セイバー陣営が地下に乗り込んだことで巻き起こった、アサシン陣営、ランサー陣営、セイバー陣営による敵味方の入り乱れた戦列が開始してから、既に3時間近くの時が経過していた。
そして、この時。2人の新たなる闖入者が乗り込んだ、小舟が地下下水道の水路を自在に駆け巡っていた。
「どう、ライダー。まだアサシン達は脱落してないわよね?」
「あぁ、サーヴァントの気配はしっかりと感じる。それどころか更に2つもあるな、つまり既に三つ巴だったって訳だ。」
「へぇ……いいじゃない。イカレをただ討伐するだけなんて、この私のデビュー戦にしては華がないもの。舞台を既に暖めておいてくれるなんて、そこらの凡百の
「そりゃいい、マスター。派手な喧嘩は俺も大好きだ。火山が噴火し、豪雨が巻き起こり、溶岩流が島の大地を覆い、津波が島を飲み込んだ、アイツとの喧嘩を思い出すな。」
100円の缶コーヒーを飲みながら、平然とした顔で物騒な事を呟くライダー。
「はぁ……ライダー。それは派手だけど流石に神秘の隠匿が出来ないからダメよ。神秘の隠匿は魔術師にとって第一の義務なんだから。」
「チッ……つまらねぇな。どうせやるなら思いっきりやりきりたいもんだ。」
「ふふん、安心しなさいライダー。私は出来る魔術師なの。
「ほう……じゃあ、波に乗って一掃しながら参戦ってのはどうだ。俺と戦う価値のある英雄かの選別も出来て一石二鳥よ。」
ライダーは手に握った空きのスチール缶をクシャりと握り潰してイリマに問う。
「いい案出すじゃない……のったわライダー。討滅と選別を一度にこなせるなんて無駄がなくていいじゃない。」
「よっしゃ、じゃあ決まりだな。気配は……あっちの方向か。ぶっ飛ばすぞ、掴まれっ!」
そう言うやいなや、ライダーの身を纏う魔力の圧が強まる。そしてそれと同時に周囲の水面に魔力で刻まれた魔法陣が浮かび上がる。
それと、同時に。水面が爆発するように膨れ上がり、2人を小舟ごと押し流す。
壁の方へと叩きつけるように小舟は吹き飛ばされるが、激突するよりも早くそのコンクリートの壁は荒れ狂う激流によって破壊され、そのまま水路というものを無視して真っ直ぐにサーヴァントの気配の方に向かって突き進んでいく。
「はっはーー!どうだいマスター、乗り心地はよ!」
「あはははははははは、いいわねこれ!最っ高に目立つじゃない!このまま最高速でぶっ切っちゃいなさいライダー!!」
そしてその2人を乗せた小舟とそれを運ぶ激流は更に速度を上げて突き進み、遂に最後の壁を壊して、その先で対峙していたセイバーやアサシン達を呑み込んで押し流した吹き飛ばした。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「………ぐ、ぶふぉっ、かハッ、はぁ、はぁ、はぁ……」
口から水を噴き出し、目を覚ます。
あの時、確か俺は噴き出した水に呑まれて……
錬土は!?アイツは何処だ!?
『落ち着けますたぁよ、あの女好きならそこに転がっとるわい。というか、水の中で互いにバラバラにならないようしがみつきあってたのに忘れたのか。』
セイバーに言われてそう言えばそうだと思い出す。何しろあの時は無我夢中だったが故に、必死だったのだ。
とりあえず急いで駆け寄るが、どうやら息はちゃんとあるみたいだ。よかった……
「へぇ、とりあえず2人は生き延びたの。よかったわ、討滅だけで終わっちゃうなんて拍子抜けだもの。」
こちらを眺めながら笑う、
そして、その傍らには南国風の装束に身を包んだライダーが立っていた。
「ライダーの……マスター……!!」
「あら正解、そういえばあなたはライダーと会ったんだっけ、セイバーのマスターさん?」
俺のことは既に知られてるってわけか……
「そこの男は……あなたの知り合いかしら?随分と心配してたようだけれど。」
「こ、こいつは関係ない!?ただのアサシンに捕えられた人間だ。聖杯戦争とは無関係の人間のはずだ。」
「そう……ね。確かに、魔力は感じられないし。でも神秘の秘匿の為にーーー!?」
その時、突如彼女の側面から包丁が飛んでくる。
しかし、同時に危なげもなく彼女の足下の影からはペラペラな、影の幽霊のようなものが溢れ出て壁のように立ち塞がり、突き刺さった包丁を完全に吸収してしまった。
飛んできた方向を見ると、アイツらも耐えきったのか。六道とアサシンがそこに居た。
「……なんだ、まだ生きてたの。本当にちゃんとやったの?ライダー。」
その問いかけに
今まで沈黙を貫いていたライダーがここに来て初めて言葉を発する。
「あぁ、俺はちゃんと最速でぶっ飛ばしたぜ?まだ生きてるってことはサーヴァントが身代わりになったか、よっぽど悪運が強かったかのどちらかだろうぜ。」
「そう、なら纏めて討とうかしら……ところでライダーあなた何で今攻撃を防がなかったの?気づかなかった訳もないでしょう?」
「ハッ、何。あの程度も防げない奴に俺が仕える必要もねぇだろ。前も言ったが俺は今のところお前を心の底からマスターとして仕えようとは思ってねぇぜ?自由にサーヴァントとしたいならまずは俺を魅せてみろよ。」
「……まったく、相変わらず使いにくい
「ふん……それはお前の指示次第、だな。」
「ふ……まぁ、私に軽口叩けるのも今のうちよ。楽しみにしてなさい。」
ライダーとそのマスターの少女は共に軽口を叩き合いながら六道の方に意識を向けている。
今なら……錬土を連れて逃げられる……!!
そう、一歩後ずさりした時。
足首から先が、消失したような感覚を受ける。
『下がるなますたぁ!前へでるのじゃ!!」
セイバーの咄嗟の声に、思わず前に出ると足の感覚が戻る。振り向くと、そこには先ほど飛来した包丁を飲み込んだ影の幽霊が足下に蠢いていた。
「なっ……!」
「へぇ……なかなか見込みあるじゃない。私の肩慣らし相手くらいにはなるかしら?」
当然、それを仕掛けた張本人であろうライダーのマスターの少女もこちらに意識を向ける。
全部、お見通しだったってことかよ……!?
思わずお前はだれだ!と問いそうになったとき、横合いから声が飛ぶ。
「ぐああ、あぁ、あぁ……私の足が………!!いや、そんなのはもう別にいい。それよりもお前は誰なんだ一体!!折角練り上げた私の調理工程が台無しだ!」
やけになったように叫ぶ六道。見ると、その左足首から先は消失しており、血が滴っている。
俺も、一歩間違ったらああなっていたのか……
思わず戦慄すると同時にライダーだけでなくそのマスターである彼女への警戒度も高める。
「そうね……なら、名乗りをあげるとしましょうか。私の名はイリマ・カフナ。千年以上の歴史を持つハワイの魔道の大家、カフナ家の今代当主よ!!」
「そして俺がその暫定サーヴァント、ライダーだ。」
腕を組み、胸を張りながらそう名乗りをあげるイリマ。
ハワイのマスター……道理でライダーがやたら南国感のあるムキムキだった訳だ。
『……いや、別にマスターとサーヴァントの出身地に関係性とかは特に無いじゃろ……』
そうかな、地元の英霊とかの方が詳しいしよく理解した上で呼び出せそうな気もするんだけどなぁ。
そんな事を考えているとイリマが再び俺たちに声をかけてくる。
「さぁ、あなた達も名乗ってみなさい。つまらない端役だとしても、名前くらいは覚えておいてあげるわ。この私の輝かしい功績を彩る飾りとしてね!!」
その時、後ろから声が聞こえる。
「そう、なら私も名乗りをあげないとね。」
ザリ、と地を踏む音に振り返ると。
「私こそがこの土地に根を張るゴーレム使いの一族、繰空家の七代目当主!!繰空鎖姫よ!!」
それは、ランサーと共に地に足を突き立てて堂々と胸を張る、鎖姫ちゃんの姿だった。
次回、どちらも果てしなく噛ませの匂いしかしないマスターと有能サーヴァントと対決が始まる……!(かもしれない)