ハリーポッターとゴーント家の令嬢 作:ゆきみかん
朝日が顔へと射し込み私の意識は大きく浮上する。
もう朝か。昨日は散歩の割にイベントが多くて少し疲れてしまった。
体を起こしてベッドに腰掛けると大きく伸びをする。
あたりを見回すと、ダフネとパンジーはもう起きてるみたいだ。
「・・・おはよ」
「ん、おはよう。サラが自分から起きるなんて珍しいね」
朝の挨拶と共に言葉のジャブが飛んでくる。
「私、そんな自堕落じゃない・・・」
「いやいや、そうでしょ。ダフネに起こされてないと空腹になるまで起きてこないとおもうけど」
「むう、たまたまそういう日もあるだけだよ」
「たまたまが重なってるようね」
「ダフネ、パンジーが苛めてくる」
「アハハ」
ダフネからは肯定もなければ否定もなかった。
身支度を整え朝食のため広間へと向かう。スリザリンのテーブルに居る見知った顔はノットだけだった。
「あれ?ドラコ達は?まだ寝てんの?」
私の問いかけに、ノットが食べながらグリフィンドールのテーブルを顎で指した。
「ああ、またか」
どうやら、ドラコはハリー達にちょっかいを出しに行ったようである。
何やら言い争いをしているようだ。そんなに気が合わないなら近づかなければいいものを。
ドラコは変にこどもっぽい所がある。
「ね、サラ?」
ダフネが止めないの?と聞いてくる。
たしかに、目の前で言い争いをしている時は私が止めさせることが多いが今は幸いなことに反対のテーブルである。
「・・・パス。ドラコとハリーの仲裁とトーストだったらトーストのがいい」
「えぇ」
「いかにマルフォイと言えどこんな人目のつくところで何かしたりはしないさ」
「ノットの言う通り、ほらダフネも食べなよ今日は1限目から講義あるし」
少しして私がデザートに手を伸ばしたあたりでドラコ達が不機嫌そうな様子で乱暴に席についた。
私は3人を一瞥するとデザートに視線を戻しながら話しかける。
「おはようドラコ。朝からご苦労なことで」
「ああ。まったく、あいつらなんでまだホグワーツにいるんだ!」
私の嫌味は気が付かなかったようである。
「ドラコ大丈夫?なにもされなかった?」
「ああ、パンジー。何グリフィンドールのあいつら僕に何もできやしないさ」
「その割には機嫌悪そうじゃないか」
ノットが楽しそうに聞いた。
「ふん、あいつらが調子にのってるんでね今日の夜目に物みせてやる」
「え、夜?」
「あ」
ダフネの言葉でドラコは自分が口を滑らしたのに気が付いたが、気取った様子で続けた。
「いや、今日の夜あいつらと決闘する約束をしたんでね。魔法族純血とそれ以外の優劣をたたき込んでやろうかと」
「決闘!?ドラコ、危険よ」
「なぁにパンジー。あいつらなんて一ひねりさ」
「ね、決闘なんてやめなよ、夜歩きも決闘も校則違反だよ」
「マルフォイ、お前が勝手に決闘するのは構わないが、スリザリンに泥を塗る真似はするなよ?」
「そうそう、校則違反なんてするもんじゃないよ」
私も皆に続いてイチゴタルトを皿にとりつつ適当な相槌をうつ。
「絶対に、サラが言えた事ではないとおもうけど・・・、ともかく決闘なんてだめだよ」
ダフネが私を半ば呆れた目でみつつドラコを止める。
「校則違反・・・!いや、そうだ皆の言う通りだ行くのはやめるよ」
ドラコはニヤリと笑うと180度意見を変えて急に行かないと言い出した。
「どうした、急に?」
「なあに、校則違反をしてまでする事じゃないと気付いただけさ」
明らかに何かをたくらんでいる様子だったが、誰も気にせず朝食の時間は過ぎて行った。
その夜、談話室へと降りていくとすでに誰の姿もなかった。昨日ダフネに会ったので今日も警戒してはいたが、どうやらダフネは私が抜け出ている事を誰にも言わなかったらしい。
今日の散歩には昨日と違い目的がある。
小耳に挟んだのだが、どうやらホグワーツで功績を収めた者を称えるためのトロフィールームとやらがあるらしい。
そこで父の足跡を探してみようというわけだ。
私は本当に父の事は何もしらない。唯一の手がかりである名前、まずは手始めにホグワーツにその名が残っていないか。
正直そんなに簡単に見つかるとは全く思っていないが、私の父なのだから何か輝かしい功績を残していてほしいともおもってしまう。
まあ、もっともホグワーツに在籍していたかも知らないのだが。
ピーブズやミセスノリスをやり過ごし、トロフィールームへとたどり着くと部屋の中へと体を滑り込ませる。
部屋は薄暗く、なんとなく埃っぽかった。あまり利用する人間がいないのだろう。
ルーモスを唱えると、端から順々に確認して行く。
結論から言えば、私は父の名前どころかゴーントのゴの字も見つける事は出来なかった。
しかし、トロフィー自体が非常に興味深かったのと元々対して期待をして居なかったので落胆はしなかったが。
主席の盾やクディッチでの最優秀選手賞など同じ種類で複数の受賞者が居るものもあれば、受賞者が少ないものまで多種多様のトロフィーがかざってある。
中には変身術に関するトロフィーにマクゴナガルの名前やいくつものトロフィーでダンブルドアの名前も見て取れた。私も載りたいものである。
やはりホグワーツで教師になるような人間は多少なりとも学生時代から頭角を現しているのだろうか。
一通りトロフィーを見てその中でも特に少なかったのはホグワーツ特別功労賞だ、50年前の受賞者以降は見当たらない。特別功労賞なんて何をしてもらったのだろう。
今度学校の歴史書かピンズ先生にでも聞いてみるとしよう。「T.M.リドル」私は何となくだがこのくすんだトロフィーに刻まれた名前を覚えておくことにした。
1時間も見ただろうか?一通り確認を終えたので今日はもう寮へと戻ろうかと伸びをした所で外から複数人の小さな足音が聞こえてきた。
「まいったな」
教師か?わからないがともかくもう一度強めに目くらまし呪文を自身にかけると、小さく囁き明かりを消し、部屋の角へと身をひそめた。
そんな中足音は扉の前で止まると、ガチャリと静かに扉が開いた。
廊下の明かりが部屋へと射し込みそれを遮るように影が3つできていた。見る限りは生徒、背格好からすると私とそう変わらなさそうである。
3人はあたりを見回しながらゆっくりと中に入ると、扉をしめた。少しして暗闇の中で囁く話声が聞こえたかと思うと、一人が明かりを灯した。
明かりに照らされた姿を見ると、なんと学年一の有名人、ハリーだった。後ろに居るのはロンとハーマイオニーで明かりはハーマイオニーが灯している様だ。
彼らは注意深く照らされた部屋を見回しているようだが、私に気が付くことは無かった。目くらまし呪文は透明呪文と違い透過はしないのだが探知の魔法か、特別な魔法具でも使わないと見つかる事はない。ましてや学生が見破れるような術ではないのでこれはしょうがないだろう。
私はそのまま静かに去って談話室に帰る事もできたのだが、ついついいたずら心が芽生えてしまった。
昨日のフレッドとジョージの反応が面白かったのでもう一度同じようなモノを見てみたいと思ってしまったのだ。
素早く3人の後ろに回り込み、目くらまし呪文を小さく囁くように解くとゆっくりと声をかけた。
「こんな夜中に談話室の外で何をしているのかな?」
3人は飛び上がり、後ろを振り返り私を確認する。
「うわっ・・・・・」
ロンは相当驚いた様子で叫ぶところだったが、どうにかハリーが口を塞いだみたいだ。
私は予想通りの反応がみられたので、楽しくなり笑顔で続ける。
「もう違反なんて、いい度胸だねぇ。しかもハーマイオニーまで。あんまり規則破りしそうじゃなかったけど意外だね」
ロンは悪事がばれた子供の様な顔だ、ハーマイオニーもうなだれていたが、私の言葉を受け憤慨した様子で鼻孔を膨らませた。
「当然です!私は巻き込まれたの!」
「良く言うよ、勝手についてきておいてさ」
「なんですって?だいたい・・・」
言い争いを始めたハーマイオニーとロンを止めながらハリーあたりを警戒しながら続けた。
「規則違反は君もだろう?ゴーント。君こそ何をしてるの?マルフォイは?」
ハリーのセリフで他の二人も私も校則違反者だと気が付いたのか、ロンはうなだれた顔つきからじょじょに強気な顔になっていた。
「ごもっとも、私はただの夜の散歩。んでドラコがどうかした?」
「散歩ですって?あなたも・・・」
「ハーマイオニー、今はちょっとだまっててくれないか?」
ハリーがイライラした様子で静止する。
「マルフォイはどこに居るんだ?」
ドラコの事をえらい気にしているみたいで全く会話がかみ合わないが何なんだ?
「寝てるんじゃない?」
「つまり、君が代わりって訳?」
「何の話?」
「決闘のだよ」
決闘?そういえば朝ドラコがそんな事言ってたな。全く関係なかったから流してたけども。
そうなると現状が見えてくる。決闘に来たハリー達、おそらく止めようとしてついてきたハーマイオニー。
居ないドラコに散歩している私。なるほどね。つまりハリー達はドラコにはめられたのか。
「ふふっあははは」
私の笑い声にビクッと体を震わせる3人。
何となく、どういうことか察したのか無言で顔を見合わせている。
「残念だったねぇ、ドラコにはめられたんだ」
「やっぱり!だからいったでしょう!罠だって!」
私の言葉がとどめとなったのか、現実を受け止めざる負えないようだ。
「ドラコは居ないし今日はもう寮に戻れば?もうここに居てもやる事ないでしょ」
私は笑いを堪えながら、そう告げる。私も今日はもう切り上げるとしよう。
「ばかにして、逃げるのか」
扉へと向かう途中でロンの声が耳に届いた。振り返ると、顔を赤く染めたロンが杖を握りしめていた。
見る限り、ドラコに騙された事を認識し怒り心頭と言ったところか。横に居たハリーの手を振りほどき一歩前にでてくる。
「逃げるも何も、私は関係ないでしょ」
私が肩をすくめながら、扉へと再び向き直る。私が知る限りロンは猪突猛進と言うのかスリザリンを人一倍毛嫌いしているようだ。
私も敵意を向けられ相手をなお好くほどお人よしではない。
「へぇ、やっぱりスリザリンは腰抜けだな、決闘すらまともにとりあえないなんて」
頭に血が上り何も考えていないのだろうが、私もそこまでバカにされて黙っているわけにもいかない。私に喧嘩を売ると言うのはどういう事かをキチンとたたき込んでおかねばならない。
「吐いた言葉は呑み込めない事、わかっているのかな?そこまで言うならいいよ。受けて立つよ」
私は体をロンの方へと向け袖口から素早く杖を引き抜く。
「先手はどうぞ。好きに始めなよ。ハリーよく見ておきなよ」
そう、ロンから視線を外さずに伝える。
ハリーからの返答は無かったが、代わりにハーマイオニーが言った。
「お願いやめて、決闘なんて。校則で禁止されているのよ?」
「だから?それに私と決闘になんてならないよ。どうせ私に害を加えられる程の魔法なんて使えないでしょ。これは教育だよ。私に杖を向けることの意味を教えてあげないとね」
そんな侮蔑と共に答える。
「ばかにしてっ!!」
ロンが顔を真っ赤にして杖を振る。
パチッと音と共に赤や黄色の火花が向かってくる。
私がけだるそうに杖を振ると色とりどりの火花は一筋の煙を残して消えていく。
それに驚いたのかロンは知ってる限りの呪文を唱え杖を振るが同じく火花が散るだけだった。
「もう終わり?」
「っ・・・!この!」
私の言葉に対して杖を握りしめると殴りかかってきた。
えぇ・・・?。魔法使いの行動じゃないでしょ。
相手を軽くよろめかせる程度に威力を抑えた武装解除術をロンへと向けて放った。
赤い閃光が鋭く走る。ロンがしりもちをつくと同時に、空中を舞う杖を捕まえそのままロンの鼻先に私の杖を突きつける。
「この私に杖を向けるのはせめて嫌味ではなく呪文を言えるようになってからにするべきだったね」
「っ・・・!」
さっきまでの威勢はどこかへと去ってしまったのか、ロンは赤かった顔を青くしながら鼻先の杖を見つめていた。
「やめてくれ、ゴーント」
「サラ、やめてっ」
ハリーとハーマイオニーが私にお願いをしてくる。
別に害するつもりは全くなかったが二度と私に喧嘩を売らなくするくらいビビらせるのは今後の為になるというものである。
私はあえてニヤリと笑うと続けた。
「なぜ?先に杖を抜いたのはロンでしょう?私に対して二度と同じことをしないように、自分のした事の愚かさをその身に刻んであげないとね」
杖さきが赤く光だし、その光を見ているロンは今にも泣きそうだった。
「何がいいかな?敗北者と顔に刻もうか・・・」
目の端でハリーが杖を握ったのが見えた。
「なーんてね」
そんな緊張した空気を自ら弛緩させると杖を下げる。
「ほら」
杖をこちらに向けようかとしていたハリーへロンの杖を受け取れるように軽く放り投げた。
ハリーは杖を受け取るとこちらを真っ直ぐに見た。
「ゴーント、どういうつもりだ?」
「どういうつもりも何も。別に元から何もする気ないもの。私の事を馬鹿にするからちょっと懲らしめただけ。それとも何?続けてほしかったの?」
「そうじゃないけど・・・」
3人ともびっくりしたような顔をしている。
「前も言ったかもしれないけどさ。私別に寮のくくりと確執とか割とどうでもいいんだよね。私にさえ危害およばなければさ。ドラコ達とは好きなだけ喧嘩すればいいんじゃない?それが悪いとは思わないし。ただし私に杖を向けることがどういう事態を招くかは3人共覚えておくんだね」
ハリーとロンは信じられないようなものを見ている顔をしていた。
「じゃ、私はもう行くけどいいかな?」
私の言葉で我に返ったのか少し泣きそうな顔でハーマイオニーがこっちを向く。
「サラ、あなた怖かったわ」
「そう感じたのであれば何より」
「さぁ、もう充分でしょ。三人とも寮へ帰りなよ。私はまだ散歩の途中だからさ」
そう、言葉を発した時、私たちではない声が廊下から聞こえてきた。
「そうかい、そうかい、声がするのはこっちの部屋だな」
フィルチだ。防音性があるわけでもない部屋で騒いでいたら当然の帰結である。
全員今度こそ顔面蒼白だ。
「どぅれ、トロフィールームだね・・?いい子だ」
「コロポータス!」
私はとっさに扉を封鎖する。
私の声で我に返った3人は、ハリーのこっちだ!という声で反対側の出口へと走り出す。
私ももう一度目くらましかけようと杖を振り上げた所でその腕をつかまれた。
「え?」
「サラ何してるの!逃げるのよ!」
ハーマイオニーだ。私が戸惑っている間に彼女は私をひっぱりどんどんと走っていく。
思ったより強い力で私はなぜか彼らといっしょに城を走り回るハメになった。
「ちょ、なんで・・・」
「黙って走って!捕まったらどうなる事か・・・」
私は姿が消せるし抜け道もいくつか知ってるから逃げ切れると止まって言いたかったが、急なマラソンで脳は酸素不足で悲鳴を上げてるし
思いのほか彼女の手を引く力もつよくそのままハリーの誘導に従ってついてきてしまった。
「ここだ!この扉に隠れよう!」
「だめだ、ハリー開かないよ」
しばらくのマラソンの後1枚の扉の前で止まると、ガチャガチャと扉を揺らすが開かないようだ。
「どいて!アロホモラ!」
ハーマイオニーが二人を押しのけ開錠すると、皆でその扉に飛び込んだ。
私はゼイゼイとせき込みながら息を整えあたりを見回す。
何となく生臭い。
「何処だここは・・・・・・は?」
あたりを見回して正面を向いたときに思わず止まってしまった。
それと真正面から目が合ってしまったからだ。犬だ。しかもとびきりでかい犬だ。私の3倍はあるかも知れない。
だが、問題はそこではない。その犬は体の上に頭が三つ乗っていたのである。血走りよだれを垂らし、黄色い牙をむく頭がみっつ。牙には魔法生物特有の呪いが視える。
「ちょっと」
フィルチを巻いた事に喜んでいる3人に声をかける。
「扉までゆっくり下がって」
私の声に三人はほぼ同時にそれに気が付いた。因みに3つの頭も同時に私たちに気が付いた。一瞬間があったが犬と目が合うと同時に全員で叫び扉の外へとなだれ込みそのままクモの子を散らすように全速力でそれぞれが走り出した。
どこをどう走ったのかあまり覚えてないが、私はどうにか談話室へとたどり着き、そこでソファへとへたり込んだ。
しばらく放心していたが、どうにか頭を再起動させる。
ゆっくりと、先ほどの出来事を頭の中で整理する。
トロフィールームでつい調子にのって長居をしすぎてしまった。が、まあここまでは大丈夫。
問題はそのあとだ。今思えばあの最後に逃げ込んだ場所は例の廊下だったのだ。
四階の廊下。痛い死に方をしたくなければ近づくなとダンブルドアお墨付きの場所である。
たしかにあの犬、種族的にはケルベロスだろうか。確かにあいつに頭をかみ砕かれれば痛い死に方をするだろう。だが、注目すべきは犬ではなく床だ。いや床ではない。
「あれは・・・、扉だった」
そう、あのときは酸欠でそこまで頭が回ってなかったが、あれは扉とその上に立つ犬、つまりは番犬だったわけだ。
日刊預言者新聞の記事、クィレルの言葉、先生の言葉を繋げていく。
「グリンゴッツから移動した何かをホグワーツで守っていて、クィレルが誰かの指示で盗もうとしているって所ですかね・・・」
まだ動悸が完全には収まっていないし今夜はこれ以上考えても何も結論はでなさそうである。
まったく、昨日といい今日といいろくな事が無い。とりあえず明日ドラコはぶちのめそう。
私は八つ当たりを心に決めながら、のろのろとベッドへと入り込むのだった。