ある補佐役の日常・・・星導館学園生徒会にて   作:jig

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KEEP ME IN THE DARK

 

 

9月。

 

今月一杯で前期が終わる。

期の切り替わりという奴は何かと慌ただしい。

星導館学園生徒会も、フェニクス後の対応と来月入学の新入生の対応という2大案件による多忙の中にある。

だが、生徒会長クローディア・エンフィールドの指導力の元、早め早めの処理を行っているので(一部は夏休み中から対処)大きな問題は起きていない。

 

チームの雰囲気も落ち着いている。

 

例えば実質生徒会ナンバー2の涼が不在になっても、ごく普通に日常業務が廻る、という状況。

 

ではその涼は何処にいるのか。

 

 

 

その日の朝。

徹底的に機能優先でデザインされた会議室。

冷たい印象の机には固定式のディスプレイと入力端末。壁面も各種モニターが並んでいる。

 

これまた機能の良く分からないスイッチが並んでいる椅子に座った涼は、目の前の3Dモニターをぼんやりと眺めていた。

 

アルルカント・アカデミー。

 

その開発部の某会議室にて、協定により共同開発中の新型煌式武装について、開発進捗状況についての説明を受けている。

もっともこの場での主役は開発を担当している技術系の学生達で、涼は生徒会として開発計画をチェックする為に来ている。

目の前では机の上に3D CAD図が浮かび、様々な方向に回転したり、拡大、縮小したり。それを見ながら担当者が議論している。

星導館側の担当はほとんど大学部の学生。ルークスの開発に関わるだけあって全員が工学部所属。涼と同じ学科だったり、面識ある学生が多い。

対してアルルカントのチームは高等部の学生も普通にいる。こういう所からも技術者人材の層の厚さを見せつけられるようだ。まあこの学校は学生全員が理系のような物だから、仕方ない差ではあった。

 

「あ、今の所を拡大して・・・これはプラーナの伝達構造か?どうやって作る?」

 

「浮上時の斥力キャンセルの方法は?そういう機構が組み込めるのですか?」

 

「展開後の筐体の強度はどう確保するのかねえ?」

 

という訳で、星導館側が質問しアルルカント側が答える、という展開が続く。

 

(おいおい・・・これで共同開発と言えるのか?)

 

もちろん星導館側の開発チームもアルルカントのラボに通って一緒に仕様決め、構想図作成、設計に関わってきたはずなのだが、この様子だとほとんどアルルカント側が主導して進めたらしい。しかも星導館の連中は多分仕様書の段階で既に技術的についていけてない。

 

(こりゃダメだ)

 

もっと早くチェックすべきだった。まあフェニクスがあったので、そちらの対応で手が回らなかったが、このままではいけない。

 

涼は工学系の学生だが、落星工学を専攻しなかったのでこの場で議論される内容についてはあまり理解していない。だがこれまでの開発の進め方が良くない事は充分に理解できた。

今からでも、出来るだけ修正したい。

 

「カミラ・パレート」

 

先方の開発責任者に声をかける。

 

「何か?」

 

「別途協議したい件がある。この後時間を頂ければありがたい」

 

「・・・良いでしょう」

 

アルルカント最大派閥のリーダーである怜悧な美人。

どうやら星導館側の問題に気付いている。

 

 

 

開発進捗会議のはずが説明会になってしまった打ち合わせの後、別室に案内される。

先程と比べ、余程シンプル、かつ小さな会議室。

よって必然的に相手と近い距離で向き合う事になった。

 

「それで、何の件ですか」

 

「察しはついているのでは?。開発チームの技術レベルの格差による問題だ」

 

密室で美女と二人きりという状況位ならまだ良いが、その相手がアルルカントの実力者となると多少の緊張は感じる事になる。

 

「確かにそうだが、元々承知の事でしょう。そちらのチームの技術力が低すぎるのはこちらの責任ではありませんよ」

 

「わかっている。ただこの件は共同開発という事になっている。それが実際は開発を見学していただけ、では困る」

 

「それでも星導館側の技術の向上にはなっている。そちらに不利益はないでしょう」

 

「・・・」

 

手強い。

かなりプレッシャーを与えているつもりだが動じない。中々の胆力だ。

それに前回の交渉の時もそうだったが、技術者として優れている以前に知識、知能共に高い。

どうかすると身体能力まで涼を上回るかもしれない。

 

「まあ終わった事はいいか。だが今後の計画、あのスケジュールで大丈夫か?」

 

「本日、設計承認図にOKをもらえれば即製作にかかります。日程に余裕は無いが無理ではありませんね」

 

「せめて製作段階では、ウチの連中を直接関与させてくれ」

 

「いいでしょう」

 

まあルークスの構想や設計はともかく、生産技術については、アルルカントと星導館の装備局で懸絶した差は無いはずだから、これからは共同開発らしくなるだろう。

 

「では、もういいですか」

 

去っていく彼女の姿を見送る。

改めて『視て』みると、服の上からでも体表温度、赤外線の放射パターンが明らかに常人と異なるのがわかった。

半身サイボーグ、あるいはパペットと融合しているという噂は本当だ。

喧嘩にならなくて良かったと思う。

 

 

 

 

 

 

その夜。

もう一件、厄介な交渉をこなした。

と言っても終わった訳ではなく、継続交渉になっている。

 

ロートリヒト。

 

相手は先の誘拐事件の現場となったカジノのオーナーで、救出の際の戦闘で破壊された室内の賠償を求めてきている。実際の所、その場所を提供したマフィア幹部は逃亡中で、交渉相手は事件直後にカジノを入手した新オーナーの代理人なのだが、マフィア関係者である事に変わりはない。

涼としては、責任は元オーナーにあるだろう、と言っているが、こういった連中はタカリネタを見つけるとしつこく食いついて来るもの。

おかげで交渉は平行線で進まず、今夜も徒労感と共に夜のロートリヒトを行く。

 

 

 

 

それが目に入ったのは偶然、とも言えない。

 

また変装したシルヴィア・リューネハイムでもうろついていないかな、などと下らない事を考えて視力に意識を向けていたせいで、普通なら見えない暗がりに数人以上の人間が妙な動きをしているのに気がついた。

 

あるいは妙な事に関わる事になるか、と思いながら裏通りに入って行く。

 

ついて行ったその先は袋小路になっていた。

 

そこで行われていたのは、戦い、と言うより小規模な戦闘、という印象。

何人もの男が倒れ、それとほぼ同数の男が煌式武装を振り回す。

相手は―――

たった一人か。しかも女!

 

(なるほどね)

 

イレーネ・ウルサイス。

レヴォルフ黒学院の序列三位。

 

という事は、この連中はお礼参りの学生か、マフィアの手下か。

 

また一人、男が打ち倒される。

だがイレーネの方も・・・楽ではないようだ。大きく肩で息をしている。

この程度の奴ら相手にどうして、と思った所で気が付く。彼女は武器を持っていない。

彼女の純星煌式武装、グラヴィシーズはフェニクスの試合で天霧綾斗に破壊されている。

それに・・・相手にしている連中、意外に動きが良い。学生崩れじゃないな。ちょっと甘く見ていたのか。

そんな奴らが武装しているのに、徒手空拳で戦えばこの人数相手は無理がありそうだ。

おまけに涼がつけてきた連中。こいつらも手練れだろう。7~8人はいるか?一斉に煌式武装を起動した。

 

「ラミレクシア。テメーは今日、ここで終わりだ」

 

一人だけ、武器を持たない男が言った。

年嵩、物腰からそいつがリーダーだろう。見ない顔だった。つまりは涼が知るロートリヒトの顔役の関係者であるとは思えない。ならば何とかなるか。

 

目の前では増援の連中が一斉に飛び込んだ。

それを捌くイレーネの体術も中々のものだが、煌式武装を持たない不利は如何ともしがたい。

とうとう強い一撃を食らって膝をついた。

 

それを見て余裕の表情で進み出るリーダーらしき男。

その後ろで煙草にを火をつける涼。

電熱ライターの作動音と共に暗がりに光がさした。

 

「何を遊んでいる!さっさと貴様も―――」

 

そいつが振り返って怒鳴る。まあこの状況では手下の一人にしか見えないだろう。

だが。

 

「フッ」

 

涼は薄く笑うと、火のついた煙草を顔に向けて投げつけた。

 

「なっ、何しやがる!!」

 

一瞬男が怯んだ隙に、能力は使わず、脚力で飛び出す。

すれ違い様に拳を相手の腹に沈めた。

 

「グハァ!!」

 

間髪入れずに腕を振り上げると、後頭部に肘を叩き込む。

今度は悲鳴も上げず、糸の切れた人形のように倒れる。

 

「まずは頭を潰す、と」

 

その後は出し惜しみ無しで鏡像転移を発動。

周りの男達から次々と煌式武装を取り上げ、ついでに急所への一撃を喰らわせる。

 

「オラァ!!」

 

呆然としている男達にイレーネの拳と蹴りが襲いかかり、次々と意識を刈り取っていった。

涼も何人かを無力化すると、リーダーを含め数人の男から端末と煌式武装を拝借する。これの使い様によっては今後の手出しが出来なくなるだろう。

ともあれ形勢逆転。

僅かな時間で立っているのは涼とイレーネだけになった。

 

「あんたは・・・星導館の・・・誰だ?」

 

荒い息を吐きながら問われる。制服から学園はわかるだろうが、名前までは知らないようだ。

 

「生徒会の志摩だ。相変わらずこういう連中に人気があるな。イレーネ・ウルサイス」

 

「生徒会・・・?何でこんな所にいる。何故助けた?」

 

「その事だが、場所を変えようか」

 

 

 

歩く事、しばし。

 

ロートリヒトの表通りにある、それなりに高級なダイニングバーのテーブル席で向き合う。

 

「好きな物を頼んでくれ。食事がまだならディナーコースでもいい。もちろん払いは俺が持つ」

 

「あんた、何考えてるんだ?借りが出来たのはあたしなんだが?」

 

「フェニクス。決勝戦前夜。君は天霧と会ったね」

 

「そういえばそうだな。それがどうかしたか?」

 

「あの時の君のアドバイス。実に役立ったよ。おかげで救出が間に合ったようなものだ」

 

「そういう事かい。あんな話でねえ・・・」

 

納得はしたみたいで、素直に料理を注文する。

その後の食事は、和やかなものになった。

 

多少はお互いに馴染んだ所で聞いてみる。

 

「せっかくだからこの前の件について意見をくれ。そもそも何で君の学校の頭は天霧にちょっかいかけてきたんだろう?」

 

「さあな。ただあたしも仕事で天霧を潰せ、と言われたけどな。まあしくじった訳だが」

 

「仕事?ディルク・エーベルヴァインからの指示か。それでフェニクスに出たのか?」

 

「ああ。まあこれは天霧にも話したんだが、野郎、随分セル=ベレスタを気にしていたぜ。どうやら昔、その使い手を見た事があるような言い方だったな」

 

涼の意識が緊張した。

成程あの男なら蝕武祭を見た事があっても不思議じゃない。そして使い手とは・・・奴も天霧遥の試合を見ているのか。それも直接。

 

「うん。いいね。実に興味深い話だ。しかし天霧にはどうして?」

 

「あいつにも借りがあったんだよ。妹を助けてもらった事がな」

 

「いやはや義理堅いねえ。うん。ああ、ついでにもう一つ。恨みは買っているだろうが、今日の連中はちょっと変わってたね。どこの奴等だろう?」

 

「さあな。どうせカジノの奴らか、雇われたのか」

 

「ん~。まあいいか。連中の端末を幾つか借りといた。中のデータに興味がありそうな友達がいるんでね。シャーナガルムに」

 

何となくだが、ただのマフィア関係者の手下にしては人数が多いし、まとまりも良かった気がする。

リキに教えれば動くだろう。

 

「あんた、それで・・・」

 

「だから今日の事に関してはもう気にしなくて大丈夫だろう」

 

「別の借りが出来ちまったな」

 

まあ自分の為でもある。

 

「そう思うならまた会ってくれ。せっかくいい女と知り合えたんだ」

 

「はあ?いい女だぁ?本気で言ってるのか?」

 

「ん?美人で義理堅い。これをいい女と言わずになんと言うんだ」

 

「美人って・・・あんた・・・」

 

イレーネ・ウルサイスでも表情を赤らめる事があるのか。珍しいものが見れたな。

 

 

 

 

彼女は必要無いと言ったが、無理に商業エリアを出る所まで送る。

別れ際はまあ、悪くない印象だったはずだ。

偶然とはいえ助けた事を理由に口説き紛いの事をしたが、気持ちとしては本気半分、仕事半分と言った所。

 

積極的に協力してもらうつもりは無いが、何かの手掛かりが得られればと思った。

 

レヴォルフの生徒会長、ディルク・エーベルヴァインに対する反攻の糸口。

 

 

こっちもそろそろ始めたいな。

 

 

 

 


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