モモンガさんが冒険者にならないお話   作:きりP

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投稿一か月。いやーこんなにかかるとは思ってもみませんでしたw
どうやったら予想5話くらいが、こんな話数になってるんですかねw



第十三話

 

「女の子の身体って……柔らかいんだな……って!? 違う違う。そろそろ時間か」

 

 現在アインズは私室にて一人。深夜の12時前に起きたはずが、すでに日が高く昇っている頃合いだ。

 プレアデスたちとの現地での彼女たちの装備の相談から始まり、別件でパンドラと合流して第七階層『溶岩』に赴き、デミウルゴスと鍛冶長と4人で売り払う装備や商品の相談。

 その他もろもろの雑事を済ませ、最後にスパリゾートナザリックをいろんな意味(・・・・・・)で堪能していたらこんな時間になってしまった。

 

 オーバーロードの姿に戻っている現在、考えることは多々あったが何気にうまく回っているんじゃないかと思考する。

 最初は皆が呼ぶ『姫』状態の自分の考えなしな発言を思い出し光り輝きもしたが、それほど自身の考えと剥離してはいない。

 ただ慎重さが足りていないようではあったが、逆に良い方向に回りもしている。

 

 アルベドから渡されたレポートを握りしめる。世界級アイテムの存在。こんなことにも気づかなかった自身に呆れもするが、対策は取った。

 『ほうれんそう』がここまで役に立つとは思ってもみなかったが、やはり自分は皆を導いていかねばならない。だが皆にも導いてもらおう。『環境が人を創る』とは良く言ったものだ。

 

 指輪を再度はめて変身し、感情制御を取り払う。ああ、もう彼ら彼女らの忠誠心に疑いは無い。これはあれだな、おそろいのユニフォームとか作ってしまおうか。楽しい気持ちが抑制されず、どんどん気分が良くなってくる。

 

「いかんいかん、皆を待たせてしまう」

 

 アイテムボックスから『リング・オブ・アインズ・ウール・ゴウン』を取り出し右手の薬指にはめる。装備実験も済ませているので問題ないが、両の手を目の前に(かざ)して思考する。

 左右の手の薬指にそれぞれの指輪がはまっているが、『結婚(仮)指輪(異形種)』の指輪は課金設定をしなくても効果が発揮する指輪だ。ならば左手にはもう一個、通常アクセサリー枠として指輪が装備できるはずだ。

 エ・ランテルに出立の際には自身の装備についてももう少し考えないといけないなと思いながら、指輪による転移を実行するアインズであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 たどり着いたのはナザリックの玄関口。跪き待っていたのは守護者統括アルベドとプレアデスのシズ・デルタだ。

 

「待たせたなお前たち……ん? アレは用意できたのではなかったか?」

「申し訳ございませんアインズ様。御者の選考作業を現在第六階層で行っているのですがもう少々時間がかかるようでございます。何分戦闘能力があり、ある程度の人間体を保て、御者が出来るうえ、他の任務に携わってない者となりますと……」

「ああ、よい。別にアレが今必要であったわけではないのだ。カルネ村までは徒歩の予定であったしな。では三人で散歩としゃれこむか」

「はい、アインズ様、うふふ」

「……はい、アインズ様」

 

 シズがちょっと邪魔ね、と思いつつも御方とのお出かけに心が弾むアルベド。装備はいつもの白いドレスである。シズはいつもの戦闘メイド服だが、武装が違う。短剣らしきものを両の腰にぶらさげ、表情は相変わらずだが、とても嬉しそうにしている。

 

「しかしアインズ様、よろしかったのですか? シズはともかく私はこれでは人間種ではないと……」

「そうか? まあ現状私とお前は名前まで向こうに告げている。私が顔見せ出来ない分お前にはと思ったのだ。何か言われでもしたら、『それがどうかしましたか?』とでも私が言ってやろう」

「……つまり、村人の私への態度である程度の指針をと言うことでしょうか」

「そうだな……コキュートス以外見た目でどう判断されるのかも知りたいところだ。私にはアルベドが魅力的な女性にしか見えないのだが……おっと、そろそろかな?」

 

 アルベドが「魅力的……私を……アインズ様が……」とトリップしていたが、まず最初の目的地。ナザリックからカルネ村方面に向かって約1km程の地点に到達する。

 

「では二人は私から少し離れて、どんなふうに元に戻るか観察しながらついてきてくれ」

 

 アインズを挟んで前方に後ろ向きに歩くアルベド。後方にシズ。間に5m程空けながら歩き出す三人。

 数十歩歩いたところで、例の魔法少女の変身シーンのように光り輝きながら、美少女が……骨になる。

 

「クフゥー! アインズ様かっけー!」

「……アインズ様眩しかった」

 

 何故か二人ともキラキラとした瞳で見つめてくる。いや、自分もこの身体を恰好良いと思ってるから嬉しい事は嬉しいんだが、お前らの美的感覚ってどうなんだと……いや違う、そんな話ではなくて。

 

「これは、結構光ってなかったか? 指輪の着脱時と同じような感じか……うむ……」

「そうですね、私たちから見てもそのように感じました」

 

 これは影武者も用意しておく必要があるかなと考えるアインズ。当初は幻術で『姫』になり、エ・ランテルそして王都へと移動しようとしていたのだが、ここまで目立つとなると言い訳が出来ない。

 そう、考えていた冒険者を護衛に雇っての移動が困難になるのだ。なら常時幻術で対応して飲食時だけ指輪をとも考えたが、両者の体格差が邪魔をする。

 自身に似た者を影武者にとすると、一般メイドを除けば一人しかいない。

 

「シャルティアか……うーん……」

 

 体格、身長、髪色と言うことは無いのだが、何故かとんでもハプニングの予感が拭えず頭を悩ますアインズであった。 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その後雑談や思案をしながら、カルネ村1km手前での実験により、この世界の村でも指輪の効果があることを確認する。無論ここまでの道程はエイトエッジ・アサシン他、多数の(しもべ)、アインズの攻性防壁魔法を防げるニグレドの監視など、アルベドの指示のもと安全と機密が保たれている。

 

「さて、それでは行くぞ」

 

 指輪を外し元に戻った後、おもむろに仮面をつけるアインズ。この村にこの格好で来ることはしばらくないだろうなと考えながら、二人を引き連れて歩いていく。どうやら村に隣接している田畑も『村』と認識されているらしく多少歩くことにはなったが、第一村人発見である。

 

「あっ! アインズさまだぁ!」

 

 どうやら向こうもこちらに気づいたようで、姉妹の内の小さいほうがアインズ達に向かって走ってきた。さっとアインズの前に飛び出し腰の短剣に手をかけるシズであったが、ポンと肩に手を置かれて振り向く。

 

「大丈夫だシズ。だが良い動きであったぞ、アルベドもありがとうな」

 

 内心ではドキドキものであったが、二人の警戒心を解いていく。要件を理解している二人であってもアインズを守るという譲れない感情が働いてしまうのだろう。

 その気持ちが嬉しくもあり、勘弁してくれよとも若干思ったが、少女の前に出て腰を落とす。

 

「確か……ネムだったか? 二日ぶりだな。元気なようでなによりだ」

「うん! 今がんばらないとってお姉ちゃんが」

「はぁはぁ、もう! ネムったら。アインズ様、ようこそカルネ村へ」

 

 ネムの目線に合わせるように跪いていたアインズであったが、そこへ少女の姉が遅れて現れたことにより立ち上がる。

 

「エンリ……だったな。二人とも農作業か?」

 

 あたり一面に目を向ける。ところどころ荒れているどころか、馬の蹄の跡のようなものも見受けられる。法国の偽装兵の侵入経路にもなったのだろう。

 二人から現在のカルネ村の状況と、姉妹の状況を聞き取り、別の意味で愕然とするアインズ。

 

 なにも、いや多少可哀そう程度の感情しか湧かないのだ。

 

 もしちょっと前まで指輪を付けていなかったら、その多少可哀そうという感情さえ湧かなかったかもしれない。人間種の残滓とはよく言ったものだ。あの指輪は本当の意味で大事な物になるかもしれないと、心に深く刻むアインズであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 現在アインズ一行はエンリとネムの案内により村長宅へ通されている。途中二人の美しい女性が気になって「アインズ様のお嫁さん綺麗だね」「こらネム! でも本当にそうね」などの姉妹の会話がアルベドの耳に届き、アルベドの彼女たちへの株が上がっている。

 関係ないがその声を聴いてシズの気分も高揚している。どうやら自分も嫁枠に入っていると思っているらしい。

 

 他の村民にも何名かすれ違ったが、村の英雄に感謝の言葉を告げるだけで、アルベドが懸念していたことは起きなかった。

 無論村人たちも角や羽に気づいてはいたが、英雄と二人の美しさの前には些細な問題であったようだ。

 

「これはアインズ様。一昨日は大変お世話になりました。改めてお礼を申し上げます」

 

 村長と夫人の挨拶を受け、促された席に座るアインズ。アルベドとシズは両脇に立ったまま控えている。

 

「もしや……あの時の黒い鎧の?」

 

 尋ねる村長が見ていたのはアルベドの顔。いや角であろうか。あの時のアルベドが装備していたヘルメス・トリスメギストスにも角が付いていたのを覚えていたのだろう。

 

「ああ、紹介が遅れましたね。私の妻のアルベドと娘のシズになります」

 

 あれ、そういえばアルベドに伝えたっけかと思いもしたが、さらっと特大級の爆弾を落とすアインズ。

 

「おお! それは! 奥方にも大変お世話になりました。これほど美しい方だったのですね!」

 

 若干村長も興奮気味ではあったが、興奮の度合いはアルベドの比ではない。

 

「妻の……クフフ、妻のアルベドでございます! わが生涯に一片の悔いもありません!!」

 

 右拳を高々と上げ、昇天でもしそうなオーラを放ちながら満面の笑みを浮かべるアルベド。何故か若干ふてくされて見えるシズ。

 アルベドを落ち着かせるために、少なくない時間を要したが、なんとか本題に入っていくアインズであった。  

 

 

…………

 

……

 

 

 

 

「しかしよろしいのですか? こちらとしては大変うれしいことなのですが……」

 

 アインズが語ったのはカルネ村に実験農場を作りたいと言う申し出だ。大森林に大規模な農場を作る前にいろいろと確認をしてみたかったのもある。例えばジャガイモや他の穀物。ダグザの大釜から出したそれらは、DUPE対策により増やすことが出来ないのはユグドラシルで確認されている。

 だがユグドラシルの街の商店で買った食物や、自生していた果物などは育てることが出来たのである。もしこれをこの世界で育てることが出来たのなら、食料対策。もしかするとユグドラシル金貨対策にもなりえる。

 

「こちらからお願いしたいことです、村長。まずは多少知己のあるエモット姉妹の後見人になるということで、彼女たちの農作業の手伝いから始めたいのですが」

「アインズ様……あなたはなんてお人だ……どうか、どうかよろしくお願いします!」

 

 涙ながらに笑顔で言葉を発する村長と、エプロンで涙をぬぐう村長婦人。 強さだけでなく優しさも英雄級ではないかと。

 村長としては両親を亡くした姉妹を最悪外に出す、もっと悪く言えば売り払うなどの選択をしなければならない時が来るかもしれないと感じていただけに、アインズの言葉に涙が止まらない。

 

 だが後日シズとともに訪れたゴーレム部隊と、エンリが呼び出したゴブリン部隊。絶大なバックアップにより瞬く間に整備されていく村と実験農園に、顎が外れるほど驚愕する村長。

 

 出来上がった農産物を食べた村長や村人が、その美味しさに感動し涙するのは、もう少し先のお話である。 

 

 




次回で完結予定です。作っておいたエピローグがネタを詰めすぎたせいで機能しなくなっておりますw 再度一から書き直してGWは仕事で無理なので来週には投稿しようと思います。投げっぱなしエンドだけど予定通りだから怒らないでねw


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