モモンガさんが冒険者にならないお話   作:きりP

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このお話は、99%の妄想と1%の可能性からできております。
こんなこともあったかもしれないねと思っていただければ……無理かなw




第二話

 さて、この指輪がなんなのかと言うと、一応『婚約指輪』になる。

 

 

 

 あれはギルド『アインズ・ウール・ゴウン』の絶頂期に実装された、超大型アップデート『ヴァルキュリアの失墜』でのこと。

 

 新たに追加されたワールド・エネミーが2体に、新超位魔法・ <指輪の戦乙女たち(二ーベルング・Ⅰ)>、 新職種・自動人形(オートマトン)、シズの職業であるガンナーも、このアップデートで追加されたものだ。

 そしてもう一つ、運営が満を持して投入してきたのが結婚システムであった。

 

 大体どんなMMOでも実装されている、どこの運営でもやることがなくなってきたときに追加するのか? と言うくらいのありきたりなイベントではあったが、大聖堂がある街を新たに作ったり、左手薬指にのみ、課金設定をしなくても効果が発揮される『婚約(仮)指輪』と言う名のアイテムをプレイヤーすべてに配ってイベントを大いに盛り上げようとしていた。

 

 だが異形種プレイヤーは人間種の街には入れないというゲーム開始当初からの制約もあり、異形種プレイヤーにとってはこれはどうでもいいイベントではあった。

 

 『婚約(仮)指輪』はその大聖堂で婚姻イベントをこなすことで、晴れて『結婚指輪』に変化し、アイテムボックスの共有や婚姻対象者への転移魔法などの『結婚スキル』が実装されたのだが、「そんなことはどうでもいいから結婚させろ」と運営に超位魔法をぶつけてきた異形種プレイヤー達がいた。

 

 

 なりきりギルド『吸血鬼の夜明け』のギルドマスターそしてサブマスターのかなり有名なバカップルである。

 

 

 過去100年前から……いやもっと前から吸血鬼を題材にした漫画・アニメ・小説・ゲームなどは非常に多い。題材ではなくとも異形の者として出てくる吸血鬼の数は膨大だ。

 そしてユグドラシルにも吸血鬼という種族はあるのだが、ここの運営は彼らを殺しにかかってくるような外見の吸血鬼しか実装せず、より上位の種族になるほどひどくなる外装に、彼らの血涙は止まらなかった。

 だが……我がギルドにもいたが、そんな吸血鬼(吸血姫)っ子大好きな者達の熱き魂は、それをとんでもない額の課金と徹底した外装の作りこみにより克服してきたのだ。

 

 そんなギルドのギルドマスターは萌えを愛する人かと思えば古典を愛する人だったらしく、正統派の吸血鬼。所謂ところの『ドラキュラ伯爵』であり、サブマスターの名前も『カーミラ』という聞いたことがある古典作品の吸血鬼であった。

 

 リアルの内情は知る由もないが、ゲーム内で彼らは付き合い始め「いつか結婚システムが実装されたらいいね」と(オープンチャットで)連夜のごとく語り合っていた(乳繰り合っていた)矢先にこの仕打ちであった。

 

 さすがにこればかりは自身の力ではどうしようもないのは明白であったが、温かいギルドメンバー達はある作戦を提案した。

 

 超位魔法の、<星に願いを> (ウィッシュ・アポン・ア・スター) に賭けたのだ。

 

 この魔法はなんでも願いをかなえてくれるというわけではなく、経験値を10%なら1つ、50%なら5つと、200を超えるお願いの選択肢からランダムで選ばれたものを一つだけ選択できるといったものだ。

 

 その中にある『神への直言』つまり運営への直訴権であるが、どこまでの効果であるかは不明瞭だったものの、100人近いギルドメンバーの内の22人の100Lv魔法詠唱者により、まさに血の特攻。一人500%の経験値を投入しての超位魔法を発動する。 

 そしてわずか2名の『神への直言』を発動し、運営へのシステム改善を要求したのであった。

 

 

 この騒動はギルドランキング100位以内に食い込んでいた『吸血鬼の夜明け』が一夜明けて300位台まで下がっていたことを受け、一気に表面化し、某掲示板では、

 

「運営何とかしてやれよwww」

「ちょっと俺も一発超位魔法打ってくる」

 

 などなど、異形種ながらも好意的に受け止められたが、「あの糞運営がそんなことするわけないだろ」と言うのが一般的な見解であった。

 

 

 関係ないが、我らがバードマンが懇意にしていたギルドでもあり、同調して超位魔法を追加したかと言えば「リア充死ね」以外のコメントはなかった事を追記しておく。

 

 

 そしてある意味運営にスルーされるかと思われたこの騒動は、『婚約(仮)指輪』を『婚約(仮)指輪(異形種)』と名を変えられ、異形種を選んだプレイヤーにのみ当たったこのパッチは、完全に人間種になれる効果を追加されていた。

 

 

 これはどうやら、副アカウント不可、プレイヤーキャラクターはあくまでも一人一キャラというユグドラシル運営に対して「新しいキャラクターを作ってみたい」という声があまりにも多く、先ほどの超位魔法にも後押しされ、運営が重い腰を上げ、テストケースながら『結婚指輪』と『婚約(仮)指輪(異形種)』にその効果を追加したという理由がのちに発覚している。

 

 

 もちろんそこは我らが糞運営。バカップルには素晴らしいプレゼントだったものの

人間種プレイヤーからは、

 

「ありのまま今起こった事を話すぜ。結婚指輪をはめたら異形種になれる効果が追加されていた。何を言っているのかわからねーと思うがry」

「誰得wwwwwww」

 

異形種プレイヤーからは、

 

「なんかものっすごいLv下がってるんですけど……」

「外装ランダムにしてもこれはねえええよwwww」

 

 などなどある意味期待通りの効果だったらしい。

 

 

 なお今述べられた事以上にペナルティが多く、新しく外装を作り直そうなどと言う輩もいなくなり、ギルド『2ch連合』の呼びかけによる、1000人規模の新超位魔法発動祭り。

 通称<運営の天使はなんでいつも可愛くないの祭り>により、ユグドラシル初、そして今世紀初の「鯖落ち」と言うビッグイベントが重なり、本格的に忘れられていくことになる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 残業のため、指輪の効果が実装された日のかなり遅くにログインしたモモンガが見たのは、円卓で話す二人の人間種だった。

 

「えっ? えええ!? どなたですか!?」

 

 ここはナザリック地下大墳墓円卓の間。人間種プレイヤーがいること自体おかしいのだが、筋骨隆々の禿げ頭の大男に、どこかのガキ大将のお母さんのような恰幅の良い女性には、別の意味で(よくこんな外装にしたものだなあ)とおかしくなってくるのだった。

 

「モモンガさんばんわーです」

 

 としゃべりかけてきた大男は、なんとも可愛らしい声で……

 

「えっ!? 茶釜さん!?」

 

 そしてもう一人

 

「俺が望んでたのはこんな女性じゃなくて、もっとロリで!幼女な!」

 

 と泣き叫んでいる声はまさしくペロロンチーノさんの声であった……

 

「ばんわーです。二人ともなにやってる……ってかどうなってるんですか?」

 

 

 尋ねてみたところあらましはこうだ。例の指輪の効果が実装されたのだが、指輪をはめると最初に選択肢で性別が選べるらしいのだ。

 まあ『女性プレイヤーの8割が男性です』がお約束なMMOの世界で、ネカマがいないなんて思ってもいないのだが、異形種のプレイヤーを作るときには、その選択肢すらなかったことを思い出す。

 

 そしてこの指輪で人間種になったとしても、結局はその街自体に行けないのだから意味がない。異形種が入れないのはもちろんなのだが、ペナルティとしてPKプレイヤーも、当然のことながら特定の街には入ることができないのだから。

 つまり『アインズ・ウール・ゴウン』メンバーにとってはゴミアイテムであったのだ。

 

 それならばと、この姉弟が選んだのは男女逆の選択肢。

 

 結果はギルメンの大爆笑となり、ギルド長にも見せようとみんなで待っていてくれたらしい。

 他のみんなも指輪をはめて見せてくれて「運営は俺らをどうしたいんだよ」と言わんばかりな人間種の外装に、残業の疲れも忘れて笑わせてもらった。

 

 そして最後に放たれたロリコンバードマンからの一言は、

 

「モモンガさん頼む! 女性を選んで僕のロリ幼女になってよ!」

「あほ弟は放っといて、それはそれで見てみたいわね」

「それはものすごいギャップ萌えかもしれんな」

 

 などなど、せっかく残ってくれたみんなが楽しい気持ちを与えてくれたのもあり、「じゃぁ、やっちゃいますか」と面白半分で女性を選択したのだった。

 

 

 それはなんとなく暗い雰囲気を感じさせる表情の、線の細い中年女性の姿だった。

 

 

「これロリは出ないんじゃないか?」

「俺ショタだぞ?」

「でもモモンガさん当たりの部類じゃね? 結構美人かもしれないよ」

 

 などなど、と笑いを取ってはいたが、姿見を見たモモンガの胸中は複雑なものだった。

 

 

 どこが似ているって訳ではないのだが、その表情が亡くなった母を思い出させることで……

 

 

「すみません。こんなに遅くまで残って頂いたのに……ちょっと気分がすぐれないので落ちますね」

 

 指輪を外して元に戻り、簡単な一言を追加してログアウトした。

 

 モモンガは別に郷愁に浸っていたわけでも、母が亡くなった時のことを思い出していたわけでもなく、ただ単純に恥ずかしかったのだ。

 つまり30近いおっさんが、お母さんとゲーム(・・・・・・・・・・・・・・・・・・)をやっている気分になったのだ。ものすごい羞恥プレイである。

 

 ベットの上を転がりまくり「うわあああ、あれはダメだわぁああああ」と叫びまくり、隣の部屋からの壁ドンで冷静になってから、「さっきの態度はまずかったなあ、なんか勘違いされたかもしれんし、明日みんなに謝らなくっちゃ」と連日の残業の疲れも相まって、その日は眠ってしまったのだった。

 

 

 そして残された40人近いメンバーはと言うと……

 

「あれもしかしてやばくね?」

「なんかトラウマ的な人に似てたとか?」

 

 ある意味当りと言えば当たりなのだが、当然のように盛大な勘違いをし、明け方近くまで協議を重ねた結果、

 

「外装無理やり変えちゃえばよくね」

 

 と言い出した某ゴーレムクラフターの意見を採用するに至ったのだった。

 

 

 そんな事になっているとは露知らず、翌日にモモンガは昨日のことを謝り、これは宝物殿にしまっておきますと、言ったところでインターセプト。

 

「じゃあ僕もちょっと用事があるからついでに持っていくね」

 

 と、まるで示し合わせたような、それでいて棒読みで指輪を奪取していくギルドメンバー。

 

 

 

 

 それ以降のモモンガは、思い出したくないとばかりに左手薬指に指輪をはめることはなかったのだが、このたび数年ぶりにその指輪に邂逅するはめになったのはなんの因果であろうか。

 

 もちろんその指輪をはめた外装が、40人の、血と汗と涙と萌とギャップ萌などをふんだんにつめこんだものになっていることなど、モモンガは知る由もないのだが。

 

 




モモンガさんがずーっとしていない左手薬指の指輪の理由を考えていて、斜め上の妄想を書いていたらこんな話が出来上がりました。つまりこのお話が最初に出来てしまったので、あとのプロローグとかは後付けなんです。全体として旨い事文章として見れてれば良いのですがどうかなw


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