モモンガさんが冒険者にならないお話   作:きりP

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なんか普段の三倍くらい長くなってしまったw すまんのw
Web版のキャラやD&Dの魔法が出てきます。ご了承ください。




プロローグ~エピローグ

「やっと一息つけるな……どうだったセバス、エントマよ。私の口調は変では無かったか?」

「いや、いささか驚きました……さすがアイ……モモ様でございます」

「アイ……お姉さまが貴族の令嬢であると既に噂になっているみたいですぅ」

 

 あれから数日後。再度全(しもべ)を集めての方針変更及び『姫』のお披露目や、コキュートスによる特訓などなど、出立への準備を滞りなくすませ、エ・ランテル入りしたアインズ達は、最高級宿『黄金の輝き亭』にやっとこたどり着いたところだ。

 

 なお、その諸々の準備のおかげでアインズのレベルが若干上がっている。

 

 

 

 

 

 

 

 

職業(クラス)レベル― ウィザード ―――――――lv15

       プリンセス ―――――――lv2

       カリスマ  ―――――――lv1

                   4,891,862

 

 

 訓練中、「サア、爺ニ続イテ、コウデゴザイマス」などと自身の呼称がおかしくなっているコキュートスに、これは「爺」と呼んであげた方が良いのだろうかと斜め上の気遣いを発揮してしまい、「わかったわ! 爺、こうね!」と女性口調を練習中のアインズの剣の一振りで、プリンセスのレベルが一つ上がっている。

 

 無論コキュートスの感激度合いはすさまじいもので、歓喜の咆哮は「ありがとう、爺」と言うアインズの抱擁も合わさり大変なことになっていた。

 

 このレベルアップは『剣装備可』などのパッシブスキルがそのプリンセスLv2にあったのではないかとアインズは睨んではいたが、何故かその後の訓練では『ファイター』のクラスを取ることは出来なかった。

 

 なお女性口調については、プレアデスに指示を飛ばした際、最後にユリとソリュシャンを残し「お前たちに……その……女性を教えてほしいんだ」と目を潤ませ頬を染めて恥ずかしそうにのたまったことにより、何故か三人でお風呂に入るというおかしな展開にもなったが、なんとか物には出来ているようだ。

 

 

 そして『カリスマ』の職業(クラス)は、全(しもべ)を集めたお披露目時の、割れんばかりの姫様コールにより取得し、これはまずいと指輪を即時はずしたアインズによりLv1に留まっている。何故かカンストしてしまいそうな予感がしたのだ。

 

 カリスマ=魅力、ではないかとアインズは推察するが、「魅力だったらチャームだよな」と頭を悩ます。よくあるステータス表示方法の三文字の英単語。『str』『agi』『vit』などが良く知られているが、『cha』がカリスマなのかチャームなのかと過去のゲームの記憶を思い出しながら、「あれ? 両方あったな?」とドツボにはまってしまい、考えを保留にすることにした。

 なおユグドラシルのステータスに魅力の値は無いが、元となったテーブルトークRPGにはあった値なので、それもアインズが頭を悩ます原因になっている。

 

 

 

 

 

 

 

 

「遅くなり申し訳ございません、姫……お嬢様」

 

 ノックの音がする前に移動したセバスにより、声と気配を確認後に扉が開けられ、入ってきたのは御者姿の黒髪の美女であった。

 

「ああ、ご苦労であったな。どうだ? 暑くはないか? 無理をしていないと良いのだがユキちゃんはアウラのお墨付きだからな。 つらいようなら次の出立までナザリックに戻っていてもよいのだぞ?」

「ああ……やはりお嬢様は御優しい……ですが私共は熱に弱いのは確かですが、この程度の気温では何も問題ありません。どうかお気になさらず」

 

 第六階層で行われたアウラ主催による『第一回アインズ様の御者選抜大会』の優勝者。コキュートス配下の雪女郎(フロストヴァージン)のユキちゃんである。

 

 名前についてはお察しの通り、アインズの命名であったが、本人は大層喜んでいたので良しとする。なおユキちゃん及び最終候補にまで残っていたヴァンパイア・ブライドも御者などしたことがなく、アウラの指導の下練習を重ねたのだが、どうにもアンデッドは馬に嫌われてしまうらしく、ユキちゃんが最終的に勝利を収めたようだ。

 あまりに色白すぎたため、化粧を施してもらったのだが、エ・ランテルの門兵が別の意味で凍り付く程のものすごい美人さんになっている。ちなみにレベルは82だ。

 

「そうか。だが何か不都合があったら即時言うように。これは命令だ。では4人でこれからの行動の再確認といくか」

 

 確認作業はまず名前から。モモンガ及びアインズ・ウール・ゴウンの名前を出すことは憚られたため、自身だけ『モモ』と偽名を使うことにする。

 セバスとエントマに関してはユグドラシルで知られているわけでもなく、別に悪いことをしようとしているわけではないので、そのままの名前で。

 

 出自については、南方から来た商人であるとする。これは先行して資金調達に来た、フルプレート状態のアインズに変身したパンドラが得た情報で、「未確定情報ですが南方にも人間種の国家があるようです」との話から決定している。

 

 後の行動については以前話した通り。できれば商人と知己を交わし、この国で店を開く方法などを知りたいところである。

 飛び込みでの営業には自信があったものの、商いとなると何から手を付けていいかさっぱりであったからだ。

 

 そしてそれが終わったら冒険者を雇って王都まで行く。無論これは冒険者から情報を得る行為であり、護衛として雇うと言うのは仮の理由だ。

 なるべくなら武技が使える者が望ましいと考えている。

 

「こんなところか? なにか質問などはあるか?」

 

 傍から見れば穴だらけな案にも思えるが、自信満々に笑顔で問いかける至高の御方へ疑問など湧くはずもない。

 

「お嬢様、一点だけ。モモお嬢様のファミリーネームと言うのでしょうか。そちらはどうなされますか?」

 

 先ほどからのお嬢様呼びなどは、早めに慣れておこうという馬車内での話し合いにより採用されている。セバスが感じたのはさすがに単一の名前だけでは不味かろうといった事だ。

 

「ああ、そうだな……」

 

 ここでアインズは思案しながらエントマを見やる。 『モモ・ヴァシリッサ』 うん、いいんじゃない……だめだだめだだめだ。確かエントマを作った源次郎さんが『エントマ・ヴァシリッサ』というのは『蟲の女王』って意味だって言っていたな。『エントマ』が女王で『ヴァシリッサ』が蟲なのか? それとも逆か?

 これで名前を付けた途端『プリンセス』に続いて『クイーン』なんて職業(クラス)を得ちゃったら目も当てられんぞ。ただでさえ有用かどうかもわからないのに、あまり変な職業(クラス)はこれ以上欲しくないな。

 ならセバスの名前を……うーん……でも自分のネーミングセンスは絶望的らしいからな……うーん……よし。

 

「よしモモ・チャンでいこう。セバスはすまんがファミリーネームはこの旅の間中は名乗らないように。父親を召使扱いしているみたいに思われてもなんだしな」

「はっ! 私の名前を使っていただけるなど……感激で胸がいっぱいでございます!」

 

 若干目の端に涙を浮かべながら語るセバスに、ちょっと引きながら確定してしまう一行の名前。

 

 モモ・チャン、エントマ・チャン、セバス・チャン、ユキちゃんの4名は、朗らかに笑いあいながら、これからの展開に思いを馳せるのであった。 

 

 

 

…………

 

……

 

… 

 

 

 

「……」

「……」

「……」

「……」

 

 食堂から戻ってきた至高の御方と従者たち。なぜか全員無言であるため、室内に待機していたユキちゃんも無言にならざるを得ない。

 ただ御方が難しい顔をして思考中であるのはわかるのだが、残る二人はとてつもなく感激しているようだ。

 

「……結果オーライだ」

「はっ! まさしくその通りでございます、アイお嬢様」

「はい、けぷぅ……しっ!? 失礼いたしました! アイお姉さま」

「!?」

 

 なんで出ていく前と名前が変わっているのか頭を悩ますユキちゃんであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ここが冒険者組合か……昨夜の者たちがいるとよい……わね」

 

 翌日、なかなかの成果を収めたアイちゃん一行は、エ・ランテルの観光ついでに冒険者組合に行ってみることにした。

 後日到着予定のプレアデスたちの為の下見でもあるし、昨日居合わせた冒険者たちに依頼をしてもよいかなと考えたからだ。

 なかなか気の良い連中であったことが理由でもあるのだが、何故か今朝がたの食事時にグイグイ自分を売り込んでくる赤い鼻の男がうざかったのもある。

 追い払ってくれた商人の方と知己を得られたので結果オーライではあるのだが、またグイグイ来られても困るので、早めに冒険者を抑えておこうとも思ったのだ。

 (しもべ)たちの報告により野盗崩れの男であることは知っていたが、この世界のことはほおって置く方針なので、危害が無いのなら放置の方向である。

 無論いつでも殺せる状態であることは御方の知るところではないが。

 

 

 

 今更ではあるがアインズの外出用の装備を説明しておくと、頭に精神耐性のある『紫水晶が嵌った銀色のサークレット』、服装はいつものドレスに防御耐性を上げるネックレスをしている。

 指輪は三つ。人間種になる『婚約(仮)指輪(異形種)』、組み付き、抑え込みなどに耐性を得る『リング・オブ・フリーダム・オブ・ムーヴメント』、そしてほとんどデメリットなく復活できる課金アイテムの指輪。

 とにかく危険時には指輪をはずせるようにと、パンドラ、デミウルゴス、アルベドと四人で散々悩んだ結果であり、残念ながら、疲労耐性・飲食睡眠不要などの効果がある指輪は装備する余地はなかった。

 

 

 

「では私が」

 

 セバスを先頭にアインズ、エントマと続いていく。ユキちゃんはお留守番だが、冷たい、もしくは冷めた物でもいいので食事をしてみてくれと頼んである。

 ナザリックの物には及ばないであろうが、今回の旅は異世界の食にも重点を置いている。エントマが選ばれたのもそういった理由があったりもする。

 

「うわぁ……なんか強そうな人がいっぱいいるわね! セバス!」

 

 アインズもなかなか口調がうまくなってきた……いや、呪いの設定のせいか、興味津々、WAKUWAKUが止まらない状態っぽい。

 熱っぽい視線で瞳を潤ませながら、筋骨隆々な冒険者たちを見つめている。

 なお変な意味は一切なく、「やっぱり冒険者になりたかったなあ」といった思いからの態度である。

 

 だがアインズ達が入ってきたことで一瞬で静かになる冒険者たち。あまりにも美しい二人の少女と鷹の眼を持つ老執事。

 特に銀髪の少女から感じる高貴すぎるオーラに充てられて、十数人はいる冒険者たちと受付嬢は呼吸も忘れて沈黙してしまった。

 

「もう少し粗野な人たちの集まりかと思ったのだけど、全然違うわね! 恰好良いもの!」

「はっ! 人類の守り手と聞き及んでおります。崇高な理念を持ったものが多いのだと愚考いたします」

「すごいですぅ」

 

 アインズのノリノリな言葉に何故か手櫛で髪形を整え始める冒険者その1その2。 国家の情勢を憂う会話を始める冒険者その3その4。

 なお若干名いた女性冒険者は、その男たちの行動にドン引きであった。

 

 しかしそんな状況もおかまいなく、ふわりふわりと弾むように歩いて行くアインズの目の前にあったのは、依頼が張り付けられていると思わしき掲示板であった。

 

「やっぱり読めないな……眼鏡は一つしかないし……」

 

 『黄金の輝き亭』のチェックイン時は口頭で名乗っただけでなんとかなったのだが、夕食時のメニューが読めなかった。「おすすめの料理を」との注文はミラクルを呼んだが、読み書きができないのは致命的にもなりかねない。

 これをプレアデスたちに渡すとなると自身で<リード・マジック>の魔法を取るべきだろうかと思案する。

 

 アインズが使用できる718個の魔法の中にそれはない。低位階であまり有用でもなく、代替品の眼鏡があったのもその理由だ。

 これは一旦保留にして、申し訳ないが宝物殿にまとめてあるペロロンチーノさんのアイテムからお借りするかな。確か一人一個は持っていたはずだしと考えるアインズ。

 

 余談ではあるが、後日宝物殿での眼鏡探しの途中で『ももんが』と書かれた白のスクール水着を発見した時のアインズの雄たけびは、過去最大級であったと言う。

 

 

 

 

「よし、保留として受付だな」

 

 またもや、ふわりふわりと歩き出し、空いていた受付の前にやってくるアインズ。

 

「こんにちは」

「ひっ!? よっ、ようこそ! 冒険者組合へ!」

 

 ギルドの受付嬢、イシュペン・ロンブルは驚愕していた。入ってきた時点で感じた、どこの御貴族様だろうといった疑問は吹き飛び、現在愁いを帯びた瞳で見つめられただけで100点であった。お嫁さん候補としてである。

 

 いやいや、自分はそんな性癖など持ち合わせていないと頭を振り、ちらっと同僚にも目を向けるがブンブンと首を横に振って「巻き込むな!」と目で訴えている。

 

 なんなんだこの少女は……自分は一度アダマンタイト級冒険者のラキュースさんに会ったことがある。元貴族としての振る舞いに感心した覚えがあるが、彼女はそれとはまた違う雰囲気を醸し出している。

 

 佇まいもそうであるが、華美ではないものの品の良い落ち着いたドレスに、薔薇の(つる)のような意匠の銀の額冠は、それこそ王族を思わせる。

 もしやお忍びでいらしたラナー王女であるとか……いやいやなんで『黄金』と呼ばれているかを考えればそれはない。

 

 だがぐるぐると思考を巡らしている場合ではない。冒険者組合の顔である受付嬢が慌ててはいけないのだ。

 

「そそっ、それではどういった御用でしょうか」

 

 大丈夫。噛んではいない。ちょっと舌が回らなかっただけだ。

 

「依頼をしたいのです。3日後を予定していますが、馬車で王都までの旅路を護衛していただける冒険者を雇用したいのです。できればとある冒険者チームの方々にお願いしたいのですが……」

 

 うわぁ……可愛い声だなぁ……ちがうちがう。なるほど、要は指名依頼をしたいと。

 大丈夫。これなら普通に対応できると、何とか落ち着きを取り戻した彼女は、普段の受付嬢の顔に戻り対応することにする。   

 

「チーム名……もしくはどなたかの名前はわかりますか?」

「いえ、昨日の夜『黄金の輝き亭』で居合わせただけで、言葉を交わすことは無かったのですが……その、気のいい方達だなって、うふふ、そう思ったものですから」

 

 あ、これ、男だったら落ちてた。笑顔が反則的に可愛すぎる。あれ? そういえば昨日チーム『漆黒の剣』が組合に来たあと、結成何周年だなんだと『黄金の輝き亭』に行くとか言っていたな。

 

「少々心当たりがございます。『漆黒の剣』という4人組の銀級冒険者チームなのですが、彼等であろうと思われます」

 

 大丈夫だよな? 情報漏洩の類ではないよなと頭を巡らしながら答えていくイシュペン。

 

「まあ! さすが冒険者組合の方なのですね! なんでもわかってしまうのだから」

 

 うふふ、と微笑むアインズ。何気にノリノリである。

 昔ペロロンチーノさんから「女性は褒めて落とすんだよモモンガさん。とにかく褒めて褒めて、好感度を上げるんだ」と力説された女性との接し方を実践しているのだが、好感触なようで一安心である。

 

「うぴ! いえ!? なんでもございません。そっ、それでは指名依頼ということで、朝方依頼を受けて出立した『漆黒の剣』は、昼過ぎにはこちらへ戻ってくると思われます。 彼らが戻り次第この件を伝え……申し訳ございません、お名前すら伺わずに……お名前と滞在拠点をお教え願えますか?」

 

 顔を真っ赤に染めつつも、なんとか受付嬢の矜持(きょうじ)を保とうとしている。これにはセバスもエントマも感心せざるを得ない。元々落ちている(・・・・・)ナザリックの者たちと比べてもなんだが、直近での『姫様スマイル』を耐える彼女のプロフェッショナル精神に感心していた。

 

「アイ……アイ・チャンです。『黄金の輝き亭』に滞在しております」

 

 若干躊躇しつつ恥ずかしそうに照れながら答えるアインズ。日本でならちょっとおかしな名前になってしまうが、この世界は翻訳こんにゃくを食べている。

 口の動きで感じた違和感のアインズが考えた答えがそれなのだが、『チャン』をこの世界の人はどうとらえるのだろう。

 

「アイちゃん……かわいい……」

 

 日本とあまりかわらなかった。

 

 

 

…………

 

……

 

… 

 

 

 

 後ほど宿の方に連絡を入れることを約束し、帰られたご令嬢たちを思いイシュペンは考える。

 これはライバルになるのではないかと。もちろん自分の事ではない。我が国の王女『黄金のラナー』ことラナー・ティエール……うんたらかんたらさんの事だ。そうだ、二つ名が欲しい。銀色……いや……

 

「『黄金のラナー』対『白金のアイ』……これだわ……きっと愛する男を巡って愛憎の……」

 

 妄想の世界に飛び立つイシュペンであったが、実際にそのせいで『黄金の頭脳が馬鹿になる』展開が待ち受けていたりなかったり。それは語られないお話である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 冒険者組合を出た後、現地の武器やポーション販売のお店を見学に行こうかとも思ったのだが、件の冒険者たちとすれ違いになっても何なので、『黄金の輝き亭』に戻ることにした。

 少々落ち込んでいたというのもある。自分が思っていた冒険者像と、受付嬢がノンストップで語ってくれた冒険者講習のさわりのような話で「結構夢のない職業なんだな」と感じてしまったからだ。

 

 ちょっと時間が空いてしまったので荷物の整理をすることにする。パンドラと鍛冶長による販売商品は、後日王都に届けられることになっているので手元にはないが、自身とエントマが着る服や下着などが大量にあったのだ。

 洗濯いらずのドレスであったが、現実世界はアニメやゲームとは違うのである。毎日同じものを着ているわけには『有数な資産家』を自称している故に出来ないのであった。

 無論件の『ウェディングドレス形態』を試してもみたのだが……気合の度合いがすごすぎて、それこそ王宮の舞踏会にでも呼ばれなければ使うことはないと思っている。

 

「防御力もあるし、これでいいかな」

 

 女性ものの装備はすべてブティックにあったものだ。誰が着るというわけではないが、アイテムコンプはゲーマーの(さが)とも言えるもので、服なども自作できるユグドラシルにおいては全てとはいかないものの、アニゲーコラボ商品の類は大概揃っていた。

 アインズが選んだのは男物の学生服のような軍服のような、それでいてスカートも付いているもの。下はスパッツだ。

 

「なかなか良いじゃないか。エントマ、ちょっと来てくれるか」

 

 姿見を見ながら満足そうなアインズ。確かこうだったなと、左腕でエントマを抱き胸元に右手を当てて、アイテムボックスを起動する。

 

「ふわっ!?」

「世界を、革命する力を!」

 

 エントマの胸部分から手持ちのブルークリスタルメタルで出来た短剣を取り出し満足そうに微笑むアインズ。なんかよくわからないけど抱きしめられてご満悦なエントマ。 御方のその言葉に何故か気合を入れなおすユキちゃん。なおセバスは廊下で待機中であったが、この言葉を守護者達にも伝えねばと、いらぬ案件が持ち上がってしまったのは余談である。

 

 

 

 

…………

 

……

 

… 

 

 

 

 

 昼過ぎに、『漆黒の剣』本人たちが訪ねてきてくれたことにより、無事に契約は成った。一人ルクルット・ボルブと名乗る軽薄そうな青年がユキちゃんに絡んだりもしていたが、これがアインズに向いていた場合を考えてぞっとする。精神的な問題もあるが、この青年を中心にエ・ランテルが吹き飛ぶ嫌な想像が抜けてくれず、思わず冷や汗を流すアインズ。そう、遠方からの監視体制も継続中であるのだ。

 

 以前と服装が違い、帯剣していたせいか、「剣士だったのですか?」などの質問があったりもしたが、「ただの旅装束ですよ。剣は爺に習ったのですが、あまり上手くはできなくて」と彼らの想像力を掻き立ててしまい、「爺って……セバスさんじゃないよね?」「高貴な方だと思っていたが貴族なのか?」などなど、『黄金の輝き亭』を後にした『漆黒の剣』の議論は、これは大仕事になるかもしれないと、最年少の少年(・・)を置いて熱を帯びていくのだった。  

 

 

 夜になり『黄金の輝き亭』の食堂は、いつも以上の賑わいとなっている。今回は朝方知己を得られた商人のバルド・ロフーレさんと会食だ。

 エ・ランテルの食料取引のかなりの部分を掌握しているという力のある人物であるが、顔を売っておいて損のない相手と見られているのであろう。確かな(したた)かさも感じる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 昨夜に続いて二度目の涙を流しながら、もぐもぐと食事をとる令嬢と、再び支払いをすべて持つと言う老執事から、いらぬ妄想がわいてくる。

 

 昨夜と違った装いだが、その衣装は素晴らしいと言わざるを得ない。特に太ももが……おっと、短剣の意匠も素晴らしいなと目を奪われ、「良いご縁を得られたのです。 気に入っていただけたならお譲りいたしましょうか?」などと問われ、恩を売るつもりが多大な借りが出来てしまうと、丁重にお断りさせてもいただいた。

 確実に資産家であるのは間違いない。だがたとえ美食であったとしても、あれほどにまで感激するだろうか。これは節制を是とした厳粛な家庭。もしくは修道院育ちなのかとも想像してしまう。

 そして妹と紹介されたもう一人の少女。髪色がまるで違うことからも本当の妹ではないのだろう。妾の子供か、振る舞いからメイドなどの可能性もあると踏んでいる。決定的であったのが昨日はいなかったもう一人の黒髪の美しい従者の発した言葉。

 

「姫……いえお嬢様。私もご一緒でよろしいのでしょうか」

 

 確定である。南方の王族。それに類することは間違いないと考えるバルドであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 和やかな会食を終え、実に有意義であったと満足するアインズ。コキュートス配下のユキちゃんの『姫様』呼びには困ったものだが、まあ別に問題は無いだろうと思案する。

 

 バルドさんには王都の商人組合への紹介状も書いていただけるそうで、大変喜んだアインズが、『AOG特製食器セット』を贈っている。

 とても凝った造りのそれらは、鉄がスパスパ切れるようなナイフなどではないが、オリハルコン製であると気づいたバルドは後日大変驚いたという。

 

 無論現地で売る物、渡したりする物には制限を付けている。現地で手に入るであろう鉱物から作られた物、魔法の効果が薄いもの、あとはアインズ自身が不要だと思う手持ち装備に限っている。

 食器セットは以前ナザリックの食堂で使うものを大量に誤発注をしてしまったもので、言うなれば処分品であったが、意匠に力を入れているのは間違いない。

 

 さて明日、明後日はどうするか。適当に三日後とか言ってしまったが、とんとん拍子に目的が達成されてしまった。

 一応夕食時のアレは続けるとして、昼間考えていた、武器屋・ポーション屋を訪ねてみるのも良い。バルドさんの紹介状も受け取りに行かなくては。そうだ冒険者組合にも手続きをしに行かねばならないんだったな。お世話になった受付嬢にも、食器セットを贈るのも良いかもしれないなあと考えながら、眠りにつくアインズであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして三日後。現在アインズは、『黄金の輝き亭』の前に停められた箱馬車の上部で不可視化状態を維持しつつあぐらをかいている。他の四人(・・)は『漆黒の剣』のメンバーと挨拶を交わし馬車に乗り込もうとしているところだ。

 

 そう、影武者シャルティアの登場である。

 

 エントマの幻術で見た目はどうにかできたが、結局声をどうすることも出来なかった。黙ってニコニコしていてくれればいいのだが、「シャルティアにそれは無理でございます」「まったく同意します」と言うアルベドとデミウルゴスの意見により、沈黙の魔法をあまんじてかけられている。

 さすがに「そんなことないでありんす!」と言えるほど自分を知らないわけではないし、アインズの前でとんでもない失態をしてしまうよりはまし、という判断に従ったとも言える。

 

 セバスから「お嬢様は本日喉の調子がよくありませんので」という理由も告げ、馬車に乗り込もうとしていた4人に『漆黒の剣』リーダー、ペテル・モークから待ったがかかる。

 

「あっ、あのセバスさん。足は用意してあるという話でしたが……」

 

 そう、ここにはこの馬車一台しかない。二頭立ての立派な馬車ではあるが、御者席にもう一人乗れたとしても、箱部分はどう見ても対面座席の四人乗り。乗車部分には我々が乗るスペースが無いように思う。

 いやギュウギュウ詰めにすればなんとか……いや6人は無理があるだろう。

 

「どうぞお乗りになって下さい。それとレンジャーのルクルットさんは申し訳ありませんが、眼として御者席の方へ。ユキ、頼みましたよ」

「はい! セバス様」

 

 さらっと流されるペテルの言葉。嬉々として「ユキちゃんよろしく! 俺に任せてもらえれば索敵なんて問題なっしんぐ」とノリノリで御者席に飛び込むルクルット。

 覚悟を決めて覗き込んだ扉の先には別世界が広がっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 エ・ランテルから王都までは街道を使ってもおよそ280km。馬車であれば早くて10日、遅くても15日くらいかかる距離だ。

 商隊の護衛任務など、何度かこなした道のりだが、大体往復一か月程度の護衛依頼。金銭的な割もそれほど多いとは言えず、拘束時間も長いが、冒険者として名前を売るには一番都合がいい依頼でもあり、昇格試験としても使われることがある。

 

 それは危険が少ない依頼ともいえるのだが。

 

「みなさん静かですねぇ。なにかぁ不都合がございましたかぁ?」

 

 可憐な装いの、とんでもない美少女からの困惑気な問いにあたふたしてしまう。

 

 これ護衛依頼だよな? なんで俺らは馬車に……これ馬車なのか? なんで俺らはこんな家みたいな馬車の中で座ってるんだ……

 

 馬車の中は驚くほどの広さであった。大きなテーブルとそれを挟むように4人が楽に座れそうなソファーが二つ。壁際には戸棚もあり、食器類が納められているのも見える。 セバスさんから「この馬車は魔法的処置を施してあります」とも説明されたが限度ってものがあるだろう。

 

 実際にはこれは別次元空間であり、第二位階魔法<ロープ・トリック>と似たようなものである。 ただクリスタルによる常時展開型魔法であるため、かなりレア度が高かったりもする。

 

「いっ!? いえ! 不都合なんてなにも!」

 

 ペテルは考える。どうしてこうなったんだ?

 現在彼らは、エ・ランテルの黄金の輝き亭で知己を交わしたチャンさん一行の依頼を受け、王都までの護衛任務に就いている。

 そもそも彼らがあんな高級宿なんて泊まれる身分でもないわけだが、その日思いのほか多く入った討伐報酬と、チーム結成の周年記念日も重なり「たまにはちょっと旨い飯でも食いに行こうぜ!」と言い出したルクルットの意見を採用して、黄金の輝き亭に食事だけ(・・)しに行こうって事になったのが始まりだった。

 

 その後日、冒険者組合に現れたチャンさん達に指名依頼を受け、とんとん拍子に今回の小遠征となったわけだが。

 

「さすがにこんな立派な馬車に乗れるなんて思ってもいなかったのである」

 

 ダインが言う通りだ……スレイプニルなんて初めて見たぞ?

 

「みなさんはもしかして……貴族なんですか?」

 

 ニニャの疑問ももっともだけど、頼むから険悪な空気にしないでくれよ? こいつの貴族嫌いも相変わらずだからなあと頭を悩ますペテルであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ペテルがそんなことを考えている間、エントマは頭を左右にちょこちょこと振りながら思案する。そう、エントマは現在一人で大役を背負っているのである。だがまさかこの馬車にこれほど委縮するとは思ってもいなかったのだ。

 

 アインズが用意したこのスレイプニル二頭立ての馬車は、馬自体はそれほど価値のあるものではなかったのだが、これを利用せざるを得なかった。

 まず第一にこの世界で馬車を買う資金が無い。レンタルという手段もあったのだが、もれなく御者も着いてくると言うことで論外。

 それでは自前で用意するかと考えたが、アンデッドの首無し馬車はダメだよなあと思い直す。

 少し思案した後、あのプレアデスへの指示前に、アルベドへ連絡を取り、ニグレドにこの周囲の人間諸国における乗用馬車を調べてもらい、ナザリックにもありこの世界にもあるものとして選ばれたのがスレイプニルだったのだ。

 

 つまり「お金が無いのでスレイプニルで来ました」というこの世界の人に聞いたら「お前は何を言ってるんだ」状態である。

 

 だが委縮してしまいたいのは『漆黒の剣』だけではない。エントマも緊張でどうにかなってしまいそうであった。

 セバスに、隣に座っているシャルティア。それを抑えて仮の立場上エントマがこの場で発言していかなければならないのだ。

 アインズからの<伝言(メッセージ)>が無ければ我を忘れて目の前のお肉をペロリと平らげていたかもしれない。いやお腹いっぱいだし無理か。

 

「貴族というのわぁ、わかりかねますがぁ、私たちはお店を開くために王都に行くのですぅ」

 

 つまりは平民ですねと、にこやかに告げるエントマ。ちらりとお姉さま(シャルティア)を見やるが、人間種を前にしているというのにニコニコとしている。これにはエントマはもちろんセバスもびっくりである。

 

 何のことはない、お借りしているドレスのぬくもりに興奮しているだけであった。 変態ここに極まれりである。

 

 アインズからの指示を受けて、次々と質問を投げかけるエントマ。新たにタレントと言う生まれながらの能力の話を聴けたのは僥倖だったが、先日会ったンフィーレアと言う少年が持っていたタレントの話に事が及び、会話を盗聴していたアインズは屋根の上で大層驚くことになる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 それから数日。初日に野盗に襲われかけたが、気にせず馬車で突っ切っていく。相手がただの馬であれば、弓の一撃で止まりもしようが相手はスレイプニルである。そしてその矢も飛んでは来ない。無論排除済みである。

 あえて残された数人の剣を持った集団に怯みもせず突っ切っていく美人御者の様は、ルクルットを驚愕させたが、氷の微笑に「惚れました!」と、いまだ突っ込んでいくルクルットもまた勇者であった。

 

『漆黒の剣』との語らいは宿泊地でも及んだ。なるべく街道沿いの村や町1km以内で野営をしてくれるようにと、エントマ(アインズ)がお願いしたことにより達成されている。

 

 

 

 

 

 <警報(アラーム)>の魔法をかけていくニニャの後ろを興味津々でついていくアインズ。シャルティアとは入れ替わり済みだ。

 

「そっ、そんなに珍しいですか?」

「ええ、見たこともない魔法だったもので」

 

 魔力系魔法だよな? ユグドラシルには無い魔法だけどもしかして……あるな。 頭の中に浮かび上がってきた<警報(アラーム)>の魔法はもちろん選択しない。

 この身体は職業(クラス)だけでなくこの世界特有の魔法も習得できるのか……やはり現地に赴いてみるものだなと、知らずに笑顔になる。

 

 その後ニニャの話の中で、相手の使用できる位階がわかるタレントがあると聞かされて、再度指輪に感謝するアインズであった。

 

 

 そして当初貴族であると勝手に推測してぎこちなかったニニャであったが、ダインと一緒に薪を取りに行ったり、ルクルットの釜作りを興味津々に眺め、手伝わせてもらったりしている少女を見て考えを改める。

 世間知らずなお嬢様丸出しの行為は『漆黒の剣』のメンバーを驚かせもしたが、手を土で真っ黒にして笑う少女に、作り笑いをやめ優しい気持ちになっていくのであった。

 

 

 

 

…………

 

……

 

… 

 

 

 

 

 食事は当初分かれて取るものとアインズ以外は思っていたのだが、アインズが無理を言って『漆黒の剣』のメンバーに全員の給仕を頼んでいる。

 無論手持ちの食材を提供しているが、この日はペテルにお願いして普段の野営料理を振る舞ってもらうことになっていた。

 

 塩漬けの燻製肉で味付けしたシチューが、木の椀の中に注がれる。それに固焼きパンにクルミだろうか。全員に食事を配りながら、ペテルが申し訳なさそうな声を漏らす。

 

「その……本当に良いんですか? お口には合わないと思うんですが……」

 

 ナザリックからの食材の持ち込みは、今回の旅の目的に反するため、アインズ達の食材はバルドさんに用意していただいたものだ。

 そしてそれは遠征にしては高級食材であったようで、『漆黒の剣』のメンバーを喜ばせたが、冒険者の普通を経験してみたいアインズにとってはいささか問題があったのだ。

 

「私は……その……」

 

 一旦躊躇しかけたアインズであったが、そこはアレ。思っていたままをさらけ出す。

 

「私は冒険者になってみたかったのです。ですが私の大事な人たちを悲しませるわけにはいかなかったのです。勿論今の私のありように微塵の後悔もありませんが、その……少しでもいいのです。私にいろいろ体験させていただけませんか?」

 

 瞳を潤ませながらペテルを見つめてしまう。

 

「っ!? なっ、何を言っているんですか。立派な馬車であろうとも町から街へ。南方からいらっしゃったのですよね。 それならもうすでに大冒険じゃないですか! よしルクルット! お前の自慢の料理、頼んだぞ!」

「なーに言ってんだよー。もうよそって配り終わってるってーの」

「このクルミは私が取ってきたのである」

「ふふっ、固焼きパンは私の担当です。どうぞご存分に召し上がって下さい」

 

 顔を真っ赤に染めながら、答えるペテルに、合いの手を入れつつ答えていく『漆黒の剣』のメンバー。少しあっけにとられてしまったが、匙を渡されシチューに口を付ける。

 

「うふふ、少し……しょっぱいですね。でもすごく美味しいです」

 

 ぽろっと流れた涙は本物の涙。ああ、これは冒険者にならないお話ではなかったんだな、と思考するアインズ。

 

 この指輪を見つけた時から冒険が始まっていたんだ。

 

 ナザリックでのあれやこれや。エ・ランテルにたどり着いてからのあれやこれや。

 

 まるで遠足の前の日のようなわくわく感。新しいものを見つけた時の『アインズ様』……

 

 耳に届いたのはナーベラル・ガンマからの<伝言(メッセージ)>であった。

 

「……」

 

 今ちょっといい話だったのに……まあそんな事、小説のようにはいかないか。

 

「こほん。とっても美味しくて、ちょっとびっくりしてしまいました」

 

 無論この場では返せないので、これで悟ってくれればいいのだが。

 

『……ユリ姉さん、とっても美味しいって。……あっ、なるほど。アインズ様失礼いたしました。どうやらお返し頂けないけない状況であるようなので、現状を報告させていただきます」

 

 良かった……チームで行かせて本当に良かった……

 

『本日、アインズ様に命ぜられたチーム連携の確認を終え、エ・ランテルに出立した私たちなのですが……』

 

 そうだったな。バランス的には問題なさそうだったけど不安だったので、コキュートス相手に実践訓練をしてもらっていたんだったな。

 

『エ・ランテルは現在炎上しております』

 

 

 

 

「……え?」

 

 

 

 

『城門前には多数の蟻……失礼しました。 多数の人間たちがあふれ出ており、私たちが中に忍び込むのは簡単なのですが、アインズ様から正規の手段で入場するように命令されていたため、現在足止めをされています』

 

「……」

 

『チッ! 私たちがそんなに珍しいか……「青い」だの「薔薇のようだ」だの……あっ!? 申し訳ございませんアインズ様。それで……どういたしましょうか。 私共はしばらく成り行きを見守っておりますので、アインズ様のご都合のよろしい頃合いに<伝言(メッセージ)>を頂ければ幸いです。それでは失礼いたします』

 

 

 

 

「……え?」

 

 

 

 

 そう、冒険なんてどこにでも転がっているものなのだ。異世界は分からないことだらけ。ついでにイベント盛りだくさんでもあるようで。これからいったい何が起こるのか。

 モモンガさんが冒険者にならないお話ではあったけど、すでにこれらは冒険でしたと言う物語。

 

 

 この先については今は誰も知らないお話である。

 

 

 

 




 これにて完結でございます。多少は通勤通学の暇つぶしになってくれたかな? そして少しでもクスリとさせることが出来たなら幸いですw
 結構間を置かせていただきますが、番外編もやろうかなと考えています。

 それではまたいつか。視聴してくれた皆さん、誤字報告をしてくれたたくさんの方、ありがとうございました。


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