Fate/erosion   作:ロリトラ

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アガルタ良かったですよね、不夜城のアサシンちゃんが可愛くてカッコよくてプロポーズしたいです

あと叔父貴とドリカムおじさんも好きです


5日目/侵食

その朝もいつもと変哲はなかった。

強いて言うなら錬土が迎えに来てなかったことだが、これはここ最近は珍しいことでは無かったものの嘗てならそこそこある事だったためそのまま気にせず学校に向かった。

 

しかし、それが間違いだったのかもしれない。俺はこの時逆に錬土を迎えに行ってでも行動を起こすべきだったのだ。

 

だが、それ以上考えても今は無駄にしかならない。

今出来ることは、ただ目的に向かって走ることなのだから。

 

地下下水道の異臭の中、足元の跳ねる水音と共に曲がると目の前が急に開ける。そこにはーーーー

 

◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

HRの開始を告げるチャイムが鳴る。

結局錬土の奴は来なかったな……またナンパにでも向かったのだろうか、アイツ。

 

そうこう考えているうちに豪ちゃんが入ってきて点呼を取り始める。

 

「乾、は……おらんな。伍道、なにか聞いてるか?」

「え?いえ特に。学校に連絡は入ってないんですか?」

「いや、無いな。ここ最近は物騒だし何も無ければいいが……まぁいい。後で連絡を取ってみるとしよう。では次、斑鳩!」

「はーい。」

 

斑鳩の返事と共に再び豪ちゃんは点呼に戻る。

 

だが、錬土が無断欠席?確かに、した事が無い訳では無いが極端に少ないのは事実だろう。何しろ、うちの学校は無断欠席3日でペナルティがあるのだ。サボるにしろ仮病などで欠席連絡を入れるのが基本になる。

それに、朝から3本ほどトークを送ってるが、既読が付いた様子もまるでない。

もちろん、何でもなくてまだ寝てるだけとかナンパしに行ってるだけの可能性もあるのだが……

 

『セイバー、どう思う?』

『わ、儂か?うむむ……儂はそやつのメンタリティについて余り詳しくないからのう。お主ほど確信を持っておかしいとは言えんが、確かに昨日注意を促されたばかりで、尚且つその誘拐事件についてもお主などより詳しかったと考えると連絡を断たれておるのは不自然な気もするの……』

 

突然話を振られたからか慌てつつもセイバーはセイバー自身から見た錬土に対しての所見を述べてくれる。

やはり、不安だ。

 

ーーその時。

ふと、目を教室の端にやったら。

レアと目が合う。そして、笑みを見せてくる。

まさか。まさか。まさか、いや、でも、アイツが手を出さない保証なんて無かったじゃないか、しまった、しまったしまったしまったまさかまさかこうもやられるとはっ!!

 

『お、落ち着くのじゃますたぁ。冷静さを失っては思うツボじゃ!』

『だ、だけどどうしろって……目立つのは得策ではない、それにお主にはまだもう1人の人質がおるのじゃろうが。下手に騒いで手を下されてはそれこそじゃ。』

『ぐっ……』

 

セイバーに諭されることで何とか冷静さを取り戻す。そうだ、ここで焦っても意味は無い。アイツが今ここにいる以上、最悪の事態で無ければまだ手を出してはいないはずだしそうしようとすれば奴の魔術回路が励起するから分かるはず。だからきっとまだ大丈夫。だからせめて。せめてHRが終わるまで待たねば………

そう、自身に必死に言い聞かせるようにしてともすれば数時間にすら感じられるほどの数分間を終え。

HR終了と共にレアを廊下の端へと連れ出した。

 

「あらあら、随分と熱烈なアプローチね。やっと私の(もの)になることを決めてくれた?」

「そんなのはどうでもいい。お前、錬土をどこへやった。さっきの笑い、知らねぇとは言わさねぇぞ。」

 

有無を言わさず実体化させた妖刀。首筋へと突きつける。

するとレアは両手をあげてニタリと笑う。

 

「はぁ……私は何もやってない。それどころか関与すらしていないよ。」

「嘘をつくな!俺に対しての人質が急に消えたんだ、何も無いはずがねぇだろ!!」

「おいおい、別に私は監禁してる訳でもなんでもないんだよ。それなのに消息を絶ったら私のせいってのは流石に言い過ぎだと思うなぁ。」

「てめぇ……!!」

 

衝動のままに妖刀を振り抜く。

が、それは躱され。そのまま追撃に移ろうとした瞬間、奴の言葉がその動きを停止させた。

 

「おいおい、危ないなぁ。私を殺したら何処にいるか分からなくなるぜ?」

「ーーぐっ……!やっぱりてめぇ、関与してるじゃねぇか。」

「とんでもない、私はただ知ってることを知ってるだけだ。……仕方ない、身の潔白の為だ。教えてあげるさ、今回の下手人はアサシンだよ。」

 

そう、アッサリ下手人を口にした。

 

「大体、君を篭絡する作戦が全くと言っていいほど進んでないのに貴重な人質に手を下す訳がないじゃないか。」

 

い、言われてみれば確かにそれはそうだ。でもならどうして下手人も分かってるのにレアはみすみすそんな事をさせたんだ?コイツならアサシンの1人や2人、目でもないだろうに。

………まてよ。

 

「お前らが……手を組んでいるとすれば。みすみす攫われたことに関しても筋が通る。そうじゃないのか。」

「なかなかに案としては魅力的だけどそれはない。あんなキチガイどもと手なんて組めないさ。」

「どの口が言うんだよ、この気狂いめ。」

「酷いなぁ、クラスメイトにそんなこと言うなんて。」

「うるせぇ、なら何故それを知ってるんだ。」

「全く……せっかちな男は嫌われるよ?街中の監視カメラ、あるだろ。」

「それが……どうした。」

 

確かに、この街には監視カメラが多い。それ故にそれに写らず歩く道も俺たちは当然把握しているがそれがどう関係あるのだろう。

 

「アレを設置したのは私なのさ。正確には元・協力者と言うべきかもしれないがね。」

「なっ……!?」

「まぁ、君みたいに全然写らないのもいた訳だが。」

 

待てよ、それはつまり日頃の動きから全て監視されてたということか……セイバーと歩く時は職務質問を回避しようと監視カメラを避けて歩いていたのが思わぬ役に立ったわけか。

 

『お主、いつも妙な道を通るなと思ったらそういう訳じゃったのか……』

『いや、だって警察とかに注目されたらサーヴァントの説明とか面倒だしね?』

『それだけかのう……?』

 

ほ、ホントにそれだけだって。うん。

 

「で、それに昨夜彼を担いで攫っていくアサシンが写ってたってわけよ。だから彼がどこにいるかも知っていて、なおかつ私が関係ないってこと、分かってくれた。」

「……信用はしないが、とりあえず言い分は分かった。じゃあまず、そのどこにいるのかを教えろ。こんな言い方したくねぇけど、お前も人質が減るのは困るだろう?」

「そうね……一つ、条件を呑めば教えてあげなくも無いわよ?魔術師の原則は等価交換。タダで教えるなんて嘘でしょう?」

「俺は……魔術師じゃない。」

「マスターだし、同じことよ。だから……そうね、教える代わりに片手でも貰おうかしら。」

 

ーーーーーッッ!!

 

「そんな条件、呑めるか!」

「あら、乾君がどうなってもよくって?」

「グッ……」

「それに、心配しなくても切り落とすわけじゃないわ。意味が無いもの。ただ私という存在でそこから刀の毒を抜いて完全に塗りつぶすだけよ。この病毒(どく)は練るのに時間がかかるから戦闘中に使うのは難しいのよね。」

「なっ………!!」

 

それこそ、切り落とされるより質が悪い。下手したら、全身蝕まれてしまうのでは無いのか!?

 

「安心してくれていいわよぉ、手首から先の侵食なんて、貴方がセイバーと契約している限り殆ど出来ないから。これはただの、第一段階。現時点では、ただの私の自己満足。特に動かすのにもなんの支障もないわ。」

 

そう言うとレアは再びこちらの目を正面から見つめて問い掛ける。

 

「で、どうするのかしら。乾君を取るか、左手を取るか。」

「そ、そんなの……」

『惑わされるなますたぁ!コイツから力づくで聞き出せばそんなものを差し出す必要はない!!』

「そ、そうか無理やり聞き出せば……」

「なるほど、京子ちゃんを犠牲にして左手と乾君を救うのね、君は。それもまた悪くないも思うわ、私は。とっても人間臭くて、吐き気がするほどにね。」

 

そ、そうだ。ダメだそれは!まだ委員長も人質のままだ。くそ、こうなったら……!!

 

『ま、待つのじゃますたぁ!片手が使えなくなれば……!!』

 

そう、片手が使えなくなれば。それは大きなハンデとなるに違いない。聖杯戦争で死ぬ可能性も高まるかもしれない。

 

ーーけれど。

それで帰るべき日常(ばしょ)を無くすなら。

命を引き換えにするわけじゃない、だったらそれくらいのリスクは負わなくてどうする……!!

 

 

「……分かった。この左手はお前にやる。だから錬土の居場所をすぐに教えろ。」

『ますたぁ!!』

 

頭の中でセイバーの静止の声がするが無視してレアに左手を差し出す。

 

「へぇ……そう来る、それを選ぶんだ。まぁ、僕としては最良の形だけれども、さ。」

 

そう言うとレアはひんやりとして、それでいて毒の灼けるような臭いを放つ両手で俺の左手を包み込む。

 

I veleni(我が毒). I malattia(我が病). l anima(我が魂). Ho penetrare nel cuore(それは心に染み入るもの). Correre come cavaliere pallido(第四の騎士の如く駆け), Diventa veleno per coprire la vostra(汝を包む毒となれ). Il mio peccato è la sua malattia(我が罪よ、汝を侵す病となれ).」

 

紡がれる詠唱。左手に感じる異物感と魔力。思わず目を閉じる。

 

そして、目を開くと。

 

「……終わりよ。これで貴方の左手は私のもの。」

 

俺の左手は膿んだような、鬱血したような。それでいて何かが蠢くような毒々しい、死んだ血の色をしていた。

 

『ますたぁ……お主。』

 

セイバーが咎めるような、労るような、嘆くような。そして、哀しむような。

そんな顔でこちらを見つめる。

 

「これが最善だったんだ、きっとそうなんだ。」

 

そう、自分に言い聞かせるようにセイバーへと言う。

 

「それに、左手だって思ったよりちゃんと動く。最悪壊死して使い物にならない可能性も考えたけどこれならまだまだ普通に戦えるはずだ。」

「それはそうよ、私としてもどこかその辺で野垂れ死なれたら困るしね。だって私は君を『子』にするんだから。」

「そうやすやすとされてたまるかよ……それより錬土はどこだ。教えて貰うぞ。」

「ええ、そういう約束だものね。あの子はアサシンの隠れ家につれていかれたわ。その場所はーーーーこの街の地下下水道。」

 

息を呑む。地下下水道と言えば、幼女同盟の間でも緊急避難用に使われることのあるこの街の地下を網目の様に張り巡らせる下水道だ。確かにアソコなら、隠れ家としては申し分ない。

 

「行く気かい?」

 

窓に足をかけて飛び出そうとするとレアが声を掛けてくる。

 

「当たり前だろ、まだ何かあるってのか。」

「何、死んでもらっては困るし、一つ助言をね。」

「助言……?」

 

何やら物凄く胡散臭いが、聞いておくだけなら損も無いか。そう判断して耳を傾ける。

 

「ヤツら……アサシン達と戦う時は出来るだけ1対1を構図を作って戦うよう心掛けるといい。それじゃあ先生には君が早退したと伝えておくよ。」

「そうかよ、有難く受け取っとく。」

 

そうしてレアを尻目窓から飛び出して再びセイバーを装備したまま道路のマンホールを斬り裂いてそのまま地下下水道へと潜り込む。

間に合ってくれよ……!!




いやー、主人公ってこうやってボロボロにされてくものですよね

全身を呪いに蝕まれ、左手はレアのものにされ、漸く主人公らしくなってきたぞぉ〜(歪んだ主人公観)

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