ある補佐役の日常・・・星導館学園生徒会にて   作:jig

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TALKING IN YOUR SLEEP

 

目が覚めると、知らない天井。

 

いや、そうでもない。

ここしばらくは、毎日来ていたような気がする。

 

しばらくぼんやりしていると、視界の端で何かが動いた。

星導館の制服。ああ、生徒会、会計の澪か。

 

「あ、書記長。起きられましたか」

 

「うん・・・。俺は何でここにいる?」

 

多分ここは治療院の一室。

 

「やはり覚えてないんですね」

 

「いや、待て・・・思い出すから」

 

確か・・・

 

フェニクス後夜祭の後、ロートリヒトと商業エリアの見回り。

派手な乱闘とかは無かったが、フェスタ最後の夜という事ではっちゃける奴が多く、酔って小競り合いとか店に迷惑をかける事案が多発し、あちらこちらに駆け回る事になった。

 

明け方学園に戻って、食事を済ませてさあ寝ようとしたところで今度は警備隊の来襲。

先にリキに話せる事は話していると言ったものの、あれは非公式だという事で再度事情聴取を受けるハメになった。

その後、生徒会室で今期フェニクス結果のまとめ。

 

「書記長、その時から顔色悪かったですよ。休んで下さいと言ったのに・・・」

 

「そうだったっけ?」

 

その晩は銀河の支部長の所に出向いて協力の礼と、以前から指示されているロートリヒト調査の報告。と言ってもあまり話せる事はなかった。まあその代わり今回の事件の詳細を話す事でよしとしてもらえたが。

そしてその足で今度はロートリヒトの『社長』に挨拶に行った。こちらはすんなりと終わったが、帰り道で別の関係者に捕まった。

その男は事件の舞台になったカジノのオーナーの代理人で、何と損害賠償を請求してきた。

 

そりゃ確かに、犯人との戦いで沙々宮が煌式武装を派手に使ったから室内が破損したのはわかる。

だがその原因は犯人側だろう。大体そんな怪しい奴に場所を提供した事はどうするんだ。

 

「そうは言ったんだけど、向こうもなかなか納得しなくてね」

 

「それで、どうなるんですか?」

 

「学園側とも協議すると言って時間稼ぎだ。だた場合によっては・・・一応、どの予算項目が使えそうか、チェックしておいてくれ」

 

「わかりました」

 

この件はいい。だがその後が良くなかった。

今度は丁度商業エリアで飲んでいた大学部の友人連中に捕まって、一緒に大騒ぎ。

結局朝まで飲んで・・・あれ?また寝なかったのか?

 

「それでそのまま生徒会室に来て、来期の準備業務を始めて・・・その後どうしたっけ?」

 

「席で寝てましたよ。そっとしておこうと思ったんですが、会長が様子がおかしいと言われて」

 

寝ていた、ではなく熱を出して意識が無かった、らしい。

 

「そういう事か」

 

「ですので、ここでしばらく大人しくしておいて下さいね」

 

「うーむ・・・」

 

「あ、何か欲しいもの、ありますか?」

 

「退院の許可。大人しくするのはここじゃ無くてもいいだろう」

 

「そうは言っても・・・」

 

澪が困惑の表情。

その時病室のドアが開く。

医師かと思ったら・・・

 

「お邪魔しまーす・・・って目が覚めた?」

 

「お前か・・・」

 

控え目に入って来たのは風紀委員の優。

澪の表情にわずかな不快感が混ざったのがわかる。

 

「で、何で来たの?」

 

「何でって、最近微妙だったから。お見舞いしてよりを戻そうかなって」

 

「よりを戻すって・・・そこまでの間柄だったっけ、俺達?」

 

「うん、そうだよ」

 

言い切った優に、澪が今度ははっきりと怒りの表情。

 

「七海先輩。涼先輩はまだ休息が必要です。お帰り願えますか」

 

(いきなりこれかよ)

 

実は、澪の気持ちには気付いていた。

この前の件で、優とは終わったと思っていたので、もう澪ルートでいいかな?と思っていたのに、まさか優がひっくり返しに来るとは。

ベッドサイドで睨み合う二人にため息をつき、目を閉じた。

このまましばらく入院してた方がいいかもしれない。

 

「はいはい。そこまでにして下さいね」

 

「あ・・・」

 

「会長」

 

目を開けると、開いた扉の前に美少女。

相変わらずの気配の絶ち方で、来ていた事に全く気がつかなかった。

 

「お二人共、病院ではもう少し穏やかに、ですよ」

 

やはり容姿では二人ともクローディアには及ばないな。

 

「涼さん、具合はいかがですか?」

 

「もう大丈夫です。少し話せますか?」

 

「はい、いいですよ」

 

「どうも。では二人は出てくれ。ちょっと聞いて欲しくない話になる」

 

優と澪は如何にも不服、という顔で病室を出る。

 

「涼さん、あの二人ですけど」

 

「わかっていますよ。でも今はいいでしょう。それよりも俺が寝ていた間の事ですが」

 

「はい。では―――」

 

聞きたかった事件の捜査状況だが、やはり犯人は見つかっていないようだ。これについては警備隊に任せるしかないが、どうなるか。涼としても犯人の能力と思われる影と戦っただけで、捜索の役には立てない。まあロートリヒトで情報集めはするべきだろうが。

 

「証拠があればレヴォルフに相当な打撃を与えられるんですがね」

 

何しろフェスタ開催中の妨害行為だ。アスタリスクに、ひいては統合企業財体の顔に泥を塗ったような物だ。裏にどんな事情があろうと、明るみになればかなりの処罰が下されるだろう。

 

「決定的、となるとやはり犯人でしょう。ですが・・・」

 

「未だ見つかっていない、となると望み薄、ですね。それ以外の手掛かりは・・・奴が残している訳もないか」

 

この話はそれ以上進まず、いくつかの生徒会業務についての連絡を受ける。

1、2日涼がいない程度では大きな遅れ等は出ていなかった。そこはクローディアのマネジメントが優れているからだろう。

 

「ですので、今日一杯はここにいて下さいね。働き詰めだったのですから、良い休養だと思いますよ」

 

彼女に明るい笑顔でそう言われては従うしかない。

 

「それと、蒸し返してしまいますが、あの二人です。涼さん、貴方は・・・」

 

「分かってますよ。そこまで鈍感じゃないです。まあ、俺が決めるしかないでしょうね」

 

「ええ、そうなりますね。今日の所は大人しくしているように私から言っておきます」

 

「さすが会長。頼りになります」

 

「ふふっ。では、お大事に」

 

安堵とともにクローディアの後姿を見送った。

 

 

 

 

体調はもう大丈夫、とは言ったが、体の奥に妙に重い感じがする。やはり今日1日は静かに過ごすべきだろう。しかしゴロゴロしているのも時間の無駄なので、院内を出歩く。

最初に向かったのは・・・

 

「やあ。元気そうで何より」

 

「志摩先輩。この度はありがとうございました」

 

「いや、大した事も出来ずにすまなかった」

 

同じく入院していた刀藤綺凛。

彼女も回復が進んで間もなく退院の予定。

 

「リオもご苦労さん。中々頑張ってるじゃないか」

 

ベッドサイドには、制服に可愛らしいエプロン姿で生徒会秘書の神名リオが座っていた。

 

「いえ、あんまり上手くお世話出来なくて・・・」

 

「そんな事ありません。リオちゃんには本当にお世話になってます。さっきもしっかり体を拭いてもらって―――」

 

「綺凛ちゃん」

 

「あ!はうぅ・・・」

 

「ははは。本当に良くやっているみたいだね」

 

クローディアに相談した上で、リオには入院中の綺凛をフォローするように指示していた。

その後バタバタしていたので見ていなかったが、その指示を良い意味で拡大解釈したようだ。

ほとんど付きっ切りで綺凛の面倒を見ていたらしい。

 

「書記長さんは、お体の具合はいかがですか?」

 

「問題無しだ。明日には退院だな。刀藤さんはどうかな?」

 

「私も・・・明後日には退院になります」

 

「そうか。なら迎えを手配しよう。時間が決まったらリオ、連絡くれ」

 

その後、少しだけ世間話をして部屋を出る。

大学部と中等部ではそう話題が弾むという事は無いのは分かっているので構わない。

ただ暇になってしまった。

なんとなく、院内の案内を見ている内に思いつく。

良い機会なので、ここの施設を色々見学してやろう。幸い今は入院患者だ。院内をぶらついていてもおかしくはないだろう。

そう決めて通路を歩きだす。

 

夏の日の午後。

 

フェニクスも終わり、アスタリスクを離れる人も多い。

そのせいでもないだろうが、院内も閑散としている。

 

 

入院棟を出て、本院まで見てみたが、1時間もかからず見れる場所は見てしまった。

その他は・・・

 

(地下に・・・特別エリア?)

 

案内にはそっけなくそう書かれていて、一般立ち入り禁止の注意書き。だがそれで思い出した。

ここには表沙汰に出来ない負傷者の対応をする場合の専用病室がある、という話は聞いた事がある。

 

「あるいは・・・!」

 

誘拐事件の犯人は、刀藤と交戦して深い傷を負ったようだ。そこにダメ押しで沙々宮の煌式武装で吹っ飛ばされているはず。どう考えても重症だろう。

アスタリスクには当然、他にも医療機関はある。だが秘密を保って治療出来る場所は多くない。

そして治療院の秘密厳守には定評がある。

 

「よし」

 

流石に可能性は高くないだろう。だがゼロではない。それなら調べる必要はある。

幸い涼にとって、その能力を使えばこの先への潜入は充分可能だ。

 

やるなら夜だ。

そう決めると、病室に引き返す。調査に備えて休んでおくつもりだった。

 

 

 

 

深夜の治療院。

 

夜間当直の医師、看護師はいるし、救急病棟は24時間体制だからそれなりに人の動きはある。

だが、涼は全く見とがめられずに本院に入った。

言うまでもなく能力を発動している為だ。

昼間良く寝たせいか体調は完全に回復している。光の制御だけでなく、馴染みの転移をいくら使おうと問題無い。

 

本院の地下施設入口。

 

監視カメラはある。夜間も光を増幅して撮影可能なタイプ。ただし赤外線感知能力は無い。

それを知ってほっとする。能力による光学的偽装も、赤外線領域までやるとなると少し手間取る。

 

「さて・・・」

 

閉ざされたドアだが、小さな窓があり、多少は中の様子が伺える。それで充分。向こう側へ鏡像展開、可視光を歪めたまま転移実行。侵入に成功した。

 

もっとも扉の類はそこだけではない。

転移を使って素早くフロア内を移動、調べて行く。いくつかの部屋はあるがこれといった発見も無い。ハズレか?

少し考えると、改めて壁面を注視していく。

今度はわかった。

幾つかの場所で、見え方がおかしい。

電気信号で透明度を変化させる機能性強化ガラスだった。

それがわかれば対処はできる。何しろ元は透明なのだ。向こう側への鏡像展開は可能だ。そして転移も。

 

そうやって、いくつかの壁をスルーしてみると、それなりに広い部屋に出た。

照明は落とされているが、複数の医療機器とベッド。

 

(ヒット!)

 

ベッドには人。

可能性は低いと思っていたが・・・

 

(ん?違うか!?)

 

シーツは当然かけてある。顔、というか頭部は判別できる。その特徴は、どう考えても刀藤と沙々宮から聞いた犯人とは違う。そもそもこちらは女性らしい。

 

(まあ、アスタリスクで後ろ暗い事情を持つ入院患者は奴だけではないだろうし・・・)

 

では誰だ?

医療機器が放つ淡い光を収束してみると、その顔が―――

 

「!!」

 

思わず出かかった声を押し殺した。

 

(おいおい・・・そりゃないだろ・・・)

 

涼はその顔を知っている。

昔、会った事もある。

だから間違えようも無い。だが・・・

 

何故、天霧遥がここにいるのだ?

 

 

 

 

「志摩 涼さん。はい、確認しました。退院の手続きは昨日終わっています。確かに今日ならいつ出られても構いませんが、早すぎませんか?」

 

翌朝。

 

あまり眠れなかった事もあり、7時過ぎには着替えて病室を出る。

当直看護師を捕まえて退院の意思を告げる。

 

「まだ7時半ですよ」

 

「これでも忙しい身なもので」

 

「ああ、星導館の生徒会の方でしたね。無理はいけませんよ」

 

「ええ、今回で思い知りましたから」

 

いい加減に手を振って治療院を出ると、すぐ近くに併設されている地下鉄駅に降りた。

 

8月後半の朝。

学生以外にとっては平日の朝となる。

それなりに混む電車に乗って、学園まで。

扉の近くの壁に寄り掛かって腕を組む。目を閉じると昨夜の光景。

 

天霧遥。

 

蝕武祭に出場し、敗北して倒れた所を動画で見た。

そのまま死んだと思いこんでいたのだが、治療院が死体の面倒を見ているはずがない。

そう。生きていた。

昨日見た感じでは、まるでただ眠っているようだった。

もっとも治療院の特別エリアで各種医療機器に取り囲まれている状態なので、耳元で目覚ましアラームを鳴らした位では起きる事は無いだろう。

 

学園駅に到着。

 

改札ゲートを出て、階段を上ると再び夏の朝日を浴びる。

しかし内心は爽快とは程遠い。

 

 

とんでもない事を知ってしまった。

 

どうしよう・・・?

 

 

 

 

 


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