Fate/erosion   作:ロリトラ

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やっとこさ書けました
なかなか展開が定まらなかった………


幕間/悲痛

 

額に垂れる雫の感触。

そこから垂れるひやりとした水滴。

その冷感により、気絶より覚醒する。

 

「……ここ、は……臭っ」

 

まず鼻に感じるのは異臭。生ゴミを腐らせたような腐臭が鼻を刺激する。

見渡すと周囲は薄暗く、天井に無理やり括りつけられた電灯の明かりのみが僅かに周囲を照らす。

 

「地下の……下水道か?というか、俺はなんでここに……」

 

未だ覚醒したばかりでぼんやりとハッキリしない記憶を順に辿っていく。

昨日の夜、戈咒の奴にデータを纏めて送った後にコンビニに向かって、その帰りに青白い女に……そうだ、首を絞められて気を失ったのか。

あれがウワサの、人攫い集団か…?

そう考えて身体を起こし、携帯を取り出そうとすると手に木製の枷が嵌められていることに気づく。

 

「くそ……完全に囚われの身ってことか……」

 

だが、何の為に俺をさらったんだ?身代金目当てだとしたらパッと見は俺より小さくて可愛いから攫いやすそうなアイツを狙うはず。まぁ、そもそもあのクソババアはそんなもん要求された所で見捨てるだけだろうが、な……

それにそもそも今の俺とあの家との関係を知ってるのがまず珍しい、戸籍を調べたり小学生時代の知り合いを訪ねれば分かるだろうがそんな事をすれば怪しまれ記憶に残るのは必然。誘拐犯がそんな手段を取るだろうか?

だとすれば、俺をさらった目的はどこか別のところに……?

 

「ふむ……目が覚めたようだね。」

 

思考を巡らせていると突如背後から声がかけられる。

 

「お前、は……六道、尊……!」

「ほう、若いのに私のことを知ってるとは。驚いたな。」

 

昨日調べていた連続殺人犯にして食人鬼、現在は刑務所に収監中のはずの男が、そこにいた。

 

◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

「……で、だ、 。縛り上げたはいいが、どうするんだコイツら。2人とも気絶してるから、ここに置いてったらアサシンに横取りされる可能性もあるぞ。」

 

セイバーとそのマスターをコンクリートを傀儡として使役し縛り上げたのを見て、ランサーが私に注意をとばす。

 

「確かに……でも、地上に返すと目が覚めたら逃げられそうだし……仕方ないわ、ランサー。抱えて運びなさい。」

「……え、運ぶの?俺が?」

「えぇ、勿論。貴方は私のサーヴァントなんだから構わないでしょ?」

「別に荷物持ちではないんだがな……まぁいいか。」

 

そうしてランサーはセイバーとそのマスターを抱えて持ち上げる。

 

「さて、いよいよアサシン共の親玉の下へ向かうとするか、サキ。」

「えぇ、勿論よ。どれだけいるのか知らないけれど、このセイバーが雑魚を散らしてくれたから進みやすくなったし、一気に向かうわよ!」

 

今となってはここでごたごたやっている時間すら惜しい。無駄に焦ってはいけないと分かってはいるけれど、それでも心は逸ってしまう。

だからこそ、ランサーと共にランサーの感じるサーヴァントの気配を頼りに地下下水道を全力疾走する。《強化》を掛けているとはいえ、それでも脚がちぎれて肺が破れそうに痛い。というか脇腹が凄く痛い。こんな事ならもう少し運動しておくべきだった……でも、泣き言を言うのは後。

今は少しでも早く、少しでも近づかなくては……!!

 

そうして角を曲がり、いよいよというところで。

 

「………………へ?」

 

そこには、いくつものコンテナを組み合わせたような、歪な小屋が建っていた。

 

「どう………いうことかしら、ランサー。というか、本当にここにアサシン共がいるの?」

「俺としても信じ難いが……確かに気配は感じる。」

「そう……でも、いくらなんでも怪しすぎるでしょう、これは!アサシンが魔術に長けているとも思えなかったし、宝具か何かかしら……?」

「いや、これは見たところ普通に建てた感じだぜ、サキ。」

「どういう事なの……?アジトにしては看板まで出てるし明らかに違うわよね、これ。てか何よ、『肉料理・カーニバル』ってレストランなのここ!?」

「みたいだな……明らかに罠だろうが、どうする?」

「決まってるじゃない、正面から叩き潰すだけよ。」

「よく言った、さて思いっきりぶちかますとするか。」

「あ、ランサー。ここがアジトなら逆にあしでまといになるからそいつらはその辺に放置しときなさい。」

「おう、了解した。」

 

そう言うとランサーは壁際まで抱えて運んでいき、地面に放り捨てるように彼らを置く。

 

そしてランサーを霊体化させ、扉をくぐるとーーー

 

「いらっしゃいませ、お客様。レストラン『カーニバル』へようこそ。」

 

……………は?

 

「それでは、こちらのお席にご案内いたしますね。今すぐメニューもお持ちいたします。」

 

コックコートを着た中年男性に席へと案内される。

 

「あ……ど、どうも。じゃなくて!ちょっと!悪いけど、私は食事をしに来たんじゃないの。死にたくなければとっととアサシンのマスターを出しなさい。」

 

そう言ってランサーを実体化させ、槍を突きつけさせて脅しをかける。さしずめ、この男は協力者といったとこだろうか。暗示をかけられた一般人の可能性も考えたが焦点があってないわけでもなく、意識もはっきりしている。これでも操作と使役に特化した魔術系統の家系の後継者なのだ、そのくらいは余裕で判断できる。

 

「え、え、ひえええええ!!?な、何をなさるんですお客様!?」

 

突如現れたランサーに槍を急に突きつけられた男は数メートルもの距離を一気に後ずさる。

予想通りただの協力者、それもカネで雇われただけの魔術すら知らない一般人のようだ。

 

「アサシンのマスターと言って伝わらないなら貴方の雇い主を連れてきなさい、命が惜しいならね。」

「ひ、ひぃぃ。了承しましたぁ……」

 

奥の扉を開けて男は部屋を出ていく。

そして、それを見計らったかのようにランサーが口を開く。

 

「しかし、妙だな……本当にここにアサシンのマスターはいるのか?」

「……?どういうこと、ランサー。」

「感覚だが、人の気配を今の男以外に感じなかった。かと言ってマスターにも見えないし、そもそもマスターならわざわざあんなふうに近づいてくることはあるまい、特に数の多いアサシンを使えるならば尚更だ。」

「確かに……妙よね、それ。……まさか!アサシン共は囮で本物は別の場所にーー!」

 

そう、思わず立ち上がった瞬間。

足下から聞こえる甲高い電子音。

 

その、直後。

閃光と、猛熱と、爆音の渦に、巻き込まれた。

 

◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

白煙が晴れ、視界がクリアになる。

今のは……爆発……?

 

「ともかく……助かったわ、ランサー。今のは、爆発、よね……アサシン共の宝具かしら?」

「いや、全くと言っていいほど俺がダメージを受けてない以上、今の爆発は宝具でもなんでもないただの爆弾、それも魔術による強化なども一切されてないヤツだろう。」

 

ただの爆弾……?サーヴァントにそんなものが効かないのは相手も承知のはず、一体どうして……

 

「何不思議そうな顔してるんだ、サキ。こんなの仕掛けた理由は一つだろ、マスター殺しだ。」

「マスター殺し!?そういえば、亜種聖杯戦争の黎明期にはマスター殺しに特化した山の翁達が活躍した……って資料を読んだわね……でもアサシン関係なく、魔術師同士の闘争でそんなことする奴がいるなんて……」

 

アサシンによるマスター殺しならまだサーヴァントの特性を活かしただけだと分かるけども、こんなテロ紛いの手口をとるなんて………

 

「なに、不思議がることでもないだろうよ。そこまでしても叶えない願いがあるってことだ……逆に言えば、そうまでして勝ちに来るってことはそれだけ自身のサーヴァントを信用してないとも言えるがな。」

 

「信用してないって?酷いな、アサシンさんと相談して決めた事だよこれは。でもやはり普通のマスターとサーヴァントだと防がれちゃうか。」

 

奥の暗がりから、声が聞こえてくると同時に現れる人影。

 

「さっきの男……マスターだったの……!?」

「どうやら、俺もサキも完全に騙されたみたいだな……」

「まぁ私達は弱小陣営ですから、このくらいはハンデですよ、ハンデ。」

 

その口調には既に先程までの飄々とした態度は無く、こちらを見下すような、そんな響きがこもっていた。

 

「何がハンデよ、それより人様の家族を攫った覚悟は出来てるんでしょうね。」

「家族を……?すみませんが心当たりがありませんね、多分もう解体して肉にしてしまったかと。」

 

解……体………?

 

「どういう……ことよ、それ。」

「どういうこと、と言われましても。普通に食肉用に解体しているだけですよ。私達は、真の美食とは人肉食にあると辿りついたのです。」

「え……食肉、人肉食……?」

「……あぁ、なるほど。あなたも私たちの美食にケチを付ける方でしたか。人知を外れた魔術師なら人倫など気にせず私たちを認めてくれるかと思いましたが……残念ですね。」

 

お兄ちゃんを………食べる……?

肉に、解体して、食べる。

 

どういう、どういう、どういう、こと

 

肉に、解体。食べられる。つまり、死ぬ。

 

 

お兄ちゃんが、死ぬ。

 

また私を遺して、死ぬ。

 

嫌だ。

 

イヤだ、イヤだ、嫌だ、いやだ、いやだ嫌だイヤだいやだ嫌だイヤだいやだ嫌だイヤだいやだイヤだいやだ嫌だイヤだいやだ嫌だイヤだいやだ嫌だイヤだいやだ嫌だイヤだいやだいやだいやだイヤイヤイヤイヤイヤイヤイーーーー!!

 

‎「אני הנפש שלי החיים שלי(我が生は魂を用いて総てを毀す)ーーーהכחדה(滅べッッッ)!!」

 

殺す、アイツだけは絶対殺す。お兄ちゃんの弔いだ、ぶち殺して解体して犬のエサにしてやるッッッッ!!!!

 

全ての魔力を、ここで倒れ伏しても構わないレベルで全力全開で魔術を発動する。

周囲の瓦礫、天井や壁のコンクリート、足元に付近に充満する下水、そこに済む微生物やネズミなどの小動物。その全てを使役し操作する。

狙うはあの男、ただ1人ーーー!!!

 

「んなーー、予定変更!!速攻であの子供を殺せっ!!これだから子供の家畜は手に負えない!!」

 

男は慌ててアサシン共を呼び寄せて逃げようとする。だが、逃がすものか。天井と壁のコンクリートを操作して道を完全に塞ぎ切る。

今の私の限界を越えた無茶な魔術行使、魔術回路が焼けつきそうだ。

だが構わない、殺せるのなら、仇を取れるならッッッ!!

 

「おい!落ち着けサキ!!……くっ!」

 

ランサーが私を狙って襲ってきたアサシンをひとり返り討ちにする。

 

「それ以上やるとお前が倒れちまう!後は俺に任せて心を落ち着かせろ!!」

 

倒れる……?別にもうこの際死んだって構うものか。もう聖杯戦争だってどうでもいい、今はアイツを仕留める方が先だ。

 

……そうだ、なら丁度いい。令呪(コレ)も使ってしまおう。

 

「令呪を持って我が傀儡に命ずる。ランサー、アサシン共を全てぶち殺せ。」

「んなっーーー!!」

 

これでいい、これで私は直接の仇であるあの男だけに集中出来る。

 

さぁ、死ね、殺してやる、死ね死ね、無様に死ね!!

 

「ひいいいいいい!!!」

 

男は無様に怯えて死に縮み上がる。

いいざまだ、少しは気分が晴れた。

さぁ、殺してやるーー!?

 

腹に、熱い感覚を感じた。

触ると、ヌメリと温かくて紅い、血が。

 

「『獲物は、ソイツが狩りを終えて油断した瞬間こそが最も無防備になる。』かつて私がジビエ料理を学んだマタギから教わった言葉です。お前みたいな獲物にも、よく当てはまりましたね。」

 

目の前の男の手には、銃口から煙を燻らす拳銃が握られている。

 

ちくしょう……私は、仇すら取れないのか……!!

そんなの、イヤだッッ!!

 

‎「יים שליー」

「おっと、そこまですそれ以上呪文なんて唱えさせません。」

 

再び呪文を唱えようとすると口に銃口を突っ込まれて塞がれる。私の実力じゃ、この消耗状態で無詠唱の魔術発動なんてとても無理だ。

ここまでなの……?ごめんなさい、お兄ちゃんーー

 

その、瞬間。

 

目の前を通り抜ける鈍色の光。

 

銃身が斬り落とされ、私は首根っこを掴まれたまま後ろへと引っ張られる。

 

「あぁ、漸くの到着ですか。予定外が続いてまいりましたよーーーセイバー。」

「悪いけど、ロリコンは幼女のピンチに駆けつけるものって相場が決まってるのさ。」

 

私を助け、目の前に立つのは。

 

爆破されたアジトに入る前に置き捨ててきた、ロリコン(セイバーのマスター)だった。

 





やっと出てきたロリコン主人公、いつぶりだよ君

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