Fate/erosion   作:ロリトラ

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0日目/ゴーストウォッチャーズ

ーー放課後。

錬土と分かれた俺は夕食の材料を買いに平斗駅前の平斗ファミリー商店街に来ていた。

 

「安いよ安いよー!今日はトマトがお買い得だよ!」

「イワシが5匹のまとめ買いでなんと単価が30%低くなるお得なセットだよー!買ってっておくれー!」

「今日仕入れたばかりの無銘の日本刀だ!是非見てっておくれよ!」

 

いつも通りこの時間は活気がある。色んな店の呼び込みの声がーーーなんだ、あれ。

よく見ると馴染みの骨董品屋の店長だった。骨董品ってそういう売り方するもんじゃねぇだろ。

ーーーでもまぁ、日本刀だって言うし。新入荷らしいし。ちょっとくらい。ちょっとくらい見てっても問題ないよね、うん。

 

 

 

「ありがとうございましたーー!」

 

ーーどうしてこうなった。

俺は夕食の材料を買いに来たと思ったらいつの間にか無銘の日本刀を8万円で購入していた。何を言っているのか以下略。

いや、うん、この刃紋が美しすぎるのがいけないんだよ。これだけ引き込まれる骨董品は久々に見たのにお値段が10万切ってるなんてお手頃価格過ぎるからね、買うのはしょうがなかった!俺は間違ってないぞ!!

 

でも、これからしばらくの食費どうしよう……預金崩すしかないのか……?

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

夜の11時。住宅街の駅で飲み屋もない平斗駅の駅前広場は既に人がまばらになっている。飲み会帰りと思わしきサラリーマンを数人見かけるだけだ。

周囲を見渡すと2人とも既に着いていたらしい。走るのを想定してか、動きやすい私服姿を2人ともしている。

「2人ともすまん、待たせたか?」

「約12分ほどね。気にしないでいいわ。」

「……委員長、そこは嘘でも今来たとこって言うもんだろうがよ。」

「何故偽装する必要があるのかしら?」

「いや偽装とかじゃなくてさ、女子力というか。まぁ、うん、いいや。委員長はそれで。」

「そうね、そんな話より早速向かいましょう。向かう方向はこっちでいいのよね?」

「ああ、そっちで問題ないよ。徒歩で25分くらいかな。」

「そう、分かったわ。行きましょ…ヒャウッ!」

 

突然委員長が嬌声をあげて仰け反る。

理由は明白だ。後ろから錬土が首筋に息を吹きかけたのだ。夏の生暖かい夜だけあって余計に怖気が増したのかヒクついている。

しかしすぐに正気を取り戻た様子で錬土を睨みつけビンタを食らわせながら声を荒らげた。

 

「この、ばか、馬鹿、大馬鹿、錬土!2人きりの時に何もしてこないからって安心したらこれって!もう!バカ!」

 

ひとしきり錬土に罵声を浴びせて気が済むまでビンタを食らわせると、すこし落ち着いたように思えた瞬間、こちらの目に気づいたのか頬を朱に染め上げる。

 

「……み、見てたわよね。」

「はい……」

「いい、何も言わないこと。お願いだから。そして忘れなさい。れん……乾君とは何も無いんだから!」

 

それ自体が何かあると公言してるに等しいということに気づかない様子で委員長は俺に対し詰め寄る。とはいえ俺もわざわざ熱湯を被りにいくような趣味がある訳では無いのでそれ以上追求せず、時間も遅いので幽霊屋敷に向かって3人で歩を進める。

 

 

取り留めもない雑談をしながら、隙を見てふと先程の錬土の行動に違和感を感じたため聞くことにする。錬土は女好きだが女性の嫌がることを訳もなくするタイプではないと親しい奴なら皆知っているからだ。

 

「錬土、なんであんなことしたんだ?」

「なんで…か。いや、な?なんか委員長お前が来るまで落ち着かない様子だったからさ。ちょっと緊張を解そうとだな。」

「錬土。」

「……わーったよ。誤魔化せねぇな、お前は。落ち着かない様子だったってのは本当だ。だからてっきりお前に気があるんじゃねぇかなって思って気を使おうとしたつもりだったんだがな、いやはや難しい。俺が委員長を怒らせれば俺を置いて2人で行くのかなーと思ったんだがな。」

 

……この男、鈍感にも程があるぞ。

誰がどう見ても明白だろあんなもん。ぜってぇコイツに好意抱いてんだよ委員長は。俺が来るまでってそれ要するに好意を抱いた相手と2人きりで緊張してただけだろ。やっぱし馬鹿なのかもしれない、コイツは。

……まぁ、教えてやるのが友人としての親切だろうな。

そう考えて口を開くものの。

 

「あのなぁ、錬土。それは俺に気があるんじゃ…」

「お、着いたぞ着いたぞ!」

 

幽霊屋敷が見えた瞬間錬土はとびだして走っていってしまった。

 

「……ってこら待て馬鹿!バラけるとめんどくさいから委員長も付いて来て!」

「あ、はい!」

 

 

追いかけていくと錬土は入り口の前で立ち止まっていた。何事かと思って中を見やると『私有地につき、立ち入り禁止』の看板がかかっている。しばらく見ない間に買い手がついたのだろうか?

 

「どうする、錬土。」

「どうする?って忍び込む以外ないだろ。やるからには最後までやりきらねぇと。」

「だよな。よし、じゃかその塀の上から乗り越えて…」

「ちょ、ちょちょっと待ちなさい。完全に不法侵入よこれ!やめておかないとまずいわよ!」

「なーにを今更言ってんだよ委員長。買い手がついて無かったところでどのみち不法侵入には代わりなかっただろ。」

「う、それは…」

「だったら大人しく忍び込もうぜ?まぁ嫌なら此処で待っててくれてもいいけど?」

「それは嫌!待つだけなんて、もう………いえ、なんでもないわ。それなら仕方ないわね、お目付け役もあることだし私も付いていくわよ。」

「さっすが委員長!話がわかるぅ!戈咒、登りやすいところあったか?」

「ここら見てきたけどそこの街路樹を使って飛び移るのが一番楽そうだな。」

「オッケー。良し、行くぞ委員長。」

「……貴方達って、ホント無駄にハイスペックよね……」

 

委員長が何か惜しいものを見るような目で俺たちを見つめながらそう呟く。

何かそんなに変だったのだろうか。愛の為に自身の全てを利用するのは至って普通だと思うんけどなぁ。

 

 

 

 

塀を乗り越え敷地内に入ったところで幽霊屋敷をもう1度ぐるりと俯瞰しながら見回る。

外から見た感じ前回と比べ大きな変化は見当たらないが、以前は開きっぱなしだった正面玄関のドアが閉まっている。蝶番が壊れていて閉めても勝手に開くのが怖さを煽るとして有名だった為、修理されてるみたいだ。やはり誰かが越してきてるのかもしれない。

 

「なぁ錬土。今更だがホントにいたのか?見た感じ新しく誰かが越してきただけにしか思えねぇんだが。」

「ホント今更な話だな……まぁ、その可能性もなくはない。どころか寧ろ高い気もする。だがこの近くに住んでるダチ何人かに聞いても引っ越してきたなんて話知らねぇんだよなぁ。だから俺は幽霊がいるって可能性を信じるぜ。しかもこんな広い屋敷に女の子1人ってのも胡散臭いだろ?」

「確かに……乾君の言う通り引っ越してきたとして考えると不自然な点が残るわね。ならもう少しだけ調査してから引き上げるのはどうかしら?勿論家主の方が居れば即撤退よ。」

「あぁ、そうだな。」

 

うん、俺としても委員長の言うことに反対どころか賛成なんだけど。なんか妙にノリノリになってないか、この人。

 

「……何よ、その目。私の態度がそんなに気になる?」

「え、そんなに目に出てた?」

「出てたわよ、思いっきり。伍道君は分かりやすいのよ。それに比べ錬土の奴は……なんでもないわ。それよりなんで私が調査に乗り気かって話でしょ?」

「あぁ、あれだけ文句言ってたわりにはなんかなーって。」

「だって、もう不法侵入までしちゃったのに今更じゃない。それに私が持ち込んだ話題がきっかけなのよ。ここまで来たら私が止めるのも筋違いでしょ。けど、家主の人にあったらすぐに帰るからね。」

「……なるほど。やっぱ委員長って責任感強いんだな。」

「お、確かにな。だてに11年間連続委員長やってる訳じゃないな。」

 

11年?やけに詳しい年数をふと疑問に思うとその様子に気づいたのか錬土が答えを返してくれた。

 

「あぁ、いや一応幼馴染みなんだよ。小学校の時はずっとクラス一緒だったしな。まぁ中1からは疎遠になってたんだが。」

「にしても中学の時は1度もクラス一緒じゃないのによく知ってたわね。話した覚えもないけど。」

「学級委員くらい覚えてるもんだろ。別に、それだけだ。」

 

 

錬土はそう言い放つと顔を背ける。

ふむふむ、なるほど。この2人は昔からこんな感じだったのだろう。

何かあって疎遠になっていたのだろうがやはり友人同士がくっつくのを見るのは微笑ましいものだ。

 

「……お前、ゼッテー何か勘違いしてるだろ。」

 

え?心読まれた?

 

「だから顔に出まくりなんだよお前は……それより気を引き締めろ、入るぞ。」

 

 

屋敷の正面玄関の大きな両開きの扉のノブを錬土と2人でそれぞれ握る。

ドアノブを握る右手が汗ばむ。力を込め、扉を開け放つとうと引いた右手はーーー

 

「おっと、そこの小僧っ子ども。ここは私有地だぜ?」

 

ーーー背後から伸びてきた丸太のような腕に止められた。

 

「確かにこんなお化け屋敷みたいな洋館、探検したくなるのは分かるがな。残念ながらここは俺らの拠点なんだ、勘弁してくれねぇか。」

 

振り向くと、そこには飄々とした雰囲気でコンビニの袋を抱えたーー筋肉がいた。

いや、なんなんだあれ!Tシャツがパツンパツン過ぎて筋肉が形出るほど押し上げられてるしそもそも丈が足りてねぇーーーー!!このガタイでそのへそ出しステキファッションってなんなんだコイツーーー!?

 

「す、すいませんでした!ここの屋敷に住まれてる方ですよね?ホントすいませんでしたぁ!私からもこの2人にはよく、よぉーく言い含めておきますんで、何卒警察だけには!お願いします!」

 

この筋肉事件(マッスル・ショック)から真っ先に正気を取り戻したのは意外にも委員長だった。

そして正気を取り戻したと同時に流れるような謝罪動作に移り頭を下げる。

と眺めているのもつかの間、すぐに俺と錬土の頭も委員長に掴まれて下げさせられる。

 

「ほら、貴方達も謝りなさい!すいません、すぐ出てきますんでどうか学校と警察には……」

「あー、いやいや嬢ちゃんよ。別に警察に突き出すつもりはねぇから安心しろや。俺もそこの小僧っ子2人の気持ちは分からんでもないしな。」

「じゃ、じゃあ。お咎めは……」

「おう、ねぇぞそんなもん。だいたい子供そんなの気にせずに遊ぶもんだ。それじゃ、俺はこれから晩酌をするんでな、さぁ帰った帰った!」

 

そうして門の外へと送り出される。

そこで今まで黙っていた錬土が質問をする。

 

「そうだ、ところでオッサン、この屋敷で幽霊って見てないか?」

「いんや、見たことねぇな。背伸びした魔女がいるだけさ。まぁ、ガキンチョだけどな。」

 

笑いながらジョークを返すあたり、本当に幽霊はいなかったようだ。やはり見間違いだったのだろう。

しかし錬土は納得いかなかったようで質問を続ける。

 

「オッサン達、挨拶も無しに引っ越してきたばかりみたいだけどさ。幽霊みたいに、何にもしねぇよな?」

「安心しろや坊主。お前らは無関係(・・・・・・・)っぽいしな、何もしねぇさ。あとそのオッサンってのやめろ。」

 

この近所の友人達を心配したのだろうか。しかし軽く流され会話は続く。

 

「じゃあなんて呼べばいい。」

「そうさな……まぁ、ライダーとでも呼んでくれ。」

「なんだそれ。DXゲーマドライバーでも持ってるのか。」

「ん?…げ……ま?なんだそりゃ?」

「なんだ、今のは見てないのか。まぁそれはいいや。」

 

どうやらライダーさんは今期のは見てないようだ。見た目の年齢的に考えて太陽の子の世代だろうか。

ちなみに俺はファイズドライバーが1番変身アイテムとしては好きだ。

 

……そうこう考えてるうちに門の前にまで出てきていたようだ。

 

「そんじゃあな。ライダーのおっさん。」

「おう、気をつけて帰れよ小僧っ子ども!」

「すいません、お世話になりました。」

「ありがとうございました。」

 

いつの間にか打ち解けていた錬土とライダーさんが気さくに別れの挨拶をを交わし合うのを皮切りに俺と委員長もくちぐちにお礼を言いながら俺たち3人は帰途につく。

さて、随分と夜も更けたし早く家に帰って寝ることにしようーーーー




ちなみに俺はエグゼイドでは社長が好きです

毎週楽しそうな社長を見るのが楽しみだったーーー!

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