とりあえず、次からは定期的に更新できるように努力しますね……
「アトラスの……錬金術師……!?」
アトラス院といえば、世界の滅びの回避を命題として活動する魔術協会・三大部門の一角だ。まさかこの聖杯戦争、それ程までに大事だってのか……?
『そうだ、私はアトラスの錬金術師として、人類の滅亡の回避の為にこの地に来た。』
「人類の滅亡……とは少々大袈裟ではありませんこと?」
『いいや、紛れもない事実だ。あやつの計画が成功すれば、今の人類は滅びるだろうよ。』
ラバックは落ち着いた、されど重々しい口調でキッパリと断言し、それに思わずアタシとルーラーは固唾を呑む。
『だが、私では少々あやつに対しては力不足でね。故に情報の共有のみでも行っておこうという次第だよ。』
ーー胡散臭い。とてつもなく胡散臭いが、話してることには筋が通っている気もする。
ここは、話だけでも聞くべきか。
「なるほど……そちらの言い分は分かったけどよ。その内容ってのはなんなんだ?何となくヤバげなことは伝わってくるがそれ以上は何もだぜ?」
「そうですわね、言いたいことはハッキリと言うべきですわ。回りくどいんですのよ。」
ルーラーもアタシに同調して不満そうに言う。いや、このルーラーの場合本当に回りくどいのが嫌なだけかもしれないが。
『勿論、この聖杯戦争、いや毒聖杯に関する全てについてお話することを約束しよう。とはいえ、この状態で話すのは盗聴の不安もある。』
「つまり、どこか別の場所で落ち合うと?」
『Exactly. 察しがよくて何よりだ、レディ。今からそちらに迎えを寄越そう。』
ーーーうわ、スゲェ怪しいなこれ。間違いなく罠だよなぁ……無視するか?
そう、思考しているとルーラーが勝手に返事を返す。
「よろしくってよ。私も、ここの監督役もすぐに向かいますわ。」
「っておい……何勝手に人の分まで返事してんだ。行くなら自分1人で勝手に行ってくれよ。アタシはこんな見え見えの罠にハマりに行くのはやだぞ。」
思わず小声でツッコミながらルーラーを肘で突っつく。
いや、だってしょうがないじゃん間違いなく罠だろうしあと疲れるし。監督役はあくまで聖杯戦争の監督役なんだからそれ以外は裁定者に任せるべきだよ、うん。アタシは業務外労働なんてしたくないんだよ……
「表情から働きたくないって本音がありありと出てますわよあなた……」
しかしその直後のラバックの発言によりその働きたくないという考えは改めさせられることになる。
『その毒聖杯の製作者がレアであり、人類を守る為の手段があやつの抹殺だと言ってもかね?』
思わず目を見開く。何故コイツがアイツに対するアタシの怨恨を知ってる?いやそれよりも、抹殺だと?アイツの不死性を突破して殺し尽くす方法があるとでもいうのか!?
「……何が、狙いだ。ルーラーならともかくアタシにはさしたる戦闘力もないし、足でまといにしかならないと思うが?」
結局、出たのはそんな当たり障りのない疑問だけだった。
『なに、私は想いの力というものを信頼しているだけだよ。君のレアに対する怨恨、それはあやつに対する切り札になるのでは、と私は期待しているのだがね。』
「……この上なく最悪だぜ、クソ野郎が。だが、乗った。罠かどうか知らねぇが、最大限利用させてもらうぞラバック・アルカト!」
『理想的な返事だ、レディ・ザビーヌ。さて、そろそろ迎えが来そちらに着く頃だ。ではまた、後ほど。』
そう会話を締めくくると烏の使い魔は再び明けの空へと飛び去っていく。
それが完全に去ったのを見届けるとルーラーに顔を向ける。
「さて、ルーラー。ものは相談だが、レアを滅ぼすまでの間、アタシと組まないか?」
その申し出は予想外だったのか、ルーラーは目を丸くしながらこちらを見つめ、その後納得したかのように頷きはじめる。
「……なるほどですわ。この状況の対応するための、急造のマスターとサーヴァントのコンビというわけでして?」
「そんな大層なもんじゃないさね。レアをぶち殺す為の同盟関係みたいなもんだ。だいたいお前はマスターいらねぇだろうが、聖杯が依り代なんだからよ。」
思わずそう返すとルーラーは首を降り、アタシの言葉を否定した。
「いえ、実はそうではありませんでしてよ。私には今、依り代もマスターもいないのですわ。」
「は……!?ルーラーの依り代とマスターは聖杯って事じゃねぇのかよ?」
「本来なら……そうですわ。ですけれど、今回の聖杯はおかしいですわ、召喚も曖昧、魔力供給も依り代も無し、とまるで分かりませんの。それに肌に感じるこの濁った気配……恐らくですが、聖杯自体ロクなものではありませんでしてよ。」
「ってことは、やっぱラバックの話は本当か……めんどくせぇな。」
「あら、聖杯がロクなものでないということには驚かないのですわね。やはりあの方の血を受けた杯以外にロクなものはないと思ってらっしゃるんでなくて?」
ルーラーが関心したような声を出す。
いかにも聖女様らしい勘違いだな。
「悪いね、残念ながら違うさね。単純に他の亜種聖杯戦争で爆発する失敗作の亜種聖杯とかを見てきたからの話しさ。」
「……そう、でして。まぁいいですわ、それで、同盟の話でしたわね。私としては賛成どころかこちらからお願いしたいくらいですわ。現状、私にはマスターが必要ですし、あなたは監督役ですし。そして何よりろ気に入りましたから。」
ーーそうか。ルーラーの依り代が聖杯でない以上、何かしらの依り代が必要となる。サーヴァントはこの世のものならざる幽体。現世に留めおくには、マスターなりなんなりが楔となってつなぎ止めなくてはいけない。過剰に魔力を消費すれば限界し続けるのも不可能ではないが、相当不可能に近いだろうし、近場にいたアタシと組むのは必然だっただろう。
「なるほど、確かにこの教会の人間で魔術回路持ちなのはアタシだけだしな。」
「勘違いなさらないでくださいな。私はあなたが気に入ったからあなたをマスターにするのです。楔とするだけならそれこそこの教会でもなんでも依り代にしてましたわ。」
「ーーーッッ!!」
照れからか、思わず頬が熱くなる。
いきなり聖女様から認められるとかハードル高いってーの!
「そ……そんなのはどうでもいい。とりあえず問題なら契約を結ばせてもらうぞ。」
意識を契約に向けることで頬の赤みを冷ましつつ、ルーラーに右手を向ける。
そして口から紡がれるのは英霊召喚……いや、この場合は契約か。その為の問い掛けだ。
「ーーー
聖杯の寄るべに従い、この意、この理に従うなら我と共に。」
「ーー望むならばこの命運、汝の剣に託そう……!」
「ルーラーの名に懸け誓いをうけましょう……!今この時から貴方は私の友であり同胞ですわ、ルキア・ザビーヌーーー!」
そして、ルーラーと自身の魔術回路を繋ぐ
「これから、よろしくお願い致しますわね、ルキア。」
「レアを止める為に協力してもらえるんだ、こちらこそよろしく頼む。聖女様。」
しかし、こちらとしては敬意を十分に払ったつもりなのだがお気には召さなかったようでルーラーは頬を膨らませて不満そうな顔をする。
「あれ……なんか機嫌を損ねちまったか?聖女様。やっぱ敬語に直した方が……」
「喋り方は似合ってない敬語なんかより今の言葉のほうがよっぽど素敵ですわ、そうじゃありませんのよ。その、聖女様ってのやめていただけませんこと?」
なるほど、確かに聖女と呼ぶと聖人認定されたという所から真名が特定されてしまう可能性もあった。そこまで考えていたとは……やはり凄いな。
「なるほど、真名の露呈を畏れたということか。じゃあルーラーと呼べばいいのな。」
「ち、違いますの!大体私の真名なんて洩れたところで何ともありませんわ!」
?じゃあ何が気に食わなかったんだうか。
そう首をひねりながら悩んでいると、ルーラーがしどろもどろになりながら口を開く。
「あの……ですから、その……ルトガルディスと、呼んで下さいまし。」
「…………………へ?」
「ですから!私のことはルトガルディスと呼んで下さいましと言ったんですのよ!」
ーー驚いた、聖女様もこんな表情するのか。なんというか、その、やべぇ可愛いぞコレ。
「だ、黙ってないで返事して下さいまし!」
「あ、ああ、すまん。つい見蕩れてた。了解した、それじゃあこれからよろしくな、ルトガルディス!」
アタシがそう呼び返すと。
「ええ!」
彼女は、咲き乱れる百合の花のような笑顔でそう応えた。