モモンガさんが冒険者にならないお話   作:きりP

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ああ「カルネ村が遠い」ってのはこのことだったんですねと、先達のss製作者さんたちの前書きに共感しはじめて来た今日この頃ですw




第七話

 アインズを含めた全員が、中空のコンソールを見つめたまま、まるでUFOを見つけた子供のように口を開けて固まる。これは一体どういう事だと。そして守護者他全員の視線がアインズに集まってくる。

 助けてほしい。教えてほしいのはこっちの方だと頭を抱える。

 

 頭の中のペロロンチーノさんが「やったねモモンガさん! 『マジカルプリンセス☆らぶりーモモンガ』爆誕じゃないですか! あー……でも姉貴が声やってるから凌辱もの確定ですね」と言ったことで茶釜さんにマウントポジションで延々と殴られている光景が浮かんだが、それどころではない。

 

 考えられるのは何かがその職業(クラス)選択のボタンを押したのであろう。それがアルベドの言葉だったのか、他の皆の言葉だったのか、それとも自身の(オタサーの)姫としての自覚だったのかはわからない。

 もう一つ『プリンセス』ってなんだ? 『なんとかプリンセス』とか『プリンセスなんちゃら』なんて職業(クラス)や種族があったような気がしないでもないが、いや……無かったか。多分今までやってきたゲームか小説なんかの設定が混ざってしまっているのだろう。ただ確実に『プリンセス』なんて職業(クラス)はユグドラシルでは聞いたことが無かったはずだ。

 そう考えると……いや『エクリプス』の例もあるから断定はできないが、この世界特有の職業(クラス)なのかもしれない。それはさておき、さてなんと説明するか。

 

「……うむ……どうやら想定していたとおりだな」

 

 なにが? と、自分に問いたい。ただの時間稼ぎである。

 

「やはり、さすがアインズ様でございますね」

「ふふっ、そういうことね、さすがにもうお()めすることはできませんね」

 

 だがデミウルゴスとアルベドはそれを許してはくれない。

 まって、何この流れ。いやいいんだけど、心の平穏計画に支障が出そうで困る。もっと普通にわからないと言うべきだったか? あーもう、まあいいか、乗っておこう。

 アインズらしくもありそれでいてアインズらしくないその考えはなかなかに軽い。

 

「うん? なにを()めるのだ? ふふっ、私にも教えてくれ」

 

 そうアインズは朗らかに微笑む。そうあくまでも朗らかにだ。決して意味ありげな笑みは浮かべてはいけない。

 かなりの賭けでもあったがここは「そうであろう、わからない者もいるようだから説明してあげなさい」などとは言ってはいけないのだ。

 

「ふふっ、はい、それでは皆にも……いえデミウルゴス、お願いするわ」

「そうですね、アルベドはその件で……まあ、それはもういいでしょう」

 

 全然通じてなかった。御方への信頼は微塵も揺るがない。

 

 デミウルゴスが語ったのは、アインズがこの姿でこの世界に自ら出向くのだろうということ。うん、そうだな、急展開が多すぎてすっかり忘れていたが、確かに目的としてはそうだ。

 そしてデミウルゴスは続ける。今この場でアインズ様のレベルが上がったのは見ての通り。つまりこの世界でレベル上げをすると同時に新たな職業(クラス)を手にすると。そうね、それはコレクターとしては疼くものがあるね。

 

 しかしこの世界の人間はどうやってレベルを上げているんだろう。この世界の王女はみな職業(クラス)『プリンセス』を持っているのだろうか? 結婚するとなくなるのか? そもそもが王女とは関係のない職業(クラス)なんだろうか。

 例えばこの世界で会った人間で言えば王国戦士長ガゼフ・ストロノーフ。確か王宮の武術大会だっけか? その天下一武道会の優勝者だとかなんとか。なら『ワールド・チャンピオン』……いやそれはなくとも『チャンピオン』の職業(クラス)を持っていたりするのだろうか? もしかして自身で武術大会を開いて優勝したら職業(クラス)を手に入れたりできるのか?

 いやその前に経験値だ。経験値はどこから出てくる? 日々の鍛錬か? それとも戦争や今回のような討伐でか? すると王女がモンスターを倒す世界なのか? それとはまた違うイベント経験値みたいなものがあるんじゃないか? 

 尽きることのない疑問の数々。

 

「・・・・・・・・・・・・征服に繋がっていくわけです。もちろんこれは私ごときが気づいたこと。アインズ様におかれましては、我々には到底たどり着けない策がこの先に何十にも張り巡らされていることでしょう」

 

 完全に思考に集中しすぎて後半聞いてなかったが……まあいいか。

 お前本当にそれで大丈夫なのかと言わんばかりの思考だが、アインズはデミウルゴスの視線に微笑みをもって頷く。

 

「デミウルゴスは本当にすごいな。さすがナザリックの知将であるな、ウルベルトさんはもちろんのことぷにっと萌えさんも大喜びであると思うぞ」

「お、おぉ……そんな、私など……いえ!? ありがとうございます!」

 

 デミウルゴスの心臓が早鐘を打つ。今までの少しわかりづらかった御顔ではない。表情でわかる。目を潤ませキラキラとした瞳で私を見つめてくる。

 そう、アインズ様は本気でそうおっしゃってくれているのだと。

 

 実際アインズは本気でそう思っているのだが、このまま終わらすわけにはいかない。彼にも彼なりのビッグウェーブ心の平穏計画があるのだから。

 策……策と言ってたか……

 

「ただな……私は()きすぎていたと思うのだ。それを昨日お前たちに教えられた……昨日はすまなかったな」

 

 守護者達の「そんな! 御方が謝る必要など!」といった言葉を手で制して話を続ける。

 

「私の予定であれば、昨日の時点でセバスとソリュシャンに情報収集のため商人として、エ・ランテルへ出立させていた。そして後続としてシャルティア……これも情報収集だが威力偵察だな。野盗などの犯罪者で武技を使えるものを捕まえさせようと思ったわけだ。そして私がエ・ランテルで冒険者として強者の情報を集めるといった考えだったのだが……全て破棄する」

 

「アインズ様ぁ……」

 

 アルベドが椅子をガタガタしながら、御方の献策を邪魔したことへの後悔と、少しばかりの安堵でアインズの名前を口にする。うん、もうそれ(ほど)いてあげて。

 

 アインズは再び立ち上がりゆっくりと歩き出す。上を向いたり下を向いたり。ただ下を向いたときに朝露のように雫がぽろっとこぼれたりしていたが。そう長考中である。何のことはない行き当たりばったりだ。

 時折守護者やプレアデスの頭や肩に手を置いたりと、円卓の周りを回っていく。

 

 ただでさえ守護者達との同席に緊張を強いられ、ほぼ無言を貫いていたプレアデスたちは、御方に触れられた手の温かみと、今までとはまた違った優しくそれでいて高貴なオーラに触れて緊張を溶いていく。彼女たちの顔も蕩けんばかりだ。

 

「……私は先ほどこの円卓に座って、皆と水を飲んで、ああ楽しいなぁと思ってしまったのだ。正直私はお前たちのことをないがしろにしていたせいで、お前たちの性格や好みなどをあまり知らない」

 

 ここに来る直前にはセバスの名前も思い出せなかったくらいだ。

 

「そしてお前たちもこの姿の私を見て当惑しているであろうが、これもまた私なのだ。ふふっ、驚いたか? いつもお前たちが見ていた骸骨の顔の向こうでこんな表情をしていたのかと」

 

 いつも……涙を流しておられたのですね……と、目尻に涙を溜めた切なそうな表情を見て、当然のように斜め上に理解していく守護者達。

 

「だからな……そのな……この姿の時は……呼び方もモモンガでもよい。もう少し砕けた感じで接してほしい。その……皆と……みんなと仲良くなりたいのだ」

 

 破壊力は抜群だった。特にアインズに特別な思いを寄せていた二人は、いや女性三人の顔は朱に染まる。元の名前に思い入れのあった二人には尚更であろう。

 

「言葉使いや、振る舞いも『そうあれ』と創られたからなのか、普段の私と少し違うことになっているとも思う。それも理解してくれると嬉しい」

 

 行き当たりばったりどころではなかった。思ってたことをストレートにぶっちゃけただけ。このお姫様はあまり思考には向いていないのかもしれないが、守護者達の心にダイレクトに響く。

 

「ああ、少し脱線してしまったな。つまり策であるが『この世界に打って出ない』ことに決めた」

「!?」

「いや、もちろん情報収集もするし、誰かに冒険者になってもらって強者の情報を集めてもらうこともするが、積極的にこの世界への干渉は控えるといったところだ。()きすぎていた。地盤造りが足りなかった。正直私のこの身体の事も、新しく習得した職業(クラス)のこともあまりわかっていない」

 

 あまりどころではない、まったくわかっていないのだ。

 

「それを踏まえて完璧な地盤を造り、情報収集を行いそのうえでこの世界に打って出ようと思う。アインズ・ウール・ゴウンの名をこの世界に知らしめるために。なあに時間はたっぷりあるんだ。焦らずのんびり行こうじゃないか。……お前たちとの友好を深めながらな」

 

 そう最後に言葉を添えて恥ずかしそうに頬を染めるアインズ。 

 

 その直後「ぶふっ!」と吐血するシャルティアとアルベド。よっしゃ! バッチコイ! である。そう私たちがアインズ様の、いえモモンガ様の姉になるのだとおっしゃられた。こんなにうれしいことは無い。

 血沸き肉躍る友好(?)の数々が彼女たちの脳内を駆け巡る。

 

 心の安寧を求めたアインズの純潔は守られるのか否か。やっちゃった感満載の新たな指針ではあるが、シャルティアとアルベドをおろおろしながらも精一杯介護しようとしている、今のアインズには知る由もなかった。

 

 




頭の中の妄想がどんどん分岐して膨らんでくる。心を鬼にして戒める。ブティックでの買い物、温泉回などを書いている暇はないのだとw


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