にしても9:50とか大嘘ついたの誰だよ、まだ終わんねーじゃねぇか()
「さぁ……我が友との夢の為、捻り潰してやろう。」
巨大化したアサシンがそう言い放ち地ならしを起こしながら一歩ずつこっちに詰め寄ってくる。
「ぐっ……んむ?」
「錬土!?」
何もこのタイミングで起きなくても……いや、逆か。ここで起きてくれたならコイツなら只の人間の六道相手くらいなら適当に距離取ったりして自衛出来るだろうし、片手が空く分一気にここで型をつけられる!!
「錬土!説明は後でするから降りて安全な場所で見てろ!」
「!!ーーとりあえず了解!!」
素早く状況把握だけはしてくれたのか、俺の背から降りて流れ弾は防げそうな瓦礫の影に、それでいて互いの状態が人目で把握できる程度の位置関係。ホントこいつは理解が早くて助かる。
「よし、セイバー!限定解放で方を付けるぞ!」
『了解じゃ!』
「宝具・限定解放ーー」
再び
「ーーー妖刀・鶴瓶落とし!!」
魔力を今までで一番込めた一刀だけあり、振り抜くお同時に放たれた豪風は無数の魔力の刃を乗せて首を斬り刻もうとする。
「ーーー効かんわ。」
しかし、その全てはアサシンの皮膚に傷を与えるに留まり、肉を断ち、骨を斬り、命を抉る一撃とは程遠かった。
「我が家族の霊核、その総数は47。その全てを取り込んだ私を阻むことなど不可能と知れ!」
アサシンはそう言い放つと共に腕を振り叩きつけてくる。
「ぐっ……!!」
何とか躱すものの、同時に巻き起こる風圧はそのまま俺を吹き飛ばした。
「ちくしょう……これ、やばくねぇかセイバー。」
『じゃな……じゃが、何か手は……』
「よし……こうなったら。」
『おい、お主。何をする気じゃ……?まさかまた……』
「安心してくれ、危険なことはしないから。」
そう言ってセイバーの言葉を制止し、錬土に呼びかける。
「錬土!全力で逃げとけ!」
「……はぁ!?あぁもう、分かったよ!」
半ばやけクソ気味にも見えるが、錬土が走り出したのを見て、こっちも走り出す。
「逃がすか……!」
しかしアサシンもこちらを逃がす気はなく、腕を伸ばし掴もうとしてくる。
「喰らうか……っ!」
だがそれは三角飛びの要領で壁を蹴りながら躱し、全力で走り去る。
『……おぬし、まさか策って。』
「あぁ、取り敢えずは逃げる。」
『やはり………』
仕方ないじゃん、どう考えても無茶なんだから。
取り敢えず、錬土を拾って距離をなんとか離さないと!
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
まず前提として、巨大な質量はそれだけで凶器と化す。
そこにサーヴァントの膂力とスピードが加われば、まさにそれは台風が暴れ回るのと同等と言う他ない。
ましてや、それが狭い密室状態で行われるとなれば、それに対抗する手段など存在しない。
「…と、思うんだけど。どう思う、セイバー?」
『泣き言をいう暇があったら脚を少しでも動かさんか、阿呆!』
「だいたいお前はどうしてこう面倒ごと巻き込まれる質なのかねぇ!」
「ナンパしに行ったと思ったら女じゃなくて喧嘩を呼び込んできたてめぇだけには言われたかねぇぞ錬土!!」
背中におぶった錬土に全力でツッコミながら走り続ける。
あの後、先に逃げてた錬土に追いつきそのまま抱えあげて背負いながら走って逃走を続けている。なんとか距離を置いて身を隠せれば、策を練る暇もあるのに……!
「まぁそれもそうだな……でも、このまま強制スクロールACTみたいな逃走劇をずっと続けるのは不可能だぜ。だいたい、お前じゃアイツどうにもならねぇのか?」
「無理だっての!さっきも見たろ!」
「だっていつの間にかやたら動きが人外じみてるから……まぁいい、じゃあ逆に目くらましとかないのか。一旦身を隠せれば……」
「出来ればやってるってーの!!」
「……だよな。せめて、何かやつの気をそらせるものがあればな……攫われてきたから爆竹とか何も持ってきてねぇや。まぁあったとしてもサーヴァントには効かねぇか……
サーヴァント。即ち、聖杯戦争における使い魔。
魔術師でない錬土は知らなくて然るべき存在。
ーーなのに、なぜ。
「どうして、その名を……?」
「悪いが、その疑問は後回しだ。来たぞ!」
それを問うよりも早くアサシンが四つん這いになってもこの狭い空間でまだ有り余るその巨体で、地下下水道を破壊しながら迫ってくる。
このままだと追いつかれる……!?
その時ーー耳朶にねっとりとした、絡みつき、粘りつき、犯すような不快感が纏わりつく。
《ねぇ……聞こえる?私の
そうして、脳に、いや、左手に伝わる声。
左手には勿論聴覚なんて無いし、脳がある訳でもないから
《ねぇねぇ、聞こえてるなら私に返事くらいくれてやったっていいじゃない。私と君の仲でしょ?》
左手の歪め、捻じり、溶かしつくすような人の尊厳をその音だけで蝕むような声。
こんな声は、1人しかいない。
「なんの……」
《おっと、喋らなくていいわよ。気づかれると面倒だしね。》
つもりだ、と。言おうとするに先んじて、左手が口を塞ぐ。
《君はただ左手に意識を向けて考えるだけでいい、君の左手は既に私のもので、私なんだしね。》
『てめ……やっぱりあの時左手に何かを……!』
《人が悪いわ、私は侵食させて貰っただけよ。あの時塗りつぶすって言ったんだからその通りにしただけよ。》
『……チッ。で、なんだ。悪いが俺は逃げるのに忙しくて喋ってる余裕なんてないんだが。』
《あら、つれないわねぇ。
『うるせぇよ
《……まぁ、いいわ。それより私の話を打ち切っちゃっていいの?このままじゃ合体したアサシンに殺されちゃうんじゃなくって?》
『んな……お前やっぱり……!?』
《待った待った待った待った、私とアサシンに繋がりはないわ。寧ろ繋がりがあるのは私と貴方なんだし。》
『なに……?』
《その左手は君の左手である前に既に私の一部分、だから左手が視たもの聴いたもの触れたもの、全てを私が感じられる。》
……………!!!
それじゃあ、今までの地下での全ても。
《ええ、とっても視てて楽しかったわよ、ありがとう。》
怒りのままに怒鳴り散らしたくなる心を必死に抑えつけてレアに問う。
『それで、なんのようだ。ただ単純に嫌がらせってんなら……』
《違うわよ、なんかピンチっぽいからサービスしてあげようかなって。ただのお節介よ、余計だったかしら?》
……確かに、こいつのヤバさは本物だ。頼れば状況を打開出来る可能性があるかもしれない。それがサーヴァント相手でも、少なくともきっかけを作れるのは間違いないだろう。
ーーだけど、それでいいのか?こいつはまた俺の一部を対価に要求してくるに違いない……つまり、セイバーにこれ以上心労を負わせていいのか?俺はそれでもロリコンと自分に誇りを持って言えるのか?
ーーーでも。
ここで親友とロリと、両方を失ったらそれこそ誇りなんてあったもんじゃない。ロリを悲しませるのはロリコン失格だが、目の前で奪われるロリや親友の命に対して打開策があるのに黙ってるなんてそれこそ、ロリコン以前の問題だ。人として誇れない。
せめて、せめて。この2人をここで守れるくらいには。
『……その、お節介とやらを呑んでやるよ。何を今度はお前に引き渡せばいい、右手?足か?それとも俺の全てとでも言うつもりか?』
《あら、別に今回はそんなもの取る気無いわよ?だからサービスって言ったじゃない、だいたい魔術師でもない相手と真面目に等価交換なんて言ったりしないわよ。》
どの口でそんなこと言ってんだこいつ……!?
思わずまたキレそうになるが再び意志で抑えこむ。ここで心変わりされたらたまったもんじゃない。
《ーーそれに、君の意志で捧げてもらったってちっとも楽しくない。屈服させた上で私のものにしないと、ね。》
そう言った時、ニタリ、と左手の奥で奴が
それは、俺に取り返しのつかない選択をしてしまったのではという恐怖と。
同時に、俺にこれでまだ命を繋げるという安堵を与え。
そして左手に、燻るような心の痛みを感じた。
……ような気がした。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
《じゃあタイミングは君に任せるけれど。私の名前を、声を出して読んでね。その時は、
『勝手に言ってろ……わかったよ、次の次の角を曲がったらだ、用意しとけよ毒ババァ!』
そうして、意識を内から外へと戻す。
「あ、漸くトリップから元に戻ったか。考え過ぎる余り意識を埋没させるのはお前の悪い癖だぞ、戈咒。」
「そう、だな。すまん錬土。だけど、いい案が思いついた。」
『本当か!?』
セイバーが歓喜を滲ませた声で咄嗟に問いかける。
それに心が痛まないといえば嘘になるが、今はそれよりも優先するべきことがある。
だから、その気持ちは
「ああ、取っておきのだ。けど、足止めにしかならないその間に身を隠してからその後のことは考えよう。」
『うむ、うむ、そうじゃな。三人寄れば文殊の知恵とも言う、落ち着いて考えればきっと活路も開けよう!』
そして、一つ目の角を曲がる。
「よし、錬土、次の角を曲がったら下ろすから全力で走ってくれ。俺も足止めが済んだらすぐ追いつく。」
「っし、了解!」
「セイバーは……その時に話す。」
『うむ、信じるぞ。ますたぁよ!』
そうして、次の角を曲がるーーと、同時に錬土を投げるように着地させ、その勢いで後ろへと振り向く。
『よし、それで策というのは?ますたぁ。』
「策は……これだ。」
セイバーにまた心配をかけてしまうという罪悪感が心を支配してく中、口ははっきりとその名を紡ぐ。
「レア……てめぇの出番だ、頼む!」
《えぇ、勿論よ。私は約束を守るいい女なのよ?》
左手から、今度は俺だけでなくセイバーにも、それどころか目の前に迫るアサシンにさえも聞こえるようなハッキリとした、それでいた更に禍々しさを増したその嫌な、聴覚を侵蝕し尽くすようなその声は告げる。
そうして、同時に鬱血したようなどす黒い左手が更に暗く、壊死したように変化し、畝り、流動し、膨らんでいく。
『おい、ますたぁ!お主、何をする気……!』
《男の子の覚悟に泥を塗ろうなんて無粋よぉ、セイバーちゃん♪》
そう、セイバーの声を遮るようにレアの声が再び渡ると、膨れ上がった左手は遂に弾け、毒々しい色の液体が俺たちの目の前から、アサシンの足下までの間に降り注ぐ。
そして、いつの間にか元に戻った俺の左手に目をやっている隙に、変化は起きはじめた。
「んな……!?」
地盤が溶け、歪み、朽ち、沼の様にアサシンの巨体を沈めていく。
足掻こうとしてもその小回りの効かない巨体ゆえか、更に更にと沈んでいく。
「これなら……!」
《さ、早く逃げてなさいな。あと5分くらいしか持たないし、近づいたらあなた達も呑み込まれるわよ、これ。》
それだか言うと、満足したかのように不快な声は聞こえなくなる。
『……話は後じゃ。奴の言が真実にせよ虚偽にせよ、今が逃げるチャンスなのには変わらない。いくぞ、ますたぁ。』
「……あぁ。」
セイバーのその言葉で、再び逃走を開始する。
そして、道中で再び錬土を抱えあげ、隠れ場所になりそうなところを探す。
「おい、あれ……なんだ?」
すると、錬土がなにかみつけたのか俺に声を掛けらそっちを見るとこの地下下水道ではまず見ない白い蛍光灯の灯りが漏れているのが目に入る。
「蛍光灯の光……だよな?」
「あるもんか、普通?」
「取り敢えず、行ってみる価値はあるだろ。六道の隠れ家かもしれねぇ。だとすれば一息つくことも可能だし、あの狭さなら奴に気付かれずに侵入されるってことはまずない。取り敢えずそこで情報共有からだ。」
「そうだな。」
錬土の弁に賛成し、光の方へと進む。
すると、そこは調理場だった。
「おいおい……なんだこのすげぇキッチン。」
「多分、六道が調理に使ってたんだろうぜ。」
「だよな……俺もあと一歩間違えたらそうなってたかと思うとゾッとしねぇや。だが、取り敢えず休憩に使えるのには違いない。ここで互いに話そう。」
椅子を三脚用意しながら錬土が言う。
「……そうだな。セイバー、出てきてくれ。」
そう言うと未だ不機嫌なままのセイバーが姿を現す。
「じゃあ、まずは俺達から話させてもらうか。」