モモンガさんが冒険者にならないお話   作:きりP

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このお話は、モモンガさんにご飯を食べさせたいという『妄想ネタ』を文章にするために無理やりでっち上げたプロローグなので、正直内容はお察しですw それでもよろしければ物書き初心者のお話にお付き合い下さい。




プロローグ

―――なんなのよ、この料理は!―――

 

 

 そう癇癪に顔を歪めてヒステリックに叫ぶはずであった。

 

 エ・ランテルでも有数の宿『黄金の輝き亭』での最初の一手は、宿の客であろう特権階級、またはそれ相応の有識者・有力な商人といった者の耳時を集めることにあった。

 要は、自分が悪目立ちして従者を持ち上げ、上手くこちらに興味を持ってくれれば、知己を交わせれば万々歳といった、なにこの三文芝居的な作戦である。

 予定されていた、表向きな迷惑料としての、居合わせた客への料理代を持つといった行為も、有数な資産家と思わせる、どこかで聞いたことがあるようなありふれた作戦であった。

 

 だが、最初の一歩で躓いてしまった。

 

 

 

「なんだこれ……美味しい……」

 

 

 

 小さな口をモグモグしながら、涙をはらはらと流す。ただでさえ目立つ三人組の中でもひと際目を引くその容姿。薄桃色のドレスを着た銀髪の十代後半ほどの年齢の少女は、かの『黄金の王女』に勝るとも劣らない美貌であった。

 

「アイ……っ!? お嬢様、お身体は大丈夫でございますか?」

 

 これに焦ったのは従者であるセバス・チャンである。

 セバスは素面には出さないが燃えに燃えていた。自身が御方をお守りするのであると。至高の41人をお守りするのだといっても、かの御方達は自身を軽く凌駕する強さである。あの1500人の大侵攻でも、第9階層まで辿り着かず、結局は守るべき至高の御方達に守られた身。それほどまでに隔絶した強さを持つ方達の頂点であるアインズ様は、いかほどの頂におあすのであろうか。

 

 しかし今のアインズ様はどうであろう。ナザリックで語られたアイテムの効果により、脆弱な人間種への変貌、Lvの大幅な低下。容易く手折られてしまいそうな華奢な女性へと変貌されていらっしゃる。

 

 従者はセバスとプレアデスからエントマ・ヴァシリッサ・ゼータを指名。宿の周囲にエイトエッジ・アサシンを敷いているとはいえ、御方を最前線でお守りできるのは自分一人である。

 

 だが、燃えに燃えていた感情も、はらりはらりと涙する至高の御方を前にして、完全に思考が停止してしまっていた。

 

 

 

「アイ……っ!? おっ、お姉さま! なにかご不便がございましたか?」

 

 エントマは普段の口調も忘れ混乱していた。ただでさえ萌えに萌えて……いや、燃えに燃えていたのだ。プレアデスと言えど一介のメイドごときが、至高の御方のお傍付きに命じられたのだから。

 

『エントマ、お前は私の妹という設定だ。なあに不安になることはない、普段通りに……いや普段の私に対するメイドとしての立場では困るな……そうだ、普段お前が姉たちと接するときのように振る舞え。よし、これは命令だぞ』

 

 エントマの頭に優しく手を置きポンポンと軽くたたく。あれはすばらしかったなぁ……って違う違う、思い出に浸っている場合ではない!

 

「エントマ! ほらほら食べてごらん! お肉がこんなにも柔らかくて美味しいだなんて……」

 

 そういってニッコリ笑ってお肉を刺したフォークを私の仮面蟲の前に……って!? 幻術! げんじゅちゅを維持しなくっちゃぁ!

 

 そう、エントマはパッと見ではわからないがアラクノイド。その顔も髪も身体も蟲の集合体だ。だが人間種の街で生活をするにあたってアインズから、

 

『エントマはそのままでも可愛いのだが、対面すると人間ではないのがわかってしまうかもしれん。お前の幻術でどうにかすることは可能か?』

 

 と聞かれ『可愛い』の声が頭をめぐりつつも、ばっちし御方の期待に応え、髪はきちんと髪に見え、口も動いているように見えている。

 ですがそこはお口ではないのですぅとも言えず、でもこれは「あーん」ってやつで、頬の赤みが幻術として適用されちゃったりして、でもこれは不敬であるのではないかとアワアワしてしまう。

 

「あっ、そうだったな、ここらへんかな?」

 

 至高の御方が顎下にフォークを持ってくるのだから、これはもう覚悟を決めて食べるしかない。

 それでも周りからは口元にフォークを運ばれているようにしか見えないのだから幻術万能である。

 イイネ。

 

 それは得も言われぬ至高の味であった。もちろんエントマにとってはフォークの先にゴミやら鉄くずやらが付いていたとしても至高の味には変わりはないのだが……

 

 

 

 

「おっ! 美味しいですぅお姉さまぁ!」

 

 エントマ会心の叫びを聞いてセバス・チャンが覚醒する。私は何を惚けているのだと。エントマが御方のご期待に応えた。ならば私がこの場ですることはなんだ!

 

 これは御方が我々をお試しになられているのだと。 

 

 最初に作戦をお伺いしたときには眉を顰めた。それは御方にヘイトを集める行為に対してだ。ならばこの状況からの会心の手はなんだ!

 

「支配人、よろしければ料理長を呼んでいただけますかな」

 

 現在アインズ様はもちろんのこと、朗らかにほほ笑む期待に応えたエントマは、このホールの注目を集めに集めている。

 

「はいぃぃ! 直ちに!」

 

 これはアインズ様が示された道。ならばこの先にあるのは確定された未来だ。

 しばらくして支配人に連れられた料理長と思われる、意外なほど若い、だが頬が若干扱け幸が薄そうな男がアインズ達の前に通された。

 

「りょ、料理長を務めさせていただいております! ジョール・ネイサーです!」

 

 貴族も斯くやといった麗しき美姫達に、品の良い佇まいの老執事。誰が見ても上客だとわかる者たちの前に連れ出された料理長は、これまた誰が見てもわかるほどに狼狽していた。

 

「申し訳ございませんが、あなたの料理を我が主がいたく称揚いたしましてお呼びだてした次第でございます。できれば我が主に料理の説明などをお願いできないでしょうか」

 

 おそらく何も告げられずに急いで連れてこられたのであろう。微かに安堵の息を吐いて、それでも顔に歓喜の笑みを浮かべて。

 

「ありがとうございます! 先代から継いで、わずか一月目であります新参者でございますが、今夜初めてお出し致しました新作料理の説明をさせていただきます!」

 

 これには他の常連客も驚きを隠せない。エ・ランテル随一といった料理が食べられるこの『黄金の輝き亭』の料理長が変わっていたなんて。

 

「これは実はエイノック羊です」

「はぁっ?」

 

 そしてこれには居合わせた冒険者達であろうか? おそらく何かの祝いにちょっと背伸びをしてこの高級宿に料理を食べに訪れていたのであろう。

 帝国などでは焼き串などで、庶民に愛されているのだから、どこかの露店で食べたこともあったのかもしれない。

 だがあの羊独特の臭みなど一切感じさせなかったのだから、丁度同じものを食べていた金髪の少し軽薄そうな彼が驚くのも当然だ。

 

「これは蒸すという水蒸気による熱で調理する方法に、香草巻きという手法を重ねて、エイノック羊のロースと言われる部位、その旨味をそのままに、独特の臭みと多すぎる油分を取り除いたものです。もちろんソースには先代伝来の深い味わいのソースを使用しているので、完全な新商品とは言えないのですが……」

 

 控えめに、だが堂々と、先ほどまでとは打って変わった料理長の声は、後半尻すぼみにもなりながらも自信にあふれるものだった。

 

 

 セバスにとっては驚きだった。御方はここまで何も自身の行動を決定づける言葉を発してはいないというのに、これから自身が取るべき道筋がはっきり見えるのだ。じわりと手のひらに汗を感じ、歓喜に震える。

 御方にお仕えできる喜びを胸に秘め、さぁ予定通りの、そして場内にとっては予想外の言葉を発しようではないか。

 

「料理長ネイサー殿、この料理、我が主人がいたくお気に召したご様子。見事でございます」

 

 そして、御方に目を向け一礼。そして御方もにっこりと慈愛の微笑みを浮かべて頷く。 

 

「支配人。お嬢様が大変気にいられたこの料理。是非とも今ここにいる皆様に振る舞っていただきたい。もちろんお代はこちらで支払わせていただきます」

 

 おお! と、場内から声が上がる。そして一拍置いてあたりを見回し、

 

「そうですね……食事中の方もおられます。先ほどの言を訂正させていただき、本日の料理代は全てこちら持ちでと言うことで」

 

 

 降ってわいたような幸運に場内が沸き立つ。エ・ランテル最高峰の宿屋の料理の値段は破格である。 だがそんなことは関係ない。

 先ほどのやり取りを見ていた者たちにとって、懐に足る金銭があったのなら、ほぼ全員がおなじ料理を注文しようとしていたのだ。

 今回タイミング悪く料理を注文し終わっていた者たちにとっても、嬉しいことには変わりはない。次回はあの料理を食べにこようなどと、談笑が始まっている。

 そして口々にアインズ達が座るテーブル席に向かって感謝の声を上げていくのだった。

 

「アイちゃん最高!」

 

 などと先ほどの冒険者からも声が聞こえた。もちろん従業員たちの感慨も一入だ。

 

「父さん……やれるよ……見ていてくれ……」と涙ながらにつぶやく料理人。

「最高の……最高の宣伝になります……」と涙ながらにつぶやく支配人。

 

 ……なんだかよくわからないドラマがあったのかもしれない。

 

 

 

 そして

 

「さすがは……さすがは至高の御方アイ……お嬢様でございます」

 

 小さな声でウンウンと頷きながらすでにカンストしている忠誠心をグングン上げていくセバス。

 

「美味しいですぅ! お姉さまぁ!」

 

 彼女の空腹は許さんとばかりに、延々と嬉しそうに餌付けされているエントマ。

 

「偽名はモモって決めたよな……」

 

 フォークをエントマに差し出し小首をかしげながら呟く至高の御方。

 

 

 

 ありとあらゆる思惑を含みながらも、ナザリック最高責任者、仮称アイちゃん一行のエランテルでの初日が過ぎようとしていた。

 

 




次話から原作一巻直後Ifのお話になります。

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