やっと書きました。これからは少しづつペースを取り戻していけたらなとも思います。
幕間/くらやみのなかで
意識が戻ると、そこは真っ暗なところだった。深い、深い、水底のような。意識が溶け合い、混ざり合い、揺れ動くような空間。
懐かしささえ覚えるようなそこで眠りにつきかけたその時、水揚げされるかの如く意識が浮上する。
そしてーーー
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
そこは、広々とした空間だった。
ひんやりとした空気がしんとした雰囲気を醸し出し、それ故にこの場に浮かび上がるこの人理の穢す染みをより克明に映し出す。
そしてその世界に
「……あらら、本当に引っ張ってこれちゃった。パスに負荷でもかかってたのかしら、それとも逆に繋がりが強まったからこそ左手経由で呼び出せた……ってところかしら?」
レアが微笑みを浮かべながらじっとりとセイバーに目を向ける。
「ん………むぅ……ん。」
すると、目をこすりながらセイバーが起き上がり目を向ける。
「お目覚めかしら、セイバー。」
「ん……お主、レア!?ここは……それに、ますたぁは!?」
「ここがどこかなんて、そんなことはどうでもいいじゃない。それに、今回呼んだのは貴女だけよ。彼のサーヴァントである貴女に用があるの。」
「儂に……?というより、それはどういうことじゃ。そもそも、どうやって……」
「簡単な話よ。パスが繋がっているサーヴァントを呼び出すのはマスターなら誰でも出来ること。そして貴女と彼を結ぶパスの基点は令呪のある左手……ここまで言えば分かるんじゃないかしら?」
「んなっ……まさか、お主最初からそれが狙いで……!?」
「いや、まぁこれは私にも出来るかどうか半信半疑だったし、一応って感じね。でも、私は賭けに勝った。彼の左手は彼自身のものであると同時に私そのものでもある、それによってマスター権を一時的に聖杯に誤認させて、更に私の用意しておいた予備令呪で無理矢理転移させたって訳よ。簡単でしょ?」
あっけらんと言い放つレアに対してセイバーは驚きからか、沈黙で返す。
「他の参加者の契約ラインに介入し、更には予備令呪なんて大反則。主催者にあるまじき行動じゃのう。」
「あら、心外ね。私に言わせれば逆よ逆。主催者特権みたいなものじゃないかしら?わざわざ手間をかけて聖杯を用意したりしてるんですもの、それくらいの役得はあって当たり前というのが筋でしょう?それに、そのリスクを背負ってでも私に左手を空け渡したのは貴女のマスター。考えの及ばない方が悪いのよ。」
「ぐっ……まぁ、それは確かに……」
「だから私はあくまでも私の目的の為に、ありとあらゆる手段を取る。それだけの事よ。」
歯噛みするセイバーに対してレアはそう言い放つ。
「……まぁいいわい。それで、儂1人わざわざ呼び出したのは何の狙いじゃ?ひょっとして、儂にますたぁを裏切ってお主に付けとでも?」
「あら、察しがいいわね。将を射んと欲すば先ず馬を射よ……まずは君から私の手元においておこうかなってね。どう?私と手を組む気は無い?」
「断る。そんな提案、呑む理由もメリットもないわい。まぁ、例え儂にどんなメリットがあったところで儂はますたぁを裏切る気は無いがのう。」
そう言い切るセイバーに対してレアは肩をすくめながら、やれやれといったように言葉を紡ぐ。
「まぁ、そう言うのは予想済みよ。だから話を最後まで聞いてもらおうかしら。」
「なんじゃと……?」
「なら、メリットって言ったわよね?それなら確実にあるわ。まず、貴女のマスターである彼と、貴女自身の命の保証。ずばり言うけれど、貴女たち、互いに相当無茶してるでしょう。彼の左手からも確実に寿命やら縮んでるのが分かるし、このまま戦い続けると例え生き残ったところで彼はそう長くは生きられないでしょうね。オマケに貴女も自身の内にある
「な、なぜそれを……」
「やっぱり、ね。これでも専門家なの、毒に耐えてる人間の動きなんて見れば大体分かるわ。とはいってもサーヴァントだし、自信は無かったんだけれどね。」
「のせられてカマをかけられたということか……」
「まぁ、そういうこと。」
「それを知ってどうするつもりじゃ……」
「どうするもないわ、本当にただの確認。貴女が毒に浸されているっていうね。」
「確認、じゃと?」
「そ、確認よ。呪いであろうと、その身を蝕むものは毒の一種として定義できる。なら、専門家の私にはどうにかする手段がある。つまり、私に付けば彼も、貴女も、私の庇護の下で安全に聖杯戦争も、その後の余暇も味わえるってわけ。どう?この上ない条件だと思うんだけれど。」
「たしかに、破格と言っていいほどの条件じゃな。じゃが……それでお主は一体何を得る。話が上手すぎるからこそそんなもの、罠としか……」
だが、セイバーの言葉を遮り、先手を取るかのようにレアが言葉を放つ。
「簡単よ、貴女たち、イレギュラーなのよ。だから不測の事態が起きないように、手元に置いておきたい。それになにより、彼は
そうして、一呼吸すると再び語気を強めて詰めるように語り出す。
「それに。私は聖杯に用はあるけれど、願望器としてのそれには興味が無いのよ。だからそう使いたいならそうすればいい。イレギュラーとはいえ、貴女もサーヴァントなら聖杯へ望むことがあるのでしょう?それとも、ここまで好条件を引き出しておいて、ビビってるのかしら?」
「何じゃと?ふん、そんなわけは無かろう。じゃが、そんな詭弁を信じろとでも?聖杯に用はあるが願望器には用がないじゃと?くだらん。」
「あら、私は事実を言っただけなのに。これは本音なのよ?」
「あいにく儂には禅問答をする気はない。交渉を持ちかけるならもう少しマシな言い訳をするんじゃな。」
「事実よ、これは。そもそもこの聖杯戦争の為の器は私が用意したもの、仕様はよく理解しているわ。」
息を思わずセイバーが呑んだのを見届けてからレアは続きを語り出す。
「この聖杯はただの小聖杯ではなく、毒聖杯。私が作り出した新たなる限定礼装。だからこそ、イレギュラーたる貴女にも適応するし、妖刀の呪いがサーヴァントとなった貴女なら私の協力さえあればそれこそ受肉だって出来るでしょうね。そうすればもう消えるかどうかなんて気にする必要もなくなる。呑まない理由はないでしょう?」
その誘いの言葉と共に、レアは手を伸ばす。
そして、その手に向けて、セイバーは手を伸ばしーーー
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「そうすればもう消えるかどうかなんて気にする必要もなくなる。呑まない理由はないでしょう?」
その言葉に、思わず唾を呑む。
レアの提案は確かに魅力的じゃ。
儂にとって一番の願いは、この霊基を失いたくない。それが一番儂が欲しておるもの。
なにかまだ思惑はあろうが……それでもここまで言った全てが嘘とは考えにくい。
ならば、悩む理由などどこにもない。
ますたぁの命も保証されているのだ、迷う理由などどこにもない。
けれど、思い出されるのは、自身をなげうって儂の為に戦ってくれた、ますたぁのこと。
あやつは、本当にこんなことを望むのか?と考えれば、それはおそらく正しいだろう。
あやつは儂の願いが叶い、かつ友人達に危険が及ぶわけでもなければ迷い無く命を投げ捨てかねない。それが、ロリコンーーーあやつの生き方なのだから。
けれど、だからこそ、それに甘えるのは正しいのか。
儂の存在そのものを認めてくれて、肯定してくれたあやつを裏切るような真似をしてしまうのか。
そう、考えたとき。
儂の手は自然とレアが伸ばした手に向かって動いていた。
「……決めたのじゃ。」
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
ーーー差し出されたレアの手を、セイバーはペシン、と振り払った。
「……決めたのじゃ。」
「………・そう。結局、貴女や彼とは正面から屈服させるしかないってことかしらね。」
「そうじゃな。」
「けど、意外ね。てっきり貴女は私の誘いを呑むかと思ってたわ。」
それに対し、自重するかのようにセイバーは言い放つ。
「ああ……儂もそのつもりじゃったよ。けれど、今まで見せられてきたあの在り方を、生き様を…そして、恩を。忘れられなかったのじゃよ。だからこそ、儂はこの命が尽きようとも、自我が溶け落ちようとも、ますたぁのしたいようにさせる!
それが儂に
だから、例え命が助かろうとも、お主の「子」へなど断じてさせぬ!
……それが、儂の決めた道じゃ。」
そう、セイバーが言い放つ。
すると、レアは狂ったように笑い始める。
「ふふふふふっ、ふふふっ、ふふふふははははははははははは!!!!なんだ、貴女も面白いじゃないか!!」
そうして笑いながらレアは更に言葉を続ける。
「彼のオマケではなく、本当に貴女も欲しくなったよ。残念ながら今回は時間切れのようだが、次は君たち2人と揃って戦場で相対したいものだ。ふふっ、ふははははははっ!!」
その言葉と対応するかのように、再びセイバーの意識が真っ暗な空間へとシフトしていく。
「ふん……その時が、貴様を殺して儂らで聖杯を握るその時が楽しみじゃわい……!!」
そうして、セイバーのその言葉を最後に再び静寂が舞い戻る。
そして、それを誤魔化すようにレアが一言だけ、ポツリとつぶやく。
「せっかく楽しみになってきたんだ。かなりの負担を背負ってたみたいだけど、それくらいは乗り越えてきてくれよ、セイバーちゃん♪」
ところで、願望器としての機能とかレアは言ってたけど毒聖杯にそんなものはないです。
セイバーはあやうく空手形をつかまされるとこでした。
血迷って思いついて即没ったオマケ
セイバー「ハーハッハッハァ!ナラバァ!(デーレーレー)コタエハヒトツゥ!(バキッ)(刀の折れる音)
オヌシニィ・・チュウセイヲゥ・・チカオォォォォォォォ!(コノーママーアルキツヅケーテルー)
まじでここの演出狂ってたよね、神を思い出したもん