クリュセの守護神   作:ランブルダンプ

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また一つシンの記憶が甦ります。


チョコレート仮面

「……武器の積み荷は一切無く、クーデリアも居なかった。計画と違う、どうなってるんだ?」

 

 

「あなた方が鉄華団ですか。私が組合のリーダー、ナボナ・ミンゴです」

「鉄華団、オルガ・イツカだ。部下から話は聞いていると思うが……」

「えぇ是非もっと詳しく聞かせて頂きたい」

 

 

「ギャラルホルンが全員出張るなんて……この隙にクーデターが起きたら誰が我々を守るんだ!」

「失礼します。面会の申し出が……」

「またあのザファランとかいう奴か!今は忙しいとでも言って追い返しておけ!」

「いえ、それが……クーデリアと名乗る女性で」

「何!?」

 

 

「まさか兄さんとこんな形で再会するなんてね……」

「俺も驚いたよ。それにクーデリアさんも連れて……しかも全部ギャラルホルンの仕組んだ罠だって?」

「はい、そんな事を起こさせない為に何とかしないと……」

 

 

 

皆が皆で動いていた。俺は……

 

「そっちへ行ったぞー!!」

「モビルワーカー隊!奴を見つけた!外壁寄りの大通りだ!」

「了解!」

 

(もっと大勢来~い!!)

 

目立つ大通りを爆走してどんどんギャラルホルンの連中を集めていた。

 

(大分出てきたな、モビルワーカーもいるし……皆はどうしてるんだろ?)

 

そうして走っていると、ふと進行方向の先から声がした。

 

「こっちだ!来い!」

 

ギャラルホルンの声では無い。それと何故か懐かしさを感じた。

 

そのまま指示に従い路地裏の隙間に体を縮めて飛び込む。

 

砂埃で相手には一瞬で消えたように見えるだろう。

 

「良かった。君に伝えたい事がある」

 

その声は……

 

『アグニカか……?』

 

何故かその声を聞いて自然とその名が出てくる。

 

「アグニカ……何故その名を?」

 

怪訝そうな顔をして此方を見てくる不審なマスクマン。

銀髪のカツラをして顔に変な仮面を着けている。

……目の所カシャカシャするの止めなさい。

 

……違うな。つーかアグニカって誰だよ?……【シン】の記憶か?

 

前にチョコレートの人(マクギリス)を見ても何とも思わなかったが、今の俺は色々と断片的に思い出しているのでそのせいで今回アグニカという名前が出てきたのかも知れない。

 

取り敢えず目の前の人物に対応する。

 

『あ、チョコレートの人……いやチョコレート仮面』

 

「……その覚え方はいいとして直ぐに気が付くのは流石だな」トイウカシャベレタノカ?

 

『何の用だ?』コノソウチノオカゲデネ

 

「ギャラルホルンのクーデリア暗殺計画の事を伝えにね」

 

『それならもう知ってるよ』

 

「…………何?」

 

『ノブリスの手先だったフミタン・アドモスを仲間にしてね。今はクーデターを起こさせないように仲間が頑張ってるよ』

 

驚いた表情で固まっていたチョコレートの人がフッとため息をついて呟いた。

 

「……流石【ゴジラ】だな」

 

……知ったのか、俺の正体を。

 

『どこでその名を?』

 

「そう言うという事はやはり正解か。私を支援してくれているある団体は厄祭戦時代の資料をギャラルホルンに秘密で大量に保存してあってね。そこで火星で見た君の容姿を検索したら見事300年前に地球に現れた【ゴジラ】だと分かったんだよ」

 

『……成る程、お前が俺の正体を認識したのは分かった。なら何故手助けする様な真似を?』

 

「私はこの腐敗したギャラルホルンを変革させようと思っている。その為に君達にはここで消えてしまっては困るのだよ」

 

『俺達を利用しようってか?』

 

「いや、君達も私を利用したまえ。ゴジラに対してそんな態度をとるほど私は馬鹿ではない」

 

(その馬鹿が歳星でテイワズのボスやってんだよなぁ……)

 

「私はギャラルホルンでも上の立場だ。多少の融通なら効くし、必要な情報も提供しよう」

 

本当はここで恩を売っておこうと思ったのだがね、とチョコレート仮面は続けた。

 

(利用し合う関係ならまあ許せる……それと何故かコイツには人間側の俺が反応してるし)

 

 

一応お互いに知っている情報を交換し合う。

 

そして、ふと気付いた。

 

(今後連絡を取る時はどうしよう)

 

流石にマクギリスと呼んで接するのは不味いだろう。

 

『そう言えば人前では何と呼べばいいんだ?チョコレート仮面?』

 

「その呼び方では人前で困るな……今後はこの姿の時はモンタークと呼んでくれ」

 

(待て……モンターク?)

 

(知らない……ハズだけど何故か俺の……【シン】の……名……?)

 

考え込む俺に対してチョコレート仮面が逆に質問してくる。

 

「一つ聞いておきたい。君はアグニカ・カイエルを知っているのか?」

 

『当然だろ、アイツと俺は……俺?ゴジラ、シン?……モンタク……阿頼耶識のデータを……?』

 

(……モビルアーマーが来て……俺が……ガンダムフレームの一号機を……)

 

 

 

『知っている……ハズだが……分からん』

 

「……そうか」

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

「む、ちょっと待ってくれ」

 

急にマクギリスが呟き難しい顔をする。

 

(その仮面通信機も兼ねてるのかよ)

 

「……今私の同志から連絡が入ったが、クーデリアがドルト3にいる事をギャラルホルンが認識したようだ」

 

『そっか、サンキュー。俺行くわ』

 

「礼はいらない、仲間の元へ行きたまえ」

 

『あぁ』

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

ハァ……と経営者の男は心の中でため息をついた。

 

目の前にいるのはギャラルホルンから散々警戒されている火星独立運動の姫クーデリア・藍那・バーンスタイン。

 

面会を受けたのは噂の人のお手並み拝見くらいの軽い気持ちだった。

 

それなのに、自分は何を思ったかギャラルホルンに連絡せずにクーデリアと話し込んでいる。

 

「ですからこんな解決方法ではなく……」

 

最初の内はいつもの返答でのらりくらりとかわしていた。

 

しかし、クーデリアの話を聞いていく内に自分の中でいつもの面の厚い経営者の皮が剥がれていくのを感じる。

 

その眼に宿る熱意に忘れていた当初の心を思い出したせいかもしれない。

 

話を続けようとするクーデリアを手で抑える。

 

「……正直に言おう。私だって分かっている。こんな方法は間違っているってな。だがな、ギャラルホルンに下手に歯向かって部下を全員路頭に迷わせるのが正しいのか?」

 

どこでどうすれば良かったのか。自分にはもう分からない。

 

「仕方ないんだよ、他に方法は無い」

 

そんな事は無い、他の道は必ずあると説得しようとするクーデリア。それを経営者の男は再び止めた。

 

男にギャラルホルンからのメッセージが入ったからだ。

 

送られてきたメッセージには今すぐそちらへ向かう、何としてでもクーデリアを引き留めろ、そう書いてあった。

 

「……ギャラルホルンがここに来る。逃げろ」

 

「……何故それを?」

 

「私なりの精一杯のお礼だよ。クーデリア、君と話せて良かった。……君は私の様になるなよ?」

 

それを聞きクーデリアが不安そうな顔をする。

 

「私の事なら心配するな。何、連中とは親しくさせて貰っているからな。上手く言いくるめてやるよ」

 

そう言って自分なりに精一杯格好つけた笑顔をみせる。

 

……随分と久しぶりに笑ったな。顔が引き吊ってないといいが。

 

「君達もさぁ行け!」

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

ギャラルホルンの兵士はたった今撃ち殺した男を睥睨しつつ、仲間に連絡を入れた。

 

隠しているつもりだったのだろうが労働者を庇っているのは丸分かりだった。ならばこの際クーデリアを殺す切っ掛けとなって貰おう。

 

労働者の中に紛れ込ませてる仲間に、クーデリアとその一行が経営者の一人を討ち取った。この機を逃すな、今が立ち上がる時だと噂を流すように伝える。

 

「はっ、今まで役に立たなかったんだ。ここで役に立って貰うぞ」

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

扉が慌ただしく開かれた。

 

「おい、ナボナさん聞いたか!?クーデリアさんが真っ先に先陣切って俺達の敵を倒してくれたらしい!」

 

組合員が興奮して組長に捲し立てる。

 

組長に眼を向けると、分かっていますと言うように頷かれた。

 

「その話は誰から?」

 

「誰って……皆が噂してますよ。やっぱりクーデリアさんは俺達の味方だ!って!」

 

「……不味いな」

 

クーデリアの交渉は失敗……というよりは妨害をされたのだろう。その上意図的に噂を流されている。

 

その時ユージンが急いで部屋に入ってきた。

 

「ミカからか」

 

「あぁ、全員で港に向かってるらしい。一旦そこで落ち合おう、だとさ」

 

「分かった。シノ!ヤマギ!俺達も出るぞ。ユージン、繋がるならイサリビに連絡してくれ」

 

「了解!」

 

ユージンが通信を試しに一旦部屋から出ていく。

 

「ナボナさん」

 

まだ話続けている組合員を押し退けて話し掛ける。

 

「俺達はこの事態を収束させる為に動く、そっちも……」

 

「分かっています。こちらからは手を出しません」

 

相手の思う壺ですからね、と付け加えた。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

チョコレート……マクギリスと別れて俺は直ぐに三日月さん達の元へ向かったが、何故か追ってくるギャラルホルンがいない。

 

(取り敢えず誰も来ないなら情報収集しておくか)

 

手近にあった監視カメラを壊し、そのコードに尻尾を接続し、ドルトコロニーのネットワークに繋ぐ。

 

(ん?やけに通信が増えてるな……何々?クーデリア、英雄?経営者の一人を討ち取った?今こそ時は極まれり?)

 

これは……

 

(思いっきり濡れ衣着せられてるじゃねーか!)

 

……思いっきり失礼な事をクーデリアが言われて三日月さんがキレていない限りは、だけど。

 

早速例の経営者の部屋のパソコンにアクセスする。

 

(さーてどんなのが載っているか……お、監視カメラのデータ消してるな。まぁ俺には無駄だけど)

 

サクッとデータを復元する。そしてそのデータを確認すると、クーデリアではなくギャラルホルンの兵士に件の男が撃ち殺される映像が映っていた。

 

(やっぱりギャラルホルンか。本当にアイツらろくでもないな)

 

何かに使えそうなのでクーデリアとの対談からギャラルホルンの兵士に殺されるまでの一部始終を切り取り保存する。

 

(奴等は証拠は残っていないと思っているだろうし、楽しい事になりそうだ♪)

 

 

そんな事を考えていると不意に流れる情報が格段に多くなった。

 

(ん?何が起きた?)

 

気になったのでその元を探る。それと同時に近くのテレビからクーデリアの姿が映し出された。

 

(ちょ!?暗殺者もいるってのに不味いって!クーデリアの性格的に見捨てられないのは分かるけどさぁ!)

 

街中だがしょうがない。俺は体を一気に巨大化させ大通りを体内のエイハブリアクターをフル稼働させて移動を開始した。

 

(昔もこんなことやった様な……)

 

俺は街路樹、車、道路を破壊しながらクーデリアの元へ急いだ。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

「ククク、のこのこ出て来るとはバカな女だ」

「報告します!狙撃隊の配置、完了しました!」

「よし……これで目障りな火星独立の姫は平和なコロニーでクーデターを起こした大罪人だ。合図を待て」

「はっ!」

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

労働者達に見つかってしまったクーデリア。

そのままデモの先頭へと連れられてしまう。

 

誤解を解こうとするも、周りの勢いに押され上手くいかない。

 

「ですから、私の話を……!」

 

「分かってる分かってる!俺達の声を代弁してくれたんだろ?あんたには感謝しかないよ」

「クーデリアさん!本物に会えるなんて!」

「支援者さんが言ってたのは本当だったな!各地のコロニーでギャラルホルンへの反撃の狼煙を上げるって!」

 

 

「お嬢様、ここにいる全員お嬢様の話を聞く気がありません」

「興奮しきってるな、こうなりゃ動物と一緒だ」

 

何とかフミタンとオルガが近くまで辿り着き撤退を促す。

 

「何とかしようにも、真実を伝えてもそれを上回る量の噂話でどうしようもありませんね」

 

ナボナも必死に落ち着いて欲しいと仲間を説得していたが、全員聞く耳を持たず、諦めてこっちへやってきた。

 

「ですが、このままエスカレートすればギャラルホルンと衝突して犠牲が出ます!」

 

(何か……何か流れを変える切っ掛けさえあれば……!)

 

 

 

その時、クーデリア達のいる所より前方、ギャラルホルンの建物から爆発音が鳴り響く。

 

「な!?誰が攻撃を!?」

 

あれほど厳命していたのに……!と焦るナボナ。

 

一方オルガはギャラルホルンの自作自演だと気付く。

 

「不味い!フミタン!クーデリアを避難させろ!」

 

「分かりました」

 

「待って!フミタン!」

 

 

ギャラルホルンからの反撃としてスモーク弾が撃ち込まれる。

 

辺りに満ちる白い煙。そして破砕音。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

ギャラルホルンの狙撃者がクーデリアとフミタンの背中に照準を合わせ、引き金を引いた。

 

しかし、命中する寸前で何かが彼女らをガードした。

 

スコープから顔を上げれば白い煙の中で何がが蠢いている。

 

再び構えて撃つ。

 

しかし、当たる寸前に再び何かに銃弾を阻まれた。

 

「何だ!?何が起き……!」

 

その時白煙の中の何が動いた。そして、咆哮が響き渡る。

 

咄嗟に耳を塞ぐ。

 

音量としては決して大きくはない、だが何故かこの声を聴くと生理的に嫌悪感を掻き立てられる。

 

 

そして【それ】が尻尾を振り回して煙を払い、その姿を表した。

 

それを見た狙撃兵は、恐怖の叫び声を上げずにはいられなかった。

 

子供の頃に見た悪夢の具現、見ていると耐え難い吐き気に襲われる。

 

【それ】が此方を見据え、再び咆哮を上げた。

 

本能が警鐘を鳴らし立てている。

 

あれには勝てない、逃げろ、生き延びろ、と。

 




鉄華団にとっては頼もしい味方。

ギャラルホルンにとっては?

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