ある補佐役の日常・・・星導館学園生徒会にて   作:jig

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IS IT LOVE

 

 

アスタリスクの夜。

満天の星空。

 

再開発エリアの廃ビルの屋上であっても、空と夜景は美しい。

その淡い光の下に、少年と少女が佇む。

 

「本気・・・なのか?」

 

「もちろん」

 

「・・・本当に、変わったやつだな。お前は」

 

二人のシルエットが寄り添う。

 

 

(あー・・・こりゃちょっとまずくないかい、クロちゃん)

 

 

傍から見ると実に良い雰囲気の二人。

天霧綾斗とユリス=アレクシア・フォン・リースフェルト。

その天霧の方は、クローディアの(多分)想い人だ。

 

このまま進展させる訳にはいかないし、そもそもいつまでも見てる訳にもいかない。

 

涼は煙草を咥えると、愛用の電熱ライターのスイッチを入れる。

 

カチッ。

小さいがよく響く作動音に、二人が振り返った。

 

「!」

 

 

「せっかくの所、邪魔してすまんね、お二人さん」

 

「志摩先輩・・・ですか?」

 

「どうしてここに!?」

 

「どうしてって・・・会長に言われて来たんだが。迎えに」

 

「そうですか・・・。ありがとうございます」

 

と言いながら、天霧綾斗が顔をしかめる。かなりのダメージのようだ。

だがそれ程の激戦では無かったはずだが。

 

「天霧、動けるか?どこか負傷はないか?」

 

「怪我はありません。能力の反動のような物です。歩く位は何とかします」

 

「いや、駄目だな。このビル、あちこちが痛んでいる。階段もだ。そんな状態では降りるのは無理だろう」

 

多分普段の天霧綾斗なら、ここから飛び降りても問題ないだろうが、今は話にもならない。

結局ユリスの能力に頼る。

 

「いいか綾斗」

 

「うん、大丈夫だよ」

 

「よし。咲き誇れ。ストレリーティア!」

 

彼女の背から炎の翼が顕現する。

そして天霧を抱えたまま、飛び上がると地上に向けて降下していった。

 

それを確認した涼も能力発動して地上に転移する。

停めておいた車のドアを開ける。

ユリスに手を貸して天霧を後部座席に横たえる。

 

「ここまでしなくても」

 

「いいから横になっていろ、綾斗」

 

「よし、帰ろうか」

 

一足早く戻っているクローディアにメールで連絡すると、車を出した。

 

 

夜のドライブ。

外縁道路に出ると、右側は暗い湖面、遠くに学園の明かり。

 

しばらく無言の車内だったが、ユリスが躊躇いがちに話しかけてきた。

 

「その・・・志摩先輩。タッグパートナーは決まったのですか?」

 

「タッグ??ああ、フェニクスか。俺は出ないよ。いや、初めから出るつもりはなかった」

 

「「は?」」

 

驚いたのだろう、後輩二人の声が重なる。

 

「あれはフェイクさ。俺が出場表明すればあのサイラスが仕掛けて来ると思ってね。返り討ちにしてやるつもりだったが、空振りだったね」

 

「そう、でしたか・・・」

 

ユリスの声には少しだけ安堵の響きがあった。

 

「何だ?俺と戦いたかったのか、戦いたくなかったのか?」

 

「そ、それはその」

 

「まあいいさ。俺も君は相手にしたくないしな。能力の相性が良くない」

 

実際、涼の鏡像多重展開に対し、範囲攻撃で対処する方法は間違いではない。

単純な範囲攻撃ならともかく、ユリスの広範囲かつ立体的な爆破から逃れるのは面倒だし、設置型の罠を展開する能力も厄介だ。

 

(ま、戦う事は無いだろう)

 

 

 

学園に戻ると、そのまま車を保健室の前につける。

連絡はしておいたので、担当医と保険委員が待っていた。

念のため今夜はここで過ごすように天霧に言い含めると、生徒会室で輸送の手配をする。トラックを用意してオートドライブで現場に向かわせる。

それを確認すると現場に戻った。

 

やがて戦いの現場に、招集された風紀委員と一部の生徒会役員が集まってきた。

破壊されたパペットや武器の記録と回収を始める。

他学園(アルルカント)の関与の直接的な証拠になる為、慎重な作業になった。かと言ってあまり時間もかけられない。警備隊に見つかって介入されれば厄介な事になる。

周辺を警戒しつつ、全ての作業が終わったのは約1時間後。

もっとも学園に帰ってそれで終わり、とはいかない。

ある程度、事の整理に区切りがついて解散、となった時には日付が変わっていた。

 

 

 

 

翌朝。

 

毎度毎度の密談でどうかと思う涼だが、今回もそういう事態なので仕方がない。

その事態に対処する為、始業前の早朝と言っていい時間だが、お馴染みの生徒会長室に来ている。

 

「昨夜はお疲れ様でした。涼さん」

 

「それはお互い様でしょう。会長」

 

初夏の早朝。

会長室の大きな窓から差し込む光もまだ柔らかい。

その穏やかな明るさも、彼女の美しさを引き立てるようだった。

 

だが、二人共清新な気分でいられたのは最初の挨拶までだった。

 

「それで、証言の方はどうです?」

 

「もう色々出ているようですよ。影星の方々は頑張っているみたいですね」

 

つまり哀れサイラス・ノーマン君は、控えめに言っても社会的に見てどうかと思われる方法で事情聴取されている事になる。もっともその事で気を病むような精神をこの二人は持っていない。

 

「だったらこの一件、アルルカントの仕業で決定、かな?」

 

「ええ。ですが少し、物証もあれば便利ですね」

 

「わかりました。回収した残骸と金の流れ等を調べておきましょう。で、彼らにはどう償ってもらいますか?」

 

「やはり、技術面で賠償してもらいましょうか」

 

「うーむ。むしろ表に出して連中にダメージを与えるのはどうかな? 奴らの内輪もめに追加で燃料投下したら興味深い結果になりそうですが」

 

アルルカント・アカデミー。

アスタリスク六学園の中でも研究開発に力を置く学校。

その内部では、かなり派手な派閥抗争が行われている事は良く知られている。

 

「どうでしょう?彼らがそれをダメージと考えるでしょうか?それに結果の予測は難しいですよ」

 

「それもそうですね。やはり素直に水面下でケリをつけますか」

 

という訳で、この件は公にはならない事が決定した。

そして、先方には充分な代償を払ってもらう。

 

「そうしましょう。ついては誰と交渉するか、ですね。涼さんのご意見はいかがですか?」

 

「生徒会に言っても無駄ですね。研究クラスの有力派閥か・・・今回仕掛けてきたのもそのどこかでしょうし。パペット等を扱っていたのはどこだったかな?それとも・・・」

 

アルルカントは実戦系よりも研究クラスが力を持ち、尚且つ複数の有力派閥に分かれている。

学園自体の運営は特殊で、生徒会は各研究派閥間の調整機構でしかない。

 

「最大派閥ならばフェロヴィアスですね」

 

「そうそう。そうなると代表はカミラ・パレートですね。基本、真面目な奴だから、交渉相手としては妥当でしょう。ただあの女、技術者にしてはハードな人生を送ってきたらしいので、その点は注意ですね」

 

涼も聞いた事のある噂では半身サイボーグだと言う話まである。真偽はともあれ、ある意味厳しい状況を生き抜いてきたらしい。それはタフさにつながる。

 

「今後の調整次第ですが、交渉は私が行います。涼さんはその後の実務調整をお願いしたいのですが」

 

「了解。まあいつもの事ですね」

 

いかにも補佐役らしい仕事になる。

確かにいつもの事、だった。

 

 

 

これもいつもの事だが、生徒会長クローディア・エンフィールドの仕事は速い。

あっさりとアルルカントの有力者と話をつけてしまい、少しのんびり構えていた涼を慌てさせた。

 

とにかく技術提携という形は決定したので、その内容詳細を担当同士で打ち合わせていく。

装備局の学生も交えての話になるので、あまり無茶な交渉はできないが、煌式武装の共同開発について星導館の担当をアルルカントに出向させる事(自分の研究室に部外者を入れたがる者はあまりいない)と、開発費負担は7割(それだけ見ると多いようだが、実際はテストや再調整費用まで含んだ上での7割)という有利な条件で押し切った。技術レベルでは向こうが遥かに上である事まで考えると、上々な結果と言っていい。

 

 

 

結果は良かったものの、色々大変だった交渉の終わった翌日。

大学部にて。

 

志摩涼はごく普通の大学生である。

たまたまアスタリスクという特別な街で、ジェネステラかつダンテと呼ばれる特殊な能力者だが、それを除けば至って普通だと本人は考えている。

本人の認識はともかく、普通の大学生である以上は講義にはそれなりに出席する。

いくつか履修が怪しそうな単位がある以上、当然の事だった。

生徒会業務関係で多少疲れていようが、ちゃんと卒業する為には勉強についても努力が必要だ。

 

「―――よって、組織のリーダーにしても、ただ優れた人間でない場合もある。良い意味で言うと、部下を従えるよりも、部下からこのリーダーを支えていきたいと思わせるような人で、うまく組織が廻る事がある。歴史上の人物で言えば、古代の中華帝国、漢の初代皇帝劉邦などが―――」

 

ならばクローディアはどうなんだろう?

 

マネジメント工学。小さな教室で助教授の講義を聞きながら考える。

タイプとしてはどうあれ、能力は間違いなく彼女が上だろう。

古代中国の話がでたが、昔のシミュレーションゲーム風に言えば、知力、武力、魅力で負けて、政治力か統率力で何とか互角・・・いや、やっぱり負けているな。

 

そんな事を考えているうちに2限は終わった。

昼休みではあるが、何となく生徒会室に入る。

学食で買ったハンバーガー片手に空間ウィンドウを展開すると、メールや学内のニュースサイトをチェックする。

 

「そろそろフェニクスのエントリーも終了ですね。書記長、結局出ないんですか?」

 

「ん、ああ、そうだよ」

 

同じように暇つぶしに来たのか、それとも仕事か。

高等部スタッフが来ていたので雑談になる。

 

「惜しいなあ。いい所まで行けると思いますが」

 

「必要ないね。ウチからも優勝候補は出るし」

 

「優勝・・・ああ、あのお姫様のペアですか」

 

天霧綾斗とユリス=アレクシア・フォン・リースフェルトのダッグ成立の件はかなり話題になっている。

ただその方向はというと、大会ではなくあのお姫さまを「落とした」天霧とはどんな奴だ?といった面に偏っている。

 

「ま、ウチの学園にも見る目のない奴は多いらしいな」

 

「ですよね。会長がスカウトして、セル=ベレスタに適合したと聞いてもまだ軽く見ているって事ですから」

 

「その方が他学園にはカモフラージュになっていいんじゃないの?」

 

「そうかも。これで書記長が出てくれれば完璧なのに。あと1回、フェスタに出れるでしょう?」

 

誰かが話を蒸し返す。

確かに涼はこれまで2回、フェスタに出ている。そのいずれも王竜星武祭(リンドブルス)。

理由は色々あるが、どちらもぱっとしない結果に終わっている。

特に最初のリンドブルスは本人にとって黒歴史だった。

 

「またかい・・・まあ相手もいないしね」

 

嫌な記憶に少し表情が硬くなる。

 

「いっそ会長にお願いしてみたら・・・」

 

「それこそあり得んよ」

 

「そうだよなあ・・・何で会長、獅鷲星武祭(グリプス)にこだわるんだろう」

 

その理由を涼は、ある程度だが知っている。

もちろん誰にも話せない。

かなり厄介な事情が絡んでくる為だ。

 

それを考えると、様々な想いが浮かぶ。

 

懸念、心配、憂慮、不安。

 

(それでも。支えるしかない)

 

「これまでと同じさ。それもいつもの事だね」

 

 

 

 




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