Fate/erosion   作:ロリトラ

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ただロリ……只のロリ


第2章 かくして愚者は踊り演じる
1日目/ますたぁに捧ぐ基本授業


アサシンとの戦い、その決着からおよそ15分後。俺とセイバーと名乗る幼女は家に戻ってきていた。

 

「にしても夏だとはいえ、この時間に窓無しは応えるな。」

「ふむ、誰か間抜けが割ったのじゃろうな。」

 

いけしゃあしゃあと言い放つセイバー。おのれこのロリっ子、ロリじゃなかったらぶっ飛ばしてたぞ。

少し怨嗟を込めながら睨んでいると気づいているのかいないのか、こちらに対して笑いながら口を開く。

 

「それにしても、客を入れておきながら茶の一つもでないとは。それが人にものを頼む態度か?」

 

うん、これは、ダメだ。

幾らロリでも。いや、ロリだからこそ怒るべきところは厳しく怒らなくては。つまり、一発殴るーーー!

 

「っておいおい、何じゃその目は。おいますたぁ、まさかこんなか弱い女子(おなご)に手を上げる気じゃないだろうな。」

 

これは躾です、問題はない。

しかもあんなふうに二刀流をばんばん決めてたのをか弱いと世間では言いません。

 

「ちょ、ちょっと待つのじゃますたぁ。儂が悪かったから、その手を収めて欲しいのじゃ。ほら、窓も直すから。」

 

そう言って祝詞か何かを数言唱えると割れたガラスの破片が元に戻っていく。今更この程度では仰天こそしないものの、それでも十分に驚くべき所業だ。

 

「おお、すげぇなセイバー。お前こんなことも出来たのか……」

「当たり前じゃ、なんと言ったって儂は最優のクラス、セイバーじゃぞ!」

 

セイバーはえへん、というオノマトペが見えそうな程に無い胸を張る。

……やはり眼福だなぁ。この時間がずっと続けばいいのに。

……っと、そうもいかない。俺としてもしっかり聞くべきことを聞かなくては。敵ではないのだろうけど味方かどうかもわからないのだし。

 

「いや、だからそのクラスとかがそもそも分からないんだってば……お茶淹れてくるからそうしたら説明してくれ。」

 

そうしてペットボトルの麦茶を取り出すと2人分のグラスに並々と注ぐ。

 

「……随分と注ぐの。」

「だって、話長引きそうだしな。……さて、それじゃあ話してもらおうか。まず、お前は俺の敵か?味方か?」

「その問いに答えるのは容易い。味方じゃ。お主が裏切らぬ限りはな。」

 

その返答にほぅ、と一息をつく。

これでやっと少しは安心出来るのか。いやまぁ今まで緊張が全く切れてなかったかって言われると既に怪しいところではあるけれど。

 

「それじゃあ、本題だ。まず話してくれ、俺が何に巻き込まれたのかを。」

「うむ、まずはだな。………ますたぁよ、お主は聖杯というものを聞いたことがあるか?」

「聖杯……?いやまぁカードゲームとかでなら覚えはあるけどそうじゃねぇよな。それで、それが何なんだ?」

「聖杯とは、神の子の血を受けた奇跡を起こす杯じゃ。そして奇跡を起こす、万能の願望器たる聖杯を奪い合う聖杯戦争。これが、お主の巻き込まれた争いじゃよ。」

「聖杯……戦争……」

「ま、偽物なんじゃがの。」

「偽物なのかよッッ!!」

 

これだけシリアスな展開でボケてくるとはやはりこのロリ、ただロリではないーーーー!!

 

「あぁ、偽物じゃ。……じゃが、願望器としての力は本物じゃ。ならば聖杯が嘘でも真でも関係あるまい。」

「だから……さっきの奴はお前を。でも、なら何で俺は狙われた!?」

「ふむ、詳しくは分からんが、お主の魂を食いたかったのではないのか。」

「魂……?どういう事だよ。」

「儂達はサーヴァントと呼ばれる存在であり、伝承、神話、歴史から呼び出された英雄などの写し身のような存在なのじゃ。そして、聖杯戦争とはそのサーヴァントとそれを従える7人の魔術師。ますたぁのような参加者との戦いのことじゃ。」

「えーっと、うん、ちょっと待って。怒涛過ぎて付いてくのも大変だから。えーと、とりあえず偽物だけど何でも願いが叶う聖杯ってものがあって。それを7人のマスターが伝説の英雄を引き連れて戦い奪い合う……ここまでOK?」

 

セイバーは満足そうな顔で首肯する。

 

「それで、なぜ魂が食われるとか俺が狙われるとかに繋がるんだよ。」

「それを話そうとしたらお主が会話を切ったんじゃろうが。まぁよい、思ったより理解が早いようじゃしの。で、魂の説明じゃが儂らサーヴァントは幽霊みたいなものなのじゃ。で、簡単に言うと幽霊は幽霊を食べて強くなる。だから自分のサーヴァントを強くしたい参加者はサーヴァントに人間の魂を食べさせる。非常に簡単な結論じゃろ?まぁ、あのアサシンの場合それだけとも思えなかったがな。それに、あのそれくらいなら有情じゃろう。他の魔術師の参加者なら生かさず殺さず有効利用、なんてことをする輩もいかねないのが聖杯戦争というものじゃ。」

「んな……!!」

 

とんでもない事実に言葉も出ない。

生死がかかった事態。それもとんでもないし生かさず殺さずなんていう単純に殺されるより酷そうな予想もとんでもないが、何よりとんでもないのは。

 

諦めた幽霊少女(ゴーストレディ)はここにいたーーー!

 

まぁ、色気もデートも可愛げも、あったもんじゃなかったのだが。

やはり、現実は非情である。

 

「ん、どうした涙なんか流して。やはりお主、今更聖杯戦争が怖くてやめたいとでも抜かすか?情けないのう。」

「そんなことで涙は流さねぇよ……とはいえ抜けたいんだけど、そうもいかないよ、ね?」

「あったりまえじゃ。儂とて叶えたい願いがあるのじゃ。その為にはますたぁに勝ってもらわねば。まぁ、どうしても聖杯戦争に参加したくないと言うなら、お主の魂を吸い尽くして人生ごとリタイアさせてやってもよいぞ。それだけあれば暫くは戦えるからのう。」

 

訂正。現実は非情なんてもものじゃなかった。卑劣非道にして卑怯悪辣である。ああ神よてめぇは死んだのかゴルァ。ニーチェは正しかった……ガクリ。

 

「……はぁ。何を惚けておるのじゃお主は。これは現実じゃぞー、受け止めのが吉じゃぞー。」

 

セイバーが小さくて柔らかい指で俺の額をぷにぷにと突いてくる。あぁ、なんかいいなこれ……なんてやってる場合じゃないか、流石に。

そうして冷静に気を取り直す。でもまあ、ここまでやられたら逆にロリなのが救いだったのかもしれない、そうだ少しでもポジティブに考えよう。そうしよう。明日はきっといいことがあると信じるんだ!

ーーーだから、まずは。

ここで1歩を踏み出そう。

 

 

「どうやら、心は決まったようじゃの」

「あぁ。」

「では、まず選んでもらおうかの。聖杯戦争に参加するか否かを。」

 

ここは運命の分かれ道。

そして、俺はーーー

 

「勿論ーーー参加する。」

 

ーーー戦いを、選択した。

 

「覚悟を、決めたか。」

 

セイバーがニヤリ、と口角を歪めながらこちらを見る。

 

「ーーーあぁ。」

 

ゴクリ、と唾を呑む音が聞こえるほど緊張したままこちらも答える。

こちらも覚悟は決めたんだ。だから、今は後ろを向くもんか。

というか、まぁ。後ろ向きになったとこでリタイア出来るわけでもなし、生きるためには戦うしか無いのだから

 

「ならばよし。しからば話を次に進めよう。具体的に勝つため、負けない為に必要な知識じゃ。」

「あぁ、教えてくれ、セイバー。」

 

それでは、生きるために、死なないために。

まずは知れることを知っていくとしよう。

 

 

「まず、ますたぁには参加者の殆どは魔術師ということを知ってもらおう。」

「その魔術師ってのは……」

「慌てんでも今から説明するのじゃ。落ち着かんかますたぁ。」

「ご、ごめん。」

「ふん……謝ることはないじゃろ。それより、魔術師についてだが。コイツら魔術という体内にある魔力を使って色々できる連中じゃ。が、まぁ斬ればだいたいは殺せる。儂を装備したお主にの敵では無いわい。強いていうならサーヴァントの現界や戦闘には魔力が必要じゃ。その魔力をたっぷり持っておるからサーヴァントを万全に戦わせられる、といったところじゃろうな。」

「儂を装備……?まぁ、魔術師とマスターについては分かった。」

 

疑問点はあるものの質問は最後にした方が話の流れを切らないだろうと考えて、続く先を促す。

 

「うむ、そして次にサーヴァントじゃな。これは先程も言った通り7騎の英雄やらなんやらが呼び出されるのじゃ。そしてその呼び出されるサーヴァントは7種類のクラスに1つずつ当てはめられる。」

「遠距離攻撃を主体とするサーヴァント、アーチャー。

白兵能力は低いもの、気配遮断をしてマスター殺しを狙うサーヴァント、アサシン。

陣地にこもり、権謀術数で勝利を掴むサーヴァント、キャスター。

理性と引き換えに得たステータス上昇で最強の破壊力を生むサーヴァント、バーサーカー。

高い機動力と沢山の宝具を持つサーヴァント、ライダー。

最速にして白兵戦特化のサーヴァント、ランサー。

そして、この儂。最優と呼ばれる剣士のサーヴァント、セイバーじゃ。

たまにこれ以外のエクストラクラスってのと入れ替わることもあるものの、基本はこの7つのクラスでサーヴァントは召喚されるのじゃ。」

「えーと、なんだ、ジョブみたいなもんか。」

「ジョブ……?まぁ、職業というのも遠からずといったところではあるな。」

 

RPGのジョブ的な意味だったんだけど……まぁいっか。それにしても、7つのクラスか。

最優……最優か。アサシンに手こずってたのにホントに?

 

「なぁ、1ついいか。セイバーって、白兵能力の低いアサシンに苦戦したのにどこが最優なの?というかへぼい剣士の英雄聞いたことないんだけど。」

「…………。」

 

途端に黙りこくるセイバー。

あ、これはやっぱし聞いちゃいけない事だったのかもしれない。

よく見ると涙目で肩がぷるぷる震えてきてるし泣かれたらこの時間だし俺の家から幼女の泣き声が響き渡るのは流石に色々と不味いーーーー!

 

「す、すまん!俺が悪かった!頼むから泣かないで!」

「な、泣いてなんか無いのじゃ!そ、それにこれには深刻な理由があるのじゃ。」

「深刻な理由?」

 

ひょっとしたら俺の力不足で本気が出せないとかそういうものだろうか。だとしたら不甲斐なさがこみ上げてくる。多少いけ好かないことはあるけれどもロリの邪魔になるなんてことは俺の存在として有り得ない事なのだ。

 

「うむ、それはな。そもそも、儂は英雄でもなんでもないのじゃよ。」 

「………は?」

 

英雄ではないとはどういうことだ?それではそもそもの大前提が崩れている。

 

「いや、じゃから、言ったじゃろ。」

 

セイバーはしどろもどろになりながらお茶を濁す。

 

「さっき儂は英雄やらなんやら、と。儂は言うならその何やらにあたるのじゃよ。儂は言うならば『妖刀』といった概念が形を持った存在……?みたいな感じの気がするのじゃ。」

「おい待てコラなんでそんな曖昧なんやねん。」

 

こっちも命がかかっているのだ。ツッコミどころには全力で突っ込んでいかなくては戦う前に負けてしまう。

 

「だ、だってしょうがないんじゃよ!お主がいい加減でめちゃくちゃな召喚する上に聖杯もなんか不完全感凄いんじゃからっ!」

「………うっ、それは、その、なんか、すまん。」

「そうじゃそうじゃ、お主はもっと儂に謝るべきなのじゃ。」

 

こう出られると俺も強くは言えない。

しかしなぜこんな見た目と中身以外ハズレを引いてしまったのか。採用理由は愛、とかそんなタグがこいつの育成論には付いてるに違いない使いにくさだ。

 

「じゃ、じゃが!儂だって儂にしか出来ない凄いことがあるのじゃぞ!」

「……え?マジ?なになに!」

「それこそが、憑依スキルと妖刀スキルじゃ!なんとこのスキルのおかげでお主がこの触媒である日本刀を装備すればB〜Aランクサーヴァント並の戦闘力を発揮できるのじゃ!凄いじゃろ!」

 

おお!それはすごい。確かに、だからさっき俺が刀を持っただけで一刀両断出来たのか。これなら……ん?いや待てさっきの倦怠感、まさか。

 

「あの、さ。セイバー。確かに凄いんだけども、このスキル……」

「じゃろ、じゃろ!やっぱし儂って最優なのじゃ!」

「このスキルって、代償とかない?」

 

セイバーはギクギクゥッ!という擬音が見えるほどに動揺を顕にする。やっぱりこの娘、わかりやすいなぁ。

 

「な、なぜそれを……お主、エスパーか何かか!?」

「いや、だってこんだけ凄いのに代償ないとか、しかも妖刀なのに有り得ないでしょ。少なくとも漫画ならそうだし。あぁ、あとさっきアサシン斬った後の倦怠感凄かったし。」

「ぬ、ぬうう、恐るべきは現代の書物か……!!」

 

セイバーはおのれ、と言わんばかりに歯ぎしりをしてこちらを睨みあげてくる。なんか悔しがるところ違う気もするんだけどなぁ。

 

「じゃ、じゃが!負けて殺されたり死んだ方がマシな目にあうくらいならまだマジじゃろ!それに、儂はちーっとだけ魂を頂くだけじゃから!」

「いや、それかなり大問題じゃねぇの。そーゆーのって最終的に死んだりするやつだろ!?」

「そ、そんなことはないわい!ただ儂が魂を吸い切ったら儂と完全に同化するだけじゃから!」

 

なん…だと…幼女と、同化……!?

それはなんと甘美な響きなのだ。寧ろ御褒美ではないのか!?

いやいや待て待て、冷静になるのだ戈咒よ。これは俺の命がかかっているんだぞ、同化したらつまり死ぬってことだよなこれやっぱりうーん……………やはりその死に方なら悔いはないな!!

 

はっ!冷静になれてないぞ落ち着け欲望に身を任せるな冷静になれ、なるのだ俺。よく考えたら同化したらセイバー1人になるわけだしどのみちまともに戦えなくなっちゃうじゃねぇか。

こんな幼女1人に戦わせるなんてとんでもない。

だから、ならやはり。限界を知ることが先ではないのか。

 

「なぁ、セイバー。同化までの猶予はどのくらいだ?」

「ぬ…どうしたのじゃ。急に態度変えて。」

「べ、別にどうでもいいだろそんなこと。」

 

やばい、顔に出てただろうか。俺が興奮してることに気づかれたら色々まずいし気づかれてないよな、うん。大丈夫だよね……?

 

「まぁそうじゃな。猶予というならあと三ヶ月といったところじゃろうな。」

「三ヶ月……!」

 

予想以上に短い、やはり契約を切るべきなのか思案する。しかし、もし再びあんな奴に襲われたら俺1人じゃ死ぬしかない。リスクを背負おうと戦った方が生きられる可能性は高そうな気もする。人の魂を使うとかいう欠陥サーヴァントだが実際セイバーが取り憑けば弱めのクラスであったとはいえアサシンは一撃倒された訳だし。でもなー、下手に隠れられて長引いたらその間に俺死にそうだもんなぁ……

 

「安心せい、聖杯戦争は2週間経てば時間切れで自動終了じゃ。だから基本的には問題ないじゃろうよ。じゃが、気を付けろよ。戦えば戦うほどその猶予は短くなる。儂としても聖杯戦争半ばで倒れられては適わんからな。出来るだけ戦闘時間は減らし、暗殺に近い初撃で仕留める戦い方にすべきじゃな。」

 

そんな俺の迷いを汲み取ったのか、セイバーは俺を安心させるように言った。

そしてセイバーの言うことは理にかなっている。俺たちはセイバー陣営だがアサシンのように振る舞うべき、ということなのだろう。確かにサーヴァントすら一撃で倒したあの力なら魔術師とはいえ人間くらい楽に倒せるだろうし、それが最善だろう。

 

「……なるほど。要するにリスクこそあるが無茶さえし過ぎなきゃ充分に戦っていけるし勝ち目もあるってことか……」

「うむ、分かってくれたようで何よりじゃ。それじゃあ説明を続けるぞ。次は令呪についてじゃ。令呪とはお主の左手にある赤い痣のこと。それはそれぞれがなんと高密度の魔力の塊で、これを使えばサーヴァントに転移とかの普通はできない命令も出来るのじゃぞ!凄いじゃろ!」

 

な……に……普通は出来ない命令も、だと。つまり、それは。この小生意気なセイバーにあんな事やこんな事もし放題………!!いや待て、落ち着け何を考えている。無理やり手を出しては紳士失格ではないかッッ!!

俺はなんということを考えていたのだ。

そう思うが否か俺は頭を床へとひたすらに叩きつけていた。

 

「お、おいますたぁよ……何をしておるのじゃ、怖いぞ。やめんか。ていうかぶっちゃけ引く。今まで以上に怖い。」

 

冷めた目線と口調でセイバーが言う。どうやらガチで引いてるみたいだ。しかしこっちとしても落とし前をつけずにはいられないということを伝えなくては。

 

「いや、しかし、俺はこうでもしなければ俺は俺を許せんッッ!」

「何を許せんのじゃよ……まぁいい。よく分からんが儂が許すからそれでええじゃろ。その頭を床に打ち付けてリズム取るの止めんかい。」

「せ、セイバーがそういうのなら……」

 

セイバーが許した故に俺は渋々中断する。しかし今後は2度とこのようなことが無いようにしなくては。

そう深く心に紳士としての心構えを再度刻みつけて俺は此度のことを深く反省した。

 

「で、令呪の説明はさっきのでだいたい分かったと思うが……お主がいきなり訳分からん行動取り出したから一応説明し直すと3回限定の絶対命令権。ということじゃ。くれぐれも無駄うちするのではないぞ。」

「あぁ、紳士としての誇りに誓ってそのようなことはしないと約束しよう!」

「なーんか、噛み合ってない気がするんじゃが……まぁいいわい。それじゃ、宝具と真名についてじゃ。」

「宝具と、真名?」

 

なんだろう、まるで聞いたことのない単語だ。やはりまた魔術師関連なのだろうか。

 

「うむ、宝具とはサーヴァントの持つ必殺技、リーサルウェポンじゃ。」

 

なんか妙に俗っぽい例えだな……ホントに妖刀の化身か?コイツ。

 

「そしてその宝具はサーヴァントごとに違って色んな効果がある。ここで大事になってくるのが真名じゃ。」

「どう関係があるんだよ。」

「真名っていうのは要する本名じゃからな。サーヴァントの宝具は逸話やら昔から持ってたものが殆どじゃからそれさえ知っちゃえば弱点も分かるし勝ちゲーも同然!ということなのじゃよ。」

「なるほど……如何にして自分たちの真名をバレないように相手の真名を暴くかってのも重要な訳か。」

「そういうことじゃ。」

「ところで。セイバーの真名ってのは何なんだ?やっぱし『妖刀』とかそんな曖昧な感じなのか?」

「いや、真名はちゃんとある、あるはずなのじゃ。」

「あるはずなのじゃってなんだよ。あるならあるで……っておい、まさか。」

「うむ。忘れちゃった。」

 

どこで覚えてきたのかてへぺろ的な仕草で誤魔化そうとするセイバー。しかし甘い、並のロリコンならともかく一流のロリコン紳士であるこの俺はこの程度の奸計に引っかかるものかーーー!

 

「しょうがねぇなあ。俺の召喚がまずったせいなんだろ?まぁいい。許す。」

 

ロリのてへぺろには勝てなかったよ……

 

「さっすがますたぁ!心が広い!お主が儂のますたぁで嬉しいぞ!」

 

余程嬉しかったのか、セイバーが抱きついてくる。うん、まぁ……これはこれで可愛いし、いいってことにしちゃえ……うん。

 

「まぁ、うん。じゃあとりあえず真名は分からないってことでいいのか?」

「うむ、そうなるのじゃな……はっ!待てよ、お主が儂を召喚した日本刀の銘を見れば儂の真名が分かるのでは!やはり儂って冴えてるのじゃ!」

 

名案を思いついたかのように喜ぶセイバー。うん、彼女には悪いけど。確か、あの刀って……

 

「あー、いや、うん。ちょっと見せて……やっぱし。この刀、無銘だ。」

「なん…じゃと…。つまり、儂の真名は無銘ということなのか!」

「いや、これは見た限り銘の所が磨り潰されてるかは本当は無銘じゃないはずなんだけども……まぁ結果としては無銘なのかな、うん。」

「真名なのに無銘とは何なのじゃ……気に入らぬ。ますたぁよ、お主は儂をセイバーと呼ぶのじゃぞ。」

「ああ、分かったよ無銘ちゃん。」

「全然分かってはおらんではないかっ!!可愛くもカッコよくもないからそんなの却下じゃ却下!」

 

名前を気にする辺りやっぱし年相応な可愛らしいところもあるなぁ。

もっとこんな可愛らしさを見せてくれれば俺も全力を尽くせるのに。

 

 

「それで、無銘ちゃん。宝具はどんなのなんだ?」

「だー、かー、らー!無銘ちゃんってのやめるのじゃー!!恥ずかしいじゃろうが!」

 

セイバーの頬が朱に染まる。

まさかセイバーの照れ顔がこんな状況で拝めようとは。

うん、やっぱかわええ。

仏頂面とか怖い顔じゃなくてもっとこんな可愛い顔を見たいもんだなぁ。

 

「おい!聞いておるのかますたぁよ!」

 

無銘ちゃんの声で久々にたっぷりと全身で味わうロリニウムで歓喜の声をあげていた心が現実に引き戻される。

危うくトリップしかかっていたようだ。あぶないあぶない。

無銘ちゃんも不穏気な目つきに戻っちゃってるしここは全国の小学生女児を一発で落とせるようなブレイクスルーを決めなくては。

そうして呼吸を整え、口を開く。

コツはあくまでもわざとらしくなり過ぎないようにさり気なく。

それでいてかつ彼女に対する親しみを込めて名前を呼ぶことだ。

 

「なんだい?無銘ちゃん。」

 

ーー決まった。

我ながら過去最高と確信するキメ顔。どうやら今夜の俺はキてるみたいだ。あたまのわるそうな妖刀ぱぅわーは戦闘力だけでなく俺の対幼女悩殺力まで上昇させていたようだ。

 

「ふ、どうやら俺の笑顔は君には刺激が強過ぎーーーーツォラッ!!!」

「ーーーだ!か!らぁ!その呼び方やめるのじゃあっ!!!これ以上は流石の儂もブチ切れるぞっ!!」

 

怒声と共にレバーブローが極まる。

あと、既に怒ってます。セイバーさん。

 

「あとその笑顔マジで気持ち悪いのでやめてくださいお願いしますなのじゃ。」

 

「フェブラッ!?」

 

そしてまさかの精神面にまで来る追撃。いきなりの敬語ってダメージデカいなぁ、ふふふふふ。

あ、なんだぁ、お花畑で沢山の幼女が戯れてるぞ、わぁーい。うふ、うふふ、うふふふふふふふ……

 

「って、ちょーーッッ!?ますたぁ何満面の笑み浮かべて呼吸止めてるのじゃ!?死ぬ気か阿呆っ!え、ちょマジでやめるのじゃーー!!」

 

それからしばらくの間、余りのショックで息を止めようとする俺と止めさせようと身体を振りまくるセイバーの争いは続いた。

え?結果?サーヴァントの膂力で頭の上でジャイアントスイングされたら嫌でも止めさせられるよちくしょう。

もうやだあのロリ。やっぱし可愛くねぇよ。いやでもやっぱりかわええ。

違う、可愛くない。

そう自問自答しながら俺の意識は闇の中へと落ちていーーー

 

「ーーちべたっ!!」

 

ーーーけなかった。

顔面に冷水を浴びせられたのだ。

 

「何すんだこの!!」

「お、やっと目が覚めたか、ますたぁよ。」

「いや、起きてたから。起きたくなかっただけだから。そこんとこ理解してよ。」

「いや……そもそもお主に対してまだ説明の途中だったんじゃが……」

 

そうだった。余計なことばかりしているとすぐに本命を忘れがちになるのは俺の悪い癖だ。説明を聞いてこれからのことを考えなくては。

 

でも、このままやられっぱなしってのも性に合わない。やはりもう1度からかってやろう。

 

「えーと。お前の宝具についてだっけか?無 銘 ち ゃ ん(・・・・・)?」

 

ーーー瞬間、一閃。

俺の前髪、その穂先を断つは煌めく白刃。その奥で俺を睨むのは照れではなく。静かな怒りを漂わせながら満面の笑みを浮かべるセイバーの双眸であった。

 

「ま す た ぁ ?」

「マジすんませんしてもう1度可愛い照れ顔が見たいだけっていつ出来心だったんです許してくださいなんでもしますから。」

 

ロリにすら躊躇無く頭を下げる。服従を誓う。これこそがこの業界で通報されずにやってきた俺の手に入れた唯一絶対の交渉術!趣味と実益を兼ねた究極の謝罪法!

大日本帝国式謝罪儀礼法ーーー即ち、土下座(DO-GE-ZA)である!

 

「ちょ、お主、そんな土下座までせんでも……ますたぁよ、儂もやり過ぎた。うむ、すまぬのじゃ。それに……儂も女子(おなご)の身。可愛いと言われて悪い気もせぬからな、うむ。だから、許すからどうか頭をあげてくれ、ますたぁよ。」

 

ーーーー何この娘。ちょろい。めっちゃちょろいやんけ。こんなに警戒心甘くて大丈夫なのーー!?判断ゆるゆる過ぎだろ、やはり俺が付きっきりで見てやるべきなのかもしれないな、うん。

ん……?いやそんな話じゃなかったような。今のうちに軌道修正しとねば。

 

「いや、それはよかった。じゃあ早速話を戻そう。うんそれがいいそれが。

えーと、宝具?の話だったよな。」

「そ、そうじゃ宝具!宝具なのじゃ!ふふふふ、聞いて驚くな、儂の宝具は妖刀という霊基を持った儂自信なのじゃ。凄いじゃろ!なんかカッコよくないかの!?」

 

えーと、うん。それって。

 

「あのさ……それって。」

 

心を落ち着かせるために深く息を吸い込む。この娘がポンコツ気味なのは分かってた事じゃないか、何を今更騒ぐことがある、うん。

よし、息も整った。冷静に反論するぞ!

 

「それって切るべき切り札が切りっぱなしで新たに一切切れねえってことじゃねぇかっ!!やっぱしハズレサーヴァントだよこのロリ!!!」

 

うん、やっぱし冷静に反論とか無理だったよーー!

だってしょうがないじゃん、こっち命かかってるのになんでこのロリそんなふざけた性能なんだようん。使い勝手悪すぎじゃろっ!

 

「な、誰がハズレサーヴァントじゃ!し、真名解放出来ればもっとすごい効果だってあるはずなのじゃ!敵をばったばった斬り倒せるようなのがのう!」

「ふーん……出来れば?」

「お主の召喚がいい加減なせいじゃろうがっ!」

 

う……そこを突かれると反論しづらい。しかしここは立場をハッキリしておくべきだ。

俺は上!セイバーは下!

 

「だからってダメなのは変わらんだろうが!」

「今更そんなこと言ったってしょうがないじゃろ!儂だって好きでこんな喚ばれ方したわけじゃないわいッ!大体お主も男子(おのこ)なら配られた手札に文句なぞつけずに精一杯戦いきらんかッ!」

「その手札が不良品塗れだからこんなこと言ってんじゃねえかこのダメイバー!」

「だ、ダメイバー……!?お主、ますたぁとはいえ言ってはならんことをーー!」

 

その一言がきっかけとなって俺とセイバーは口論はもみあいの喧嘩へと発展し、戦闘の疲労もあったせいかいつしか俺の意識は今度こそ闇へと落ちていった。




2章スタート&説明回。
切りどころが見つからなくていつもより長めになった、というか一万文字超えてた。
そしてそのせいでストックが完全に尽きてしまったので頑張って書き進めますわーい。
一応2章のプロットは書き終わって3章途中くらいまで進めてるので一気に書き進めるぜ!(プロットから会話を膨らましたりし過ぎて全然進まないフラグ)

それにしても無銘ちゃんポンコツ可愛いけどどこでこんなにダメイバーになってしまったのか。
初期プロットはもっとしっかりしてたはずなのになぁ……

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