Fate/erosion   作:ロリトラ

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キャラがすぐ自由に暴走してしまう今日この頃


6日目/再会する毒女

そうしてバスを乗り継ぎ歩いて日ももうすぐ変わるという時間になり、漸く鎖山森の入り口へ着いた。

いや、まぁ森なので入り口というのは語弊があるのかもしれないが、兎に角森の手前にまでは着いた。

 

「んーーっと……結構時間かかったなぁ。というか、この時間だと帰りはバス無いし徒歩で歩いてかなきゃダメだな……」

「いや何いきなり帰ること考えてるんじゃ、目的忘れてないじゃろうなお主。帰りの心配の前に交渉の心配をせんか。」

「そんなのはモチのロンよ。セイバーとなら交渉だろうとなんだろうと出来ないことは無いから帰りの心配してただけだ。」

「……っっ!全く……この阿呆ますたぁ。」

「あれ!?俺何か変な事言ったの!?」

「もういいわい……行くぞ。」

「ああ、いざ出陣エイエイオーってな。」

「なんでかちどきあげとるんじゃ……」

「こういうのは気分だ気分。」

「いやそれでも喋りながらもさっきから歩くのやめてないからとっくに森の中踏み込んでるんじゃが。遅くないかの、それはそれで。」

「気にしたら負けなのじゃ。」

「ええい、儂の言葉遣いを真似するでな……ん?」

 

そうくっちゃべりながら森を歩いているとーー道路に出てしまった。

 

「……む?まだ五町程歩いたかどうかではないかの?そんなに小さな森であったか?」

「いや、そんな小さくはないはずだ。」

「となると……進む方向を間違えたのかのう。今のところ殺気どころか戦意すら感じ取れぬし、もう少し奥に行かねば交渉所ではないからのう。」

「……いや、違う。ここ………俺達が入ってきたところだ……!」

「なん……じゃと……!?」

「この森の中に拠点があるんじゃない、この森そのものが既にキャスター達の拠点なんだ……」

「入ってきた者を惑わし自然と外へ導く……まさしく還らずの森ならぬ入らずの森といったところかのう。森自身が結界なのか、それとも土地に細工をしたのか、いずれにせよ入ってくる者全てに無作為に行われておれば殺気も戦意も感じぬ筈じゃ。」

「おまけに効果も入ろうとしたら自然と出てくるだけだもんなぁ。こんな森、わざわざ入るやつもなかなかいないし、聖杯戦争の2週間程度なら騒ぎになることもない、上手い隠れ方だ。」

「じゃが、儂らはこれを突破せねばなるまい。儂らと戦う気があるならことここにおいて穴熊のままではおらぬし、不意打つ気ならさっきに既に仕掛けておろう。何もしないということは何も変化を望まぬということじゃろう。」

「確かにそうだな……かと言って、どうするか。」

「ふん…何を寝ぼけておるのじゃうちのますたぁは。結界じゃろうと魔術じゃろうと、この妖刀(わし)に斬れぬものなど無いわ。」

「あ……悪い悪い、それもそうだった。」

「全く……よし、行くぞますたぁ。」

 

そうしてセイバーの本能(チカラ)が身体に、体幹に、脳髄に染みていくのを感じる。そしてーー抜刀。

張り詰めた糸のように。

静まり返る水面のように。

精神は静かに剣気をそのうちに秘める。

 

ーーそして、息を吐く。

 

昨日の時も思ったが、何やら前よりも暴走する斬りたいという妖刀の本能が薄くなったように感じる。

『それはやはり、儂が自身の真銘を受け入れ、完全に妖刀としての本能を制御できているからじゃろうな。自覚とは、やはり自身の力を十全に振るうのには不可欠ということなのじゃろう。』

そう、セイバーが考え込むように語り掛けてくる。

なるほど……自覚か。

なら俺も、改めて自分の胸に刻まなくては。

セイバーの覚悟に答える為にも。

俺はロリコンとして、そして1人の男として。

彼女(セイバー)の為にこの妖刀(チカラ)を振るうと。

 

そう心を改めて整理したからと言って、謎のパワーアップを遂げる訳でもないけれど。

心はよりハッキリと澄んだ気はする。

 

今の俺なら、俺たちなら。

 

ーーー斬れないものは無い。

 

◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

そして、再びこの鎖山森ーー入らずの森への踏み込む。

1歩、2歩、3歩。

4歩、5歩。

そして6歩目を踏み出そうとする時僅かに心の水面に、揺らぎを感じる。

 

ここからが、範囲内か。

 

そう感じ取り、刀を大上段へと構える。

そして全身の魔力を、彼女(セイバー)自身の魔力をも回転させ、刀身(彼女のカラダ)へと注ぎ込み。

 

「真名解放ーーー妖刀」

 

今、振り下ろすーー!

 

◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

「真名解放ーーー妖刀……」

 

高まる妖気を纏めあげ。

今、振り下ろす。

 

「村ま……」

「ちょーーーーっと待ったァ!!」

 

まさにその瞬間。

初老の男が突如俺たちの前に現れた。

 

「待て待て待て待て待て待て待て!!君達は馬鹿か脳筋なのか!?!?なぜいきなり破壊する!!?」

「うおっ!?」

 

そして物凄い剣幕でまくし立て詰め寄ってくる。

 

「だいたい何のために結界に穴を分かりやすく開けてあると思っている、聖杯戦争の参加者の攻め口だろうが!!それをこともあろうかそれに気づきもせずいきなり破壊とはやはり馬鹿か脳まで筋肉なのか!?百歩譲って罠だと判断して破壊の選択肢を取るならともかくとりあえずの勢いでぶった斬るなど愚の骨頂!!」

 

そうして初老の男はひとしきり言いたいことを言い尽くしたのか、肩で息をしながらこちらを睨む。

 

「え、えーと……とりあえず。あんたが……キャスターのマスターってことでいいんだよな?」

「……………その通りだ。誠に不本意な対面だがな。」

「で、でも、わざわざ戦闘状態の俺たちの前に出てきてくれたってことはこっちの話を聞いてくれる意思があるってことだろ?」

「………余りにも君達が馬鹿過ぎるから咄嗟に出てきたとは考えないのか?」

「いや、それは無いだろ。そんなことするくらいなら普通に不意打ちで倒せばいい話だし、そもそもいくら宝具とはいえセイバーの宝具は対人だ、穴を開ける程度は出来ても結界まるごと破壊なんて芸当は到底無理だ。それこそ本気でこっちを殺す気なら結界の中に誘い込んでからトラップで仕留めればいい話なんだから、出てくる必要なんて益々無い。」

「……ほう。ただの馬鹿かと思えば存外頭は回るじゃないか。なるほど、認識を改めるとしよう。」

「じゃあ、話を聞いてくれるのか。」

「とりあえず、自己紹介からだ。私の名はラバック・アルカト。巨人の穴倉の錬金術師にして、キャスターのマスターだ。」

 

そう手を差し出してくるラバックに対し、俺は刀を納めて戦闘態勢を解く。

 

「俺は伍道(ごとう) 戈咒(かしゅ)だ。ロリコンにして、セイバーのマスターやらせてもらってる。」

「ロリコン……?まさかレアに惚れているとでも言い出す気ではないだろうね。」

「はぁ!?誰があんな似非幼女(エセロリ)なんかに興味持つかよ。というかあんた……レアを知っているのか。」

「勿論、よく知っているとも。我らは嘗ての盟友なのだからね。こうして君の目の前に立っているのも君が彼女の遊具(おもちゃ)扱いされているからさ。」

「ッッーー!!」

 

咄嗟に距離を取りながら再び刀を抜けるように構えをとり、慎重に口を開く。

 

「お前……レアの味方だったのか。」

「いいや、逆だ。私は彼女を止めに来た。」

「なんだって……?」

「言葉通りの意味さ。このままでは彼女は人理を崩壊させ兼ねないからね。」

「わかりやすく言えば人類の可能性……もっと噛み砕けば私達が生きる今のこの世界のことさ。彼女の毒聖杯はそれを崩壊させる。」

「え、な、ちょ、え……!?!?」

 

情報量が多い上にスケールがいきなり跳ね上がり過ぎて理解が置いつかない。

だが、その思考を纏めるかのようにセイバーが口を開く。

 

「つまり……世界を滅ぼそうとしておるのか?やつは。」

「滅ぼそうとする、というと少し語弊があるだろうな。あくまでも彼女にとっての目的は別だ。ただ、その目的の過程で平易に言えば人類の大半が滅びるということだがね。」

「ーーッッ!マジかよおい……それこそこんなところでいがみ合ってる場合じゃねぇじゃねぇか。他の参加者全員で……いや、それこそもっと沢山の魔術師やらなんやらで纏めて倒さねぇと……」

「それが出来れば苦労しないだろうがねぇ。」

「まず、これを理解しているのは私以外には監督役の彼女達だけ。そして応援を呼ぼうにも私は交友関係が狭くてね、呼べる相手などいないのさ。更に聖堂教会も監督役がギリギリに到着するくらいには人手不足だ。」

 

そう、ラバックは指折り数えながらとうとうと語る。

 

「そしてこの参加者全員の協力だが、全員目的が違うのに足並みが揃うとでも?」

「うっ……それは……」

 

確かに、猟理人のような奴が紛れている時点でまともに足並みが揃うとは言い難い。

 

「加えて、彼女は遊ぶのが好きだが同時に周到でね。下手にこちらが確実に彼女を叩ける戦力を有する段階になれば、攻め入るより早くそれを切り崩すだろう。君の左腕のようにね、違うかい?レア。」

 

それと同時に、左腕が流動体のように突然うねりだす。

「え!?う、腕が……まさか!?」

 

そして、唇が浮かびあがりそこからレアの声が発せられる。

 

「流石は我が同胞、ラバック・アルカト。滅びぬと言った通り有言実行の男、とでも言うところでしょうか?それにしてもまさか自分のスペアとは、中々に狂気地味た発想です。けれどそれでこそ私の同胞として相応しい。やはり手を貸しては貰えないですかね?神代の魔術、貴方も興味深いはずだ。」

「くどいな、何度言われども気は変わらんよ。私はお前を止める、その為の半世紀だ。」

「ううん、それは悲しいなぁ。ねぇ、戈咒君?君もそう思わない?」

「はっ、思うかよこの紛い物毒女(エセロリクソババァ)。」

 

左腕の異物感と違和感に対して吐きそうになるのを必死に堪えながら怒りのまま悪態を解き放つ。

 

「うーん、相変わらず鈍いんだなぁ、君。私がこれだけアピールしてるのになびかないなんて。そもそも、なんでラバックが言うまで出てこなかったと、邪魔しなかったと思うんだい?」

「え……そ、それは…」

 

確かに、その気になればコイツは幾らでも干渉出来るはずなんだ、何故わざわざ話させた……聞かせる必要があったのか……!?

 

「まさか……俺達に目的を聞かせる為……?」

「うーん、惜しいッ!でも惜しいからナデナデしてあげたいッ!目的じゃなくて、人類の殆どが滅ぶってとこが重要なのよ。」

「現代人類なら滅んでも、死徒やグールみたいな神秘の側の生物なら、神秘の濃い世界になったところで生きられる。つまり、私が貴方を誘う事によっておきる明確なメリットを貴方にもわかりやすく示してア・ゲ・タ♪ってことッ。」

「……………なーにがメリットだよ。実質的な脅しじゃねぇか。」

「うーん、私としては普通にメリット提示なんだけどなぁ。選択肢なんてただの人間には普通ないんだよ?」

 

確かに、選択肢がある時点で違うのかもしれない。けれど。

 

「何言ってやがる」

 

錬土や委員長、そして世界中の幼女が犠牲になる選択肢なんて。

 

「選択肢はまだあるだろうが。」

「へぇ……それは興味深いねぇ。」

 

最初からないのだから。

 

「ーーーお前を倒す。」

「……ふふッ♪」

「お前を倒せば全て解決ハッピーエンドって訳だ、違うか?」

「なぁるほどッ、確かにそうだね!貴方にとっては完璧なハッピーエンドだよッーーー出来るものならな。」

「はっ、言ってろよ。その面斬り刻んでやるさ。」

「今までですら私頼りでピンチ乗り越えてたのに面の皮が厚くてもう……そんな所も唆っちゃうッ!それじゃ、その時をたのしみにまっててア・ゲ・ル♪」

 

そう言うやいなや、再び左腕はうねりながら形を変え、再び変色した俺の左腕へと戻る。

この左腕……仕方がなかったとはいえ思った以上に枷かもしれないな。斬り落とすのも一つの手かもしれない。

 

そう考えながら左腕に落としていた視線を前へと上げると、ラバックが顔を手で抑えながら目を伏せている。

 

「……?どうしたんだ、ラバック。」

 

そして問われたラバックは重々しく口を開き、ぽつりぽつりと言葉を発する。

 

「………いや、なに。そのな。歳若い君にはまだ分からないかもしれないが。嘗ての盟友がな、その、結構な歳を食った昔馴染みがな。あの様な言葉遣いで喋ってるのを聞くのは正直キツくてな………」

「………あぁ。」

 

ーーなるほど。いわゆるBBA無理すんな、というやつか。にしてもそれほどショックか。

 

と、思ってるとまたまた左腕がうねりだしてレアが喋り出す。

早くねぇかおい!?

 

「ーーちょっと。ラバック。人が黙って聞いてると思って好き放題言ってくれるじゃないですか。今のは少しイラついたので覚悟しておいて下さいね、惨たらしく殺してあげますから。あと、貴方が余計なこと言う前に忠告しておきますが、彼のこの左腕は正当な契約で手に入れたものです。迂闊にラバック、貴方が切り落としたり、彼に斬り落とさせたりしたらその場合はーー戈咒君への人質、トロットロに溶けちゃうよっ♪」

 

そう言い切るが早いか、再び左腕は元へと戻る。

気にしてたのは想定外だが、その後の方が大事だ。地下下水道でも役に立ったしで一応放置していたが今のを見て斬り落とすのを考えに入れ始めた途端釘を刺しにきやがった。

ーーだがやはり、こちらの行動が筒抜けというのは辛い。何か方策を考えないと。

 

そうして考えていると、再びラバックがぽつりと言う。

 

「……気にしているなら、その喋り方やめればいいんじゃないないのかね。」

 

ーーうん、それはそう思う。

 

◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

そうして、一悶着はあったが。

漸く本題へと戻り、交渉へと入る。

 

「……なるほど、ライダーを倒す為の同盟か。」

「……あぁ。正直こちら側の事情で頼めそうなのがあんた達くらいでな。」

「なるほど……だが、私としては組むメリットが無いのも事実でね。私は勝つことが目的ではなくレアを倒すことが目的なのだから。」

「……あぁ。それも分かってる。その上での提案だ。」

「ほう……聞かせてもらおうか。」

「あぁ、少し待ってくれ。」

「なに……?」

 

そう言って俺は左腕(・・)をTシャツの中へと引っ込めた。

そしてそのまま、右腕でスマホをだしてメモ帳に打った文面をラバックに見せる。

 

「ほう……なるほどな。だが、いいのか?」

「あぁ、問題ない。覚悟はしている。」

「ならば私とそのサーヴァント、キャスターは君たちとの同盟を受け入れよう!」

「あぁ、助かる。」

「とはいえ、私のキャスターは変わり種でね。魔術すら苦手なのだよ。だからサポートと言っても出来ることに限りがある。」

「なるほど……具体的には何が出来る?」

「この森という結界全てを使ったトラップ地獄だ。」

「……サーヴァントに通用は?」

「ライダー程の英霊ともなれば五分五分。しかし君たちのマスター殺しを狙う作戦なら、マスターをより確実に仕留められるだろう。」

「ならば俺達はどうにかして森へと引きずり込むのが役目、という所か。」

「そうなるな。」

「よし、分かった。それじゃあ、その時は頼む。」

 

そうして踵を返そうとすると。

 

「ああ、待ちたまえ。最後にひとつ。」

 

呼び止められ、振り向くと何やら文字の羅列が書かれたメモを渡される。

 

「……これは?」

「私のTMitterアカウントだ。決行日が決まり次第DMで連絡を入れてくれ。」

 

そう言うと、ラバックは森の奥へと消えていった。

 

そして、俺達も結界の力か、再び森の外へと弾き出される。

 

「なぁ、セイバー。」

「……なんじゃ?」

「神秘の隠匿って、なんだっけ。」

「………さぁのう。」

 

◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

ラバックは先程の条件を思い出しながら、1人工房で思考する。

 

【挿絵表示】

 

彼は良い、良く狂っている。

実に彼女好みの狂いっぷりだった、だからこそ見初められたのだろうと。

そして、同時にこう考える。

あくまで平凡なそこらの人間のまま狂い、彼女に抗おうとしている。だからこそ生まれる侮りを使えば、今度こそ彼女をーー

 

 




これからの時代は魔術師もSNS使わないとですね!!()

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