モモンガさんが冒険者にならないお話   作:きりP

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このまま行くとンフィー君死んじゃうよなぁ、なんて妄想しながら
ナザリックのほんわかコメディーを書いていきたい自分がいるw




第十一話

「……皆を先に行かせて良かったのかい? それとも皆には聞かせられない話でも?」

 

 現在玉座の間の小さな円卓には二人しかいない。他の守護者達はやる気を漲らせ、一旦各階層に戻っている。

 中でもセバスは、アルベドとデミウルゴスから御方が破棄された施策のソリュシャンの枠にアインズ様が入るだろうとの予想を聞かされ、デミウルゴスが引くほどの満面の笑みで護衛に戻っている。

 

「いえ、そういう話ではないわ。ただ……なんと言っていいか考えが纏まらないのよ。できればパンドラも交えて三人で考えてから皆に周知したかったのだけどね」

 

「……確かに。御方の献策に疑問を持つこと自体不敬なのでしょうが、根底の部分ですよね? アルベドが考えているのは」

 

 金銭難・食糧難、それに対する施策は当然わかる。だがそういう話ではないのだ。疑問点がただ一つ『何故人間種ごときに便宜を図ろうとする?』ただその一点だけが疑問なのだ。不満ではない疑問であるのだ。

 

「そうね、アインズ様が人間種におなりになられたから……というのでは理解に乏しいわね。『カルネ村と協力』して云々などの施策は、多分だけど人間種にならなくても行っていたと思うの」

「先んじて仕事に戻って行ったパンドラズ・アクターも言っていましたものね。『穏便にこの国の金銭を』と」

 

 そうなのだ、ある程度の現地民の強さは分かっている。この国最強と言われている戦士でも、デスナイト程度で十分対応が出来てしまえるのだ。(しもべ)に命じてどこぞの都市をちょっと占領してくれば、外貨獲得など容易ではないかと。無論これはアインズ様も理解しているはずだと。

 

「パンドラはちょっと(ずる)いわ……悔しいけどやはりアインズ様の創造物であるのだもの。あ! でも逆に考えるとちょっと可哀そうかもしれないわね」

「ん? なにがですか?」

 

 暗い顔をしていたアルベドが一転何かに気づいたようでクスッと微笑む。

 

「パンドラは逆に姫様とは繋がっていないじゃない? 至高の40人謹製の姫様ですもの」

「ああ! あはは、確かに。我々の姫様に対するこの感情は、彼には感じることが出来ないものかもしれませんね」

 

 実際どっちが羨ましいのか比べる話でもないが、暗くなっていた感情が少しは和らいだ感じだ。まるで恋人のように微笑みあう二人。勿論二人にそんな感情は一切これっぽっちも無い上に、両人が御免被る話ではあるが。

 

「話を戻すとして考えられるのは……例えば人間種を減らしたくないとか」

職業(クラス)の話ね。確かに調べてもいないうちに有用な職業(クラス)持ちの人間種を殺してしまうのも問題よね」

 

 現時点ではまだ彼らは知らない。そこに<タレント>という要素が加わっていくことに。

 

「それでも一都市を丸々占領すればいいだけの話よね。 アインズ様が最後におっしゃっていた農業の話も、あれは私たちが農業を知らないから……いえたぶん出来ないから協力してもらえってことよね? それもただ占領してやらせればいいだけの話に思えるのだけど……」

「そうなんですよね……何故そんな回りくどいことをするのでしょうか……」

 

 属性(アライメント)極悪の二人には理解できない。利用できる羽虫、食べられる家畜に対する無駄とも思える優しさが理解できないでいる。

 

「アルベド……私は少し不敬なことを言いますが……ご理解いただけますね?」

「ええ、勿論その為もあって今二人でいるのだから」

 

 そう、本題はここではない。アルベドがデミウルゴスにしたい話。それにデミウルゴスはすでに気づいている。

 

「アインズ様は……くっ! この世界のなにかを恐れている節がある。そうなのでしょう?」

 

 こんなことは言いたくもない、考えたくもないと苦々し気な顔を作りデミウルゴスは言葉を吐き出す。

 

「ええ、それが一番御方の施策に納得できる答え……になるのかしらね」

 

 アルベドの表情も陰鬱なものになる。考えてはいけない不敬な考えではないのだ。あの強さを誇るアインズ様にそんな考えを持つ(しもべ)はいない。だから考えに浮かばないのだ。だからこそ思考の迷路に囚われてしまう。

 

「ですがそれはなんなのですか。アルベドは会ったのでしょう? この国最高の戦士とやらに、法国とかいう国の戦力に」

「ええ、だからこそなのよ……アインズ様はいったい何におびえているというの……」

「それもわかっていて言っているんですよね? アルベド」

「そうね……もしかしてだけど……この世界に来ているかもしれないプレイヤーにって考えが自然かしらね」

 

 もしかしたら来ているかもしれない至高の方々を探す。それは同時にこの世界に他のプレイヤーも来ているかもしれないということと同義だ。現にユグドラシルと同じモンスター、そして同じ魔法を確認している。来ていないと考える方がおかしい。

 

「でもそれでもなのよ……高々プレイヤー如きにナザリックが容易く落ちるなど想像もつかないもの……いくら至高の40人がいないとはいえ、私たちが……いえアインズ様がいるのよ? ……デミウルゴス?」

 

 俯いていた顔を上げデミウルゴスに視線を向けるアルベド。何故か中空を見つめぶつぶつと呟き続けている。

 

「ワールドアイテム……いえ!? なら姫様の状態で行くはずが……!?」

 

 デミウルゴスのワールドアイテムというキーワードに同時に思考の海へと沈んでいくアルベド。確かにそれならアインズ様が恐れることも……いや逆だ。ユグドラシル最高数のワールドアイテム保持ギルドは『アインズ・ウール・ゴウン』だ。確かに警戒は必要だがアインズ様はつねに腹部に……

 

 姫様のどこにそんなものがあった?

 

 このままでは姫様が狙われ……いやそれも違う。逆に弱すぎるが故に狙われない可能性の方が高い。護衛をセバスと仮定するとそちらに使われる事の方が……いやそれでも五分五分か……つまり……

 

「囮……ということ? アインズ様自身が……姫様自身が囮になるってことなの? なんで……あ……」

 

 ぽろぽろと宝石の瞳から涙を流すデミウルゴスを見て気づいてしまった。恐怖の対象にだ。アインズ様はワールドアイテムを恐れているわけではないのだ。

 そう、ワールドアイテムを使われてしまう可能性がある、対象である私たちの喪失を恐れているのだと。

 仲間である、家族であると。愛しい娘であり息子であるともおっしゃってくれた。

 

 また一つアインズ様の優しさに、深すぎる愛情に触れてアルベドも涙が止まらない。

 

「あ…… あぁああああああ!?」

 

 そしてまた一つ何かに気づいてしまったアルベド。絶叫を上げ震える右手にその装備を呼び出す。世界級アイテム・ギンヌンガガプ。創造主タブラ・スマラグディナがリアルへ旅立つ前に最後に預けたギルドの至宝だ。

 

「た、タブラ・スマラグディナ様……いえ……お父様はこれを見越して?」

 

 デミウルゴスを見ればウンウンと頷きながら大粒の涙を流している。当然でしょうアルベドと。至高の41人ですよと。それに頷き返しアルベドも真珠の涙をぽろぽろとこぼす。 お父様ごめんなさいと。私を守ろうと……いえ、いつでも私を見守って下さっているのですねと。

 中空に目を向け、今はいない至高の創造主に己の抱いていた勘違いを懺悔する。

 

 無論その中空のギャップ萌えおやじは目線を逸らして逃げ出そうとしているのだが。

 

 全ての謎が繋がり今一本の線になった。まず平和的にこの世界を探求していこうとする御方の施策。その根底にある確かな愛に。

 

「恥ずかしいことですが……『ほうれんそう』ですよ。アルベド」

「ええ……ええ……皆にも……アインズ様にも……では私は先にレポートの作成に入るわね」

「私はシャルティアとコキュートスと合流して防衛会議ですね。なんだか力が漲ってきましたよ! 今なら蹂躙も忘れてこの国を灰にしてしまいそうです!」

 

 涙をこぼしながらも(ほが)らかに笑いあう。その後守護者達に伝えられた二人の考察は、新たな涙と更なる忠誠心を促したのだが、レポートを受け取った際のアインズが「指輪を付けていたら発狂していたな」と零すほどの自身の思慮の足りなさに光り輝くのは、語られないお話である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 明けて翌日。といっても日が変わったばかりの深夜12時。アインズの私室では奇妙な唸り声が響いていた。

 

「ん~~! ん~~っ! これ本当に飲み物か!? 全然口まで上がってこないんだが!?」

「……味はストロベリィ……アインズ様の色」

「いや、まあ、うん。桃色ね……いや!? そうじゃなくてだなシズよ……ん~~~っ!」

 

 

 

 

 寝起きに自身の服装に驚き、絶望感を味わいながらも「そういえば揉んでなかったな」と、自身の胸をこねくり回そうとして顔を上げた御方。その際、6人のメイドの存在に気づき、顔を真っ赤にして両手で抑え、天蓋付きのベッドに女の子座りをしていた至高の御方。アインズはいまだ人間体のままでいる。

 

 一度指輪を外して冷静になったものの、着替えておかないと大変なことになると気づき、再度指輪を嵌め、満面の笑みの戦闘メイドプラスαに着替えを手伝ってもらった際「くぅ」と鳴ってしまったお腹の音に原因があった。

 

「すぐに食事の支度を!」と、勢い勇んで部屋を出ていこうとするメイド長を優しい口調で引き留めるアインズ。

 

「ナザリックの食事は……その……美味であるのだろう? ならその最初の食事は皆で食べてみたいのだ……それに異世界に見聞にも赴く。そのせいで外の食事を不味く感じてしまったらつまらないじゃないか?」

 

 恥ずかしそうに微笑むアインズの考えは、昔よく読んでいた異世界転生系のラノベの話の、自身の考察にも似ている。面白い話も多々あったのだがどうにも一点共感できないことがあったのだ。「米の飯が食べたい!」などの食べ物の話である。

 アインズは、いや鈴木悟は食に対する飢餓感というのだろうか、そういったものがまったく無かった。無論、栄養摂取と言う観点からの食事しかしてこなかったのだから当然でもある。だからどうせ食事をするなら、あのオフ会みたいにみんなで食事会をしたいなあと考えて、食欲よりも楽しみを優先させた考えになっても仕方のないところではあった。 

 

 ならば栄養のある飲み物でもと、メイド長が口を開いた瞬間風のようにいなくなり、瞬く間に戻ってきたシズが持ってきた飲み物は、グラスに注がれストローを刺されたピンクの液体だった。

 

 

 

 

「んん~~~っ! っぷあ! 液体、なんだよな? どんな粘度なんだこれ!?」

「確か成人男性が一日働く分に必要なカロリーに相当するとか。確かにそれなりの粘度があるかもしれません」

 

 ナーベラルの答えに目を見開き驚愕してしまう。

 

「すまんがシズ。これ飲んでみてくれるか? 本当に飲めるのか見てみたいぞ」

「!?」

 

 何故か一斉に厳しい嫉妬の視線がシズ・デルタに向かう。若干おろおろと、姉妹が見ればバレバレの緊張感で、受け取ったグラスに刺さったストローに口を付ける。

 

 

「……色はストロベリィ色。……アインズ様の味」

 

 

 お前は何を言っているんだと口をあんぐりと開けて頬を真っ赤に染めるアインズ。

 

「うわぁ! シズちゃんズルいっすよ!」

「シズぅ、私にも飲ませてぇ」

 

 

 てんやわんやの一日が終わりやっと二日目。寝起きの一発目はそんな騒がしいメイドたちの声からスタートして行く。

 

 




よくよく考えてみたら、玉座の間からスタートして半日経っていない不思議。
11話もなにやってるんだかw


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