Fate/erosion   作:ロリトラ

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久々に筆が進んだので今回も2話更新です(なお主人公の出番なし)


幕間/もう一つのアサシン戦

キッチンから1人戈咒達に背を向けて走り出した錬土は、いつしか目的の場所、その目前へと近づく。そして、そこに至るまでにアサシンを1人も見かけなかったことを考えながら、ポツリと呟く。

 

「にしても……見張り一ついないとはな……俺なら護身用に数体は合体させずに残しとくところだ。」

 

しかしそうしなかったところを見るに余程焦っていたのだろうか。だとすれば流れはこっちに向いていると言える。

 

そうして、そっと袋小路を覗き込むと、そこには確かに座り込んで目を瞑る六道の姿が確かにあった。

 

「よし……後は気付かれずに背後に回りたい所だが……」

 

そうして呼吸を整え、遠くから伝わる戈咒達の戦闘音に紛れさせる事で残り10メートルというところまで近づく。

 

あとは……一気に駆け寄って決める!

 

そうして走り出した瞬間膝に鈍い痛みが走る。

礫だ。投げつけられた、細かな瓦礫。

 

しまっっ……!!気づかれて!!

 

「……君1人、ですか。なるほど、セイバー達は陽動に回し、私を倒しに来ましたか。」

「くそっ……!」

 

もうこうなったら無理やり距離を詰めるしかない、呼ばれるより前に何とか行動を……!

そう考えて走る。残り5メートル、このまま行ける……!!

 

「君にはもう1度人質になってもらいましょう…!」

「がっ!」

 

そして、手が届くといったギリギリで、どこにまだ持っていたのか、小型のナイフで伸ばした手を切りつけられる。

 

「アサシンはもう少しでセイバーを倒せるというところ、幸い魔術師でもない君なら1人で抑え込めないこともない。大人しく捕まってもらおうか……!」

 

こちらにとっての最悪、アサシンを呼び出されることは無かったが、状況としては依然不利なままだ。だが、1VS1なら此方としても何とか出来る余地はある。俺とてそれなりに喧嘩慣れ自体はしているのだ、アイツが追い込まれていると言うならば、ここで俺が踏ん張らなくてどうする……!

 

「うおおおおおおおお!!!!」

 

そう、裂帛の気合と共に殴りかかる。そして、奴がナイフで再び切りつけようとしたタイミングで腰から抜いた()()を突きつける。

思わず半歩程あとずさりをしたのか、奴の足が水溜まりに突っ込んだ水音を起こす。

 

「……それは、私のっ!!」

「どうせ攫ってきた警察か何かから奪ったもんだろ。偉そうに吼えるなよ。」

 

拳銃を向ければ人は嫌でもそちらに注視せざるを得なくなる。だから、このまま引き付けて一気に……!?

 

その瞬間、目に何か液体が飛んできたのを受け、咄嗟に目を閉じてしまう。

 

「っ……泥水か!?」

 

さっきのあとずさりは、これが狙いか……!?

 

そして振り抜かれるナイフと共に拳銃を取り落とす。

飛んだ先は、六道の後ろ側。

つまり、距離としては圧倒的に俺の方が遠い。

 

ーーだが、()()()()()

 

「私の勝ち……だ!」

 

俺に背を向けて拳銃を拾い上げた隙をつき、背後から腕を回し、首を一気に締め上げるッッ!!!

 

「が、かハッ……!!」

 

六道は必死にもがき、俺もそのまま倒れ込むが決して腕だけは緩めないーー!

 

◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

「で、次の案だが……そっちの策も今公表しないってことは成功率100%って言えるほどではないだろ?勿論お前の心構えの話じゃなくて客観的な成功率の話だ。」

「あ、あぁ……それは、そうだな。」

「だから……保険とひての手段を、いや保険というよりはもう一つの策、というべきかな。」

「もう一つの策じゃと……?」

 

セイバーちゃんが怪訝な顔で俺を見てくる。

 

「なに、簡単だ。お前らが戦っている間に、俺がマスターを落とす。」

「……はぁ!?無茶言うなよ、また令呪でアサシンを呼ばれて殺されるだけだ!」

「ますたぁの言の通りじゃな、無謀過ぎて突っ込む気も起きんわ。」

 

驚愕と呆然、それぞれの形で俺の意見に対し否定的な意志を向けてくる。

 

「それに、まず六道の奴が何処にいるかなんてまるで分からないだろうが。」

 

戈咒の問いに対し、待ってましたとばかりに俺は地図を見せる。

 

「これは……まさか、地図か?」

「お、セイバーちゃん正解。アイツらが用意したんだろうが、このキッチンの奥にあったんだよな。」

「で……どうなるってんだよ。アイツがどこにいたかなんて覚えてないぞ、それもさっきの水流でこれだけあちこちがボロボロになりかかってるってのに。」

「ロリが絡んでねー時のお前の記憶力になんて期待してねーよ。だいたいそんな事しなくたって何回、どっちに、どれ位の距離で曲がったかさえ理解してれば逆算して出す事は容易いだろ。流石の俺も全力疾走しながらならキツかったろうが、お前に運んでもらったおかげで数えるのに集中出来たからそういう意味でもホント助かったぜ。」

「と、いうことはお主、奴の場所が……」

「あぁ、アサシン達が全員合体した以上、不用意にあの場を動きたいとは思わないはずだ。だから、そこをつく。」

 

そう言葉を切ると、地図の上に指先を這わせ、目的の為の道順を描く。

 

「こうすれば、相手のいたとこまでは恐らくアサシンと鉢合わせずにいけるはずだ。」

「なるほど……じゃが、それであっても令呪による転移はどうするのじゃ?」

「そこは簡単だ、背後から近づいて絞め落とす。」

「「………は?」」

「なに、息ができなくなれば人は必然的に呼吸を取り戻そうと逃げ出そうと必死になるだろ?令呪に意識なんか向けてられないはずだ。それに万一使おうとしたところで声を出せなければ、魔術師でもない人間に令呪での転移がマトモに行えるとは思えねぇしな。」

「ふむ……なるほど。そこまで考えた上でなら、儂は賛成しても良いがな。そもそも……ますたぁの策がどこまで当てに出来るものやら。」

 

そう言ってセイバーちゃんは溜息をつきながら戈咒を見やる。

 

「いや、ちょっと待て。あいつは拳銃を持ってるんだぞ?もし絞め落とし切る前に撃たれたら……!」

「………あぁ、これのことか。」

 

そう言ってふところから拳銃を机の上にゴトリ、と置く。

 

「あの時、水流で流されてもがいてた時にたまたま掴み取ってな。いざと言う時の為にそのまま懐にしまってからお前にしがみついてたんだよ。」

「……抜け目のないやつ。で、いざという時はそいつで?」

「いや、残弾は撃ち尽くしてある。あったところで使いこなせねぇし、ブラフ用にしかならねぇなら奪われた時の事を考えるとな。」

「なるほど……まぁ、それならお前を信じるさ。もしもの時は、頼むぞ?」

「安心しろ、もしもとか関係なく俺が終わらせてやる。」

「言ってろ、先に俺とセイバーが倒してやるからな。」

 

そう、どちらからともなく笑みを交わし合い、立ち上がる。

 

「よし、じゃあそういう事で行くか!」

 

そして立ち上がったその時、地響きがキッチンを揺らす。

 

「何が、そういうことだ?」

 

俺達が入ってきた狭い入口に首をねじ込むようにして、アサシンが顔を突っ込んできていた。

 

「うお、気づかれたのかよ!よし、後は任せたぞ戈咒とセイバーちゃん!」

「あぁ、行くぞセイバー!!」

「うむ!!」

 

そうして2人の声に背を向け、俺は走り出した。

 

◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

そうして、もがきながらカチカチと虚しく音を立てるだけの引鉄を引く六道に対し、タネ明かしをする。

 

「なんで俺がさっさと撃たなかったと思ったんだ?脅しだけのつもりだったからとでも思ったか……違うね。俺は最初からこの状態に持ってく為に用意したのさ。だから、このまま絞め落とすッッーー!!」

 

六道は口から呼気にならないような息を漏らし蠢くが、緩めない、アイツのためーー!!?

 

その時、締め上げていた右腕に先程とは比べ物にならないほどの痛みが走る。

肩越しに

見れば、腕には深々と……それこそ骨まで達するかのごとくナイフが刺さっていた。

 

そして、その痛みは必然的に張っていた意識に緩みをもたらし。

必然的に締め上げていた右腕に緩みをもたらし。

 

一呼吸の猶予を与えてしまうーー!!

 

「来い、アサ……!!」

「しまっ……!!」

 

言い切る前に再び締め上げるものの、六道の左肩に残された2画の令呪は赤く輝き出す。

 

「くそっっ……!!」

 

そして、赤く輝いた令呪は。

完全に、()()した。

 

「ーーーーー!?」

 

腕の中の六道が驚愕するのが伝わる。

そうか……アイツら、やりやがったーー!!

 

そうして、諦めたのか。もがくのをそれと共に止めた六道が意識を失うと同時に腕を解き、ポケットから取り出した紐で手足を縛り上げる。

 

そして、もう一息つくと。

 

「……やった。生き延びたぞッッッーーー!!」

 

そう、心からの歓喜の声をあげた。


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