけになったってのによく吼えるな」
呆れた表情でオルガが返す。
「まぁ、もし来たらそいつらはあんたと同じ末路を辿らせるまでだ」
そして、サンドバルを捕らえていた団員に命令する。
「そいつを石動の所に連れていけ」
「分かりました!」
サンドバルは団員に連れていかれた。
「ふぅ。何とか全員無事で終わったね」
「そうだな、夜明けの地平線団もいい叩き台になった」
「俺達の実力にマクマードの爺さんもビビるんじゃねぇか?」
ユージンが調子に乗って意気込む。
「駄目だよオルガ、ユージン、今回俺達が勝てたのは奇襲が成功したからだ」
それを止めるのはビスケットだ。
「……そうだな。まぁシンが居なくても俺達でこれだけ出来るって分かったんだ。それは収穫だな」
「……わーったよ。少し調子に乗ってたぜ」
二人とも素直に反省した。
「うん、じゃあ打ち上げで何を食べるか決めようか!」
二人の様子を見てとって、ビスケットが話題転換に打ち上げの話を始める。
「そうだな……火星に出した刺身屋なんてどうだ?」
「お、いいなそれ」
「自分達が出したお店で打ち上げってどうなのかな……?まあ楽しそうだしいいか!」
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「夜明けの地平線団を全滅させるとはな……」
報告を聞き終え通信を切ったマクマードが深いため息と共に呟いた。
「……ギャラルホルンの手助けがあってこそだろうよ」
まだ認められないとばかりにジャスレイが反論する。
それに対して名瀬が補足した。
「敵の首を取ったのはアイツらだ。それに人的被害はゼロときた」
睨みつけてくるジャスレイに名瀬はすげなく返す。
「事実を言ってるんだ」
「そうだな、奴等の実力はテイワズと肩を並べる所かそれ以上だ」
マクマードは心の中で「ゴジラもいる事だしな」と付け加えた。
「これで航路の安全も確保出来た。ジャスレイ、お前の鉄華団に対する愚痴は全て聞かなかった事にしてやる。テイワズはこれからも鉄華団と付き合っていく。これは決定だ」
それに対してジャスレイが一瞬だけ不満げな表情をするのを名瀬は見逃さなかった。
(ま~だ何かやらかすなコイツは。もしジャスレイがやらかしたらシンにフォローを入れておくか)
そんなジャスレイを置いてマクマードは話を進める。
「今回の航路の安全確保のお礼として、クリュセ郊外の採掘場の利権を鉄華団に譲ろうと思う」
「……は!?ちょっと待てよおやじ!そいつはテイワズ本体のシノギにすべきでかいヤマでしょ!」
流石に聞き逃せなかったジャスレイが反論する。
「鉄華団と今後も仲良くやっていくんだ。お礼は気前がいい方が良いだろう」
(ほ~こりゃまた随分とデカイヤマを)
名瀬はじっと静観しつつ、鉄華団も大きくなったもんだなぁと感慨に浸っていた。
その側でジャスレイとマクマードがその利権をあげるかどうかで言い争っている。
(オルガに教えたらきっと喜ぶだろうな)
「黙れジャスレイ。これは俺が決めた事だ。名瀬、お前から伝えてやってくれ」
「分かりました。では、アイツらに早く伝えてやりたいので今日の所はここで失礼します」
そう言って名瀬は退室した。
名瀬が屋敷の外へ出ていくと、柱の影でアミダが待っていた。
「どうしたんだい?嬉しそうな顔をして」
「鉄華団のシノギがまたデカくなったって話さ」
クリュセ郊外の採掘場の利権を鉄華団が手に入れたとアミダに伝える。
それを聞いたアミダはそれはいい報せだと喜んだ。
「そうさね……アンタと同じで味方にやっかまれるのは同じだろうけど……」
「力押しが……通じるんだよなぁ……あのガキ共の場合は」
二人の脳内には呑気に振る舞うシンの姿が浮かんでいた。
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「三日月さん!少し時間を頂いてもいいですか!」
夜明けの地平線団との戦闘も無事終えた鉄華団は火星に戻り、クリュセの刺身屋で打ち上げをしていた。
「ん?何?」
アトラにあーんをされながら三日月がハッシュに返事をする。
「俺、三日月さんの闘いっぷりを見て尊敬しました!俺を是非三日月さんの舎弟にさせて下さい!!」
「いいよ」
三日月が即答する。
「勿論ただでとは……いいんすか!?」
「今アトラとご飯食べてるから後で。確か整備長が一人阿頼耶識付けてない操縦者探してたから訊いてみるよ」
「あ、ありがとうございます!では基地でまた!!」
ハッシュはウキウキとした足取りで去っていった。
「……良かったの?三日月」
少し顔を赤らめながらアトラが三日月に尋ねる。
「シンが一人増える様なもんでしょ?」
「あ、確かに」
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先にアトラだけ帰らせた後。
帰りに皆でアリウムの事務所に寄っていく。
事務所にはオルガと三日月が入り、裏口から
出てくる敵を昭弘が徒手空拳で沈黙させ、その間にダンテが事務所のパソコンにハッキングを仕掛ける。
そんな事が裏で進んでいるとは知らないアリウムはオルガと三日月に必死の弁解を続ける。
二人としてはダンテがアリウムの口座から有り金を全て抜き取るまで待っていれば良かったのでぼーっと全ての弁解を聞き流した。
食事の後なので三日月は欠伸をし露骨に話を聞いてませんよアピールをする。
アリウムはそれを見て青筋を立てながらも何故か繋がらない内線に焦りつつ弁解を続けた。
そして、遂にオルガの端末にダンテからの任務完了の報告が届く。
オルガが三日月に合図すると三日月は直ぐに銃を構え、制止の声を上げるアリウムを無視し銃弾を叩き込んだ。
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打ち上げから帰って来たアトラをクーデリアとフミタンが迎える。
「アトラさん一人ですか?」
「うん、一人」
「……そういう事ですか」
フミタンが複雑そうな顔をしながら呟いた。
「……皆少し怖い顔をしてたよ」
「私のせい……ですね」
クーデリアの抱え込むような発言にアトラが直ぐ反論する。
「クーデリアさんが悪い訳無いよ!!殺そうとしてくる方が絶対悪いって!」
「そうです。アトラさんの言う通りお嬢様が全て抱え込む必要は有りません」
「いえ、そういう手段を取らせてしまったのは私の責任です。……でもいつの日かそれを変えなければならない。彼らを幸せにすると約束しましたから」
場の空気が暗いものとなる。
そんな空気を変えようとアトラが別の話題を話し出した。
「そういえばクーデリアさんは三日月がやってる畑見た?」
「えぇ。クッキーとクラッカーに案内して貰いました。すぐ枯らしちゃうって言ってましたよ」
「三日月、農場のことたくさん勉強したんだよ。色々調べて新しい栽培方法を試してみたり新しい種を蒔いてみたり」
「読み書きはどうでしょう?」
「う~ん……農業の本が読めるようになってから勉強してる姿を見てないような……」
「フフッ三日月らしいですね」
「さっぱりしてるよね。そこが良い所でもあるんだけど」
恋話に花を咲かせる二人にフミタンが話し掛けた。
「お嬢様もアトラさんも三日月さんの事が好きなのですね」
「うん!でもクーデリアさんの事も大好きだよ! 」
「私もです。アトラさん」
フム、と思案顔になったフミタン。
それを見たクーデリアは悪戯を思いついた顔をしてフミタンに話し掛けた。
「……そういうフミタンだって団長さんの事気になってるんじゃ?」
「……えぇ!?そうなの!?フミタンさん!??」
それから暫く桜農場にて、少女達が楽しげに話し合う声が響き渡る事となった。
シンの出番は次回です!