一方、セイバー陣営を後にして去った鎖姫は。
ランサーの腕の中で、ほっと息をついていた。
「上手く……いったわよ、ね?ランサー。」
「あぁ、上出来だサキ。セイバーのマスターはアレだけの変人……いや、変態だ。おそらくこちらを、いやサキを疑うことは無いだろう。そもそも何一つ嘘は言っていないのだからな。」
「……そうね。あくまで私の意思ということを強調したし、人の事をロリだ幼女だって侮ってるあのロリコンにはバレないでしょうね、4つめの理由も、もう1つの目的も……」
そう、あの策にはもう1つの理由がある。波状攻撃に徹することで、奴の戦闘手段を使い魔を利用してこちらだけが一方的に知ることが出来るということだ。魔術師でないアイツにはこの手段は取れない以上、大きなアドバンテージになる。
そして、それはこの同盟のもう1つの目的に起因する。
「ライダーのマスターを殺した瞬間、或いはその直後の隙をねらってあのロリコンを殺す。それが私達の同盟のもう1つの目的なんだから。」
「……あぁ、だが本当にそれでいいのだな?サキよ。」
「……ええ、さっき決めた通りよ。私は、手段を選ばない。本当に成したい事の為に。」
そう言い放ち、鎖姫は半刻程前の事を思い返す。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
セイバー達を気配から追跡していたランサーと鎖姫は、更に強大な気配を感じ立ち止まる。
「……っっ!!セイバーを追いかけていたのはこいつかーーライダー…!」
「なんですって、運がいいわ。地下の借りを返すチャンスよ…………とは思ったけれど、さっきのダメージが抜け切ってない今じゃ無理、か。」
「……そうだな。奴らもちょうど公園に逃げた。どうやら戦うみたいだな。ここは大人しく、アイツらの戦いぶりを観察でもするか。」
「……倒したい相手を2人も目の前にして何も出来ないなんて業腹だけれど、仕方ない、か。」
そう、自重するように言うと鎖姫は目に強化の魔術をかけて戦闘を観察する。
「あぁ、悔しいだろうがな。……ライダーが動いた!」
「入るーーいえ、いなした!?」
「上手い……アイツら、やはり普通じゃない。」
「何弱気になってるのよ、ランサー。貴方と私なら勝てるでしょ?」
「いや、強さの話じゃない。セイバーは……マスターに憑依しているからなのか、サーヴァントなのに成長しているんだ。」
「成長……?」
「あぁ。通常なら、英霊であろうと反英霊であろうと、英霊の座に登録された時点で時間の輪を外れた存在になり、その状態で固定される。全盛期で召喚される都合上、技術や精神に成長の余地があるサーヴァントも存在はするだろうが、だとしても召喚時の状態で固定され、召喚後に成長するという事は考えにくい。」
「つまり、アイツらは……」
「あぁ、そもそも英霊ですらないのかもしれんな。」
「……ねぇ、ランサー。アイツらが、ライダーを倒せる可能性って……?」
「ふむ……あくまで私の見立てだが、この短期間での成長速度を考えると、可能性だけなら十分に有りうるだろうな。何か、悩んでいるのか……?サキ。」
「……アイツらは、私の魔力切れで倒せなかったアサシンを倒して、お兄ちゃんを助け出した。そして、凌ぐだけで精一杯だったライダーにも返しの一撃を加えることが出来た。そんな相手からの同盟というチャンスだったのに私は初対面の時に蹴ったのよ、みすみす強大な敵を作ってしまったのよ。」
「後悔……しているのか?」
「………いいえ、逆よ。そんな判断ミスをしたって言うのに、ちっとも後悔の念が湧いて来ないのよ。」
「……ほう。」
「けれど、このままだと私達は多分セイバー達を倒す事も出来なくなる。聖杯戦争で勝ち残ることが出来なくなるわ。それなのに、どうすればいいのか分からないのよ。」
「なら……簡単なことだ。ミスをしたと言うならば、やり直せばいい。今からでもセイバー陣営に同盟を申し込めば……」
「ダメよ!アイツらは私を馬鹿にしたの、倒さないと気が済まない……!」
「………それでは、一体どうする気だ?サキ。あれも、これもと駄々っ子のように願えども、人に出来ることには限りがある。才が無ければ尚更だ。そして、それはサーヴァントでもだ。」
「……ランサー。」
「いつかは言うべきだとは思っていたが、今がその時だ、サキ。お前が最もしたいことはなんなのだ?満足のいく戦いと勝利をすることか?それとも聖杯戦争に勝つことか?」
「私は……私は……一人前になりたいの。魔術師として、刻印を受け継ぐに相応しいとお祖母様に認められるような魔術師になりたい。……だから、聖杯を掴んで認められたい。」
「その為には、手段を選んでいられなくなったとしても?」
「……………………………………えぇ。」
長い沈黙の後、鎖姫はゆっくりと言葉を紡ぐ。
「そうよ……魔術師は効率のいい方法があれば人倫をも無視する。これは無視したいからじゃない、それが最も根源に向かうのに近道だと思うから。ーーだったら。私もプライドに拘っている場合じゃない。これは戦争……全てを賭して戦って、最後に立っていたものが正しい戦い。なら、魔術師として、お、劣って……劣っている私は、どんな手を使ってでも勝つ、覚悟がいる!!」
「………そうか。それが、お前の決断か、サキ。」
「ええ、そうよ。だから……知恵を貸して、ランサー。私に考えがあるの。」
「考え……?」
「ええ、ライダーとセイバー。両方を潰す案が。」
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「……サキ?サキ?」
「あぁ、ごめんランサー。少しぼうっとしてたみたい。」
「無理もない、私が追い込んだのもあるが、そもそも疲れも溜まっていたろう。早くサキの兄のところに向かって身体を休めるべきだ。」
「……ええ、そうね。」
お兄ちゃんは、セイバーのマスターを殺したら私を許さないかもしれない。
けれど、お兄ちゃんは魔術を捨てた。
例えどんなに大切な家族であっても、もう魔術師でないなら認められたい相手じゃあ……ない。
私如きには全てを掴むなんてむりなのだから、何かを選ぶ必要がある。
そして、その結果として何かを失う……覚悟も。
主人公達がイチャついてる一方でロリが覚悟決めてるのなんなの?温度差ひどくない?