ハリーポッターとゴーント家の令嬢   作:ゆきみかん

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ぼちぼちと。


1週間目

夢を見た。

 

 

闇の中に幼い私がたたずんでいた。

 

『お母様・・・。』

 

幼い私は母を求めるが、体がこわばってその場から動くことができなかった。心も体もまるで自分のではない様におもえる。これは触ってはいけないものだ。

 

寒い。

 

体から何かがこぼれ落ちていくような感覚。私が私じゃなくなる感覚。

 

私はこの闇を知っている。私は母の最期の瞬間母の心とつながっていた。

その時、感じたものと同じ。・・・そう。これは死なのだ。私が見て触れてはいけなかったものなのだ。

 

力が抜け、今立っているのか座っているのかもわからない。

 

私の意識はそこで途切れた。

 

 

 

 

「・・・ラ。・・・・サラってば」

「んん・・・」

 

目を開けると私を覗き込むように心配そうな顔のダフネが見えた。

 

「ダフネか・・・。おはよう」

 

私が起き上がると、少し距離を離す。

 

「おはよう!じゃなくて大丈夫?」

「・・・何が?」

「すごいうなされていたから・・・心配になっちゃって」

 

そう、不安げな顔をしたままのダフネ。

うなされて・・・?確かに動悸がひどい全身汗をかいたようで気持ち悪いがうなされていた記憶は全くなかった。

 

「いや?覚えてないよ。まあ、枕が変わったからじゃない?」

 

そういって軽く笑うとベッドから立ち上がる。

 

「そう?大丈夫ならいいんだけども・・・」

 

未だに不安そうなダフネをしり目に枕元に置いていた杖を取ると全身に清めの呪文をかける。

 

「本人が大丈夫ってんだから大丈夫でしょ」

「そうそう。それより早く広間に行きましょ。おなかすいちゃったわ」

 

同室のパンジーとミリセントが横からそう答えた。

 

「もう、二人とも・・・」

「いや、二人の言う通り。ホグワーツ最初の授業を空腹状態で受けたいとは思わないよ」

 

大広間でスリザリンのテーブルへと向かうとクラッブとゴイルが朝食とは思えない量を食べているのが見えた。うへぇ・・。

 

「やあ。ここに座りなよ」

「ドラコか。いや。私は・・・」

 

目の前で綺麗とは言い難い食べ方をしている二人の前にわざわざ座る趣味は私にはない。しかし私が断る前に横から声が割り込む。

 

「ありがとうドラコ。ねぇ。甘えましょう?こんな機会なかなかないわ」

 

パンジーが辟易とする笑顔をドラコへ向けながらすでに座っている。

 

確かに目の前で食い散らかしている奴らを見ながら食べる機会は今までなかなかなかった。全く好ましいとは思えないが。

私は軽くミリセントとダフネを見ると溜息をつきながらクラッブ達と斜め反対へと座った。

 

「ねえ、クラッブ・ゴイル。もう少し静かに丁寧に食べれないの。見苦しいかんじなんだけど」

 

そう苦言を呈する私の言葉が届いたのか、二人は一旦手を止めるとこちらを見て、そのご本人たちなりに実践しようとしたのかゆっくりと手を動かして食べ始めた。

10秒後には元に戻っていたが。

 

「朝から疲れるな。まったく」

 

二人を視界の外に追い出すと私も朝食へと手を伸ばす。

 

「二人に何を言っても大した意味はない。食ってる時のこいつらはトロールがローブを着て杖をもってるようなものだからな」

 

そうドラコの隣に座っていた背の高い筋張った男の子が声をかけてきた。

 

「誰?」

 

私が食事に目を戻しながら答えると、背の高い男の子の横に座っていたドラコがパイを手に取りながら答える。

 

「同室のセオドール・ノットさ」

「ノットだ。聖28一族のノット家の長男さ」

「サラ・ゴーントだよ」

「ゴーントだと・・・?」

 

ノットはすぅっと目を細めるとこちらを凝視してくる。

 

「私の名前がなにか?」

「いや、父上からすでに滅びた一族と聞いていたものでね・・」

「一応は私が現当主になるね」

「お前は・・君は自分の家系のことを良く知っているのか?その・・・血脈の事だ」

 

ノットは慎重に言葉を選びながら私だけに聞こえるように話している様だった。

 

「当然。だがどうという事はないよ。確かに祖先や血に誇りは持つけど、私は私」

 

私の答えに多少めんくらったようなノットだったが、軽く頭を振ると話を続けた。

 

「ノット家は純血であることや特にその中の血脈について重要視する。だから俺にはお前の考えは理解しかねるが・・・だが・・・お前の考えがそういう事なら俺の考えを押し付ける気はない。確かに血を通してお前をみるのは失礼にあたるな」

「分かってもらえたようで何より。血脈の上で自分が何をするかだよ」

「お前の考えはよくわかったよ。これからよろしく頼む」

「ええ」

 

ゴーント家とその祖先を知るものが同学年にいるとは思わなかった。ゴーントを知る人間から声をかけてもらえるのだから、父の足跡を探す意味でも名前を変えたのは正しかったといえるだろう。

しかしやはり滅びた一族という話は皆同じだな。

まあ、コイツならそう言いふらしはしなかろう。別に血の事がホグワーツの皆に知られるのが嫌なわけではないが、私の存在を皆が知るくらいまではせめて現状を維持したいものだ。こう変にへりくだられるのはまっぴらごめんだが。

そう思いながらチラリと隣をみるがパンジーはドラコとのおしゃべりに興じでいたし、ダフネはミリセントと話しながらクラッブとゴイルとコミュニケーションを取ろうとしてるようだった。

その後ノットも話をぶり返す事はなく、今後の授業の話をたまにする程度で朝食の時間は過ぎていった。

 

 

私達が食べ終わっても食べ続けていたクラッブとゴイル、そして二人だけでは変身術の教室までこられないだろうからと残ったドラコを置いて変身術の教室へと向かう。

流石に最初の授業から遅刻していく必要はあるまい。

 

教室へと入る。

「楽しみだなぁ。変身術」

「ダフネは変身術が好きなの?」

「うん。魔法をつかってるって実感できる所が好き」

 

ダフネの言っている事は分からんでは無い。だが、変身術も然り魔法全てに言える事だが複雑な魔法式や構築式を理解した上で無いと魔法を使うことは出来ない。

杖をふって呪文を唱えるだけではないのだ。しかし逆に言えば魔法構築式を理解さえしていれば魔法を使うのは難しくない。

 

「サラはどの科目がたのしみ?」

「特定のものはないな。どの科目でも私の知識の糧になる事は間違いないからね。強いてあげるなら、そうだなー。戦闘系魔法や魔法薬学かな。変身術もそうだけど」

「うぇー、サラあんた正気?全ての勉強が楽しみとか何しにホグワーツにきたのよ」

「ホントホント。出来る限り楽したいわ」

 

パンジーとミリセントがそういう。

じゃあ何をしに来たのだと聞こうとしたが、ミリセントはともかくパンジーの答えは予想できたので聞くのをやめた。

 

 

チャイムが鳴ると同時にドラコが駆け込んでくる。

 

「お前らがいつまでもバカ食いしてるからだぞ!マクゴナガルが居ないからよかったようなものの・・」

 

ドラコがそうこぼした瞬間、教卓の上に居た猫が床に飛び降りると同時にマクゴナガルへと変身した。

 

驚いて目を白黒させているドラコ達に対してピシャリと言い放つ。

 

「マルフォイ・クラッブ・ゴイル。初日ですから本日は多めに見ましょう。ですが私の授業では遅刻は厳禁です。以後気をつけなさい」

 

教卓の猫はそうじゃないのかと思っていたが、やはりマクゴナガルだったようだ。

変身術の教諭がアニメーガスだとは。

 

ドラコ達を座らせると、マクゴナガルは続けた。

 

「変身術はホグワーツの中で学ぶ魔法の中で最も危険で複雑な教科の一つです。いい加減な態度だったり、私語を行う生徒にはでていってもらいますし、二度と私のクラスには入れはしません。初めから警告しておきますよ」

 

家に来た時から感じていたが、マクゴナガルは厳格で厳しい性格のようだ。これからホグワーツで生活する上で教師の性格を把握しておくと色々と役立つだろう。

 

マクゴナガルは生徒全員がきちんと自分の話を聞いたのを確認するとでは変身術を始めましょうといって、教卓を無言で豚へと変えまた元に戻してみせた。

 

「うわぁ!」

ダフネを始め、スリザリンの生徒が感嘆の声を上げた。皆から早く試してみたくてうずうずしている気配を感じる。

 

その後当然杖を振る前に散々と複雑な魔法式のノートを取る事となる。

パンジーやミリセントはこの時点で脱落したらしく、途中からノートと格闘する振りをしていた。

私は構築式を視たり考えたりいじったりするのが好きなので何の苦にもならなかった。

はなからこの程度の基礎でつまずいているようでは私は私でなくなってしまう。

そもそもとっくに習得してる魔法でもあるわけだし。

 

「さあ、十分に本日行う基礎変身の概念は理解できましたね?」

 

マクゴナガルはそう言うと一人につき一本ずつのマッチ棒を配った。

全員の目の前に配られると、それを針に変える練習がはじまった。

 

「「アキュートス!」」

 

皆がそう呪文を唱えるが誰のマッチ棒にも変化が起こらないようだった。

おそらく、呪文を唱えるだけで、結果や過程の物質の組成を変化させる構築式が理解しきれていないためだろう。もしくは変化へのイメージが足りないか。

一度理解さえしてしまえば、この手の変化は難しくない。この理解の部分が全ての魔法の難しい部分といってもいい。

構築式と呪文、杖の振り方さえ間違えなければ効果が出ないという事は無いはずだからだ。

基本ができた上での魔法の精巧さや威力などはイメージ力によっても大きく左右される所ではあるけども。

マクゴナガルは教室を見て回りながらアドバイスや呪文の間違いの注意をして回っている。

さて、私も試すとしよう。

 

 

「さてと、アキュートス」

 

鋭く突くように杖をマッチ棒へと向けながら金属の材質や針の鋭さをイメージしつぶやくように呪文を唱える。

マッチ棒の色が白銀へとかわり、細く、鋭く変化する。

 

「わ、サラすごい!どうやったの?」

隣で見ていたダフネが目を丸くする。

 

「構築式を理解して尖った針をイメージして呪文を唱えるだけだよ」

 

私がそう言い放つと逆隣のパンジーがすごい顔で私を見ていた。何をいっているんだと言わんばかりに。

 

「すばらしい!ゴーント。よくやりましたね」

 

後ろからマクゴナガルが声をかけ、スリザリンの皆に私の針が銀色でいかに尖っているかを見せた後に私に向き直り続けた。

 

「最初の授業でマッチ棒を変化させられる生徒は多くありません。スリザリンに5点を与えます」

 

ホグワーツの最初の授業での得点に皆が湧き上がる。

 

「さあ、他の皆もゴーントのように変化させられるよう練習なさい」

 

その後授業の終わりまでで変化させられたのは私の他、隣で構築式のわからない点などを私に聞きながら練習していたダフネだけだった。

ダフネの努力にマクゴナガルが3点を与えスリザリンは合計8点をもらい上々の滑り出しだった。

 

最初の1週間は矢の様に時間が過ぎていった。

ホグワーツには最初の歌の通り1年生の空っぽの脳みそに知識を詰め込むべく数多くの授業がある。

水曜日の真夜中には望遠鏡で星を眺め惑星の動きを学ぶ天文学をオーロラ・シニストラから学び、週3回ある薬草学ではずんぐりした魔女ポモーナ・スプラウトと温室にて魔法植物を学ぶ。

魔法史はなんとゴーストのカスバート・ビンズから歴史を学ぶのだ。私は過去に興味を持たないが過去の出来事や失敗を知る事で自分の役に立つこともあるとわかっているのでサボりはしない。

フィリウス・フリットウィックが教える妖精の魔法。1年生では大した呪文は習わないが高学年になると呪文学で数多くの魔法を習うことができる。

 

私が最も期待していたのは闇の魔術に対する防衛術だったが、正直これは期待はずれだった。闇の魔術とそれに対しての防衛術。つまりは現存する強力な魔法とその魔法の対抗策を学べる・・・・はずだった。正直私は闇だろうが光だろうが私の力の一端には変わりないので全てを吸収するつもりだったが、この授業で吸収できたのはにんにくの臭いだけだった。思い出すだけでも酷い。

 

「で、では。しゅ、出席をと、とりますね」

 

教室に入った瞬間からにんにくの強烈な匂いに辟易としていたが、昔ルーマニアで吸血鬼に襲われたとの噂を聞き多少は同情する。だが同時にこの授業に対する最初の落胆を感じた。吸血鬼ににんにくはマグルの対処療法だ。たしかに吸血鬼は鼻がよいので強い匂いに対しては弱いが、根本の解決にはならないしにんにくに頼るということは同時に魔法での対処を出来ないということだ。この教師の技量が知れる。

 

「ダフネ・グリーングラス・・サラ・ゴーントっ・・・!」

 

クィレルは私の名前を呼ぶと同時に頭を押さえ、怯えた様な声で私を見たのだ。

 

「はい。なにか?」

 

「ヒッ・・ゴーント・・?いえ・・・な、なんでもありません」

 

それ以降私が何の質問をしても怯えるだけだったのでこの授業、クィレルに対しての期待をやめる事にした。

図書館で知識を補わなければ。

 

この授業で得られたのは、教室をでた後で自分の匂いをいやそうにしているルームメイト3人に脱臭の魔法を掛けてあげたことによる感謝の眼差しだけだった。

 

 

最初の1週間も終わりの金曜となると1年生はどの生徒の顔にも疲労がはりついていた。

 

「まいっちゃうわ。頭を使う授業ばっかりで」

 

パンジーが朝食を食べながらそうこぼす。

 

「まったくだね。はやく飛行訓練で箒にのりたいよ」

 

さしものドラコも疲れたのか机に肘をつきながらそうつづけた。

 

「私はわりと楽しいよ。大変なのはそうだけど分からないことはサラに教えてもらえるし・・ね?」

「ええ。私も・・・」

 

ダフネからの問に答えた所でドラコの手によって私の言葉は遮られた。

 

「サラの答えはわかってるさ。さすがにこの1週間で大体君の勉強と言うか知識に対する熱意は理解してるさ」

「そうだな。俺とチェスをしたりダフネたちと話をしながら空いた時間で図書室からおよそ1学年目で見るものでは無い本を読んだりしてるしな」

「ね。でもサラのすごい所はガリ勉って感じじゃなくて私達と普通に遊んでる事と自分の時間を一緒につくってるところだよ」

どんだけ私を持ち上げてくるんだよと思いながらノットとダフネの言葉を受けると軽く肩をすくめ答えた。

 

「ノットはチェスが弱いからね。それに生活の一部に自習を加えてるだけで特別な事はしていないけど」

「それが私からはありえないんだけどね。まあ、サラと同室のお陰でテストはなんとでもなりそうだわ」

 

ミリセントが頼んだわよと話しかけてくる。

 

「それ、私になんの利があるの?それに勉強する気のないのに教えたところで・・・」

「ま、まあまあ。試験の前はみんなで勉強しようよ。せっかくサラのお陰で今のところ得点は1位なんだからさ。試験もみんなでいい点とろ?」

 

ダフネは相変わらずいいやつだった。私には過ぎた友人だ。おそらくダフネと知り合っていなければ私から誰かに話しかける事はしなかっただろうからな。

 

「ところで今日の授業はなんだったかしら?」

「魔法薬学さ。グリフィンドールと合同のな」

 

パンジーに続けてドラコが吐き捨てるように言う。

 

「まったく、あんな奴らとの合同授業があるなんてね。父上に上訴してやろうか」

「私あの人達嫌いよ。何かとつっかかってくるし」

 

パンジーの言葉を聞きながら考える。たしかにグリフィンドール生はなにかと因縁をつけてくる傾向にある。汽車の中のウィーズリーを始め大体のグリフィンドール生はあんな感じだった。こればかりは長年の軋轢らしいのでどうしようもないだろう。とりあえずは私に直接的な事がない限りは正直どうでもよかった。

 

「この学校創設以来の事だから。どうしようもないのかもね」

 

そう言うとと立ち上がる。そろそろ魔法薬学の教室へと向かわなくては。地下牢で行うらしいので食堂からは時間がかかるし、この城のやっかいな構造が加わればなおさらだ。階段は動くし肖像画は移動する。まったくふざけている。

 

「あ、サラまってよ」

 

後ろからダフネ達がついてくるのを見ると食堂を後にするのだった。

 

地下牢の壁にずらりと並んだアルコール漬けの動物をしげしげと眺めていると急激に扉が開きスリザリンの寮監で私の後見人のセブルス・スネイプがマントを翻しながら登場した。

 

「出席をとる」

 

そう言うと、有無を言わさず生徒の名前を読み上げ始めた。

 

そして、ハリー・ポッターの名前までくるとニヤリと笑った。

 

「ああ、左様。ハリー・ポッター・・・我らが新しい――スターだね」

 

ドラコ達がくすくすと冷やかし笑いをした。

 

どうやら、ハリー達とドラコは決定的に気が合わないらしく会うたびにいがみあっていた。私やダフネは普通に挨拶していたがそれも気に入らない、やめるべきだとよく口を出してくる。

 

スネイプは出席を取り終えると生徒を見回し、言葉を続けた。

 

「このクラスでは、魔法薬調剤の微妙な科学と、厳密な芸術を学ぶ―――」

 

スネイプの囁くような声は不思議と地下牢の中によく通った。

 

「このクラスでは、杖を振り回すようなバカげたことはやらん。そこで、これでも魔法かと思う諸君が多いかもしれん。沸々と沸く大釜、ユラユラと立ち上る湯気、人の血管の中をはいめぐる液体の繊細な力、心を惑わせ、感覚を狂わせる魔力。諸君がこの見事さを真に理解するとは期待しておらん。我輩が教えるのは、名声を瓶詰にし、栄光を醸造し、死にすら蓋をする方法である。ただし、我輩がこれまで教えてきたウスノロたちより、諸君がまだマシであればの話だが」

 

まるで皆石化呪文を掛けられたかの如く身動き一つしていなかった。

 

「ポッター!」

 

急にスネイプの鋭い声が地下牢に響いた。

 

「アスフォデルの球根の粉末にニガヨモギを煎じたものを加えると何になるか?」

 

ちらりと、ハリーの方をみる。どうやら分からないようで隣のロンに助けを求めていたがやはり分かっていないようだ。

しかし、この薬は本来低学年で習うような内容ではない。だが先生は教科書の内容で満足するな高みを目指せと言うことだろう。もしくはただの嫌がらせだ。

私はわかったが寮対抗のライバルにあえてあげるほどお人よしではない。

 

「分からんのかね?チッチ。有名なだけではどうにもならないらしいな」

 

そう笑うと、誰か分かるものはいないのか?と続ける。

ハーマイオニーが高々と手を上げていたが無視されていた。その他に分かるものはいないらしく誰も手を上げていない。

ダフネも思い出そうとしているようだがなかなか頭から答えを引き出せないようだった。

先生の点数を稼いでおくか。私は目の前で手を上げた。

 

「ほう。分かるかね?ゴーント」

 

私の手があがり明らかに機嫌がよくなっているのが分かる。

 

「はい。アスフォデルの球根の粉末にニガヨモギ、正確には後刻んだカノコソウの根、催眠豆の汁を加え混ぜたならばそれは【生ける屍の水薬】と呼ばれる強力な眠り薬になります」

 

「素晴らしい。正確な答えだ。スリザリンに5点」

 

ニヤリと笑うとハリーの方へと向き直りピシャリと言った。

 

「では、ポッター。もう一つきこう。ベゾアール石を見つけて来いと言われたら、どこを探すかね?」

 

グレンジャーがこれでもかと手を高く上げていたがスネイプはまた無視してハリーをまっすぐとみた。

 

「わかりません」

 

ハリーはそう、つぶやくように答えた。

 

私の目の前で腹をよじって笑っているドラコを軽く睨みつけ手を挙げる。

 

「ふむ、ゴーント答えたまえ」

「ベゾアール石とは山羊の胃から取り出す石のことです。大抵の毒薬に対する解毒剤になりますが、非常に入手は困難です」

「そのとおり。スリザリンに5点」

「クラスに来る前に教科書を開いて見ようとは思わなかったわけだな? え、ポッター」

 

更に意地悪く笑みをうかべたスネイプは続けた。

 

「ポッター、モンクスフードとウルフスベーンの違いは何だね?」

 

「わかりません」

「だけど、ハーマイオニーがわかっているようですから、彼女に質問してみたらどうでしょう」

 

ハリーの答えに生徒数人が笑い声を上げる。ドラコなど倒れんばかりだ。

もはや立ち上がって手を上げていたハーマイオニーを睨みつけるとスネイプは座りなさいとピシャリと言った。

 

「ポッター、君の無礼な態度でグリフィンドールは1点減点だ。さて、ゴーント?これも分かるかね?」

「はい先生。違いはありません。モンクスフードとウルフスベーンは同じ植物で、別名アコナイトともいいますがつまりはトリカブトです」

「よく予習しているようだなゴーント。スリザリンに5点」

 

よくわかった。ハリーに対してはただの嫌がらせに間違いない。

そしてスリザリンが6年間寮杯を得ている秘密を垣間見たきがした。まあ先生が公平性が高いとか全く思ってなかったけどもね。

 

「ところで諸君、何故今のを全てノートに書き取らんのだ?」

 

スネイプの言葉で皆石化が解けたように羊皮紙と羽ペンをだした。

 

ようやく、薬の調合に入るとペアのダフネがスネイプにバレないように話しかけてきた。

 

「やっぱサラはすごいね。私何処かで見たんだけど全然でてこなかったわ」

そう悔しそうにダフネが言った。これは私に対してというよりは自分で思い出せなかったことにだろう。

 

「当然。先生は少し意地が悪いけどね。まあ私は点数を稼いだから問題ないけど」

 

そう話しながら薬の調合を進めていく。ダフネもきちんと1学年の予習はしているようで手間取ることもなく調合をすすめ順調に薬を完成させていく。

スネイプは黒いマントを翻しながらほとんど全員に対して注意を行っていた。

私とダフネの調合している薬を覗き込むと満足げに頷き次の生徒の元へと向かう。

 

「よかったみたいね」

「あたりまえよ。私が調合してるんだから」

 

相変わらず自信家だねとダフネは笑うと鍋を火から下ろし最後の仕上げに魔法薬が反応しきっている事を確認した上でヤマアラシの針を入れた。

シュワっという音と共に針が溶け綺麗なライラック色に変色する。

完成を見たスネイプが追加で5点をくれ皆に私達が完璧に調合したから火から鍋を下ろして集まるように伝えた所で事件は起きた。

 

突如地下牢いっぱいに強烈な緑色の煙が上がり、シューシューという大きな音が広がった。どうやらロングボトムの席の鍋が何故か縮れた塊になり

こぼれた薬が床を伝い近くの生徒の靴に穴をあけていた。ロングボトムは直に薬を浴びたらしくそこらじゅうからおできが容赦なく噴出しうめき声をあげていた。

 

 

「馬鹿者!おおかた火から下ろす前にヤマアラシの針を入れたな!」

 

スネイプは怒鳴ると杖で薬を消失させるとロングボトムの隣の男の子に医務室へと連れて行くように命じた。

そしてハリーに向き直ると

 

「ポッター、針を入れてはいけないと何故言わなかった?彼が間違えれば、自分の方がよく見えると考えたな?グリフィンドールもう1点減点」

 

ハリーは言い返そうとしていたが、ロンに大鍋の陰で小突かれてやめていた。

 

 

 

魔法薬学の授業が終わり、教室を後にしようとすると先生に呼び止められた。

 

「ゴーント、少し話がある。残りたまえ。他のものは先に行きなさい」

 

私と一緒に残ろうとしたダフネに教室からでるようにジェスチャーした。

ダフネは私のことをちらりと見たが、私が頷くとそとでまってるねと言って出ていく。

 

「お久しぶりですね、先生」

半分以上嫌味を込めて話しかける。

 

「そう言うな、サラ。吾輩はそれなりに忙しくてな」

「別にいいですけどね。今は寮監と寮生なだけですから。それにしても先生グリフィンドール、いやハリーになんか恨みでもあるんですか?」

 

先生は不機嫌そうに鼻を鳴らす。

 

「別に、特にどうもおもっておらん」

 

いやいや、明らかに嘘でしょと思ったが、先生は強引に話題を変えてきた。

 

「そんなことより、ミネルバから聞いたが血の調べを受けたそうだな?」

「はい。どこかの後見人さんがバックれたので」

「その件はすまなかった」

 

先生はバツが悪そうにしている。まあ、からかうのはこのくらいにしておこう。

 

「いえ、冗談ですよ」

 

先生は真面目な顔に戻るとつづけた。

 

「ゴーントの名を名乗る意味は分かっているであろうな?」

「ええ、まあ。スリザリンの直系でありそこそこ知名度あるようですし」

「左様。退して久しいゴーント家の者が表舞台に立つのは一部の者には大きな意味を持つ」

「そうでしょうね、ある程度目立つ事で父の足跡を探しやすくなる事も考慮してますし」

 

そういうと先生は顔をしかめた

 

「闇の帝王もサラザール・スリザリンの血を引いていると言われているのは知っているな?」

「は?え、ええ。まあ近代史とかではそういわれてますよね。あー、つまりあれですか?ヴォルデモートの血縁者だと見られるって事です?」

「さよう。良くも、悪くもだ」

 

なるほど、たしかに死んでいるとは言えヴォルデモートの血縁ですよーと触れ回るのはこの世間であまり好印象は与えなさそうではある。

あれ?まてよ?闇の帝王もスリザリンの血縁で・・・

 

「先生、ぶっちゃけ私の父親ってヴォルデモートって落ちはないですよね?」

 

先生は首を振るとつづけた。

 

「真偽は確かめようがない、だがおよそ考えられないだろう。闇の帝王は愛には無関心だった。だが闇の帝王と君の間に血のつながりがある事はおおよそ間違いない」

 

まあ、そうでしょうね。

 

「ヴォルデモート血縁者ってよりスリザリンの血縁者って思ってもらいたいですけどね私としては」

「残念ながら世間から見るとどちらもそう違いは無いだろう。闇の帝王の勢力からもそれ以外の勢力から見たとしてもな」

「うーん、まあ私生まれた頃に死んだヴォルデモートの事正直全く知らないから分からないですけどね。まあ、サラザール・スリザリンの事も同じですけども」

「どちらもある意味偉大な魔法使いには違いが無い。だが・・・。ふむ・・・」

「どうしたんです?」

「いや・・・。そうだなサラは知っておいてもいいだろう」

「だから何の話です?」

「闇の帝王は恐らく完全には死んでおらん」

 

は?急に話が私と血がつながる云々が消し飛ぶ程のビックニュースである。

 

「え?なんの冗談ですか?」

「吾輩は冗談を言わぬ」

「そうでした。茶目っ気無いですもんね先生。・・・ってそうじゃなくて。えぇ・・・?」

 

全く理解が追いつかないが先生曰くヴォルデモートは死んでないらしい。

どういうこっちゃ。私は別に実際に見聞きした訳じゃないからヴォルデモートに対して恐怖とかは無いからあれだけどダフネとかが聞いたら気絶するぞ・・・。

 

「そもそも11年間活動していないから死んだのでは無いかと言われてるだけで闇の帝王自身の死が確認されたわけではない」

「そらそうかもしれませんけど。つまりはそれ死んだと同義では?」

「力を失っているが正しいだろう。だがいつかは舞い戻るだろう。そのためにもサラにはそのことを理解しておかねばならん」

「急に講義終わりにこんな話をされても全く理解が追いつかないですけども」

 

ここで先程の一部勢力には大きな意味ってとこがようやく分かった。

所謂死喰い人にもその反対勢力にももしヴォルデモートが復活したらその血縁者とは確かに大きな意味を持つだろう。

はやまったかな・・・?一瞬そんな大きな話になるとは思ってなかった事を後悔したが、とはいえ私がスリザリンやヴォルデモートの血縁者なのは変わらないのでどちらでも同じだったなと思い直す。

 

しかし先生前から思っていたけどもヴォルデモートにえらい詳しいな・・・。

手ほどきを受けた魔術の中には明らかに闇の魔術に属するようなものもあったし。

深くは気にしないけど。

 

「というか先生、この話名前変えた後にする事ですか?変える前にすべきでは?ていうかそもそもこの話私が聞いていい話でもないってとこもあるのですけども」

 

「いや、名乗ったからこそ念押しをしたのだ。君の周りにそれを利用しようとする輩が現れるやもしれん。ともあれ、後見人としてだけでは無く今後は寮監としても君のそばにおる。何かあれば遠慮なく言いたまえ。特段特別扱いする気はないがね。闇の帝王に関しては当然他言無用だ。サラが余計な混乱を引き起こす事はしないと吾輩は信じているがね」

 

特別扱いなんてもちろん望んでない。先生に遠慮した事なんて無いけどもね。

ヴォルデモートの事はまあ、とりあえずは忘れよう。うん。それがいい。

とりあえず現時点で困ってることを頼んでおこう。あのニンニク教師の代わりを探さないと。

 

「闇の魔術に対する防衛術が期待はずれでしてね。先生がポンコツそうなので自習に役立つ本を教えていただきたいのですが。もしくは入学前のように先生の個人授業でもいいですよ。私へというよりは優等生に対してのちょっとした配慮と言う事で」

 

先生はうなづいて幾つかのタイトルを走り書くと私に渡してきた。

「残念ながら、吾輩はそれなりに忙しい。自習に努めるのがよかろう」

 

そう言われると思ってましたよ。

 

「防衛術に限らず1週間経ちましたけど、ホグワーツの講義内容思ったほどじゃないですね。拍子抜けです」

 

先生は満足そうにうなずく。

 

「当然そう感じるだろう。吾輩の個人講義も含め君のレベルはすでに平均的な上級生レベルはゆうに超えている」

「で、あれば自分から学んでいくしかないですね」

「左様。大いに励みたまえ。母上もお喜びになるだろう」

「先生、たまに研究室にお邪魔してもいいですよね?」

「・・・好きにしたまえ」

 

しっかりと言質を取る。この人は他人との付き合い方がへたくそすぎるからこっちからある程度近づいて上げたほうがいいというのが私が数年で得た結論だった。

 

 

先生はうなずくとマントを翻し準備室へと消えていった。

 

「さて、ダフネのとこに行くとしますか・・・」

 

私は薄ら寒い地下牢で軽く身震いすると先に行ったダフネを追いかけるのであった。

 

 

 

 

 

 

 




オリジナルスペル
アキュートス。ラテン語の針より。
針への変化

12話との整合性を取るために、スネイプ先生との会話に一部加筆しました。
申し訳ございません。
ヴォルちゃんのくだりです。

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