フューチャー・フレンズ   作:ファルメール

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第06話 こうざん

 グレートブルーウインドランナー。

 

 一億年後の世界に現れる、ツルの子孫である。

 

 この鳥には特徴が多い。

 

 空の色を写し取ったようなメタリックブルーの美しい体。これは空気が薄い場所での強烈な紫外線から体を守る為の進化である。

 

 次に瞬膜。爬虫類や鳥類が持つ目を保護する為の薄い膜であるが、この鳥のそれは強い紫外線から目を保護する為に偏光レンズのような働きをする。つまりは自前のサングラスを掛けているようなものだ。

 

 しかし何と言ってもこの鳥の最大の特徴は、その羽根であろう。

 

 グレートブルーウインドランナーは、何と二対四枚の翼を持つ。

 

 通常の鳥と同じ、手に相当する部分の翼。そして羽毛の生えた足である「翼肢」の二種類の翼があるのだ。更には頭の両側にある羽毛の眉も、カナード(前翼)として水平安定板の役目を果たす。

 

 この鳥は高原に点在する餌場を行き来する為、長距離を高速で移動する手段を求められる。よって、遙か遠くまで高速で飛べる翼が必要となる。一方で、餌場に降りる時には低速での運動性が重要となる。この相反する条件を満たす答えが、二対四枚の翼だった。

 

 前方の細長くて大きな翼は、風に乗って高速での滑空を可能とする。

 

 一方で後方の翼を広げると揚力が増す為、獲物へ向かって急降下出来る。

 

 これらは総じて、飛行に特化した進化であると言える。

 

 グレートブルーウインドランナーは生きている時間の殆どを、空で過ごす。彼女に休息の時間はほんの少しだけあれば良い。彼女たちは現代のアマツバメのように空を飛びながら眠るのだ。

 

 

 

 

 

 

 

「……ZZZ……」

 

 グレートブルーウインドランナーのブルーは、その日も風をベッドに快適な眠りの中に居た。

 

 フレンズとなって人型の体と手足を手に入れてからは時々地面に降りて休む事もあったが、彼女は空の方が大地よりもよっぽど居心地が良かった。

 

「もう食べられ……ムニャムニャ……」

 

 良い夢を見ているのだろう。テンプレートな寝言と共に、口からは涎が垂れている。

 

 しかし快適な睡眠は、最悪な形で破られる事になる。

 

「うみゃみゃみゃ~~っ!!」

 

 ドカッ!!

 

「うわわっ!! な、何だ!?」

 

 突然の悲鳴。上からの衝撃。

 

 ブルーは一発で夢の世界から現実に引き戻された。

 

「ど、どうしたの!? 君は一体!?」

 

「あ、ごめんね!! 私、山登りの最中に落ちちゃって……」

 

 落下してきて、今は自分の背中に乗る形になっているそのフレンズを見るブルー。身体的な特徴から判断して、猫科動物のフレンズのようだ。

 

 落ちてきたのはサーバルだった。

 

「山登りをしていたの?」

 

「うん、山の上に”ばってりー”を”じゅうでん”できる場所があるらしくて、友達のかばんちゃんがトキと一緒に空を飛んで行ったんだけど……トキは一人しか運べないから、私は山を登って行く事にしたの」

 

「なるほど……”ばってりー”や”じゅうでん”はよく分からないけど……山の上にあるそんな場所って言ったら……多分、ジャパリカフェかなぁ……」

 

「知ってるの?」

 

「多分だけどね。ちょうど良いから、連れて行ってあげるよ」

 

「ホント? ありがとう!!」

 

「いいのいいの。それじゃあ、しっかり掴まっていてね」

 

 サーバルは猫科動物特有の優れたバランス感覚で、器用にブルーの背中で体勢を整える。

 

 そうしてサーバルがしっかりと背中に掴まった状態になったのを確認すると、ブルーは衝撃でズレたサングラスを掛け直し大きな翼を広げて、その名の通り風を受けて空を駆けていった。

 

 

 

 

「確かこの辺りに……」

 

「あ、あれ!! あそこに何か見えるよ!!」

 

 山頂まで上昇したブルーはきょろきょろと下を見回していたが、ややあってサーバルが声を上げた。

 

 指を差した先に視線をやると、覆い茂った草が規則的に取り除かれていて、何かの模様が描かれていた。

 

「なんだろう、あれ?」

 

「さぁ……? しかし、アルパカが出してくれる”こーちゃ”に似ているようにも思えるわね……降りてみようか」

 

「お願いするね!!」

 

「分かった」

 

 頷くと、ブルーは足に付いた翼を広げて降下していく。

 

 地面が近くなると、草地で何人かのフレンズが作業しているのが見えた。

 

「あ!! あれ、かばんちゃんだよ!! かばんちゃーん!!」

 

「サーバルちゃん!!」

 

 一人のフレンズが、サーバルの声に反応して手を振ってくる。

 

「知り合いなの?」

 

「うん、友達のかばんちゃんだよ!!」

 

 ブルーの着陸を待たずに、サーバルは彼女の背中から飛び降りた。

 

「びっくりしたよ。てっきり山を登ってくるかと思っていたから」

 

「途中で崖から落ちちゃったけど、ブルーに助けてもらったんだよ」

 

「あぁ、ブルー。いらっしゃぁい。また来てくれたんだねぇ」

 

 もこもことした毛皮をかぶったフレンズが話し掛けてくる。ブルーが話していたジャパリカフェの店主である、アルパカ・スリだ。

 

「こんにちは、アルパカ。今日はジャパリカフェに用があるっていうフレンズを連れてきたのよ」

 

「ここで”ばってりー”を”じゅうでん”できるって、ボスは言ってたんだけど……」

 

「サーバルちゃん、それならもう見つけたよ。後は少し時間を掛ければ充電できるって」

 

 かばんがそう言った時、ぴょこぴょこと独特の足音を鳴らしながら、ボスことラッキービーストがやって来た。

 

<充電できたよ。充電できたよ>

 

 と、同時に一同の頭の上を影が通り過ぎていった。

 

「?」

 

 サーバルが顔を上げると、鳥のフレンズがまたしてもこちらに向けて飛んできていた。

 

 トキの紅白のツートンカラーとも、ブルーの青い体とも違う、オレンジ色の美しい体をしたフレンズだ。

 

 スピットファイアバードのファイアである。じゃんぐるちほーから飛んできたのだ。

 

「あぁ、ファイアじゃない。来たんだ」

 

「久しぶり、ブルー。見つかりにくい場所にあるって聞いたけど……空を飛んでたら変わった模様が見えて、もしかしたらと思ってね……ここがジャパリカフェか……」

 

「わぁ~。今日はこんなにお客さんが来てくれたよぉ。ささ、お席へどうぞ。ゆっくりしていってねぇ」

 

 アルパカに案内されて、一同はジャパリカフェのテラス席に腰掛ける。

 

 常連であるブルーを除いては一遍に4人も客がやって来たので、店主であるアルパカの喜びも一入らしい。客は殆ど来ないが、しかし接客の練習はしっかりやっていたのだろう。慣れた手つきでカップを並べていく。

 

 そうして紅茶に舌鼓を打つかばんやサーバル達。

 

「それじゃあ、ここで一曲……」

 

「ううっ……」

 

 披露されたトキの歌は、正直上手いとは言えないものであったがしかしこれでも相当マシになった方らしかった。

 

 アルパカによれば喉に良いお茶を煎れたとの事だった。それとトキはまだフレンズの体を使っての歌い方に慣れていなかったが、腹式呼吸などコツを掴みつつあるのも一因らしかった。

 

「あぁ、そうだアルパカ。お茶をこれに詰めてくれないかな?」

 

 ファイアはそう言って、懐から銀色の筒のような物体を取り出してテーブルに置いた。

 

「? 何これ何これ?」

 

 と、持ち前の旺盛な好奇心を見せるサーバル。

 

「はかせから貰ったんだよ。”すいとー”っていうらしいけど……」

 

 ファイアはそう言うと、筒の先端部分を外す。中は空洞になっていた。

 

「この中に水を入れたり出来る”どーぐ”らしいわ。じゃんぐるちほーに居る友達にも、紅茶をご馳走してあげたくてね」

 

「分かったよぉ。ちょっと待っていてねぇ」

 

 アルパカはそう言って、紅茶のおかわりを用意しに店の中に戻っていった。

 

「ファイアさんは、お友達に紅茶を飲ませてあげる為に、ここまで来たんですか?」

 

「ええ、そうよかばん。あの二人には随分と助けられてしまったから、何かお礼をしなくてはと思ってね……」

 

「そうですか。きっと素敵な方なんですね」

 

「今度紹介するわ。きっと仲良しになれるわよ」

 

 紅茶を飲んだ時のしょくしゅとこうらの顔を思い浮かべて、ファイアはふふっと笑った。

 

 

 

 

 

 

 

 じゃんぐるちほー。

 

 ファイアの帰りを待つ間、しょくしゅとこうら、それにポグルはポグルの住処である洞窟のすぐ前に座り込んで、のんびりと過ごしていた。カワウソはそろそろかばんとサーバルが戻ってくるかも知れないので、先にジャパリバスの方へと帰っていった。

 

「はい、ここに○を書いて……これで私の勝ちだ」

 

「ううっ……また負けたっす~。強いっすね~。しょくしゅ……」

 

 しょくしゅはポグルと、ゲームに興じていた。

 

 地面に3×3の9個のスペースを用意して、そこにしょくしゅとポグルが交互に○と×を書き込んでいき、縦横斜めのいずれかで○×のどちらかが一直線に並んだ方が勝ちというゲームである。

 

 しかしどうも形勢は一方的だ。

 

 戦績はこれまでしょくしゅの10戦10勝。ポグルは自分が先攻になっても後攻になっても、○側になっても×側になっても勝てないのでやきもきしているようだ。

 

「さぁ、次はどんな遊びをするかな?」

 

 しょくしゅがそう言った時、ピピピ、と電子音が聞こえてきた。

 

「!」

 

 見れば、日当たりの良い場所に置いてあったポグルの板が音を発していた。

 

「あぁ、また動くようになったみたいっす~。えーがの続きを見ようっす~」

 

「良いね。私もさっきの続きが気になっていたんだよ」

 

 しょくしゅが、ちらっと視線を動かす。

 

「……」

 

 こうらが、落ち着かなさそうに体を揺すっていた。

 

「……どうやら、こうらも同じみたいだ」

 

「あぁ、それじゃあ再開するっすよ~」

 

 ポグルはそう言って、慣れた手つきで板を操作する。

 

 すると先ほど終わったところから、”えーが”が始まった。

 

 

 

<親方!! 空から女の子が!!>

 

 

 

「ははは、空から女の子か……」

 

 笑いながら、しょくしゅが顔を上げる。

 

 空から女の子が降ってくるなんてそんな事、現実にはある訳が……

 

 ないと、そう思って空を見上げて……

 

 そうして見上げたそこに、彼女はとんでもないものを発見した。

 

「点……?」

 

 木々の間から覗く蒼天に、ぽつんと小さな黒い点が落ちていた。

 

 しかもその点は、徐々に大きくなってきている。

 

「何だろう?」

 

 そう思って目を凝らすと……

 

「あ、あれは!!」

 

 それは黒点ではない事が分かった。

 

「こ、こうら!! 上、上!!」

 

「……? ……!!」

 

 相棒に言われてこうらは顔を上げて……彼女もとんでもないものを見つけた。

 

 黒い点に見えたのは、こちらへ向けて落ちてきているフレンズだったのだ。

 

「間に合えっ!!」

 

 しょくしゅは頭のうねうねを幾重にも交差させると、即席のネットを編み上げて落ちてくるフレンズの落下軌道に用意する。

 

 落ちてきたフレンズは、見事しょくしゅが作った網の上に落ちて、何度かそこでバウンドはしたものの地面に叩きつけられもせずに事なきを得た。

 

「な、何なんっすか~? その子は……」

 

「さ、さぁ……私もフレンズが空から降ってくるなんて初体験で……」

 

 しょくしゅは注意深くうねうねを動かして、落ちてきたフレンズを降ろしてやった。

 

 地面に横たわったそのフレンズを注意深く観察してみると、あちこち怪我をしているが命に別状は無いようだった。

 

「……」

 

「あぁ、大丈夫よこうら……気を失っているだけみたいで……」

 

 しょくしゅは相方にそう答えると、落下してきたフレンズの観察に戻る。

 

「羽があるし……ファイアみたいな鳥のフレンズなのかな?」

 

 それなら落ちてきた事にも納得いくが……

 

「でもしょくしゅ、この子、鱗があるっすよ~? 鳥に鱗なんてあるっすかね~?」

 

「ふむ……?」

 

 ポグルの指摘に、しょくしゅは首を捻った。

 


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