「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ、はぁ。よし、何も無かったな!」
「え、いやますたぁよそれは流石に無理が……」
「無 か っ た な !」
「う、うむ。そうじゃの。」
よし、これで何も問題は無かった。今度から甘いもの食べさせに来る時は細心の注意を払わなくては……
そう心に戒めていると、ゴホンと咳払いが目の前から入る。見やるとセイバーが真面目な顔付きでこちらを見つめていた。
「で、じゃ。お主のしたい真面目な話ってのは何なのじゃ?」
ーーそうだった。すっかり忘れ……いやいやそれを忘れるだなんてとんでもない。もちろん忘れてなかったよ俺はうん。
「そ、そうだったな。実はさ……セイバー。昨日、変な夢を見たんだ。」
「夢……か。ふむぅ…もしそれが、ただの悪夢とかではないなら、サーヴァントか、或いはマスターに夢魔や混血がいる可能性があるということかのう。サーヴァントだとすれば未だ見ぬキャスターが怪しいのう……」
「あ、いやちょっと待った待った。多分そういうのは関係無いと思うんだ。」
「ん……?はて、お主がそう思う根拠はなんじゃかのう?」
「実はな……セイバーの夢だったんだ。」
突如、目の前から息を呑む声が聞こえる。
ーーやはり。重大なことだったか……!!
と、顔を向けると。絶句した表情で、口をパクパクさせているセイバーがいた。
「あ……あれ?ど、どうした、セイバー?」
「ど…どうしたじゃないわ、馬鹿者!!」
「なーにが真面目な話じゃ!結局その思考に行き着いとるのじゃろうが!」
と、とんでもない勘違いされてる……だと!まるで俺が常に、死闘の最中ですら幼女のことしか考えてないようなダメ人間扱いを受けてるーー!!
「ま、待て、セイバー!落ち着け、ここでポン刀抜くのはやばい!」
「抜かぬわ阿呆っ!全くお主は毎度毎度……どうしてなのじゃあっ!!」
ついに堪忍袋の緒が切れたのか、ぽかぽかと頭蓋を殴りつけてくる。って、痛えっ、これ、予想外にっ、痛いぞっ!
「お……おお、落ち着けセイバー!安心しろ!セイバーっていっても刀の方だ!!刀!」
声が通じたのか、セイバーの腕が止まる。あー、痛かった。
「ま、ますたぁよ……お主今度は幼子の肉体だけじゃ飽き足らず、刀にまで興奮するように……」
「なってねぇよ!」
謂れのない事実でドン引かれてた。いくら俺といえども流石にこれは否定せざるを得ない。
「あのなぁ、お前の夢ならそりゃ幾らでも見たいと思うが流石に日本刀の夢を見たいとは思わねぇぞ……?」
「〜〜〜〜!!お、お主は本当に……ゴホン。」
突如セイバーは顔を紅潮させると咳払いをして、そっぽを向きながら話し続ける。そんなにまずいこと言ったのか、俺。
「ま、ますたぁよ。頼むからそういう事は他では言うなよ、捕まりたくなかったらのう。」
「え、お、おう。それで、分かってくれたか。」
「あ、ああ、うむ。儂の刀の姿、本来の儂の夢、じゃったか。具体的にはどんな夢だったのじゃ?」
「あぁ……….なんか、鍛冶場みたいな所でさ、お前が…….まさに打たれた瞬間を見たんだ。」
「ーー!儂が……打たれた瞬間じゃと!?」
セイバーはそれを聞いて思わず血相を変える。
「あ、あぁ……やっぱし、重大なことだったのか?」
「確かに、重大…といえば重大じゃな。いや、どちらかと言えば重要といったほうが正しいかの。」
「どういう、ことだ?」
「恐らく……儂の記憶じゃ、それは。」
「セイバーの、記憶……?」
「うむ、サーヴァントと契約したマスターは、そのサーヴァント生前の記憶を夢に見るらしいのじゃ。また、その逆も然り、な。」
そうか、あれはセイバーの夢……いや待て、だとするとおかしいぞ。
「けど、それっておかしくねぇか。だって、セイバーは記憶が無い、って。」
それに対してセイバーをコクリと頷き肯定し、続きを口にする。
「うむ、儂は確かに記憶が無い。じゃが、打たれて振るわれた記憶自体はあるはずなのじゃ。しかし真名と共に、それも思い出せなかったという訳なのじゃよ。」
「なるほど……ってことは、まさか。真名の手がかりがあの夢には!?」
「うむ……その可能性は十分にあるじゃろうな、何かヒントでもいい、思い出せるかますたぁよ。」
そう言われて思い返そうとするも元々薄れかけている夢だ、なかなかハッキリとは思い出せない。
「うーー……ん。確かに、何か銘を付けてたはずなんだけど……蒸気の音で何も聞こえんかったなぁ。あ、そういえばお前を打ってた刀工がお前は妖刀になるしかなかった、とかこんなの作れちゃう俺の才能が末恐ろしい、とか言ってた気がするな……ダメだ、これ以上は思い出せない。」
俺の記憶を聞いたセイバーは口元に手を当てて何やら考え込み出した。
ふむぅ……セイバーって考え込む姿がわりと似合うよなぁ、折角だしちょっとパシャってもバレないバレない……そう考えて懐から消音カメラを取り出そうとすると、セイバーが口を開く。
「何ごそごそやっとるのか知らんが、阿呆な事はやめるのじゃ。それより、今のことから分かったことはどうやら2つ、あるな。」
「え、や、やだな俺がこんなシリアスな状況でそんなことするはずがないだろ、うん。というか2つも分かったのか、それって一体……?」
「うむ、一つは恐らくの儂は名のある刀工によって打たれた妖刀だということ。この国に妖刀として、かつ名のある刀工に打たれたものは少ないじゃろう、これだけでも大分儂の真名に近づけたと言える。」
「なるほど……後で調べに行こうか。それで、セイバー。もう一つは?」
「それはじゃな……」
セイバーが言葉を溜めるとこちらも思わず息を呑む。一体何が分かったというのか。
「儂を打った刀工がナルシスト野郎じゃったってことじゃ!」
……………え?
「儂みたいな半端もん作っといて何が『俺の才能が恐ろしい……』じゃ!いい加減にするのじゃ!」
「お、おう落ち着けよセイバー。で……それだけ?」
「それだけじゃが、何か?真名に関しては調べれば大体絞れるじゃろう。それとも何か、文句でもあるのかのう?」
「い、いや、ないけど、うん。でもセイバーは半端もんじゃないと思うぞ、うん。」
「〜〜〜!!じゃ、じゃとしても!儂が気に食わないから駄目なのじゃ!」
「そ、そっか。まぁでもそんな深く考えなくてもいいと思うぞ、うん。」
「……ふん、まぁいいわい。それじゃあ、これからどうするのじゃ、ますたぁよ。」
「そうだなぁ……図書館にでも……」
そう考えていると突如携帯が鳴り出した。ワルキューレの騎行が流れてくるということは、錬土から、それも緊急通話だ!まさか何か学校であったのか!?
「もしもし、どうした錬土!」
『どうした錬土、じゃねぇよ!お前なんで学校フケてんだよ、三日連続無断欠席になりそうだから委員長がかなりガチギレしてんだよ!!』
「三日連続無断欠席……あっ!!」
そうだ……うちの学校は三日連続無断欠席すると二週間の間学年中のトイレ掃除を押し付けられるんだ……そして異性のトイレの担当は本人でなくクラス委員長……キレるのも当然だ。
「す、すまん完全に忘れてた!」
『忘れてたじゃねぇ!と、いうか俺にとばっちりが飛んできかねないんだよ!!頼むから早く、今すぐ来い!!でなきゃ呪うぞ!』
そう言うが早いか通話はプツリ、と切れる。
どうするべきか。このまま錬土を見捨てた方が楽だし暫く学校に行くのもキツいことを考えるとこのまま無視する方がいいだろう。そうしよう、うん。
そう考えていると、再び携帯が振動し、メールが届いたことを通知する。錬土からのメールか。メールを開くと『お前はそのままだと俺を見捨てて帰りそうだから来ざるを得ないようにいいことを教えてやる。昨日からうちのクラスに転入生が来ててだな。…………そいつ、金髪ロリだぞ。』と書いてあった。
ふ、ふふ、ふふふふ……流石我が親友としか言う他ないな。完全に俺の行動パターンはお見通しということか。仕方ない、これは行くしか……!!?
「な、なんで、コイツが……!?」
そうして、添付されて送られてきた写真を見るためにメールをスクロールさていると。
その目に写ったその姿は。
この聖杯戦争の主催者である似非ロリ。レア・アーネスそのものだった。
なんか君たちイチャつき過ぎじゃないですかねぇ……別にデート回でも何でもないのになんでこんなんなってんだ……まぁ、少しはシリアス出来たかな、うん。