部長が説明してくれたことによると、はぐれ悪魔祓いという存在がいるらしい。
悪魔祓いは教会に所属して悪魔を倒すのが仕事で、それは信仰のために行われる。
だが、殺人というものはストレスを与えるもので、そして同時に快楽を与えることがある。悪魔払いの仲にも当然そういうたぐいはいて、それに屈する者たちが何人もいるそうだ。
たいていそういう快楽殺人鬼と化した手合いは処罰されるのが常だが、中には堕天使の側に逃げ込む者もいるそうだ。
そのうちの一人があのフリードなのだろう。つまりは、あいつは堕天使側だということだ。
と、言うことは当然アーシアも・・・。
なんか、性格的に全然悪とは思えないんだけど。まあ、悪魔の部長たちもいい人ぞろいだからな。堕天使にもいいやつと悪い奴がいると考えるべきか。
「しっかし人様の陣地で何やってんだあいつら? よりにもよって俺様の担当で暴れやがって、戦争起こす気か?」
「部長がこの街の担当なのはそこまで有名ではありませんからね。気づいていない可能性があるのでは?」
イラついている部長に木場はそういうが、しっかしそれにしたってなんでこんなところにいるんだよ。
「部長、どうします?」
「一応上には報告しておくが、警戒はした方がいいな。当面は家業は中止して防御を固めるぞ」
小猫ちゃんにそう指示しながら、部長は死体のそばに近寄ると、布をかぶせる。
「・・・悪いな。念仏でも唱えるべきなんだろうが、そうするとこっちがダメージ入るんだよ」
この人もかわいそうに。別に日本じゃ悪魔だからって即抹殺なんて考えないってのに。
だが、彼には悪いけど心配なのはそこだけじゃない。
「部長。アーシアって子が堕天使に騙されてるかも―」
「落ち着け。うかつに堕天使と揉めるとことになる。まずは少し鎌をかけてみるさ」
俺の言葉を遮りながら、部長は俺の頭をなでる。
「安心しろ。教会のシスターは基本敵だが、仕掛けてこねえ堅気をボコるほど俺様は外道じゃねえよ」
そういって微笑んでくれるが、やっぱり少し心配だ。
・・・アーシア。
次の日、俺は一応休んでおけと言われた。
光は悪魔にとって強力な毒だから、警戒しないといけないってことだ。
だけど、俺は休む気になれなくて外に出ていた。
アーシアのことが気になったからだ。
部長は一応気にかけてくれているみたいだけど、悪魔が教会にいろいろとかかわるわけにはいかないだろうし、難しいだろう。
もちろん、俺から手を出すなんてもってのほかだ。
だけど、どうしても気になるんだよなぁ。
「アーシア、大丈夫かな」
「あ、はい。私は大丈夫です」
と、後ろから返事が返ってきた。
五秒ぐらい固まってから、俺は慌てて振り返った。
「あ、アーシア!?」
「はいっ。アーシアです、イッセーさん」
な、な、ななな!?
なんでアーシアがここに!?
俺はどうしたものかと思ったが、しかしいいタイミングでいい音が鳴った。
具体的には、アーシアのおなかから腹の虫が鳴った。
「・・・あ、あうう」
「も、もしかしておなか減ってる?」
「はい・・・」
俺は、家に連れて行こうかと思ったが少し思いとどまった。
さすがに親に迷惑をかけるわけにもいかない。ここは俺の金で飯をおごるとしよう。
「なんか、食いたいものある? 可愛い子と話すのは大好きだから、おごるよ」
そのあとは、けっこう楽しい時間だった。
教会の生活はいろいろと箱入りお嬢様みたいなのか、ハンバーガーの食べ方を知らなかったというのは驚いた。
クレーンゲームでとったぬいぐるみで喜ばれるのは結構後ろめたいな。いや、一発で取ったから百円なんだよ。
「こんなに楽しかったのは、生まれて初めてです」
「そいつは光栄。・・・で? なんでこんなところに?」
俺は視線を鋭くして問いただす。
フリードが堕天使に与しているっていうなら、堕天使はフリードの行動を容認したことになる。
アーシアはそれに恐怖すら抱いていた。ってことはつまり・・・。
「逃げてきたんだな?」
「・・・はい」
弱った。このまま部長のところに連れていくべきか? いや、そんなことをうかつにしたら部長に迷惑がかかる。
だったら、せめて人の多いところに連れ込んで牽制をするべきか? いや、フリードみたいなやつの性格だと躊躇なく暴れかねない。堅気の方々に危害を加えるわけにはいかないはずだ。
そう思って悩んだけど、だけど答えは出てこない。
そこまで考えて、ふと気になることが出てきた。
「そもそも、なんでアーシアは堕天使のところに?」
冷静に考えるとそこからして先ずおかしい。
アーシアが殺しを楽しんでいる風には全く見えない。なのになんでアーシアは堕天使側にいるんだ?
その言葉に、アーシアは言いよどんだが、やがて顔を上げた。
そして、俺はアーシアの過去を知ることになる。