そして、幽霊屋敷―――否、今となってはイリマの拠点と呼ぶべきか。セイバーを身に宿した今ではありありと分かるほど魔力と術式が込められたその屋敷の前に降り立つ。
「さて、んじゃ乗り込みますか……ッッ!?!?」
その瞬間。背筋、いやそれだけでは無く。頭蓋、視界、神経、魔術回路、そして五臓六腑までもが警鐘を鳴らすがごとくその身に生命の危機を呼びかける。
だが、それはどこにいるか分からない、どこから来るのか分からない存在による恐怖ではない。眼前の、それこそ視界の中に。開け放った門の奥。入り口の扉を開けたところに立っているはずなのにその威圧感は全方位から取り囲むかのように俺を包んでいた。
「よう。待ってたぜ、身の程知らずのヒトどもよ。」
「ええ、これでやっと貴方を倒せるってわけね、セイバーのマスター。」
そう、声を掛けてくるのはライダー主従。気軽に話しかけてきてはいるが、その圧は今までとは桁違いだ。やはり、この間怒らせたのが原因だったか……?
それに、セイバーとの死線ギリギリの特訓を経た今だから分かる。イリマの方も、とんでもない魔力量をしている。それこそ人間じゃないレアを除けば一番多いかもしれないってくらいだ。こんなの相手に逃げながら時間稼ぎなんて、悠長な無茶振りだよホント。
『じゃが、お主はやるのじゃろう?』
―――もちろん。
「じゃあ、改めて名乗りをあげさせてもらおうかしら。私はイリマ・カフナ。千年以上の歴史を持つハワイの魔道の大家、カフナ家の今代当主にして―――今から貴方たちを殺すものの名よ。では、ライダー。存分にやりなさい。」
「ああ、やってやるさ―――神に唾を吐いたこと、後悔するがいい。」
そう、言うが早いか。月光の中、戦いが始まった。
まず、先を取ったのはライダー。一撃、二撃、三撃。身体を抉るようにその拳が打ち込まれる。だが、
―――しかし、そうだとしても。強力な肉体と強力というものはそれそのものが強さであり、単純に振るうだけでいい分、技術による立ち回りよりは疲弊が少なくなる。
すなわち、十合、二十合ならともかく、その立ち回りが五分を越え、五百合を越えてきた辺りからその受け身にも綻びが生じ始める。
「ふん、やっと入るようになってきたか。だがこのままでは終わらせん。全身の骨を砕き、その肉をズタズタに裂くことで罰と為すからなぁ!!」
「ぐっ……」
再び一撃を肋に受け、その反動のまま吹き飛んで距離を取り、間合いをはかる。
今のでまた肋骨行ったか……?
だが、セイバーと一つになっている間ならこの身は人間より受肉したサーヴァントに近くなっている筈。だから、魔力の消耗さえ気にしなければこの程度はあとでなんとでもなる。
『だとしても、喰らいすぎじゃ、突っ込みすぎじゃ、阿呆。もう少し上手く立ち回らんか。』
全く……行ってくれるなぁ。でも、多少喰らいすぎたかもしれないとはいえ、
そもそも、ランサーと交代でサイクルを回しながら逃げると言ったって、遭遇戦ならともかく、こっちから戦いをふっかけておいて逃がして貰えるほど甘い相手な訳がない。だからこそ、撤退戦の形に持って行くためにはまず―――
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「―――横合いから殴りつけてやるのさ。」
その瞬間、ライダーの背後の地面から生えた無数の棘が、ライダーの手足を貫いた。
「いや、この場合は後ろからぶっ刺したって方が正解かな?」
「……ランサーか。」
「久しいな、ライダー。そんじゃあまぁ……この間の決着を付けるとするか。」
「ふん……セイバーのやつは貴様の更に向こうに逃げた、と。なるほどなるほど、つまり組んで戦うということか。」
「なに呑気なこと言ってるのよライダー、あなたの強さなら2人纏めて相手出来るでしょう!追いかけるわよ!」
そう言うや否や、イリマは強化魔術で自身の脚を強化し、屋根を飛び移りながら距離をやや取り始めたランサー達をライダーの後ろに位置取りながら、追いかける。
「ちぃ……ランサーもちょこまかと……何処かへ誘い込む気かしら?」
「……さぁな、だがその可能性は十分ありうるだろうぜ、どうするよマスター。」
「誘いに乗ることもないでしょう、魔術で狙撃をしなさい、ライダー。奴らは今日ここで私が殺して、聖杯戦争に
「…あぁ、了解。」
その言葉と共に、ライダーはその有り余る魔力で空気中の微少な水分を纏め、水の鏃を生成して解き放つ。
「ーーッ!!ランサーッッ!!」
「分かってる鎖姫!!ソーン!」
「更にそこにッ!
しかし、ランサーは雑居ビルの屋根を飛び移りながらも、その足元に魔力でルーンを描き、トゲの壁を創り出す。ルーンにより創り出されたトゲは、そのトゲが生えた部分の材質となる、故に雑居ビルのコンクリートから創られたトゲから、鎖姫の魔術により即席の造形魔術により隙間を埋めるが如くに壁が出来る。
ーーだが、それは薄く。水の鏃を全てを防ぐには至らない。
そして、それはランサーの肩を貫いた。