いろいろとうれしいことが起こったけど、それにのまれてばかりもいられない。
なにせ、ワールマターの侵略が始まれば大変なことになるのがわかったんだ。それも、ほかならぬ俺自身の手で証明した。
ギフト。この世界とは別の世界にある、様々な異能力を再現した、ワールマターが転生者に与えた特殊能力。
リアス部長は体重を操作する能力をもち、俺は武器を宝具という強力なマジックアイテムに変える力を持つ。
その力は下手な神器を上回る。それは、いざ侵略が始まれば人類は苦戦することの証明だ。
そんなことになれば、俺の両親は、友人は、仲間は、主は、皆大変なことになる。
だから、俺は特訓をしないわけにはいかなかった。
「よしイッセー! あと十キロ走ったら休憩だ!」
「うっす!」
そして、俺はリアス部長と一緒にランニングを続けていた。
同じ目的を持つ主に出会えるだなんて、俺はすごくついてるんじゃないかと思う。
一人でやってたらいつか挫折してたかもしれない。ある意味それぐらい孤独な戦いだったんだ。
だけど、同じようにワールマターに立ち向かおうとするものが、しかもお礼状に動いている人がいる。
そんな事実が、たまらなくうれしい。
「よしイッセー! あと一キロだ!」
「はい! でも部長、トレーニングとか好きなんですか?」
なんていうか、口調からはそういうたぐいには全然見えない。
だが、部長は何を言ってるんだかとでも言わんばかりに笑みを浮かべる。
「体動かすのは気持ちいいだろ? 第一、磨かなきゃ原石ってのはなかなか輝かねえんだよ!」
確かに、日々の訓練はとても大事だ。
限界まで努力してても、実践では死んでしまうことだっていくらでもある。そんな状態で最低限の努力もせずに戦場に向かおうだなんて、俺にはとてもできない。
「悪魔はその辺が緩くてな! 寿命が長い上に血統間で才能に差が出るから、なかなか努力が身につかねえ!」
へぇ。悪魔ってそんなに差が出るんだ。
そりゃぁ、努力も馬鹿らしくなるのかもなぁ。
「そりゃあ、努力すれば願いがかなうなんて幻想なのはよく知ってる! だが、努力もしないで夢がつかめるほど俺様は無敵じゃねえんだよ!」
ああ、そうだ。
いわれるがままとはいえそれ相応の訓練を積んで、それでも死んだのが俺たちだ。だから努力が必ず成果につながるなんてことは言えない。
だけど、何の努力もしなかったらそれこそ何もできやしない。
だから、できるだけ俺は努力をしている。勉強も運動も戦闘も。
そして、それはリアス部長も同じだった。
ああ、俺はこの人の下僕になって本当に良かった。
そして、ランニングが終わって家に帰ると、そのタイミングを見計らったかのように一人の少女が家から出てきた。
「おかえりなさい、イッセーさん!」
アーシアだ。
事の始まりは数日前。リアス部長がこんなことを言ってきた。
「イッセー。お前ん家に空き部屋があるなら、アーシアを住まわせてやってほしんだけどよ?」
いきなりそんなことを言われたときは度肝を抜かれたね。
なんでも、アーシアにどこに住みたいか聞いたら俺の家に住みたいと言ってきたらしい。
アーシアが俺に気があるのは知っていたけど、まさかここまで大胆に行くとは思わなかった。おいおいこの子シスターでしょ!?
で、仕方がないので両親に相談した。
「・・・えっと、一応事情はイッセーから聞きました」
「リアスさんも・・・その、同じ境遇なんですよね」
「うっす! 同じ世界からかどうかはわからないっすけど、とりあえずワールマターにこの世界に連れてこられたっす!」
部長、この手の礼儀はある程度わきまえてたんだ。ちょっと意外。
「それで、その、アーシアさんのことなんですけどいいんですか?」
と、父さんが本題に入る。
うん、やっぱりそこだよね!?
「年頃の男女が同じ屋根の下になると、やっぱり間違いがあるかもしれないですし・・・」
母さんもやっぱりそこが気になるのか。
「うんうん。特にイッセーはすごい失恋したばかりだからね。もとからスケベなところがあるし、暴発してすごいことになりそうで怖いんだよ」
「いや、ぶっちゃけその辺は何の問題のねえんすけど」
部長! そんなこったろうとは思ったけどはっきり言わないでくれ!
アーシアちゃんも顔真っ赤にするんだったらあんなこと言わなきゃいいのに!!
とはいえ、さすがに日本の普通の人間である父さんや母さんにこの緊急展開はあれか―
「親父さん、お袋さん。・・・冥界では実力者がハーレム作ることはよくあるんでさぁ」
―え、その爆弾ここで投下するの!?
「なん・・・だと?」
「え? え? え?」
うん、混乱するよね!?
「そして、俺様は眷属悪魔に対して、上級悪魔になって自分も眷属悪魔を作ることを願っていやす。・・・やっぱり舎弟にもでかいやつになってほしいんでさぁ」
え? そうなの?
俺の視線をみて、部長は軽く肩をすくめた。
「まあ、俺様のカリスマ性が高すぎるせいで、なかなか三人とも独立する気が出てこねえんだけどな」
なるほど。姉御肌がありすぎるのも考え物だ。
っていうか三人? ほかにもう一人いるの?
と、思っていたら部長は話を戻し始める。
「もちろん純愛で一筋にやっている人もいますぜ? 親父殿や兄貴は嫁さん一筋でさぁ。・・・ですが、俺様はこう思うんです。男なら、ハーレムの一つぐらい作って見せろと」
「・・・あなた?」
「若気の至りぐらいだからね!? 父さんは母さん一筋だからね!?」
部長! 俺の家族をドロドロにするのやめてください!
「は、は、ハーレム・・・。そ、それでは主の教えに反してしまいますし・・・ああでも・・・主よはぅう!?」
ああ、アーシアもいろいろ大変なことに!!
「もちろん、生活費に関してはこちらが持ちまさぁ! と、いうわけでちょっくら花嫁修業でもどうっすか?」
な、なんかすごいことになってきた!
そして、勢いに流されたところもあるが、アーシアは俺の家に住むことになった。
最終的に俺の嫁になることが前提になっているけど、俺、もう少し考える時間がほしいよ。
「さて、説明してもらおうか、イッセー!」
と、俺は松田にいつものハンバーガーショップで詰め寄られた。
具体的にはアーシアのことである。俺の家にホームステイしていることである。
そんなことが知られればいろいろと大騒ぎになるのがわかりそうなものなのだが、教会育ちで世間知らずなところのあるアーシアはストレートにばらしていたのだ。
しかも、覗きをぶちかました経験が一応ある俺の家に住んでいるということでもちろん大騒ぎだ。
気づいたら妊娠してるんじゃないか? とかね。
うん、人のことなんだと思ってんだ!
一回しかしてないし。それだけで終わったし!
そして、それに対しても。
「い、イッセーさんの子供!? で、できれば二人ぐらい欲しいで・・・あぅう」
ハイ、大爆発。
それで全力で逃げてきたけど、先回りされて尋問されているのが今の現状だ。
「へー。あんたそんなにベタ惚れされてるんだー。へー」
一樹もジト目で見てくるし! なんだよその軽蔑しているような眼は!!
「蛇野さん。俺らは困りますけど、いい加減素直になった方が痛い痛い痛い!?」
「ちょっと黙っててね?」
うわぁ、元浜がアイアンクローされてるよ。痛そう。
「なんで一樹はあんなにキレてんだよ?」
「言ったら殺されるから言わねえよ。っていうかお前はそれ直した方がいいって。いや、蛇野さんにも問題あるんだけど」
?
まあいいや。とりあえず素直に説明するべきだが・・・どうしたものか。
「・・・では、私が説明します」
うぉ!? 小猫ちゃん!?
「ああ、じゃあ僕も協力するよ」
木場も!? なんでこんなところに!
「部長から頼まれてね」
部長、アンタ本当にいい人だ。
あれ? でも部長本人が来ればいいだけじゃねえの?
「部長はアーシア先輩の方に行ってます」
あ、そうなんだ小猫ちゃん。
「・・・それで、イケメン野郎。どういうことだ?」
「俺らに納得いく説明してくれるんだろうな。ああ?」
女を集めるイケメンが憎い二人が、すごい視線ですごみながら木場に説明を求めてきた。
「はいはい。説明はともかくとりあえずなんか注文してくんない?」
「では、これとこれとこれとこれを」
一樹! 聞き耳立てながらとはいえ注文を促すとは店員の鑑だなお前! 小猫ちゃんもいっぱい頼んでお客の鑑だよ!
「まあ、あまり人に言えないこともあるけど・・・」
そう前置きして、木場はわかりやすくうまくぼかした説明をしてくれる。
オカルト研究部は事実上のリアス・グレモリーの舎弟集団で、見込んだ人物を入部させていること。
部長はいずれ自国で親の跡を継いで企業の社長になる予定であり、その際の側近として部員をあてがうつもりだということ。
そして、部員達には何らかの形で独立して事業を始めてほしいと願っていること。
でもって、部長の故国はハーレムOKで、むしろ男なら作ってなんぼだろ派であること。
あとアーシアが教義に反したことで教会を追放されていて、其れがらみのごたごたに部長が介入した結果、俺が頑張ったことでアーシアが俺に惚れていることも説明した。
「うわぁ、わかりやすくそれでいて嘘を言っていない説明」
一樹があきれ半分でそう漏らす中、松田と元浜は崩れ落ちていた。
「そ、それじゃあ俺たちはお眼鏡にかなわなかったということか・・・っ!」
「ハーレム! 男のロマンがぁああああああ!!!」
うんうん。気持ちはわかるぞ二人とも。
だけど、ほかにお客さんもいるからその辺にしとこうか。
と、ドアを開けてさらにお客さんが入ってきた。
ほらお前らしっかりしろ。お客さんの迷惑だぞ?
と、思ったら、その姿は見覚えがあった。
「あ、イッセーくんじゃないぃ。久しぶりぃ」
と、少し間延びしたその声は、懐かしい彼女の声だった。
「一美ちゃん! 元気だったか?」
「そうだねぇ。最近は毎日が楽しいかなぁ」
と、黒髪がまぶしい竹虎一美は、誰もが見ほれる笑顔を浮かべてほほ笑んだ。
「お、竹虎! 久しぶりだな」
「うん。元浜君も元気だねぇ。どうしたのぉ?」
「それがきいてくれよ竹虎! イッセーの奴、結婚を前提としたホームステイをだな・・・」
松田と元浜が元気よく話だす。
いや、下心があまりないのはわかるんだけどさ。忘れてるようだけどそいつ彼女持ちの女だよ?
「・・・どうしたのさ。初恋の女の子なんだから少しぐらい話したらどうよ?」
と、ニヤニヤしながら一樹が肘で突っついてきた。
「意外。もっと片思いばっかりしてる人だと」
小猫ちゃん? 俺のことなんだと思ってるんだよ。
しっかし話せと言われてもなぁ。
「なんていうか距離をつかみにくいっていうか、勝手に俺が気まずくなってるっていうか」
俺が勝手にそう思ってるだけなんだろうけど、どうしてのなんか話しかけずらい。
彼女ができたことでいろいろ変わったのか、なんか距離が遠くなった気も知るしな。
それをみて、一樹はほっと息を吐いたような気がした。
けど、すぐにあきれたような顔を浮かべると肩をすくめる。
「あんたそもそも告ってもないくせして、後ろめたい気になってんの? 馬鹿よねぇ男って」
「あはは、まあ初恋ですし気になるんじゃありませんか?」
木場、フォローしてくれてありがとう!
とはいえ、久しぶりの一美とのおしゃべりは結構楽しかった。
うん、この時は、本当に楽しく話し合えてたんだなぁってマジ思う。