モモンガさんが冒険者にならないお話   作:きりP

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 いやー買っちゃいましたPS4。 それでゲームをやりながら
『ナザリック~オーバーロードVSトゥームレイダー』とか妄想しておりますw




第四話

 死力を尽くして指輪を外す。他の者にはわからないであろうが、今アインズは蛍も斯くやとばかりに光り輝いている。がんばれ!がんばれ≪精神安定化≫効果さん!

 

 やがてゆっくりと、生まれたての子山羊のように立ち上がり、そして笑い出す。

 

「くっ、はははは……って、この効果は……実際ありがたい効果なんだけどなあ」

 

 再度身体が光り輝き精神が安定する。

 

「とんでもない指輪だけどありがたいよ。正直これ以上何が詰め込まれてるかは確認したくは無いが……」

 

 確認してはいないが、実は男の娘だったとかなっていても……大丈夫だよな!? あれ? でも男である方がいいのか?

 いや! もう考えるな『人間種になれて飲食が出来る』効果さえあればいいのだ。だが、待ってましたとばかりにパンドラは言葉を続ける。

 

「それを作り終えた至高の御方々はそれはそれはやりきった、全てを出し切った晴れやかなお顔をされておられました。そしておもむろにタブラ様が設定書なるものに「やめてっ!!」」

 

 

 

『ちなみにビッチである。』

 

 

 

 考えるな! 考えるな! 考えるな!

 

「よし! よおし! もういいぞパンドラズ・アクターよ。それら以外の事は必要になってから聞くとしよう。それと今話していたことは他の者には内緒だ、我ら二人だけの秘密としておいてくれ。もちろん他の者たちにもあの姿は見せるが、細かいところは話さないように。人間種になれる指輪って事だけ伝えればよい」

 

 やはりアルベドの設定を変えたのは失敗だったなあ。『モモンガを愛している。』なんて設定を歪めておいて、婚約指輪を持っていたなんて知られたら、二股クズ野郎なんて(しもべ)たちに思われてしまう。

 

 なんてことを考えてはいたが、アインズは知らない。忠誠の儀の後にアルベドとシャルティア、そしてアウラの第一妃を決める闘い(話し合い)など。

 プレアデス、いやプレイアデスや一般メイド、他の女性型NPCが向ける忠誠心が、いや親愛が、アインズの言葉や態度で容易く情愛に変わってしまえるという事実を。

 この世界に転移してまだ一週間も経っていない。

 二股どころか容易くハーレムになりうる環境に、『クズ野郎』などとそんな考えを至高の御方に向ける者など誰一人いないという事実に、アインズはまだ気づいていないのだ。

 

 アインズにとって真に必要な情報収集はナザリック内にあるのかもしれない。

 

 

 

 

 

 

 

 

「アイテムの方はこれでいいとして、情報収集か……そういえばナザリックの資産状況はどうなっている?」

 

 ギルドで一人になってからもずっと、ログインしては狩場へ直行してナザリックの維持資金を集めていたのだ。維持資金といっても金銭狩場で(こっそりと)大魔法を放てば、一日分を小一時間で回収できる。

 しかし今は異世界だ。今ある資産で、いや、今あるユグドラシル金貨で、いつまでナザリックを維持していられるんだ?

 

「アインズ様のお話を聞いて納得しましたが、ここ数日金貨の減り方が普段のおおよそ倍ほどになっております。これはナザリックの警戒レベルを引き上げたことにより増えた、多数のギミックの運用資金だと思われます。資産状況と言われるとお答えに窮するのですが、御方の不安を解消するために言わせてもらうのならば、仮にこの倍ほどの減り方が続くとあっても、資金が底を着くのに千年はかかると思われます。もちろんこれはアインズ様の個人資産のみでの話でございます」

 

 そう、この異世界に飛ばされる前からトラップギミックなどは常時作動させていたのだ。メンバーが揃っていたころは貧乏性ゆえか、自分たちで対処しにすっとんでいったものだが、人数が減ってからは拠点を制圧されないがために必要だったからこそ維持費がかかっていたわけだ。

 

 取り合えず一安心だな……だがユグドラシル金貨の使い道は多々ある。

 

「パンドラズ・アクターよ、お前にも働いてもらう必要がある。まずは守護者達に面通ししてもらおうか」

 

 正直『動き回る黒歴史』に会いたくなかったのは本当なのだが、なんだかんだ言ってパンドラはやはり自身が創った可愛い子供だ。それにまじめな話の時は普通に話せるじゃないか……いつもそうしてくれればいいのに……

 そして現状仲間たちはいないが、仲間の子供達が意志を持って動いている。みんなにも働いてもらうしかないだろう。

 さてもう一つさっき気づいたことの検証に玉座まで戻るとしよう。あの姿の時の本当のLvを。

 

 こんな時コンソールが開けないのは本当に不便だなあと思いながら、アインズはパンドラを伴って転移するのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 時刻はアインズが自室へと転移した時まで戻る。

 

 玉座の間の程近くにある会議室兼控えの間は、先ほどまでの喧騒が嘘のように、まさに水を打ったような静けさだった。そしてこの場にいる階層守護者全員と、その周りを囲むように配置されていたセバスとプレアデスは、転移した主の方向へ向けて礼をしたまま誰も動けない。

 

 全員顔面蒼白だ。

 

 これは御方の不興を買ってしまったのではないのか。まさかアインズ様までもお隠れになってしまわれるのではないだろうか。

 

 そしてこれは最後まで粘ってアインズ様のお考えを正していただこうとした……いや、途中から「自分が付いて行けないのは嫌っ!」って話になっていたような気がしないでもないが、アルベドのせいではないことも皆が十分わかっていた。

 ……いや1割ほど、いや3割ほどアルベドのせいかもしれないが、至高の御方を守るべく生まれた者たちには、御方のあの提案は到底受け入れられないものであったからだ。

 

 そしてその後、アルベドの「……私の首をアインズ様にお届けして謝罪してください」から始まるすったもんだがあったが、丁度そこへパンドラを伴ったアインズが転移してきたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 なんでまだこいつらここにいるんだと思いながらも、憔悴しきったアルベドを見たアインズが理由を聞き、チョップとなでなでと抱擁をぶちかまし、再度守護者達を前にして懇切丁寧に心情を吐露しはじめる。

 ちなみにこの時、アルベドの顔は蒼から朱に変わり、腰から生えた翼がピーンと張りながらも痙攣していたことには、アインズはまったく気づいていない。

 

「愛するお前たちが意見してくれることは嬉しいことだ。照れくささゆえにあの場を去ってしまった私が悪いのではあるが、今後このような思考の行き違いがあることも予想されるだろう。だが決して私の居ない所でお前たちの命を散らすことなど許容できない。今一度厳命する。報告・連絡・相談。どんなささいな情報でも報告しろ。知らない者がいるなら連絡し共有しろ。わからないことがあったら相談しろ。今後この『ほうれんそう』を遵守すること。愛する娘や息子たちが知らないうちに自害していたかもしれないなんて冗談じゃないぞ……お前たちが一人でもいなくなったら……」

 

 ギュッと胸元に抱かれたままだったアルベドを、再度強く抱きしめる。そして40人の仲間たちを次々に送り出していった場面を思い出す。

 聞こえるか聞こえないかの言葉は、無論高Lvの守護者達が聞き逃すはずがないわけで。

 

「もう耐えられないよ……」

 

 その切ない声は決して崇高な上位者が吐くべき言葉ではなかった。つまりはあの指輪で人間種に戻ったことにより、少しだけ復活した人間種としての残滓、つまるところの鈴木悟の心の叫びであった。

 

 だが守護者達は思う。このナザリックに最後までお残り頂けた御方はどこまで慈悲深い方であるのだろうと。その心からの声を聴いてなんと御優しい御方なのだろうかと。どれだけ私たちのことを大切に思っていてくれていたんだろうと。

 

 それまでアルベドを羨ましげに見つめていたシャルティア、アウラ、そしてマーレは、そのお話と最後に漏れた言葉を聞いて声を上げて泣き出す。至高の御方が私たちが思うよりも深く、私たちを愛してくれていると知って。

 コキュートスは咆哮する。我が身を、我が剣をささげた御方はかくも素晴らしい御方であると。

 セバスは泣いてはいけない。ナザリック最高責任者アインズ様の執事が涙を見せてはいけないのだ。だがここにいる涙を隠せないプレアデスは許していただきたいと、握りしめた拳から血を滴らせながら主を見守る。

 

 そしてデミウルゴスは宝石の目の淵に涙を浮かべながら思考する。ああ……そういうことなのですねと。やはり他の40名の至高の御方々はもうお帰りにはなられないのですねと……

 『この土地に転移しているかもしれない仲間を見つけるためにアインズ・ウール・ゴウンを名乗る』とおっしゃった。その名を轟かせると……

 すべては私たちを慰めるために。ふがいない脆弱な私たちを鼓舞するために。こんな私たちを愛しているとおっしゃってくれるアインズ様には命をもってしても……

 いやそれこそが不敬なのだ……御方が望むのは……

 

「お前たちは主従の関係を望むのかもしれないが……私は仲間であると……家族でありたいと思っている」

 

 あ、だめ、これ、泣く、とデミウルゴスは陥落した。

 

 ちなみにこの時のアルベドの羽は、くたぁっとしては時折ピクンピクンしていたのだが、これもアインズは全く気付いていなかった。

 

 




続きはちょっと間が空くと思います。すまんねw

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