モモンガさんが冒険者にならないお話   作:きりP

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このお話の中で守護者達が少しひどい扱いになってはおりますが、決して彼らを貶めたいと思っているわけではないことは、ご了承ください。
あと投稿間隔はもう気にしないでくださいw 気まぐれ投稿ですw




第六話

「……とにかく皆が無事でよかった。すまんな、皆に醜態を晒してしまった。まずは座ってくれ」

 

 

 

 あの後はてんやわんやだった。すぐさまシズに駆け寄るプレアデスの面々とアインズ。

 

「シズぅ!? あっ、熱っ!? 冷やさなきゃ! コキュートス! コキュートススキル!」

 

 敬愛する御方の声に歓喜し「スキル発動!≪冷気のブ」まで言ったところでデミウルゴスに後頭部をはたかれ、シャルティアとアルベドの本気の蹴りを受けて吹き飛ぶコキュートス。

 

「そうだ! 無限の水差しがあったんだ! これで冷やせば……なんか布! シャルティア! 布!」

 

 敬愛する御方の声に歓喜し、おもむろに下着を脱ぎだし、パンツがくるぶし当たりまで下りる間に、アウラとマーレの本気のスキルに吹き飛ぶシャルティア。

 

「セバス……頼む……シズを助けてくれ……」

 

 敬愛する御方のマジ泣きに驚愕するも「ハッ!」と声を上げ風のように走り出すセバス。玉座の出入り口に盛大にぶちあたるも、るし★ふぁー謹製の扉に跳ね返されこれまた盛大に吹き飛ぶセバス。

 

 なおこの時すでに、プレアデス長姉ユリ・アルファによる指示で、ナーベラル・ガンマからペストーニャへ玉座の間へ来てくれるようにと、連絡済みであったりする。

 

 

 ここで一つユグドラシルの魔法≪伝言(メッセージ)≫について言及しておこう。 ユグドラシルの元となったテーブルトークRPGでは、なかなかにロールプレイとして面白い使い方が出来たのだが、これがDMMOとなるとただの音声チャットにすぎなくなる。ただでさえギルドチャットやPTチャットが普通に機能しているのだから。

 ただ名前の通りの伝言機能や特殊状況での唯一の連絡手段になったりと、なかなかに使い勝手は良く、アインズなど取得している人は少なくはない。

 ただこれをNPCに取らせるというプレイヤーはいるのだろうか? 貴重なNPCに使えない魔法を与えたりするだろうか? そう、いるのである。ロールプレイなのか溺愛なのか、ナザリックでこの魔法が使えるのはシャルティアとマーレとニグレド、そしてナーベラルが使えることを付け加えておく。

 

 

 ペストーニャの魔法により回復したシズは、現在安静を取って玉座の間の端に寝かせられている。アインズが自室に戻るようにと語り掛けても、「……アインズ様のお傍に」と御方から離れたくないらしいのでしょうがない。

 なおこの時他のプレアデスは、近くにいらっしゃる至高の御方に興味津々であったが、失礼にならないようにと観察していた結果、シズのオーバーヒートの原因に気がついた。

 アインズ様の靴。分類としてはハイヒールだろうか。その踵の上の部分から足首を巻くように紐が回されているのだが、その留め金の部分。鈍色に輝くそれは、なぜかシズがお気に入りの物に貼る一円シールにそっくりであった。

 

「もう、ふふっ、目がいいってもんじゃないわね」

「さすがシズちゃんスナイパーっす」

「え? 何の話?」

「でも納得ですわね」

「これわぁ、シズのぉ頭の中がこんがらがっちゃたのかなぁ」

 

……一人わかっていない者もいたようだが、「なんでそれがそこにあるのか、でもアインズ様は可愛いし、でもなんで」とシズの思考が透けて見えるようで、その熱暴走にも納得である。

 とある博士の、『可愛いもの認定』を受けていたことを、プレアデスの説明から推察し、再びがっくりと膝をつくアインズであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして冒頭部分に戻るのだが、会議室ではみんなが座れないし円卓の間に移動するかとアインズは提案したのだが、守護者達に「さすがにそれは」と固辞され、仕方なくパンドラにみんなが座れる円卓を魔法で作ってもらい、頑なに座ろうとしないセバス他プレアデスを無理やり(泣き落としで)座らせることに成功し、現在に至る。

 

「これは……なんかいいな……」

 

 空席無く円卓に座る、こちらを見つめてくる守護者達。ただ一人隅の方で転がっている者もいるが、視線はこちらをとらえて離さない。もう一人椅子に縛り付けられている守護者統括もいるが、それもまた一興か。

 

「ああ、そうだな、こんな光景を望んでいたのかもしれないな」

 

 じんわりと目尻に涙が溜まっていく。はたしてこれはエフェクトであったのかどうかは定かではない。

 

 アインズはおもむろに中空から複数のコップを出すと「隣へ回してくれ」と両隣を陣取るアウラとマーレに渡し、すっと立ち上がると無限の水差しで水を注ぎながら、円卓を踊るように回っていく。

 さすがにそれはさせられぬと立ち上がりかけたセバスとプレアデスであったが「良いのだ、私がやりたいのだ」と、涙ながらに微笑まれる御方に時を止められる。

 

 ポンポンと頭に触れられ「ふわぁ……」と声を上げて座っていくプレアデスたち。ただセバスの「ふわぁ……」は聞こえなかったことにした。

 

「これはな、ちょっと美味しい水なのだぞ、お前たちも……飲めるかな? すまんなそんなことも分からなくて」

 

 円卓とは違う別席を与えられたエイトエッジ・アサシン三体は、手ずから与えられた至高の褒美とお言葉に歓喜に震える。もちろんシズにも傍のペスにもストローを刺して渡しておいた。ぐるりと円卓を一周して再び自分の席にたどり着くアインズ。

 

「聞きたいことも多々あるであろうが、少し喉を潤そうじゃないか、それでは乾杯だ」

 

 一気にあおる者、ちびちびと舐めとるように飲む者。その飲み方は様々であれど、皆笑顔で嬉しそうに水を、そう、ただの水を飲んでいく。アインズも再び飲んだこの水に歓喜するも、ふとしたことが気になった。

 美味しいと言っても水は水であるし、他の者たちはもっと美味しい飲み物を知っているのかもしれないなと。だから得意げに「ふふん」と振る舞っていたことに恥ずかしくなってこう続けてしまう。

 

「……水を飲んだのは初めてであったのだ。こんなものですまないが皆と感覚を共有できるのは嬉しいものだな」

 

 少し照れくさそうに微笑むアインズ。鈴木悟としては噓にはなるが、モモンガとしては間違ってはいない。いや鈴木悟としても間違ってはいないかもしれない。

 リアルの世界で食を追求できるのはごく一部の限られた者たちのみであったのだから。

 

 そのお言葉に震える守護者達。特にシャルティアとユリは号泣だ。アインズと同じ不死者であるものの、なぜか二人は食事もできるし味もわかる。

 自身の至高の創造主にそうあれと創られたのかはわからないが、アインズの気持ちを斜め上に察してしまい、涙が止まらない。

 

「これは至高の水でございます! 誰が何と言おうとも私はこんなに素晴らしい水を飲んだことはありません!」

 

 立ち上がり涙ながらに力説するデミウルゴス。そして周りにいるすべての者たちがウンウンと頷きながら「私も!」と声を上げていく。

 

 さすがに「うん、ああ、そうね」とも言えず、そんなつもりで言ったんじゃないんだがなあと、困惑するアインズであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ではまず聞きたい事があるであろうが説明するぞ」

 

 アインズが語ったのはこの指輪が人間種になれるアイテムであること。容姿については他の40人の仲間の好む容姿に創られたこと。この場でならマスターソースが起動することが分かっていたので、試しにと呼び出し動かしてみたら円卓の上部まで動かせたので、それを見せながら現在レベルが15であることなどを語っていく。

 

「つまりは皆の弟……いやこの身体であるなら妹か、作られた時期的に考えるとシズとエントマの姉でもあるな」

 

 と、付け加えていく。

 

「お声は! お声はぶくぶく茶釜様のものですよね!」

 

 嬉しそうに、そして創造主様ではないことに少し残念そうに。アウラは御方にしがみつきながら訪ねる。

 アインズは慈愛の微笑みを浮かべながらアウラとマーレの頭に手を置き、パンドラズ・アクターに目を向ける。

 

「そうだな、そこのところはどうだったのだ? パンドラよ」

「はっ! 正直あれほど真剣なぶくぶく茶釜様は初めて拝見させていただきました。 あふれこという作業だったようなのですが、他の至高の御方々も息を吞む光景であったと記憶しています」

 

 さすがはプロの売れっ子声優。どうしてこんなとこで本気出しちゃうかなあと思いもしたが、実際その光景は見てみたかったなあと感慨にふける。

 続くアフレコの様子を語るパンドラに目を向け、聞き逃さないようにと、それでいて羨ましそうな顔をするアウラとマーレ。

 

「そういえばぶくぶく茶釜様から、『りある』では『せいゆう』という声を吹き込み魂を与える仕事についていると聞いておりんした。つまるところ生命創造系のそのお力をお使いになったのでありんすね」

 

 続くシャルティアの言葉に「おお!」「なるほど!」「そんなお力が!」と感嘆の声が上がる。アウラとマーレも知っていたのか、自身の創造主のすごさを皆に知ってもらえて嬉しそうだ。

 ただアインズだけが、うん……そうね、間違っては……いないよねと複雑な顔になってはいたが。

 

 そしてここでアインズの脳裏に天啓が閃く。これはもしかしてチャンスなんじゃないかと。

 

 先ほどからしゃべるたびについ「すまんが」と謝ってしまう。これはよくある日本人的思考であって、アインズが悪いわけではない。普段の営業で身に染み付いた「すいませんが」と言う名の接頭語だ。

 つまり今現在絶対者としてのロールプレイが出来ていないことを示している。そしてこれはここ数日何とか頑張って抑えていたものの、いつかは破綻することが目に見えている。

 ならばこれを指輪のせいにしてしまえばいいんじゃないか? 設定の話もあるがあながち間違ってはいない。『そうあれ』と創られたこの身体は自身の枷を外せるのではないかと。皆の熱い暑苦しい、そして申し訳ないと思ってしまう程の敬愛を幾分か柔らめることが出来るのではないかと。

 ならば乗るしかないこのビッグウェーブに! 心の平穏を保つために! そしてアインズは語り始める。

 

「そうだな、つまりはそういう事であるのだろう。この身体になって普段より感情がよく表面に現れているように思う。つまりは『そうあれ』と、そうあって欲しいと望む40人の仲間たちの思いの現れなのだろうな」

 

 この髪色は、この身長はと、至高の名を連ねて語っていくアインズ。名前を挙げられた至高の御方を創造主にもつ守護者達は、いや、すべての名が挙がっているのだから全員が、目を潤ませアインズを見つめる。

 

「そうだったのですね……私はとんだ思い違いを……」

 

 と、独り言ちるアルベド。彼女の中で何かが少し変わった瞬間だった。そして、

 

「まるでアインズ様は至高の御方々のお姫様みたいですね」

 

 と、はにかみながら放れたアルベドの言葉にアインズは考える。

 うん、まるで『オタサーの姫』に作り替えられているような感じがしないでもないなと。

 他の守護者達も「女王様ですね」「いや王女様でしょう」などと微笑みながら言葉を発する。そしてその時アインズの身体が白く一瞬発光する。

 

「えっ!?」

 

 頭の中で今までとは違うカチッとした音が鳴った。

 

「あっ!?」

 

 と、声を上げる守護者は誰だったであろうか。

 その視線につられるように、おもむろに円卓上空にあるマスターソースコンソールに目をやるアインズ。

 

 

 

 

 

職業(クラス)レベル― ウィザード ―――――――lv15

       プリンセス ―――――――lv1

 

                   4,905,904

 

 

 

 

 異世界は不思議がいっぱいである。

 

 

 

 

 

 




シモベが使えるかもしれないメッセージの話。実はあそこが今回のメインなのですが、もしかしたら特典小説などで理由が語られているかもしれないと、その部分を消してもいいように作っております。オーバーロードは疑問や考察好きにはたまらない魅力がありますねw


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