Fate/erosion   作:ロリトラ

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幕間/ライダーVSランサー

一方、少し時間は戻り。

地下下水道でも軒並み広い、ライダーの起こした大波によって無理やり作られた空間では2騎のサーヴァントがぶつかり合っていた。

 

「先手必勝よ、ランサー!一気に追い詰めて!」

「了解した、サキ!!」

 

ランサーの持つ敏捷値はAランク。この聖杯戦争でもトップクラスのその速度で懐へと踏み込み、突き入れようとする。

 

「っと、そう上手くいくかね!!」

 

然しそれを相手にするライダーは文字通り格の違う存在。その魔術は権能の目前に至るレベルであり、間欠泉の如くに噴きつける水は刃のように薄く、ランサーを狙い打つ。更に外れた水は天井を削り、既に崩壊しかかっていた地下下水道の天井を打ち崩した。

 

崩落する瓦礫の中、双方躱しつつランサーが攻め、ライダーが迎撃し、という図を描き続ける。

そして、幾度目かの被弾。

 

「グハッ……!」

「ランサー!?」

「いや、ダメージは大したことはない。しかし、厄介だなアレは。」

 

ライダーの反撃に攻めきれなさを思うか、ランサーは背後へと跳躍し間合いを取り直す。

その頃にはが天井は崩落しきり、一部とはいえ夕焼けの茜空が見える程に穴が空いていた。

 

「なかなかいい眺めにしてくれたじゃないか、ライダーよ。」

「ふん、皮肉のつもりかランサー。」

「いいや。」

 

そしてその合間にイリマがライダーへと声を掛ける。

 

「先程の崩落の間も、ランサーの攻撃を触れることなく反撃する。流石は私のサーヴァントと言うべきかしらね、ライダー。」

「ふん、偉そうに構えてるが今のは何一つお前さんの功績じゃねえだろうよ。俺が1人で判断して戦っているだけ、俺の実力で俺の功績だ。」

「……!わ、分かってるわよ、それくらい!!私だってあのくらい……ライダー、今の()()でそのまま攻め続けなさい!!」

「はいはい。」

 

そうしてライダーはその場から動かずに指を弾くと、それと同時に地面に染み出た水が鞭のような、蛇のように、畝り襲い来る。

 

「……ランサー!槍で薙ぎ払ってーー!」

「なるほど……了解した、サキ。」

「無駄よ……そんな槍で薙いだくらいじゃ止められーーー!?」

 

驚きからか、イリマの声が途切れる。

しかしそれもむべなるかな。ライダーの魔術で操られた水に槍の穂先が触れた瞬間、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

破魔神杖・改(ガンバンテイン・スプーヨート)……どうだ、俺の槍は?」

 

その槍は、あらゆる魔を祓い、寄せ付けぬ神の一本。穂先に触れたものに掛かっていた魔術は全て解かれ、魔術が掛けられる以前へと逆転する魔術を否定する一撃。

それは権能一歩手前の魔術であっても例外なくかき消し、無効化する。

 

「ほう……やるな、ランサー。」

「貴方が舐め過ぎなのよ、ライダー。私のサーヴァントが弱いわけないじゃない。」

「おいおい、持ち上げるのは程々にしてくれ、サキ。」

 

軽口をたたきながらランサーと鎖姫は意気を高める。

一方、自身の指示では追い詰めるどころかダメージを与えることすら出来なかったイリマは怒りのを顕にしながらライダーに更なる指示を下す。

 

「ええい!魔術が駄目なら物理攻撃よ、そのまま追い詰めなさい、ライダー!」

「おっ、了解だ。」

 

そうしてその距離を詰めた一撃はランサーの胴体に当たり、その身体を10メートル以上、壁へと激突するまでま吹き飛ばす。

 

「ランサー!大丈夫!?」

「大丈夫……と言いたいところだが正直かなり辛ぇ。膂力までバケモノ地味てるぞアイツ……!」

 

そしてその隙を見逃すイリマではなく、追加攻撃の指示を出す。

 

「よし……やったわ!今よライダー!間合いを取らせずにそのまま押し切って!!」

「へいへい……っとぉ!」

 

再び地を蹴り、拳を放とうと間合いを詰める。

 

「させるかっっ……‎הרחם שלי הידע שלי הבשר שלי(我が知は胎を用いて肉を持つ)ーーー‎להיוולד(生まれろ)ッ!!」

 

残り少ない魔力を振り絞り、鎖姫は詰め寄るライダーと壁に激突したままのランサーとの間の地面から即席の、それこそ30秒程で自壊してしまう程度のゴーレムを5体地面を変形することで精製し、盾とする。

 

「助かった、サキ!」

「私は……ハァ、マスターなのよ……はァ…これくらい当たり前よ!」

 

そしてそのゴーレムは盾になるかならないか程の強度しかなく、稼げた時間も本の数秒がいいところだがここはその数秒が運命を分けた。

 

「何やってるのよ、ライダー!そのまま押し切りなさいッ!」

「分かってるっての。というかお前さんも命令するだけじゃなく少しは自分で動いたらどうだ、マスター。」

「……ッッ分かってるわよっ!Ke alanuiʻekolu ke aka(我が手を握れ、三叉の虚影)ッ!!」

 

詠唱と共にイリマの魔術回路を魔力が流れ、大洋の島国に残された神秘が牙を剥く。

 

彼女の足下をから拡がった三本の影は、三叉に交錯するように、ランサーを襲う。

彼女の影はありえるが、物質界に存在しないもの。それ故に既に死者である英霊においてはある種特効ともいえる拘束力を発揮するーー!

 

「チッ……!」

「ランサー!全力で耐え……!」

「サキ!令呪はまだ切るなっ……!」

 

攻撃を耐えさせるために令呪を切ろうとする鎖姫に対してランサーは静止の声をかける。

そして、虚数の影に縛られ、未だ抜け出られないランサーを目の前にしてライダーは不遜に笑いながら問いかける。

 

「ほう、令呪無しで俺の攻撃を耐えられるかねぇ?」

「耐えてみせるさ、アイツはまだここで敗退するような器じゃねえんだよっッ!」

「よく言った……なら、耐えてみせるがいい!!」

 

そして、轟音。

その一撃による衝撃は足を縛っていた影の拘束さら引きちぎるほどの勢いで後ろへと吹き飛ばす。

 

「が……ハッ……ここまで効くかよ。こりゃあ思った以上に厳しいな……」

「ランサー!」

 

鎖姫の悲鳴にすら近い声がランサーに投げかけられる。しかしそれを受けても態度を崩さぬまま、ランサーは彼女へと言葉を返す。

 

「すまないな、サキ。割とキツそうだ……負けるかもしれねぇな、これ。」

「何、謙遜するな……()()()()よ。俺も自壊覚悟で試練の一撃としたのだ。その黄金の腕輪の効果もあるだろうが、よく耐えた。賞賛に値する。」

「ハッ……腕輪のこと、気づかれてたのかい。まぁ、備えあれば憂いなしってな。生前からアンタみたいな神様の理不尽には慣れてるもんでね……」

「ふん、そうか……とはいえ俺も今は英霊の枠に収まるレベルに過ぎん。見ろ、今の一撃で右腕かボロボロだ。」

 

そう言うとライダーは骨が全て砕けたかの如くにふにゃふにゃの右手首から先を降ってみせる。

 

「ちょ、ちょっとライダー!誰がそこまでやれって言ったのよ!というかそこまでやるならちゃんと仕留めなさいよ!!不利になる状況を作り出してどうするのよ!!」

「知らんわ、俺はサーヴァントとして最低限はマスターであるお前の意思を尊重するといったがまだ俺はマスターとして相応しいとまでは思っていない。故に俺の意思とかち合えばそこは俺の意思を尊重させてもらう。」

「ぐ、ぐぅぅぅ……ライダー、貴方ってのは……!!いいわよ、なら好きなようにやりなさい!でも今度こそ仕留めなさい!」

「それはこの槍の英霊次第だな。だが請け負った、もう一度食らわせてやろう……!」

 

そうして再び小源(オド)からの魔力がイリマの魔術回路を通り、虚数の影を作り出す。

しかし、この聖杯戦争。二度も同じ手が通ずるほど甘い戦いではない。

 

「ランサー、跳んで!」

「了解した!」

 

鎖姫の一言によりランサーは影を躱すように飛び上がる。

だがその行動自体は子供でも思い浮かぶ程に単純。

故にそこを狙い打つかのようにライダーも跳び上がり、残った左腕を振りかぶる。

 

「さぁ、どうするっ!また耐えてみせるかッ、槍の英霊よッッ!!」

「いいや、違うね。」

‪「はぁ…はァ……העובר שלי החוט שלי הכוונה שלי‬(私の意思は意図を伝い真理を知る‬)ーーー‎לעלות(上げろ)ッッッ!!‪」‬

 

再びの鎖姫の詠唱により、天井から土塊の腕が伸び、それがランサーを弾き飛ばすように跳ね上げるーー!

そして、そこで魔力を完全に、今度こそ使い切ったのか地面へと鎖姫は倒れ伏す。

 

「なっ、もう一度即席ゴーレム……!?」

「サキ……!?いや、こうなったらここで決めるッ……ウル!!」

「後ろへと回られようが、問題ない……!!」

 

その状況に三者三様の反応を見せつつ、局面は収束へと向かう。

 

ライダーはそのまま空中で反転しながら、無理やりな体制とはいえ全力の一撃を振り放つ。

 

そしてそれを迎撃するかの如くランサーは己が槍に古代の某牛を意味するルーン、ウルを付与し、防御を捨てた最後の一撃へと込める。

 

そして、それがぶつかり合う瞬間ーー!

 

 

「令呪を持って命ずるーーランサー、ライダー、共に戦闘を停止せよッッ!!」

 

何処からか、突如放たれる令呪の縛り。

しかし、それを受ける2騎のサーヴァントの対魔力は共にAランク、令呪とはいえ1画では縛りとして機能しえない。

 

ーーだが、それでもそこに一瞬の間隙は誕生する。

そして、その間隙に入り込む存在が1騎。

 

「我が手を避ける者は一人もいない。我が目の届かぬ者は一人もいない。護られよ。

ーー許しはここに、仮初の私が誓う。

"主よ、加護を与えたまえ(キリエ・プロスタシア)"ーーー!」

 

ライダーとランサー。ぶつかり合うその寸前にその間に入った彼女から双方に突き出された両手の先には、円形の魔術的な守護が形成される。

そして、2騎のぶつかり合いを中断させた。

 

「ーーはい、そこまでだバカ野郎共。白昼堂々人通りの多い道を崩落させて、さらにドンパチとかふざけんじゃねーぞ、隠蔽の手間とかかる費用なんだと思ってるんだ。というから神秘の隠匿って知ってるか?」

「ルキア……今はもう日暮れ前ですし白昼ではないのでは?」

「いや、そこツッコまなくていいから、ルトガルディス。」

「あら、そうでして。」

 

2人のやり取りを見て、既にルキアの方については存在を知っているランサーが問いかける。

 

「監督役……に、それにさっきの令呪からするとお前がルーラーか。手を組んだと、いうことか?」

「ええ……そんなところでしてよ。共に聖杯戦争の秩序を守るものとして、立場を共有した方が物事はスムーズに進みますし。」

「で……何のつもりよ、私達の家名を賭けた誇りある戦いを邪魔するなんて。」

「何のつもりィ?そりゃぁこっちのセリフだぜ、ガキ魔術師。ここの上は商店街近くの大通りだぜ?そんなとこ崩落させて、さらにその下でドンパチやり続けて……神秘の隠匿って原則すら守らねー奴が魔術師気取んなよ。」

「なっ………!」

 

熱くなってすっかりその辺りのことはイリマの意識から抜け落ちていたのか、その指摘で怒りに頬を染めながらも黙りこくってしまう。

 

「だいたい、こんな派手にぶっ壊していくら修繕にかかると思ってるんだよ……亜種聖杯戦争がこれだけ行われてる現代、聖堂教会だって金持ちじゃねーんだぞ……!」

「う……!」

「ふん……そんな人間の事情は俺にはどうでもいい。神の戦いを中断した罪、どう償う気だ。」

「悪いが、あたしの神は1人だけでね。アンタがどう思おうと関係ないさ。だが、これ以上やろうってなら令呪で強制自害させるぜ。」

「……チッ。」

「ふん……興が削がれたわ。ランサー、貴方のマスターが……繰空 鎖姫が目覚めたら伝えておきなさい。セイバーのマスター共々今日の借りは必ず返してやるとね……!」

 

そう言うと地下下水道の奥へとイリマとライダーの主従は姿を消して去っていった。

 

「さて、ランサー。お前はどうする気だ?」

「どうするも何も、俺はサキを連れて……それから奥にいるはずのセイバーのマスターと合流してサキの兄を連れて帰るだけだな。」

「なんだ?セイバー陣営もいたのか、というかこいつの兄を連れて帰るってなんだ。ひょっとしてかなり入り込んだ事態になってんのか……?」

「あら……ルキア。噂をすれば影というやつですわ、ちょうど来たようですし、話は彼らから詳しく聞くとしましょう。」

 

そう言うとルキアとルトガルディスは向かってくる戈咒達に向かい歩を進め、ランサーはサキを抱き抱えてそちらへと向かう。

 

空には、日が沈んだ事により煌々と照り始めた膨らみかけの月が浮かんでいた。




次回、(多分)3章完結です

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