ある補佐役の日常・・・星導館学園生徒会にて   作:jig

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JUST A SHADOW

 

予想通り短い秋季休暇は生徒会業務で終わった。

 

その業務の結果を、学園中央講堂で眺める。

 

壇上にはクローディア。

 

普段通り、あるいはそれ以上のにこやかな表情で在校生代表の挨拶を進めている。

 

 

後期の始まり、そして入学式。

 

アスタリスク六学園はセメスター制を導入しているので、秋の入学式も普通の行事だ。

 

生徒会として準備はあれこれとあったが、式が始まってしまえば会長のクローディア以外は大した出番は無い。

 

クローディアの言葉が終わると同時に拍手が鳴り響く。

涼も手を叩きながら改めて新入生を見回す。

期待、不安、緊張。色んな表情の学生達。

そして目立つのが壇上のクローディアに見惚れたような学生だが、男子に限らず女子も、いや女子の方が多いのか?

そういえば彼女、女子に嫌われる事がほとんど無かった。

地位と名誉、何より美貌。

これだけ揃うと反発する子も出てきそうなものだが、そういう話を聞いた事が無いのは彼女の人柄によるものか。

(本人は腹黒を自称しているが、涼は言う程では無いと考えている)

 

続いて壇上に新入生代表が上る。

今年は大学部の男子生徒だった。

 

年に2回の入学式、春との違いは入学する生徒の数。

秋は圧倒的に少ない。

そのせいで、式を中等部、高等部、大学部合同にする位だ。

 

アスタリスクでは当たり前のセメスター制も、外で一般的かというと微妙な所がある。

大学は別だが、高校中学で前期後期の二期制をとる学校は主流、とまではいかない。

 

その為星導館学園でも後期に入学となる学生はどうしても少なくなる。

 

その少ない学生を見ていた涼だが、今壇上にいる代表を含めても・・・

 

「ぱっとしないねえ・・・」

 

「ちょっと書記長!」

 

思わず出た言葉を隣の澪がたしなめる。

 

「すまん」

 

確かにこの場で生徒会役員が言っていい台詞ではなかった。

とはいえ、事前のデータでもチェックしていたが、こと戦いにおいては有力な学生がいなかったのも事実。

この場で実際に見て、データに現れない強者はどうかなと注視していたが、どうも期待できそうにない。

 

来年のフェスタ、グリプスは5人の選手で戦う集団戦。

個人の力だけでなくチームワークが重要になる事は考えるまでもない。訓練、調整には相当な時間がかかる。

現時点でそれなりの力を持っていないと、一年後とはいえ戦力になるかどうか。

 

やはりグリプスは現有戦力のケアに留意するか。

このままでは優勝候補(クローディアが造るであろうチーム)以外はその他大勢、みたいになってしまいそうだ。

 

(まあ、その前にやる事は多いけど)

 

式は終わりに近づく。

そろそろこの後の事を色々考えないといけない。

 

そう、色々と。

 

 

 

 

夜。

 

入学式は終わったが、その後の生徒会が絡む行事をパスして、涼は学外に出る。

 

事前に了解は取っていたが、行先を告げた結果(目的までは言えない)特に澪の冷たい視線に見送られる事になった。

 

ロートリヒト。

 

秋に入ったはずだが、妙に暑さの残る夜空の下を歩いていると、私服姿で歓楽街に入るのは久しぶりと気が付く。

 

適当な店のウィンドウに映った自分を見る。

ソフトジーンズに白のTシャツ、グレーのクールベストと、多少雑、だが学生らしい姿をチェックしていると、後ろから声がかかった。

 

「よう。早かったじゃねーか」

 

今夜の待ち合わせの相手はイレーネ・ウルサイス。

ダメ元で夕食に誘った結果、乗って来たのでこういう事になった。

 

「レディを待たせる男にはなりたくなくてね。今夜はお誘いに応えて頂き感謝」

 

「そんな地味な恰好には合わねー台詞だな。志摩」

 

「やっぱり地味?」

 

そう言う彼女は、普段と違い、長めのプリーツスカートにノースリーブのブラウス。ハンドバッグまで持っている。

全体を濃色にまとめているのは慣れない服装をさせられた事に対する抵抗だろうか。

 

「まああんたには派手な恰好も似合わねーだろうがな」

 

「そういう君も随分とイメージが違う姿だな」

 

「あんたがそうしろって言ったんだろう」

 

「似合わないとは言ってないよ。良い意味で新鮮だし。まあ、ちゃんとした店で食事だからな。何かリクエストあるかい?」

 

「あたしに似合うのかよ?これが・・・?」

 

「うん。結構良いと思うけど」

 

言葉を掛け合いながら二人で街路を歩き始める。そろそろ人が多くなってくる時間だった。

 

 

「でもなあ。いいのか?あたしと一緒で。彼女いるんだろう?」

 

「ん?そう見えるか?」

 

「この前のフェスタの夜、この街で女連れだったじゃねーか。結構目立ってたぜ」

 

「ありゃ仕事だ。制服姿だったろう。それにあいつにはこの間ぶっ飛ばされてそれっきりだ」

 

「・・・何をやらかしたんだ?」

 

意外にも話が弾む。

こうして会うのは2回目だが、イレーネのはっきりとした物言いと明るい強さ、のような雰囲気に思った以上に好感を抱く。一方のイレーネの方は・・・こちらも悪く思ってはいないようだ。あまり男とこういう付き合い方はしていなかったはずだが、それが新鮮に思えているらしい。

 

良い雰囲気は涼がチェックしていたレストランで食事が始まっても続いた。

ロートリヒトでも比較的上品なエリアにある、まあまあ名の通った店だったので、料理の味、サービス共に良好、と言っていい。

こういう場所は経験無かったイレーネだが、すぐに馴染んでデートを楽しむ気になったようだ。

 

ただ、涼にとってはこのデートも仕事目的が含まれている。

それ程話術は得意ではなかったが、水を向けてみると少しだけ学園に対する愚痴のような感じでレヴォルフの内情を聞く事が出来る。

もちろん彼女は愚痴を言ったり弱音を吐くようなタイプではないから、あくまで控えめに、だが。

その程度の話でも、役に立つ事はある。

 

ともあれ、雰囲気と会話は傍からみれば普通のカップルにしか見えない二人だった。

 

 

 

 

 

「すまねーな。すっかり奢ってもらって」

 

別れ際、彼女の家の近く。

 

「構わんよ。これでも生徒会役員だから、それなりに、ね」

 

「そうか。でも本当にいいのか?あたしはまだ時間大丈夫だけど」

 

「妹をあまり待たせるもんじゃないだろう。気にするな」

 

「そうか・・・そうだよな。わかった。帰るよ・・・。なあ、また会えるか?」

 

「言うまでもなかろう」

 

やはり良い雰囲気は継続、あるいはもっと良くなっているのか?

いかにも名残惜しい、といった感じのイレーネに手を振ると背を向けた。

 

今回は妹想いのイレーネに気を遣った形になったが、涼としても、もっと一緒にいたかった気もする。

ただこの様子だと今後付き合い方はちゃんと考える必要がありそうだった。あまりいい加減に向き合う訳にはいかないだろう。そうなると―――

 

「よう。見せつけてくれたな」

 

「リキか。わざわざすまんね」

 

「全くだよ。妙な所に呼びつけると思っていたらこれかい」

 

暗がりから声をかけてきたのは同期にして今は警備隊の一員、リッキー・エコーレット。

いわゆる非公式な情報交換の為に呼んでおいた。

 

確かに呼んだのは涼だが。

 

「何でわかった?」

 

場所が場所だけに、光学的な認識阻害の能力は発動していた。

それを無効化したのだろうか。

 

「シャーナガルムで働いているとな、妙な事もできるようになる」

 

「なるほどね。流石だよ」

 

確かに彼もダンテではあった。

どんな能力かは忘れていたが、警備隊で若くして頭角を現した男だ。そっち方面も鍛えられていたのか。

 

 

 

 

しばらく歩くと、チェックしておいた喫茶店に入る。

一応はヤバイ話をしても外に出にくい所、だった。

 

「それで、イレーネ・ウルサイスか。今度はレヴォルフに関わるつもりか?」

 

「まあな。そっちのネタはどうだ」

 

「黒猫機関の構成員で一人、所在がつかめない奴がいる。丁度あの事件があった後からだ。まあ学園の諜報員なんてのは誰だってそんなもんだが、タイミングは合う。それにフェスタ会場近くの車を奴が運転していたという未確認情報もあった」

 

「ああ、車か。考えてみればそうだよな。誘拐の実行はともかく、連れ去るには別の手段が必要だもんな」

 

「俺もそう思う。今も捜索と調査は続いていて、手掛かりも見つかりそうだが、犯人としては決まりだと思う」

 

「同感だね。よし。これでレヴォルフの、いやディルク・エーベルヴァインの指示で確定だな」

 

そう言って席を立つ涼。だがまだ話は終わらなかった。

 

「だが一つ分からない事がある。そいつが巣に戻っていないという事だ」

 

「ん?つまり沙々宮にぶっ飛ばされた奴は、そんな状態で逃げ回っている・・・?いや違うな。どこか別の勢力なり組織なりが確保したのか?」

 

「野垂れ死にしてなければそうなる」

 

「わかった。まあそれはいい。最後に一つ。そちらが持っている、レヴォルフの学園内の配置図をくれ」

 

「お前・・・正面から向こうと事を構えるつもりか?」

 

さすがのエコーレットも呆れ顔だった。

 

「さてね。ああ、この前渡したマフィアの端末情報は役に立っただろ?それ位はしてくれても・・・」

 

「ったく。それを言うか。分かったよ」

 

今回の話もギブ・アンド・テイクで終わった。

 

 

 

 

レヴォルフ黒学院。

 

 

その特徴として、まともな校則が無く(あるいは守られていない)、端的にいって不良の集まり。

かといって荒廃している事もなく、力こそ全てのルールで運営されている、らしい。

涼としても生徒会の業務絡みである程度の知識は持っているし、訪問した事もあるが、何度も行きたい所ではない。

 

自室でこれまで集めた情報を表示させ、読み込み、検討する。

 

シャーナガルムから手に入れた学園の配置図を見ると、やはり一般公開のパンフレットやネットの情報と違う。

狙いは生徒会関係施設だが、これも一般公開されていなかった。

資料では中央校舎の最奥、となっている。ちょっと面倒な場所にあるようだ。

まあレヴォルフの学生なら知っている場所だろうが、こうして2D、3Dの図面で見る事も意味がある。

 

そして警備体制。

 

涼が意外に思ったのが、彼らの諜報機関、グルマルキンのメンバーがディルク・エーベルヴァインの直接護衛についている事だった。

 

普通、そういう連中は情報活動、破壊工作等が専門のはずだが、何とも贅沢な使い方をしている。

まあ色んな所から嫌われ、隙あらば引き摺り下ろしたいと思われている男だ。護衛は厚くしているか。

イレーネの話からも、姿は見えないものの、学園内外で常時周辺に存在しているらしい。

 

「これは厄介だな・・・」

 

先にディルク・エーベルヴァインの暗殺なんて簡単、と大言壮語してしまったが、そうとも言えないようだ。

 

だがしかし。

 

困難だと言って黙っているつもりは無い。

きっちりやり返す事は既に決めている。

大変な仕事なら準備をしっかりする事だ。そうすれば対応できる。

 

では、その準備とは?

 

 

 

 

数日後。

 

その夜、涼の姿は黒のジャンプスーツに同じく黒の作業帽、濃色のカラーレンズ入ゴーグル。

口元も黒いマフラーで覆う。

怪しい事この上ない。

一応身元を示す物と端末は身に付けず、必要事項は頭に叩き込んだ。

 

自室から上空に転移、その後も能力だけで移動。

 

アスタリスクで星導館の対面方向に存在するレヴォルフ黒学院、それなりに距離があるが瞬間転移を連続すればあっという間だ。

 

目標上空。

 

落下しながら眼下の情景に素早く目を走らせる。

あちこちが闇の影になっているが、涼の能力にとっては関係無い。

 

少なくとも妙な動きは無い、と判断し、ターゲットの建物、中央校舎の屋上に転移で降り立った。

曇り空の日を選んだだけあって、そこはほぼ闇に沈んでいた。

念の為認識阻害の能力を発動。

ここからが本番だ。

 

外壁に沿って飛び降りると、当たりをつけていた窓から室内に侵入。

警報無し。OK。

 

記憶の中の配置図からすると、生徒会フロアはここの一つ上。

警戒しつつ通路を進む。

監視カメラの類は少ないが、配置は巧妙なので注意しつつ移動。

 

建物内の内装はいたってシンプル。だが暗めの色合いと壁面、通路の角度等から威圧感を感じないでもない。

こんな所までレヴォルフらしさを出しているのか。

 

階段を上がって通路を進む。

生徒会長室の場所はすぐ把握できたが、先の事も考えて他の部屋、通路も見ておく。

 

一回りして通路の全体像を確認の後、改めて会長室の扉をみた。

普段であれば当然警備員が配置されているだろうが、この時間は無人。まあ室内も無人だろうが。

 

流石にノックして入る訳にはいかないが、手段はある。

 

今はここまで確認出来ただけで上々の成果だ。

ここまでとしよう。

 

涼は瞬間転移を併用しつつ、校舎外に飛び出した。

 

そして来た時と同じ、光の無い夜空に消えていった。

 

 

 

 

 

 

 


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