その日の部活動、木場は姿を現さなかった。
「部長、木場は?」
「ああ、今日は休むってよ。なんか様子がおかしかったが、よっぽどぶり返してるみてぇだな」
そういいながら、部長はため息をついた。
木場の奴、相当追い詰められてんだなぁ。
いや、いくらなんでもいきなりすぎやしないか?
部長も同感のようだ。少し考え込んでいると、すぐに立ち上がった。
「何かあったのは間違いねえな。本人に聞くのは少し待つが、ちょっと兄貴に頼んで人を送ってもらうわ」
少し調べた方がいいようだ。俺もちょっと動いた方がいいかもしれない。
と、思った時だ、ノックが響いた。
「・・・空いてるぜぇ」
タイミングがある意味抜群すぎたノックに、部長は少しいやそうな顔をしながらしかし応対のためにお茶を取り出した。
「失礼します、リアス」
と、そこに入ってきたのはこれまた美少女。
って、支取蒼那生徒会長!?
姉御肌の部長を追随する、氷の美女と名高い生徒会長が、なんか一人男を連れて入ってきたぞ?
「ちなみに、生徒会は基本悪魔です」
と、子猫ちゃんが補足説明を入れてくれる。
って、ちょっとまって?
「生徒会も悪魔ぁ!?」
「はわわ、そうだったんですか!?」
俺とアーシアは同時に驚いた。
そりゃそうだ。ここは部長の縄張りだから、てっきり部長だけだとばっかり思ってたぞ!
と、俺たちの驚きっぷりを見て男子生徒の方が怪訝な表情を浮かべる。
「・・・え? 俺たちが悪魔だって知らなかったのかよ? 何やってんだお前ら」
む、ちょっといらってくるな。なんか敵視してるのかこいつ。
「ああ、悪い悪い。言ってなかったな」
と、部長がとりなすように立ち上がると、そのまま会長の肩に手を置く。
「会長の本名はソーナ・シトリー。グレモリーと同じ72柱の一つのシトリー家の次期当主だ」
「リアスの幼馴染・・・とでもいえばいいのでしょうか。いろいろと破天荒なのは相変わらずですね」
快活に笑う部長と、クールに微笑を浮かべる会長。
ふむ、対照的だけどいいコンビな気がしてきたぞ?
そして、部長の視線が会長が連れてきた男に向けられる?
「で、そっちは最近ソーナの眷属になったとかいう・・・ハジだっけ?」
「匙です! 匙元士郎です! ・・・くそ、これでも駒四つなのに・・・」
と、なんかすごい釈然としない顔をする匙とかいう転生悪魔。
ふむ、つまり俺の同期とうことか。
「とりあえずはよろしくな。・・・俺は駒五つだけど」
「あ、てめえ喧嘩売ってんのか!? レーティングゲームであったらボコボコにしてやるからな!?」
お、元気なやつじゃん。
「よろしくお願いします。私は、アーシア・アルジェントです」
「アーシアさんは末永くよろしくね」
おい! 気持ちはわかるがものすごく態度がわかりやすいぞ!
まあ、気持ちはわかるがしかしそれは・・・きつい!
何か一言言おうかと思ったが、そこで部長は匙の肩に手を置くと、静かに首を振る。
「残念だが、アーシアはイッセーにぞっこんだ。・・・あきらめろ」
「すでに同棲済みです」
「な、なんだとぅ!?」
小猫ちゃんにまで告げられて、匙は愕然となった。
「・・・き、金髪美少女と同棲とか、お前それは罪だぞ!」
「いや、両親の許可もちゃんともらってんだけど?」
「アーシアさんのご両親からだと!? なんて奴だ、なんて奴だ!!」
あ、眼が血走ってる。
「あ、すいません。私両親いないんです」
「・・・ごめんなさい!!」
そして速攻で土下座したよ。
「面白い眷属じゃねえか。いいの拾ったなソーナ」
「割と苦労してますが。・・・それよりリアス。少し話があります」
ソーナ会長はそういって耳打ちすると、部長は顔色がすぐに曇った。
「・・・イッセー、アーシア。部活は悪いが中止だ。小猫は木場を探してすぐに連れ戻してこい」
な、なんだなんだ?
なんか、すっごい嫌な予感がするぞ!?
その日後の帰り道、俺とアーシアは少し沈んでいた。
「木場さん、いったいどこに行ってしまったのでしょう?」
「まったくだよなぁ」
どうにもこうにも、聖剣を見たせいでいろいろ感情が高ぶってるようだ。
まさか教会に殴り込みをかけることはないだろうけど、少し心配だな。
「アーシアは、当分木場には触れない方がいいかもな。ほら、シスターとか教会を連想させるし」
「駄目ですか? むしろお話を聞いてあげれば気が晴れるかと思ったんですが」
「確かにそうだけど、これは結構デリケートな問題だもんな。うかつに触れると爆発するから、気を付けた方がいい」
木場、割と本気でいろいろとたまってるようだからなぁ。
普段は優男だけど、時々狂気めいたところを見せてたのはそれが原因か。
おかげで部活動もみんな気が入っていなかった。木場はみんなに愛されてるぜ。
だけど、どうしたもんだろうか。
このままいって、木場は大丈夫なのだろうか・・・。
それに部長の様子がおかしくなったことも気になる。
「木場を呼び戻せって、其れって結構荒事っぽいよなぁ」
「でも、なんで私たちに先に帰るように言ったんでしょう?」
そう、部長は俺とアーシアに家に帰るように言ってきたのだ。
悪魔としての家業も今日は中止。とにかく明日説明するから、家でおとなしくしているようにといってきた。
一体どういうことだ? なんかもう嫌な予感しかしないんだけど?
そんなことを悩みながら家の近くまで来たとき、俺とアーシアに寒気が走った。
・・・なんだ、この感覚は?
嫌な予感がしたので、俺は速攻で携帯を出すと部長と連絡を取る。
「・・・部長! なんか家の近くに来たら寒気が走ったんですが!?」
『あんだって? ・・・ああ、それならたぶん大丈夫だ。だが、警戒して家に入れ。俺様も小猫を連れてすぐに行く』
部長がそういったので、俺とアーシアは顔を見合わせると、警戒しながらも家に入る。
なんか寒気が強くなってるんだけど、いったいなんだよこれは?
と、家の中に入ったら母さんがすぐに出てきてくれた。
よかった、無事だったんだな!
・・・あれ? なんだか様子がおかしい。
「あらイッセー! ちょうどいいところに来た・・・んだけどね?」
と、母さんは何やら気づかわし気に俺たちをリビングに連れていく。
そこには、二人のかわいい美少女がいた。
一人は不愛想な青い髪に緑のメッシュの少女。もう一人は茶髪をツインテールにした見覚えのある少女。
そして、寒気は青い髪の少女の持っている布にくるまれたものから放たれていた。
そして、問題なのはその格好だ。
二人とも、装飾の施されたマントに身を包んでいる。そして、その内側にあるのは黒いレザーみたいな衣装。
普通の人間が着る衣装じゃない。なんていうか、バトル系の作品で切るような衣装だ。
そして、茶髪の少女の胸元には、十字架があった。
ああ、部長が言っていたことの意味が分かった。
こいつら、すでに部長に何かしらのコンタクトをとっている。だから、ここでいきなり仕掛けてくることはないと部長はわかってたんだ。
「覚えてる? 昔この近くに住んでた紫藤イリナちゃん。一樹ちゃんと仲良くなる前に外国に行っちゃった子なんだけど・・・」
「・・・うろ覚えすぎて、男か女かよくわかってなかったのが後悔もんだぜ」
あの子かよ! 中性的な感じだったのがなんて魅力的でおっぱいのある女の子に育ったんだ! オパーイ!
って言ってる場合じゃねえ! クリスチャンなのは思い出したけど、これそんなレベルじゃないな。完璧に教会の戦士とかエージェントとかレベルだよなぁ。
「ええ~。イッセーくん私の性別忘れてたの? 別の理由でショックになっちゃったわ・・・」
「ああ、マジで悪い。俺もなんていうか衝撃が強いというか、そりゃあショックだよなぁ」
もう一つの理由がわかりきってるので、俺としても割と悪いと思ってしまう。
信徒の幼馴染が悪魔になったなんて、それは確かにショックだろう。いや、悪いな。
「ま、まあ生きていればいろいろとあるわよね? 人にはそれぞれの人生があるんだしねぇ?」
と、母さんが場をとりなそうとするが、しかしそこで青い髪の少女の方が立ち上がった。
「いや、これ以上隠さなくてもかまわないさ、ご婦人」
そこで、その少女が俺たちに鋭い視線を向ける。
「ご両親には伝えているようだな。まあ、それぐらいの礼儀があるなら少しは安心だ。・・・帰ろうイリナ、これ以上は揉める」
「そうかしら? でもまあ、確かにそうよね」
と、イリナは少し寂しげな表情を浮かべるが、すぐに笑顔になると手を振った。
「バイバイ、イッセーくん。・・・貴方と過ごした日々、楽しかったわ」
・・・いや、なんか本当にすいません。
でも、そうでもしないと俺死んでたんで、その辺情状酌量してください!
二人が帰った後、すぐに部長が小猫ちゃんを連れてやってきた。
「まさか、イッセーの友達がバチカンの悪魔祓いだとはなぁ」
「どういう縁ですか、イッセー先輩」
などとあきれ半分で言われたけど、俺だって困ってるよ。
あんな中性的な子が、むちゃくちゃ女の子っぽい美少女に・・・いたたたたた!?
「イッセーさん? そういうことを言っているわけではありませんよ?」
「意外とダメ男ですね先輩」
アーシアちゃんと小猫ちゃんのダブルアタック!? 心と体が同時に傷ついたよ!
「まあ、それはともかくとしてだ。あいつらは今ここでやり合う気はないことだけは確かだ」
そう前置きしてから、部長は何があったのかを告げてくれる。
なんでも、ソーナ会長が伝えてきたのは、教会がこの地の担当者であるリアス部長とコンタクトを取りたいといってきたことだ。
「アーシアは教会に追放されてるからな。合わせたら揉めると思って先に帰らせたんだが・・・」
ああ、まさかイリナがその教会の人間だったとは。
そのせいでむしろ鉢合わせになっちまった。向こうはまだ気づいてないみたいだけど、これ揉めるんじゃないか?
「しかも堕天使のダチからも火急の相談があると来てよ。これはつながってるんじゃねえかって思うんだが」
うわぁ、確かにその可能性はすっごい高い。
「ど、どうしましょう? 三大勢力が同時にもめたら、戦争が再発するんじゃありませんか?」
アーシアは、たくさん人が死ぬのが苦しいのかすごく悲しそうな表情を浮かべる。
そんなアーシアを抱き寄せると、部長はぽんぽんと背中を安心させるようにたたいた。
「安心しろって! 悪魔は兄貴たちが平和路線だし、堕天使側も上層部でタカ派なのは一人だけだからよ?」
「教会だけが揉めても、二勢力で抑え込めるって感じですか?」
確かにそれなら何とかなりそうだけど、それでも冥界と天界の戦争になりそうな予感がするんだけど。
俺は少しそれが不安になるが、子猫ちゃんはそんな俺の袖を引っ張った。
「教会だけが暴れても、ほかの神話体系がにらんでくるので大丈夫です」
うん。君は読心能力でもあるのかな?
「とにかくそういうわけだ。・・・それに、どうもこのあたりで教会の人間が殺されてるらしい」
その言葉に、アーシアが顔を青くする。
ああ、ものすごい物騒な展開になってきてるじゃねえか!
「・・・それで、木場はどうしますか?」
「呼ばねえわけにはいかねえだろ。下手に鉢合わせて揉めるぐらいなら、目の届く範囲内に置いておいた方がまだ安心だ」
苦い顔で部長はそう告げると、俺たちを見渡した。
「万が一の場合は、俺様達で止めるぞ。・・・向こうが仕掛けてくる可能性もあるから、気をつけろよ?」
おいおい、俺は悪魔になって一年もたってないんだぞ。
いくらなんでももめ事多すぎだろこれは。