モモンガさんが冒険者にならないお話   作:きりP

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今更ですがこのお話は「盛大に何も始まらない」お話ですw
ゆるーく頭空っぽにして読んでいただけるとありがたいです。




第十話

「・・・・・・それが、ハラムラなる者が定説したiPS細胞というものでありんすよ」

「興味深いわね……オトメボウ……調べてみる価値はあるわね」

 

 開幕アウト。アインズがいたら某バードマンの名前を叫び、光り輝く展開である。

 

 

 

「さて、そろそろ本題に入らないかね? 御方の使命もそうだが、それ以上に皆が周知しておくべき話もあるでしょう」

 

 パンパンと手を叩いて自分に注視させるデミウルゴス。 時間は有限である。 もちろんそれを理解しているだろうアルベドに視線を送り、守護者統括に司会を譲る。

 

「そうね、皆はアインズ様を……いえ姫様を見てどう思った?」

「食べたいでありんす」

「きれい! かわいい!」

 

 アルベドからの質問に即座に応える女子二人。一部不穏ではあるが、好意的な笑顔だ。

 

「……正直、拙イノデハナイカトオモウ」

 

 自身でこれは不敬であるとは感じているのだろう。だが臣下として言わねばならぬと、思い悩みながらも発した言葉。コキュートスが感じたのは、あのアインズ様は弱すぎるのではないかという不安だ。

 

「そうね、コキュートスの言う通りだわ。いくら私たちを信頼してくれていると言っても無防備すぎる。レベル16というと……ナザリック・オールド・ガーダー1体より遥かに弱いわよね? 力や魔力だけの話ではないのよ。シャルティアの魅了の魔眼、デミウルゴスの言霊、アウラの吐息。それどころか現地民の<人間種魅了(チャームパーソン)>の魔法でさえ効きかねない。拙い……どころではないわね」

「!?」

 

 弱いというのはわかっていたが、ナザリックにいる最下級の警備兵3000体のうちの1体より遥かに弱いと言われ、戦慄する。そう、この場では空気を読んで誰も言わないがアルベドに圧殺もされかけたのである。

 

 アルベドはアルベドで実際に現地で陽光聖典の部隊が<人間種魅了(チャームパーソン)>の魔法をアインズに放ったのを見ているのだ。頭の中から嫌な想像が抜けてくれない。

 

「……アインズ様は目覚めればすぐに、御自身で情報収集の為の行動にあたられるでしょう。そしてそれをもう、私たちは止めるすべを持たないわ」

 

 一度味わった恐怖、自身の首を落としてくれと懇願すらもした。自身の死の恐怖など微塵もないが、アインズ様が御隠れになってしまうかと思われたあの恐怖は二度と味わいたくない。

 

「そうだね。今話し合いたいのはアインズ様をお止めする話ではなく、どうアインズ様を守るかという話になるね」

 

 自身の身体を両腕で抱きしめ震えを抑えるアルベドに、デミウルゴスはそう言葉を引き継ぐ。

 

「先ほど私は皆に説明したね、『今この場でアインズ様のレベルが上がったのは見ての通り』と、つまり戦闘を伴わずともレベルが上げられると言うことだ。この辺は……わかっていなかったみたいだね」

 

 視線を逸らすシャルティア、アウラ、コキュートス。守護者達の周知は必須。もう少し嚙み砕いて説明するべきだったかと頭を巡らすデミウルゴス。

 

「確かあの時アインズ様は玉座に座りこうおっしゃっていたはずです。『つまりこの数字は……多分レベル60までの振り分けていない経験値ってことか?』と。我々にはどういう理由かまではわかりませんが、もしかしたらレベル60まで。戦闘を伴わずともレベルを上げられるのではないでしょうか」

「おお!」

 

 誰からともなくデミウルゴスの説明に感嘆の声が上がる。レベル60。守護者達からしてみればそれでも頼りなくはあるが、現状より遥かにましである。

 

「そしてアインズ様は『プリンセス』の職業(クラス)を取得なされたとき『想定通り』とおっしゃられた。顧みればつまりなにかの切っ掛けさえあればアインズ様のレベルを上げることは出来るのだと思うのです」

 

 全員がデミウルゴスが言いたい事がわかってきた。

 

「つ、つまりアインズ様のレベルを上げてもらおう……ってことですか?」

「そうだね。ただアインズ様自身、職業(クラス)を取得なされたことは『想定通り』であったけど、『プリンセス』の職業(クラス)を取得なされたことは『想定外』だったのだろうね、『新しく習得した職業(クラス)のこともあまりわかっていない』とおっしゃっていたのだから」

「つまりなにが言いたいの?」

 

 マーレの回答に曖昧に答えるデミウルゴス。レベルを上げて少しでも安心したいという話であると思われたが、その答えに訝しげな声を上げてしまうアウラ。

 

「アインズ様がおっしゃられたじゃないか『新しく習得した職業(クラス)』と。きっと『プリンセス』はこの世界特有の職業(クラス)なのでしょう。つまりアインズ様はユグドラシルに無い新たな職業(クラス)を取得していくことを考えておいでのはず。そしてそれは60レベルまでと決められている。そこへ私たちが、申し訳ありませんがレベル60まで上げてから出立していただけますか? なんてそんな要求を呑んでいただけると思うかい?」

「なっ!? それじゃ結局なにもできんせんじゃないの!」

 

 シャルティアの憤慨も当然のこと。結局この提案は話すだけ無駄なんじゃないかと睨みつける。

 

「ただね、少しでもレベルを上げてもらおうという提案は悪くはないと思わないかい? アルベド。アインズ様への懸念はわかる。ただそこでアインズ様が敵に襲われたとして身を守る方法はなんだと思う?」

「……確かにあの神器級とも言えるドレス。きっと至高の40名の方々による、私たちでは考えられないような防衛ギミック、精神耐性もほどこされているはずよね……」

 

 少しだけ回復した至高の方々への信頼にうっとりと中空を見つめ、今はいない御方々へ思いをはせるアルベド。だがその中空の至高の方々は一斉に目を逸らしている。

 

「ならば護衛が力を発揮できるわずかな時間があれば……できればアインズ様に近接攻撃に対するちょっとした耐性でもあれば……あ! 違うわ!」

「アルベドは気づいたようだね、そう根本が違うんだ」

「ちょっとぉ! 二人だけで納得してないでよっ!」

「ぼっ、僕たちにも教えてください!」

 

 無論シャルティアもわかっていないが、「結構あっさり脱がせられたでありんすよね? あのドレス」と別なことを考えていたため乗り遅れている。 

 

「護衛の為の一瞬の時間をアインズ様に稼いでもらう? 近接耐性は確かに大事だけど考え方が逆だよ。つまり一瞬の時間を護衛が稼げればいいんだよ。アインズ様が指輪をはずす一瞬の時間をね」

「あ…… ああ!」

 

 守護者達に理解の輪が広がっていく。こんな単純なことに気づくのが遅れるなんてよっぽど動揺していたのかしらと頭を抱えるアルベド。だがそうなると護衛の選別も変わってくる。単純に強いものを護衛にするのはもちろんだが、感知能力に長けた者を広域に侍らす方が良策かもしれないと。

 

「この事をアインズ様は……当然よねクフッ」

 

 愛する御方の思慮に少し昂ぶりはじめるアルベド。

 

「ええ。ですが『ほうれんそう』ですよアルベド。私たちの考えから私たちの思いもよらないような御方の考えが引き出せたら素晴らしいじゃないですか。この会議は書類にして後ほどアインズ様にお届けしてくれるかな」

「ええ! もちろんだわぁ! クフフッ」

 

 出来る男デミウルゴス。のちにアインズが『ほうれん草大好き!』と言う伏線になるかもしれない。アルベドはアルベドでアインズに会う口実が増えて嬉しいだけである。

 

「……ダガ、ダガソレデモ拙イ……アインズ様ハ魔術師……ウウム」

「それでだ、コキュートス。ここはひとつアインズ様にお願いしてみないかい?」

 

 お願い?と、いまだに不安を隠せないコキュートスはデミウルゴスの提案に目線を向ける。

 

「アインズ様は……いえ姫様は現在ウィザードであらせられるけど、言葉節からどうにも不本意であったようだ。ならばこのまま魔術系を伸ばして位階を上げていこうとは考えていないかもしれない」

 

 無論どこをどうすれば何が取れるかすらも解ってもいないため、一応アインズがガチ構成のスキルツリーを考えていないのは確かだ。

 

「そこでだ、君にアインズ様の剣術指南役になってもらうというのはどうだろう。吸血鬼、ビーストテイマー、ドルイド。正直私がその職業(クラス)を取ろうと考えても何から始めればいいのかさっぱりわからない」

 

 シャルティア、アウラ、マーレと見つめて、最後にコキュートスに視線を戻す。

 

「確かナーベラル・ガンマが、ファイターの職業(クラス)を持っていると……あれはコキュートスから聴いたんだったかな。我々としてもアインズ様に少しでもレベルを上げてもらうことは本懐であるし、至高の方達からしてもその選択はアリなんじゃないかと思うんだよ。近接耐性を上げるという側面もあるしね」

 

 コキュートスの創造主である『武人建御雷』とナーベラルの創造主『弐式炎雷』は仲が良い。そのせいかそんな情報も確かにコキュートスは知っており、その話をデミウルゴスにしたこともあったのかもしれない。

 だが今のコキュートスにはめくるめく妄想再び。あの光景が現実のものになるのかと言う期待感でいっぱいになっている。

 

「爺ガ……姫ノ?」

 

 いや、爺かどうかは知らないがと若干友人に困惑気味に言葉を続ける。

 

「う、うん、そうだね。みんなも『ファイター』の職業(クラス)なら、なんとなくだけど習得に時間が必要でない気はしないかね? もちろんこれは君や戦士職を馬鹿にしているわけではないよ? まず剣を持つことから始めるんだろうという単純な正道がわかりやすいからね。他の職業(クラス)だとまず取っ掛かりが難しいと思うんだ」

 

 デミウルゴスらしからぬ曖昧な言いようだが、確かに理にはかなっているし、なるほどその通りだなと納得する他の守護者達。シャルティアなどは眷属にするぐらいしか思いつかない為、「自分が」と出張ることも出来ずに口をつぐむ。他の守護者も同様だ。

 

 

 

「……ソウデス……ソウデスゾ姫……サア爺ニ続イテ……アア素晴ラシイ! マサニ姫戦士……イエ、姫騎士デゴザイマス!」

 

 完全にあっちの世界に旅立っているコキュートス。

 

 何故か『姫騎士』と聞いて興奮し始めるシャルティア。

 

 

 『バカ殿』なのか『あんみつ』なのか、いつも通りの守護者クオリティ。だが思いはひとつ、アインズ様の安全のため。

 

 妄想から呼び戻すためだったのか、コキュートスが別の意味で虫の息(・・・)にはなってもいたが、ひとまずの方針が決定し、御方の命への対応協議の方は、何気にスムーズに進行していくのであった。 

 

 




会話文は苦手かもしれないw
次はプレアデス編に行けるかな?


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