すでに日をまたいだころに、俺たちは部長に呼び出された。
なんでもコカビエルが宣戦布告をしたらしい。
部長が住んでるマンションに到着すると、そこには部長が一人の少女を抱きかかえて立っていた。
「アーシア! すぐに治療してくれ!」
そういって部長がつきだしたのは、イリナ!?
「イリナ!? お前大丈夫かよ!?」
「イリナさん! しっかりしてください!!」
慌ててアーシアが癒しのオーラを放つけど、これは一体どういうことだ?
「どういうことですか部長! なんでイリナがここに?」
「コカビエルが連れてきたんだよ。土産、だとよ」
「・・・悪趣味」
小猫ちゃんがいやそうな顔をするが、当然だ。
さすがは戦争賛成派。イイ趣味をしてるようだな!
って待てよ? イリナは木場やゼノヴィアと一緒にフリードたちを追いかけて行ったんだ。
つまり、三人は一緒に行動していた。そして、そのままコカビエルと戦闘になったと考えるべきだろう。その結果としてやられたわけで・・・。
「木場とゼノヴィアは!?」
「わからねえ。だが、ゼノヴィアはともかく祐斗は殺したなら挑発目的でそういうはずだ」
だよな。木場が部長の眷属悪魔なことぐらいはわかっている可能性があるし、そもそも死体を見せる方が挑発には便利なはずだ。
だけど、あの野郎なんでわざわざこんなことを・・・。
「コカビエルは、駒王学園で戦争再開の狼煙を上げるとか言ってやがった。何をしでかすのかはわからねえが、とにかく急がねえとまずいぜ!」
「うっす! 速攻で言ってカタを付けましょう!!」
待ってろよ、コカビエル!!
駒王学園の前で、俺たちはいったん集合していた。
なにせ相手は聖書に名を遺すコカビエルと、伝説の聖剣エクスカリバー。当然難易度はこれまででも桁違いレベルだろうし、こっちもそれ相応の準備を整えないといけない。
「駒王学園の周囲には、結界を張り終えました」
と、会長が告げる。
とはいえこれは気休めだ。若手悪魔の結界ぐらい、コカビエルが本気を出せば簡単に壊せるだろう。
それでも、少しでも被害を減らすにはそれぐらいしないといけないのがつらいところだ。
「私達は、閣員で分散して結界を補強します。焼け石に水だとは思いますが、それでもしなければいけないでしょう」
「悪ぃな。おいしいところはこっちでもらうぜ?」
「貧乏くじを引き受ける・・・でしょう?」
部長の軽口に会長も答え、そして空を見上げる。
「リアス。魔王様に連絡は」
「一応しておいたが、ここまで急に動くとは思ってなかったからな。あと三十分か四十分か」
はあ、とため息をつく部長。
どうにもこうにも、魔王様の力を借りることは不本意なようだ。
「相手がコカビエルな以上仕方がねえが、領地の防備も自力でできねえとは悔しいもんだぜ」
「仕方がないでしょう。最上級のそのまた上がコカビエル。勝算が一割あっても奇跡というものです」
そう慰める会長だが、こっちに視線を向けるときには、かなり険しい表情になっていた。
「申し訳ありませんが、リアスのことをお願いします」
「もちろんです。部長は俺たちの主ですから」
ああ、それに関してはもちろんだ。
それにこの街は俺の故郷。コカビエルなんかに破壊させてたまるものか。
なんとして、命に代えても必ず駒王町を守り通す。それが俺がやるべきことだって、心の底から言い切れる。
「兵藤、木場はどうなんだ?」
と、結界を張る準備をしながら匙が聞いてくる。
やっぱり、匙も木場のことが心配なんだな。やっぱりこいつ、俺と同じでスケベだけど、いいやつじゃないか。
「まだ連絡はない。コカビエルなら捕まえれたら堂々と見せるだろうけど・・・」
「そうか。まあ、あのイケメンなら大丈夫だろ」
そう、自分をに言い聞かすように匙は言って、俺の肩をたたいた。
「俺たちもやれるだけのことはやる。だから死ぬなよ」
「もちろん。なんとしても俺たちの力でこの街を守ろうぜ?」
敵は圧倒的に強いコカビエルと、最強クラスの聖剣エクスカリバー。鬼に金棒とか言えるようなレベルでもない、圧倒的な戦力。
だけど、そんなことでビビっている余裕はない。
なんたってなわばりの危機だ。ここで立たなきゃダメってもんだろう。
そして、俺たちを代表して部長が堂々と前に出る。
「野郎ども! 今回の戦闘は間違いなく死戦だ!」
ああ、やっぱりそれぐらい難易度高いのか。まあ、普通にかんげえたら新米が担当するような類の戦闘じゃあ絶対あり得ないからなぁ。
使い捨て一歩手間の少年兵でも、そんな過酷な乱用はされなかったぜ。
だけど、それでも・・・。
「だが勝つのは俺たちだ! 全員で生きて帰って、勝利の美酒を味わおうぜ!!」
「「「はい!!」」」
俺たちは気合を入れると、そのまま一気に結界の中へと突入した。
結界の中、校庭のど真ん中で巨大な魔方陣が書かれていた。
その中心にいるのはバルパー。そしてその周囲には五本のエクスカリバーが立っている。
やっぱりイリナの聖剣も奪われてたか。これは戦闘の難易度が大きく跳ね上がるぜ。
そして、祖の魔方陣の真上でコカビエルが椅子に座っていた。
宙に椅子を浮かべてふんぞり返っている。なんて余裕なんだあの野郎は! っていうか椅子は堕天使の力で浮かべてるのか、無駄に優れた技術だな。
「遅かったな。もうだいぶ儀式は完成したぞ?」
と、待ちくたびれたかのようにコカビエルが言ってくる。
儀式? それが開戦の狼煙ってやつか?
「人様の縄張りで好き勝手やってくれるじゃねえか。言っとくが、堕天使側からお前は始末していいって許可は出てるぜ?」
「アザゼルめ、そこまで戦争がいやか」
部長の言葉に苛立たし気に吐き捨てるコカビエルだが、すぐに気を取り直したのは獰猛な笑みを口元に浮かべ始める。
「なら、エクスカリバーを使って俺一人でも戦争を始めるだけだ。その御旗はお前たちの血で染めるか」
「ならエクスカリバーを使うといい。あと五分もあれば完成するからな」
と、バルパーも割と乗り気だ。この野郎マジでむかつくぜ。
「それで? セラフォルーかサーゼクスが来るんだろう? あとどれぐらいなだ」
「その前に俺様達で倒してやるよ。てめえにゃ前菜で十分だな」
と、部長ははっきりと告げ。それにコカビエルも乗り気になったのか笑顔を浮かべる。
そして、部長もそれに呼応するかのようににやりと笑う。
「面白いじゃねえか。その顔を苦悶にゆがめてやるぜ、なあ野郎ども!!」
「はい部長。やってしまいましょう」
小猫ちゃんも割とノリノリだ。結構テンション高いね、ホント。
うん、だけどまあ・・・。
「やってやりますよ、部長!」
俺も、やる気だけはみなぎってるぜ!
そして、今この場で駒王町一度目の危機が始まることとなった。