ある補佐役の日常・・・星導館学園生徒会にて   作:jig

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風紀委員会、会議室。

そこで『面談』を行う。

 

相手は特待転入生としてやってきたばかりの天霧彩斗。

学園の新たな力として期待できる人材。

 

まずは良い印象を持ったが、聞かなければならない事は少し問題を含んでいる。

生徒会と風紀委員が関わるレベルで、だ。

 

 

「今日来てもらったのはこの間の決闘の件だ。いや、結局不成立だったな。まあ決闘その物はいいんだ。問題はその原因についてなんだが」

 

「あなたが女子寮のリースフェルトさんの部屋に入った、ていう話があるんだよね」

 

「うっ・・・それは」

 

少し顔が引きつる天霧綾斗。

 

「言うまでも無いけど、これって禁止されてるんだよね~」

 

「という訳で、生徒会の俺、志摩涼と風紀委員の七海優が君の話を聞きたいと思った訳」

 

「ええと・・・どこから話したらいいか・・・」

 

「あ、あたしって女子寮の自警団にも関わってるから。そのつもりで話してね」

 

「おいおい。あまりプレッシャーかけるなよ」

 

冷や汗を流しながら話し始める天霧君。

 

「―――あそこが女子寮だったとは知らなかったんです。それで―――」

 

 

どうやらリースフェルトが落としてしまったハンカチを届けようとしたそうなのだが・・・

 

「親切といえばそうだけど、うーん。いきなり窓からこんにちは?それってどうなの?」

 

「いくら来たばかりと言ってもな。転入生用のガイドマップは持っていたんだろう?どこかわからなかったと言われてもな」

 

「え?ガイド?そんなのあったんですか?」

 

「何!?」

 

ここで一つ、生徒会側のミスが発覚。

新入生には入学前に様々な資料が送られる。

その中には当然、学園内を案内するような物もあり、こちらは生徒会が関与している。

具体的には簡易版、詳細版の学園敷地案内があるのだが、何故か彼の元には届いていなかった。

特待転入生などしばらくぶり、しかも多忙な時期でもあり、チェックが充分ではなかった為らしい。

 

「ああ、それじゃわからんだろうな」

 

「涼、これってあんたの所の・・・」

 

「・・・ウチのせいだなあ、これは。天霧、すまん。すぐに資料は送る手配はするが、何か不自由してないか?」

 

「いえ、ユリスが案内してくれたので、もう大丈夫です」

 

結局、天霧綾斗はお咎め無し。

安心したのか、肩の力を抜いて帰って行く。

 

 

(思った程似てないな)

 

もう一つの印象。

 

天霧遥の弟。

 

それにしては・・・

 

もっとも涼も5年前に一度会っただけの相手。記憶もそろそろ怪しくなっている。

 

(さて、天霧君。姉の事はどうするんだ?)

 

もし姉を探そうと言うのなら、協力するべきなのだろうか。

この時の涼は判断ができなかった。

 

 

 

 

 

6月のアスタリスク。

 

陽は長くなったとは言え、19時を過ぎれば辺りは薄暗い。

 

志摩涼はその日、そんな時間に生徒会フロアに入った。

他のメンバーは既に帰っているのは知っていたので、そのまま生徒会長室を訪ねる。

 

「こんばんは。涼さん」

 

「遅くなりまして。ん?神名、まだいいのか?」

 

「はい、今日はお仕事の都合で少し・・・」

 

「神名さんには無理を言って残ってもらいました。スケジュールの見直しがありましたので」

 

神名リオ。

星導館学園中等部1年。そして生徒会長秘書。

青髪の深い色が目立つ以外は普通の女子生徒だが、出自については少し注目されるかもしれない。

 

何しろ両親どころか祖父母まで星導館学園出身のジェネステラであり、本人も自覚はしていないだろうがかなりの星辰力(プラーナ)を持っている。穏やかな性格のせいかあまり戦いの面には向いていないが、逆に学業成績の方は優秀と言っていい。

 

「そうですか・・・で、会長、報告があるんですが」

 

「はい、少しお待ち下さいね」

 

そう言ってクローディアは空間ウィンドウのチェックを進める。

その間、神名はグラスにアイスティーを淹れると涼とクローディアの前に置く。

 

「それでは、失礼させて頂きます」

 

「お疲れさまです」

 

「また明日」

 

彼女の所作を見ると、ある意味洗練されている面がある。まだまだ子供だが、判断力も悪くない。それに出自を考えると・・・

 

「あ!」

 

「どうしました?涼さん」

 

「もしかして会長、リオを後継者と考えていますか?」

 

「どうしてそう思われましたか?」

 

「気にはなっていたんですよ。いくら役員に選ばれたとは言え、中等部に入学したばかりの子をいきなり秘書だもんな。でも素質はある子です。いまから経験を積ませればいずれ・・・そうでしょう?」

 

「さて、それはどうでしょう? うふふ・・・」

 

「悪くないと思いますがね。それに『次』を決める頃には、俺はここにはいないでしょう。さて」

 

本題に入る。

 

「先日の件ですが。もうこれはリースフェルトに護衛をつけた方がいいんじゃないかな?」

 

「その件でしたら心配ありません。綾斗について貰いますから」

 

いい笑顔で言うクローディア。

 

「・・・それはそれは。確かにあいつなら。《セル=ベレスタ》も使えるみたいだし。でも良いのかな?」

 

「何がですか?」

 

「いや、あいつを他の女の傍に置いとくのはどうかと思って」

 

「私にとってはユリスも大事ですから。大丈夫ですよ、今は」

 

「今は、か。ま、あのお姫様も堅物だから大丈夫か?でも先を越されるかもしれませんよ」

 

「そうですね。そうなったらどうすれば良いと思いますか?」

 

「いっそ奴を部屋に連れ込んで押し倒せば?」

 

涼らしい際どい冗談のつもり、だったのだが。

 

「ええ、それはもうやりましたよ。逃げられちゃいましたけど」

 

笑顔で爆弾発言。

 

「やったんか!?なんとまあ・・・でも逃げるか。そうだよなあ」

 

純情そうな天霧彩斗の顔を思い出す。さぞ驚いた事だろう。

 

「ふふっ。綾斗の事は時間を掛ける事にします」

 

「・・・まあいいけどね。天霧君も大変だな、これから」

 

クローディアに振り回されるかもしれない。色んな面で。流石に同情する。

 

「それからもう一つ。風紀委員会からもらったデータに気になる所があった。監視カメラに少しだけ犯人らしき奴の姿があった。風紀委員は見落としているようだが」

 

「それでは・・・!」

 

「まあ正体は分からなかった。ただ・・・」

 

その黒ずくめのフード姿の人物?は、明らかに不審な行動をとっていたし、先日、噴水付近での襲撃の際の目撃証言とも一致する。

そして監視カメラには可視光だけでなく赤外線領域まで検出する機能があった。

 

「適当な画像解析ソフトで見てみたんだがね。表面温度のパターンは明らかに人間じゃなかった」

 

「人間ではない・・・それでこのような事ができる存在は・・・!」

 

何かに気がついたクローディアに頷いて言う。

 

「そう。擬形体(パペット)だ」

 

 

 

事態が動いたのは週明けだった。

 

放課後、いつものように生徒会フロアに向かう途中の涼に連絡が入る。

 

「会長?どうしました?」

 

簡潔に状況を説明された。

リースフェルトが何者かに呼び出された。

呼び出した相手はこれまで彼女をつけ狙っていた者だろう。

行先は再開発エリア。事実上のスラム街で、アスタリスクの暗部と言っていい所だった。

たまたま近くで迷子になっていた沙々宮紗夜が彼女を見かけたそうで、ある程度場所は絞り込める。

 

「これは救援が必要ですね」

 

「既に綾斗に行ってもらいました。私もフォローに向かいます。涼さんは周辺で万が一に備えて下さい」

 

「了解。車も使います」

 

涼は行先を駐車場に変更して駆け出した。

 

 

 

学園正門前でクローディアと合流する。

ナビゲーションマップに取りあえず紗々宮の居場所を入力して発進。

市街と接続する湖上道路に入るとフルスロットル。モーター駆動の加速力により、たちまち時速100kmを超えるスピードになる。それでもジェネステラの身体能力で移動する天霧綾斗に追いつけるかは微妙だ。当然先行しているあのお姫様は先に犯人と接触するだろう。

 

「しかしあのお姫様、人に頼らず話も聞かないな」

 

「あの子はそういう子です。自分の問題に他人、いえ、少しでも知己を得た人を関わらせたくないのでしょう」

 

「そうか。クロちゃんは昔馴染みだったね。そうそう、あれから調べてみたが、4月に妙な大荷物の搬入記録があった。名目は学園祭用の機材という事だったが確認は取れていない。出所はアルルカントとも取引のある商社だった」

 

「怪しいですね」

 

「全くだ。だがいずれにしろ、今日で色々はっきりするだろう。ん、ここか」

 

湖上道路から都市外縁道路に入り、そのまま再開発エリアに入る。

すぐに道路は狭く、複雑になってスピードが落ちる。少し時間がかかりそうだ。

一旦車を停め、ナビゲーターのスキャンモードを起動。同時に生徒会のホストコンピューターにリンクする。

 

「では会長。願います」

 

「はい」

 

クローディアがコードを入力すると、システムが周辺のスキャンを開始する。

そう、この車のナビゲーターは限定的ながら学園生徒の(正確には生徒の持つ校章の)位置捜索が可能だった。

当然プライバシー等の問題があるので厳しい使用制限があり、何より会長権限が必要なので殆ど使われた事はなかったが、今回は特別だ。

 

「まずは・・・沙々宮がここか。ん・・・出た出た。何でマクフェイルがいるんだ?それにサイラス・ノーマンだと?」

 

「いずれにしろ事態は始まっているようですね」

 

「ええ。この場所だと車より直接行った方が早い。会長、先行して下さい。俺は沙々宮を適当な所まで送ってから引き返す」

 

「はい。では後ほど」

 

ビルの間に消えていく彼女を見送る。

場所を考えると無謀な行動、だが彼女は普通じゃない。

学園序列2位の存在をどうこうできる相手はめったにいない。それに・・・

 

「いるんだろう? 顔を出せよ」

 

「ありゃ、お気付きで」

 

廃ビルの角から現れたのは星導館学園の生徒だった。

高等部1年、夜吹英士郎。

新聞部でそれなりに活動している以外はそう目立たない男だが、別の顔もある。

 

「ここにいるという事は、会長の指示だな」

 

「ええ、まあお仕事って事で」

 

「ならばすぐにフォローに行きな。場所はここだ」

 

データを送ると車を出す。

 

影星。

 

星導館学園の情報機関。

夜吹もその一員だった。彼の裏の顔には涼も面識があり、その能力もある程度知っている。クローディアの指示でここにいるという事は後始末が主任務だろうが、戦力の追加にはなる。これで向こうは大丈夫だろう。

 

 

 

 

 

 

「ありがとうございました」

 

「次はもう少し気をつけろよ。じゃあ俺は仕事があるんで」

 

沙々宮はすぐに見つかった。

最寄りの地下鉄駅まで送ると、再開発エリアに取って返す。

それ程時間はかからなかったが、すでに事は終わっていた。

犯人はサイラス・ノーマン。

身柄確保済で、夜吹が対応する事になった。つまりクローディアは事を公にせずに利用する事を考えている。

それについては後で具体的な指示があるだろう。

それよりこの場の処理だ。

サイラスが使っていたパペットの残骸を回収する手配は風紀委員の協力がいるだろう。

負傷したマクフェイルの収容と搬送。おそらく入院が必要な状態だと思われる。

それともう一人、動けない奴がいる。

 

「さて、どうなったかな?あの二人・・・」

 

 

 


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