ある補佐役の日常・・・星導館学園生徒会にて   作:jig

2 / 32
COMMUNICATION

 

 

星武祭。

 

フェスタ、と呼ばれる事の多い、アスタリスクで年に一度開催される大イベント。

 

アスタリスク六学園の存在意義の多くは、このイベントの為にある、と言っていい。

 

その実態はというと、各学園の学生による武闘大会なのだが、ジェネステラ、と呼ばれる世代の少年少女がその特殊な能力と武器(煌式武装、と呼ばれる)を用いて戦う事でエンターテイメント性も強くなり、全世界の注目を集める事になる。

 

そして各学園としても、星武祭での所属学生の勝利が直接間接に利益になる―――勿論名誉も得られる―――事により、参加学生には支援と便宜を惜しまない。(特に実力者には)

その対応以外にも、所属学生が参加する以上様々な事務手続、データ処理、日程計画等、かなりの管理業務が発生する訳で、生徒会も当然関わる事になる。

今年の星武祭は鳳凰星武祭、通称フェニクス。夏の開催の為、春の学園祭からの間隔が短い。故にあらゆる事務処理は急がされる事になる。

 

「会長、本日分のエントリー6名。まとめたのでチェックして」

 

「はい・・・OKですね。では参加申請書をお願いしますね」

 

「フォーマット入れます。・・・6人か。今日は少なかったな」

 

「気を抜くな。トレーニングルームの予約が来ているぞ」

 

「書記長、運営委員会からの問い合わせ、どうしますか」

 

「今メール書くから。少し待ってて」

 

とまあ、こんな具合に、会長以下全員で対処する程には、生徒会も大変なのである。何しろフェスタの優勝者には所属する学園から特別な報酬が、それも富も地位も名誉も思うがまま、というレベルで与えられる。参加者が多数になるのは必然で、申請の処理をするだけでかなりの労力になる。

この状況は、大会エントリー締め切りの少し前まで続くのが恒例となっていた。

 

「会長、こんなもんでどうですか?」

 

「いいですよ。後は私の方で手直しして送ります」

 

「願います。じゃあ今日は・・・」

 

「はい。『会合』の方はよろしくお願いしますね。涼さん」

 

 

状況が状況だけに、多少の後ろめたさ感じながら席を立つ。

確かに星武祭向けの事務処理より優先する仕事ではあるが・・・

 

 

 

学園内の駐車場。

 

一台の白い普通乗用車。

そこにやって来たのは普段と違い、スーツ姿の志摩 涼。

 

ドアノブに手を当てると、ポケットの中の校章が認識され、ロックが解除された。

 

3年前、生徒会業務に必要との理由で、かなり無理をして購入した車だが、免許を持っているのが涼だけになってしまった為、彼専用になっている。

 

システムを起動させて異常無しを確認。

オートドライブとナビゲーターは使わずに走り出す。

行き先は市内、商業エリアの某ホテル。場所は分かっているし、システムにルートを記憶させたくはない。

 

目的地の少し手前で地下道に下り、そのまま接続している地下駐車場に入る。

停車すると急いでエレベーターに跳び込み、最上階に向かう。

さっきの事務仕事、思ったより手間取った。結果として僅かな遅刻になっている。

 

今日の場所に指定された部屋に入ると、他の参加者二人は予想通り既に来ていた。

 

「5分程ですが遅刻でしてよ。シマ」

 

「悪いな。色々あってね。レティ」

 

「この時期は仕方ありませんよ。忙しいのはお互い様でしょう」

 

「そういう事だな。趙」

 

その参加者とは。

 

レティシア・ブランシャール。聖ガラードワース学園生徒会副会長。

今日の装いは地味目なワンピースだが、当人の存在感が高い為いささかアンバランスな印象。

 

趙虎峰。界龍第七学院、生徒会長の秘書的存在。

普段もそうだが、制服でなく私服を着るとますます男に見えなくなる。

 

そして志摩涼。

星導館学園生徒会書記長。

スーツ姿だと、その風貌もあって全く学生に見えなくなる。少し不幸な男かもしれない。

 

こうしてアスタリスクに存在する六学園の内、三学園の運営側実質ナンバーツーが揃った。

『会合』、とだけ呼ばれているこの密会、実は学園間の利害調整システム(当然水面下での)となっている。

その存在は彼らと生徒会長しか知らない。

そして話合いの内容は参加者の記憶だけに留められ、一切の記録は残さないのがルールだった。

 

ちなみにこの三学園となった理由は、

アルルカントは運営システムが異質で生徒会にも力が無く。

クインベールはそもそも生徒会が機能していない(あの女学園の運営は統合企業財体が行っているようなもの)

レヴォルフを入れたらガラードワースと正面衝突してしまうので利害調整どころではなくなる。

 

そんな経緯を思い出しながら、話を切り出すのは最年長の涼。

 

「さて、今日は・・・学園祭でお互いにやらかしたトラブルについての落とし所をどうするかだな。あと、そろそろフェニクスの事も話がいる」

 

この話し合い、学園間の密約を禁止している星武憲章(ステラ・カルタ)からすると、かなり問題のある行動ではあるのだが、世の中建前だけでは上手く回らない事もある。それ故にこれまで存在が許されている。

 

「まあ、この場にいる事自体、お前さん達には面白くないだろうが、役には立つんだ。始めるか」

 

涼はともかく、真面目な性格の他の二人はいかにも気が進まない、と言う顔。

しかし実際は、『会合』メンバーがこの3人になって以降、調整は上手く行くようにはなった。

何しろこの3人、程度の差はあれ同じような立場で似たような苦労をしている。その辺りの共感もあってか個人的関係は悪くない。

 

「そうですわね。では、今回はどの案件から始めます?」

 

こんな場でも優雅さを漂わせるブランシャール。

 

「学園祭中にこちらの施設が破損した件でどうですか?実は修理費用の見積りが上がっています」

 

こちらは実務的な趙。

 

「チッ。あれか・・・金額についてはもう少し何とかならんか?ああ、やらかした馬鹿共はきっちり制裁済だ」

 

かなりくだけた感じの志摩。

 

それぞれ性格は違うが、それ故に上手く行くのかもしれない。

 

 

 

面倒な、しかし意味のある話し合いが終わると、それぞれが時間をずらせてこの場を離れる事になっている。

今日は最初に趙虎峰が少し急いでいるように部屋を出ていった。

 

(ああ、またあのお子様会長に無茶を押し付けられたかな?)

 

次は自分か、と出ようとした所、視線を感じる。

 

「どうしたレティ。まだ何かあるのか?」

 

「今日は車でしょう。シマ。送って下さりませんの?」

 

「おやまあ。いいけど。適当な駅までならね」

 

共にエレベーターを降り、車に乗るまではお互い無言だった。

車を出すとやっと会話が始まる。

 

「それで、今年は『彼女』はどうなさるのかしら?」

 

以前の星武祭、《グリプス》にて、クローディア・エンフィールドに不覚をとって以来、レティシアはその事に拘り続けている。その事は涼も良く知っていた。

 

「おいおい。言うまでも無かろう?少し考えればわかる事だよ」

 

ぞんざいな言い方だが雰囲気は悪くならない。この二人、仕事上の付き合いはそれなりに長い。

 

「確実な所が知りたいのですわ。貴方は知っているのでしょう?」

 

「・・・わかったよ。ウチの会長はフェニクスには出ない。だが来年のグリプスは確実だ。直接聞いてる」

 

「・・・そうですか。ありがとうございます」

 

「これでこの前の借りは帳消し。いいね」

 

「仕方ありませんわね」

 

基本的にはギブ&テイクの関係。仕事以外で会う事はほとんど無い。

だからこそ上手く行く事もある。

 

 

地下鉄駅の近く、目立たない場所で彼女を下すと、目に付いた店に入って時間を潰す。

もっともそれ程時間を無駄にする事はなかった。

適当に切り上げると、商業エリア内を再び移動。

次の目的地はロートリヒトに続く繁華街にある、居酒屋チェーン店だった。

 

そこにもすでに先客がいた。

だが先程とは全く逆の雰囲気。

 

「おお!志摩がきたぞー!」

 

「なんだこいつ。どっかサラリーマンかと思ったぜ」

 

「シマ~~。しばらくだなあ。じゃあかけつけ一杯!」

 

苦笑しながら宴の輪に加わる。

同期の飲み会なんていつもこんな物だ。

 

「なんだお前ら。もう始めてたのか。しょうがねえなあ」

 

3年前、一緒に星導館学園高等部を卒業した連中。

進学、就職で道は分かれたが、アスタリスクにいる奴らとはたまに集まって騒ぐ事もある。

席に着くと差し出されたグラスのビールを一気に呷る。

この時だけはストレス解消になりそうだった。

 

 

 

 

約2時間後。

いつも通りに盛り上がった飲み会の後。

同期連中が帰るか、もう1軒か行くかで店の前でワイワイやっている中、涼は一人の男の肩を叩く。

 

「ちょっと付き合えんか。リキ」

 

「涼か。珍しいな」

 

「たまにはね。近くに良い喫茶店を知ってる。酔い覚ましさ」

 

と言ってもこの二人、たいして酔ってはいなかった。

 

「・・・いいだろう」

 

夜の街を歩く事、しばし。

 

その男、リッキー・エコーレット。

星導館学園高等部卒業後、星猟警備隊入りした。

高等部でそれなりに優秀な成績でも、もう勉強は飽きたと言って就職した奴は多い。彼もその一人だが、シャーナガルム入りしたのは同期では彼だけ。

そして元々優秀だったせいか、すでに現場チームのサブリーダーになっている。入隊3年後に就くポジションとしては異例に近いらしい。

 

涼とは卒業後も付き合いを続けているが、密談するような後ろ暗い関係になったのは最近の事だった。

 

 

「で、何が知りたい?」

 

「エクリプス」

 

「あれは俺がシャーナガルムに入る前に潰れたんだが?」

 

「捜査資料にはアクセスできるだろう」

 

「・・・まあな」

 

「できれば5年前、摘発前の試合状況が知りたい」

 

「簡単に言ってくれるな」

 

「極秘という訳じゃないだろう」

 

「それでも部外秘なんだが・・・ま、何とかするさ」

 

「すまんね。ちなみに今、ウチでも妙な事が起こっている」

 

「というと?」

 

「まだ詳しくは言えん。でもそちらが興味をもつような状況になったら話すよ。これでどうだ?」

 

「ああ」

 

警備隊の警察権は各学園内には及ばないルールになっている。

そんな状況下、内部の情報を得る機会は警備隊関係者なら貴重に思うだろう。

ギブ&テイク。

かつての友人でも、今の立場では貸し借りは作れない。

卒業からわずか3年でお互い妙な関係になってしまった。

 

「まあ、仕事だからな」

 

煙草に火を点けると、ため息は煙と共に吐き出した。

 

 

 

 




今回もお付き合いありがとうございました。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。