遊戯王 THE BLACK SIDE OF DIMENSIONS   作:トキノ アユム

1 / 1
はじめましての方ははじめまして。
お久しぶりの方、お久しぶりです。
作者です。リハビリがてら、劇場版遊戯王の小説を書こうと思います。
楽しんでいただければ、幸いです。



プロローグ

誰でもよかった。

兄を救ってくれるのなら。

だがそれが誰にも出来ることではないことを分かっていた。

だから祈るしかなかった。

兄さん気が付いてと。

その憎しみは相手だけではなく、いずれ自分自身ですらも滅ぼすことを。

「兄さんーー」

届かないと分かっていながら、手を伸ばす。

虚空へと伸ばした手。

なにも掴まないはずのその手をーー

 

 

「……また、面倒事か」

 

 

その人(・・・)は取ってくれた。

 

 

 

社会人にとって一ヶ月に一度だけテンションが上がる日がある。

基本的にテンションが低いのがデフォルトな俺もそれは例外ではなくーー

「ふふふ」

「ーーマスター。さっきからずっとお給料が入った封筒をエグい顔芸付きで見ていますが、大丈夫ですか?」

声をかけてきたのは、相棒にして、俺の精霊であるブラックマジシャンガールのバニラだ。

今は実体化をしていないため、普通の奴等には見えず、俺にだけ見えている状態だ。

「なんだと? 満面の笑顔で見ているだけだぞ? お前目が腐ってるんじゃないか?」

「私の目が腐ってるなら、周りの怯えている人全員目が腐ってることになりますよ」

「む」

確かに言われてみれば、さっきからすれ違う奴等全員が俺の顔を見てビビっていた気がする。

「あの、先生(・・)。少しいいですか?」

「ん?」

と、背後から声をかけてきた生徒に、俺は顔を向ける。

「どうした?」

「いえ、あの、クロノス先生の授業で分からない所があってーー」

「見せてみろ」

手に持ったプリントの一点を指差し、困り果てたという顔をする生徒からプリントを受けとる。

プリントにはこう書かれていた。

 

 

あなたはデビルフランケンの効果で融合デッキから融合モンスターカルボナーラ戦士を特殊召喚しました。しかし相手により破壊され、墓地に送られてしまいました。このモンスターを特殊召喚する方法を答えなさい。

 

 

「なるほど」

これはまた意地の悪い問題である。

「お前はこの問題をどう思った?」

「最初は死者蘇生のような墓地蘇生カードで墓地から特殊召喚すると思ったんですけど、それだと簡単すぎる気がしてーー」

「そうだな。お前の睨んだ通り、この問題は単純なものじゃない。引っ掛け問題だな」

「やっぱりそうなんですか!?」

「ああ。デビルフランケンの効果で特殊召喚した融合モンスターは融合召喚によって特殊召喚ーーつまり、正規の手順で召喚されてないんだ。この手のモンスターは一度墓地や除外をされてしまうと、特殊召喚は出来なくなってしまう」

「じゃあ、どうすればいいんですか?」

「なに、簡単なことだ。特殊召喚出来なくなってしまったのなら、出来る状態に戻してしまえばいい」

「出来る状態に戻す?ーーあ!」

どうやら気づいたようだな。

「そうだ貪欲な壺や転生の予言といった、墓地のカードを戻すカードでカルボナーラ戦士を融合デッキに戻してから正規の手順の融合召喚か、デビルフランケンのような効果でもう一度特殊召喚してやればいいんだ」

「な、なるほど!」

「これは中々意地の悪い問題だが、よく間違えやすい所でもある。よかったな。今間違えられたのは大きなプラスだぞ」

「はい! 教えて頂いてありがとうございました!」

「気にするな。これでも一応デュエルアカデミアの教師(・・)だからな」

言いながら、我ながら慣れるものだなと思った。

告白すると、俺はこの世界の人間ではない。この世界ーー遊戯王GXの世界をアニメーーフィクションとして見ていた平凡な世界から来た人間だ。

 

 

 

『あなたが私のマスターです!』

 

 

そう。始まりは俺に隣にいるバニラのこの一言だった。

近所のカードショップという特別でもなんでもない所に、このバカ娘はいた。

自分で言うのも何だが、俺は相当なリアリストだ。このバカの事も、最初はただの痛いコスプレ娘だと思った。

だが問答無用で別の世界に飛ばされたら、リアリストな俺でもバニラの言葉に耳を傾けるしかなかった。

バニラには目的があった。それは全ての世界から喪失してしまった師を探すとかいうわりと、とんでもないものであったのだ。

それからはまあ、色々あった。モンスターの精霊達の抗争の原因になったり、太陽神のコピーと戦ったり、アニメGXの世界には存在しないカードを持つ決闘者達と闘ったり、振り替えってみると、我ながらドン引きするしかない濃い毎日を過ごしていた。

その毎日に比べたら、デュエルアカデミアの教師になっていることなど些事に思える。

去っていく女生徒の背中を見ながらそう思っていると、

『マスター。鼻の下伸びてます』

などと。頬を膨らませたバカ娘がバカなことをほざきやがった。

「あのな。今までの流れで俺が鼻の下を伸ばしてる要素あったか?」

『ありますよ!』

「例えば?」

『あーえと。あれです。さっきの子のおっぱい見てました!』

完全に今考えやがったなこいつ。

「見てないし。それになんで俺がガキの胸を見ないといけない?」

悪いが俺は巨乳好きだぞ?

『え? ほ、本当ですかマスター!』

「あ、お前は因果切断な」

『徹底的に除害されました私!?』

いや、だってな。確かにお前巨乳キャラ筆頭だが、バカだし。色気ないし。

「……今更だがお前、本当にブラック・マジシャン・ガールだよな?」

『そろそろ長いお付き合いなのに、存在を疑われてます!? どこからどう見ても、私、ブラック・マジシャン・ガールですよ?』

確かに見た目は認めよう。童顔巨乳。金髪。抜群のスタイル。それを強調する露出の高い衣装。なんか魔法使いそうなステッキと、それっぽい帽子。

どこからどう見てもブラマジガールだ。

「ほんと見た目だけなら満点なんだがなぁ」

だが中身がバカ娘なのが全てを台無しにしている。

『嬉しくもあり、悲しいですよ。こんちくしょう!』

弄りすぎたせいか、バカ娘が完全にへそを曲げてしまった。

やれやれ。そろそろフォローを入れてやーー

『? マスター。今可愛らしい女の子の声(出しませんでしたか?』

「は?」

なんの脈絡もなしに何を言い出すんだこのバカは。

可愛らしい女の声なんて聞こえるはずがーー

 

 

ーーけて

 

 

 

「ん?」

今、なんか声がーー

『聞こえましたよね! 私、正常ですよね!』

「少し黙ってろ」

 

 

 

助ーーけて

 

 

確かに聞こえる。誰かの声が。

だが奇妙なことに声が聞こえる場所には何もない。

試しに手を伸ばし、その事を再確認しーー

 

 

 

ようとし、俺はその手を掴んでしまった。

 

 

 

「え?」

「……」

 

 

景色が変わる。デュエルアカデミアの校舎にいたはずの俺は瞬きの内に見知らぬ場所に移動してしまっていた。

幻想的な風景と、神秘的な場所に俺はいた。

中央には幾つかの岩が置かれており、その前で祈るように立っていた少女の手を俺は取ってしまっていた。

じっと俺の目と少女の目が合う。

たっぷり数十秒。俺と少女は見つめ合いーー

『こ、ここ! こここ! ここどこですかマスター!!!』

バカ娘の叫びによって我に返った。

「あー」

少女と手を握りあったまま、辺りを見回す。

冷静に見ると、少しだけ見覚えがあった。

「……また、面倒事か」

ここは劇場版遊戯王で重要な役割を持つフィクサー。『プラナ』の聖域。

そして俺の目の前にいるのは、

「とりあえずはじめましてと言っておこうか」

劇場版の敵役。藍神ーーディーバ。

「は、はじめまして?」

その妹である美少女セラであった。

「はあ」

慣れとは恐ろしいもので、少女と周りの風景を一瞥しただけで俺は何が起こったのか理解した。

「また世界を転移したのか」

しかもよりにもよってこの世界はーー

 

 

「新劇場版の世界か」

 

 

遊戯王 THE DARK SIDE OF DIMENSIONSの世界のようだ。


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
※目安 0:10の真逆 5:普通 10:(このサイトで)これ以上素晴らしい作品とは出会えない。
※評価値0,10についてはそれぞれ11個以上は投票できません。
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。