異世界侵略 ~転生者たちが侵略す~   作:グレン×グレン

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天龍警告 ~起こり得るかもしれない脅威~

 

 その観客席で、試合を観戦していた貴族たちは唖然としていた。

 

 優秀とはいえレーティングゲームを経験しないリアス・グレモリー。そして眷属はわずかに五人で、うち一人は封印されている。圧倒的に不利なのは間違いない。

 

 新進気鋭のルーキーで、事実上の全戦全勝のライザー・フェニックス。眷属は全員集まっている。圧倒的に有利なのは間違いない。

 

 どう見ても勝つのはライザーだと思われていた。むしろどれだけ圧倒的に勝てるのかどうかを賭けていたほどだ。

 

 それが、終わってみればリアス・グレモリーのワンサイドゲーム。ライザーこそ奮闘したが、一人も倒されずに勝利されるという結果に終わった。

 

 その光景に、貴族たちは驚きを隠せない。

 

「あれが、リアス・グレモリー・・・」

 

「なんというはしたない・・・だが、あれだけの強さを持っているとは」

 

魔剣創造(ソード・バース)とはなかなかに優秀な騎士を持っているようだ」

 

「シスターの恰好をしている少女もなかなかですな。あの回復力がなければ危なかった」

 

 驚きながらも、しかしそれゆえに貴族たちはリアスの眷属を褒めたたえる。

 

 そして、誰もが思っていたことを口に出すものがいた。

 

「何より、あの男の能力は一体なんだ?」

 

 それこそが、このレーティングゲームで一番の争点になるだろう。

 

 ワールマターによる転生者の送り込み及び異世界侵略の情報は、冥界政府の重鎮は一応話を聞いている。

 

 だが、いかんせん当時十歳にも満たない子供の異能力と言葉だけでは信憑性に乏しいのが実情だった。

 

 確かに重量操作能力は悪魔のそれではなく、言った通りに水に対する弱さもある。だが、其れだけで全部を信用するのはまともな大人のすることではない。

 

 ましてや、対策準備のために行った大量の転生悪魔採用は天界に牽制されている。戦力のあまりにも急激な拡充は、必然的に戦争に備えていると思われるのだ。堕天使が刃狗(スラッシュ・ドッグ)白龍皇(アルビオン)を確保しているなど緊張感が高まっている状態ではなおさらだ。あまり多くは用意できない。

 

 しかも、その多くには人生の選択肢を用意している。古い悪魔からしてみれば成果もあげていない人間風情に権利を与えすぎだというものもいる。

 

 だが、其れに一石が投じられた。

 

 機密事項として一部の貴族だけにだが、兵藤一誠もまた転生者であるという事実が伝えられている。そして、その能力もだ。

 

「あのような神器の情報は聞いたことがない。それにそもそも反応が違う」

 

「では、リアス嬢の言っていることは本当だと?」

 

「聖水を使ったとはいえ、子供のおもちゃをあのような危険な兵器へと変えるとは。これは想像以上に恐ろしいですな」

 

 その戦いぶりに、一同はみな大きな衝撃を受けていた。

 

 そんな中、一人の老人が声を上げる。

 

「・・・だが、其れはすなわちワールマターという存在の異世界侵略が進んでいることともいえるな」

 

 老人の名はゼクラム・バアル。

 

 リアス・グレモリーの曽祖父に当たる、初代バアルの悪魔だった。

 

「その通りです。私も妹の言うこととはいえ正直確信するわけにはいきませんでしたが、もう一人の実例がいるのならば確信せざるをえません」

 

 魔王、サーゼクス・ルシファーが敬意をもってそう続ける。

 

 ゼクラム・バアルの影響力は、貴族の間でならば現魔王すら遥かに凌ぐ。ただでさえ礼儀正しいサーゼクスが、丁寧な対応をとるのは当然。

 

 そして、何より理解されている以上喜びを示すべきだ。

 

「これは非常に火急の事態だ。・・・すべてのパイプを使い、神の子を見張るもの(グリゴリ)や、天界及びバチカンと連絡を取るべきだろう。私個人は変化を求めぬ老人だが、ことはもはや悪魔だけでどうにかできる問題でもなさそうだ」

 

 ゼクラムは目を伏せそう告げる。

 

 敵対する三大勢力相手に手を取り合うなど不満ではあるが、しかしそんなことを言っている場合ではない。

 

 高貴たる上級悪魔。その真なる悪魔を守るため、ゼクラムは決断を下した。

 

「魔王ルシファー様。我々はどうやら三大勢力での諍いを終わらせる必要があるようだ。・・・細かい判断はそちらに任せよう」

 

「は。ありがとうございます」

 

 サーゼクスはその言葉を受け、頭を下げる。

 

 もとより若い身であるサーゼクスとしては、三大勢力の戦争は不満があるものだった。

 

 終わらせられるならそれに越したことはない。

 

「ですが、我々の中にも最終的な勝利を望んだものは多いでしょう。それらによる反乱が起こる可能性があるのでは?」

 

「それは当然の摩擦と受け止めるべきだ。なに、三勢力で連携が取れるのなら、にらみ合っている反対勢力とは事実上の四つどもえだよ」

 

「なるほど、それなら規模の大きい我らの方が有利ですな・・・」

 

 と、老人たちが言葉を交わす中、サーゼクスはその場を離れると一人の男の前に立った。

 

「サーゼクスか。いま、フェニックス卿と話していたところだよ」

 

 ジオティクス・グレモリー。サーゼクスとリアスの父親だ。

 

 今回の騒動の元凶といえば元凶。だが、其れにも多少の事情はある。

 

「フェニックス卿には、私からも後で謝っておきましょう。あれではライザー君は当分立ち直れそうにない」

 

「なに、フェニックス卿はライザーくんに負けの経験ができたと喜んでいるよ。・・・それに、彼では荷が重すぎるようだ」

 

 と、ジオティクスは静かに視線を映像へとむける。

 

『・・・お兄様を倒すとは、あなたはいったい何者なんですの?』

 

『兵藤一誠。リアス部長の兵士だよ。ま、ボコボコにしたのは悪かったけど、それはお互い様だし勘弁してくれないか?』

 

 と、畏怖の感情すら浮かべるレイヴェルにほほ笑むイッセーの姿がそこにはあった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 レーティングゲームが終わって、俺はランニングを続けていた。

 

 修行とレーティングゲームの疲れが抜けるまでは修行をやめてたからな。少し緩んでるかもしれないし、しっかり鍛えなおしておかないと。

 

 しっかしまあ、レーティングゲームは疲れたぜ。

 

 実戦とはやっぱりなんとなく緊張感が違った。これが実際のゲームの場合、旗とかボールとか使うらしいからな。これでも楽な方なんだろう。

 

 だが、この世界の偉業の担い手の強力さがよく理解できたと思う。

 

 あの女王ですらしょせん下級悪魔だっていうから驚きだ。人間が相手なら銃で武装しようが何十人も蹂躙できる。まさに対地攻撃用のヘリコプターだろう。

 

 そんなのが相手にもならないような上級クラスが何百人もいるとなれば、そりゃもう脅威だ。

 

 そんなものに喧嘩を売ろうとしているワールマターは、きっとほかにもいろいろ仕込んでいるに違いない。

 

 真剣に警戒しないといけないな。これは、間違いなく大変なことになる。

 

 そんな風に気合を入れなおしながら走っていると、同じようにランニングをしてる外国の方と並んだ。

 

 赤い髪がまるで部長を思い起こさせる人だ。

 

「・・・初めまして。リアスの父のジオティクス・グレモリーだ」

 

 ・・・・・・・・・。

 

「いや、どんなタイミングで出てきてんですか!?」

 

 ランニング中にランニングしながら出てきたよ!? っていうかこの人ジャージ似合わないよ!?

 

「・・・走りながらでいい。すこし、話を聞いてくれないかね?」

 

 そういわれて、俺は速度を少し落としながらジオティクスさんに付き合う。

 

 しばらくの間無言で走っていたけど、やがてジオティクスさまが口を開いた。

 

「リアスや私がいろいろと迷惑をかけてしまった。いや、すまないね」

 

「それはまあ、下僕悪魔なんでかまいませんが。それにしたっていきなり結婚時期を変える必要はなかったんじゃありませんか?」

 

 そう。それがとても気になることだ。

 

 話を聞く限り、部長は婚約そのものは受け入れていた。普通に成長を待っていればそのままスムーズに結婚できていただろう。

 

 なのに、この人はわざわざ結婚時期を早めるような真似をした。

 

 なんでそれをしたのか。俺は、それが結構気になっている。

 

「・・・そうでもしなければ、リアスをここから引き離せないと思ったからだ」

 

 ジオティクスさんはそういうと、俺に質問をする。

 

「二天龍、という言葉に聞き覚えはあるかね?」

 

「えっと、三大勢力の戦争を引っ掻き回したっていう?」

 

 一応勉強はしてるので、少しは知っている。

 

 かつて三大勢力が一生懸命戦争をしていたころ、同じタイミングで喧嘩をしていた二匹のドラゴンのせいで大打撃を受けたそうだ。

 

 その後、三大勢力はいったん手を取り合ってそのドラゴンと戦った。激戦の末二天龍は倒され、肉体をバラバラにし魂は封印された。それが神器として使われているらしい。

 

「そう。赤龍帝ドライグと、白龍皇アルビオン。私は当時の戦争で現役だったから、その恐ろしさはとてもわかっている」

 

 そういうジオティクスさんの頬には、運動によるものとは違った理由でできた汗が流れていた。

 

「二天龍を宿した歴代の使い手は、二天龍どうしや神クラス、ほかの神滅具の持ち主などと戦い大いなる被害を生み出した。我々が秘匿しているから人間世界に走られていないが、標高百メートル程度の山なら軽々消し飛ぶほどの被害を何度も生んだよ」

 

 うっわぁ迷惑!

 

 なんで、強大な力を手にした連中ってのは暴走するんだ? その力を誓わずに生活することだってできるだろうに、力をふるって暴れまわることを前提にするなんて馬鹿らしい。やるならやるでもっといいことに使えってんだ。

 

 本当に迷惑な連中だ。できることなら一生関わりたくない。

 

「そのうち赤龍帝の反応が、この駒王町で観測された」

 

 俺は、その言葉に凍り付いた。

 

 なんだと? こ、この街に!?

 

「私が結婚を繰り上げた理由はそれだ。リアスの性格ではうかつに手を出さないだろうが、もし赤龍帝がリアスと接触したらと思うと気が気でない。ましてや堕天使側に与している白龍皇とに天龍対決がこの街で起これば」

 

 そこから先をジオティクスさんは言わなかったが、俺もすごい嫌な予感がする。

 

 おい、下手をしたらこの街が吹き飛ぶんじゃないか?

 

「だから、君にこれを渡しておこう」

 

 そういうと、ジオティクスさんは鞘に入った一本のナイフを取り出した。

 

「これは、冥界の実力あふれるナイフマイスターが作り出した一本だ。貴重な龍殺しの力を秘めている」

 

 それを俺に渡す意味。それがわからないほど俺も馬鹿じゃない。

 

 つまり、俺が二天龍を相手にしろと言っているのだ。

 

「手に持つものを禁手クラスにまで強化する君のギフト。それがあれば、ライザー君以上に二天龍に対する切り札となる。ライザーくんは当分再起できない以上、君だけが頼りだ」

 

 ああ、そのために部長の結婚を繰り上げたのか。

 

 でもライザーは日本で活動すること自体は許してるっぽいし、結局意味がないような気がする。企画倒れ?

 

「幸い、君たちはライザー君を倒した実力者。君に龍殺しが加われば、二天龍に対する抑止力になるんじゃないかと思っている」

 

 いや、それ言いすぎ!

 

 言っとくけど前はただの少年兵だからね? そんなにすごい奴じゃなかったからね?

 

 だが、ジオティクスさんは感極まって涙すら流すと、俺の両手をつかんでくる。

 

「リアスを・・・娘をお願いします!」

 

「いや、そんなんじゃないからねぇえええええ!?」

 

 おいおいこれどう言う状況ぅううううう!?

 

 いや、それにしてもあれだな。

 

 二天龍、こんなところにいるのか?

 




本作品における独自設定として、リアスの婚約の強硬は赤龍帝が原因ということにしました。


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