ポグル。
一億年後の地球において、唯一生き残る哺乳類である。
大きさはハムスターぐらいで、植物の種子を主食とする。
しかしこの小さな動物は、自分の力で種子を探したりはしない。食べ物は、住処にたっぷりと用意されている。
ポグル達が食べる種子を調達するのはシルバースパイダーと呼ばれる蜘蛛だ。
彼らは巨大な網で風で飛んできた種子を捕まえる。しかし彼らは『肉食』でありこれを食べることはしない。
……ポグル達の生業は、蜘蛛に養われて必要に応じて食われること。家畜だ。シルバースパイダーが網で回収した大量の種子は、家畜を太らせるための飼料なのだ。
自ら生きる力さえない小さな生き物。これが、かつて恐竜に取って代わって繁栄した哺乳類の、その最後の末裔の在り様なのだ。
「あぁ~、この板っすか~?」
ポグルはカワウソが興味を持っているのに気付いて、持っていた板を差し出した。
「これ、前に散歩先で拾ったんすけど~。面白いっすよ~」
そう言ってポグルは、板の表面で指を動かす。
すると板の表面に、今までしょくしゅもカワウソも見た事もないような鮮やかな色とりどりの光が生まれた。
その光はただ光っているのではなく、じゃんぐるちほーの風景を切り取ったような映像となっていた。
「おおおっ……!! こ、これは一体……?」
「わー!! おもしろーい!!」
しょくしゅとカワウソ、両名ともに反応は違えど同じようにこの板の機能に驚いたようだ。
それを見て、ポグルも少し気を良くしたらしい。
「まだまだ、これだけじゃないっすよ~」
と、板上で指を滑らせる。
板の上に表示されたじゃんぐるちほーの景色の上に、何かの目印のような小さな絵がいくつも浮かんできた。
ポグルは、指でその絵の一つを叩く。
すると板に表示された画面が切り替わって、赤・青・緑・黄の四色の玉ががいくつも重なっているような画面になった。
更に画面の上から、それぞれの色の玉がどんどん落ちてきていて画面の中に詰まっていく。
「これは?」
「どうやらげーむ、というものらしいっす~。これをこうやって……」
ポグルは画面を触って、落ちてきている玉の動きを操作する。
そうして画面の下では赤色の玉が4つ連なって、ぱっと消えた。
「おおっ……」
「どうやら、この丸いのは4つ重なると消えるみたいっす~。それで、どれだけ長くこの一番上まで、丸が積まれずに耐えられるかっていう遊びみたいっす~」
「わー!! おもしろそー!! やらせてやらせてー!!」
「はいはい。まずはここを、こう……そして……」
カワウソに板を渡すと、ポグルは操作方法を教えていく。
しょくしゅは、肩を並べている二人を後ろから覗き込んでいる。
「つ……次は私も……」
そうして、彼女も交代しつつ「げーむ」に興じる。
ひとしきり遊んだ後、ポグルは再び板の上で指を滑らせた。
「まだまだ、他にもあるっすよ~」
すると驚くべきことに、板の上に浮かんだ景色と、その景色の中に描かれた人影が動き出した。しかもそれに合わせて音楽や声まで出始めたのである。
「うおおっ……!! こ、これはっ……!?」
「わー!! わー!! おもしろーい!!!!」
しょくしゅもカワウソも、目を輝かせてポグルが持つ板に齧り付いた。
信じられない。こんな小脇に抱えられるぐらいの大きさの板に、フレンズが入っているとでも言うのだろうか?
「どうやら、これはえーがというものらしいっす~。色々なえーががあるっすよ~」
そう言って、何やら操作するポグル。その都度、板の上に表示される映像が切り替わった。
*
<オーストリア式のさよならはこうよ>
むちゅ~……
<ドイツ式のさよならはこうだ!!>
ドカッ!!
*
<レフトからダイレクトでホームに球が返ってきた!! ランナーノックアウト!!>
<ショルダーアタックだーーー!!>
<やったぜ、スリーアウトチェンジだ!!>
*
様々な『えーが』が上映されて、時を忘れてそれに熱中するポグル、カワウソ、しょくしゅ。
「ポグル、次のえーがはどんな……はっ!!」
と、言い掛けたところでしょくしゅはかろうじてながら我に返った。
「い……いかんいかん……」
危うく自分たちまで引きこもりになる所だった。自分たちはポグルをこの穴から出すために来たのに。
『……とは言え、ポグルの気持ちも分かるな。こんな面白いものを手に入れたら、そりゃあ引きこもりになる。私でもそうなるかも』
しかしファイアが危惧していたように、いつまでも穴蔵暮らしでは体にも良くない。少しは外に出なければ。
「……ポグル、その板がすごく面白い物なのは分かった。しかしファイアも心配しているし、君もずっとこんな所に居ては体を壊すだろう。せめて散歩ぐらいはしてみては?」
「む……」
しょくしゅの申し出を受けて、ポグルはものぐさそうにではあるが、板の表示を消して彼女に向き直った。
「でも……外には面白い遊びもないっすから~……」
「遊びなんてものは、何でだって出来るんだよ。仲間が居ればね。そうだね例えば……」
しょくしゅはしばらく考えて、ぽんと手を叩いた。
「カワウソ、お弁当にジャパリまんを持っていたろう? それを出してくれるかい?」
「いーよ」
カワウソが、ジャパリまんを置く。
「私もジャパリまんを持っているんだ」
と、しょくしゅ。これでジャパリまんが二つになった。
「さて、私たちは3人。しかしジャパリまんは二つ。このままでは必然、誰か一人が食べられない。二人は食べれるのに、自分だけのけもの。このままでは喧嘩……下手をするとするかも知れない……怪我……っ!! 見ることになるやも知れぬ……血っ……!! それは私たちとしても避けたいところ。では、どうすれば良いかな?」
「うーん……」
「そりゃあ、ジャパリまんを3人で分ければ良いっすよ~」
「尤もだね、ポグル。ではどうやって分ければ良い?」
「そりゃ勿論……」
ポグルはジャパリまんをそれぞれ三つに割って、都合6つに分けた。
「こうやって、それぞれ二切れずつ食べれば良いっすよ~」
「確かに」
頷くしょくしゅ。
「でも、これらのジャパリまんはどれも微妙に大きさが違うから、沢山食べる子と少ない子が出ることになるね」
「むっ……じゃあ、どうするっすか~?」
「いっぺんに分けるのではなく、順番に取っていくのだよ」
「順番?」
「そう、この6つのジャパリまんを、まず私たちの中の誰かが1つ取る。その最初に取った者は、次に選ぶのは6番目にするんだ」
「ほうほう……」
「次に、2番目にジャパリまんを5個の中から選ぶ子は、次には5番目に選ぶ。3番目に取った子は、そのまま続けて4番目に選ぶことが出来るようにする。つまり、1たす6は7、2たす5も7、3たす4も7。これなら、量は完全には公平にならなくても、機会は公平に出来るだろう?」
「なるほど、その発想はなかったっす~」
感心したという表情のポグル。しかししょくしゅの話はまだ続きがあった。
「で、ここからが重要……カワウソ、すまないけど外に出て、適当な木の葉っぱを何枚か取ってきてくれるかな?」
「はーい!!」
カワウソは外に走って行って、すぐに戻ってきた。
そして、抱えてきた葉っぱを地面にまき散らす。
「……では、それぞれここから一枚ずつ葉っぱを取って裏をみんなに見せるんだ。虫食いの穴が、いくつあるかを見せ合う」
見せ合った葉っぱは、しょくしゅは虫食いの穴が3つ。ぽぐるは19。カワウソは穴が無かった。
「わーい!! 私のは穴がなーい!!」
「では……穴が少ない順に、カワウソ、私、そしてポグル。この順番で、ジャパリまんを取る組み合わせを決めるんだ」
「組み合わせを決める……っすか~?」
「そう……カワウソ、まずはあなたがどの順番でジャパリまんを選ぶか決める。最初と最後か? 二番目と五番目か? 三番目と四番目か? そしてカワウソが選んだら、今度は私が残った二つの内から、またどちらかを選ぶ。そして最後組み合わせは、ポグルのものになる。どの順番で選ぶのが、一番効果的にジャパリまんを食べられるか? それを考える遊びさ」
「おもしろそー!! わたしやりたーい!!」
カワウソの反応を受け、しょくしゅは優しい目を彼女に向けた。
「そうだねカワウソ。その面白そう、が大切なんだ。争いごとではなく、遊びにすること。それが私たちフレンズにとって、大切なことだと私は思う。そしてポグル……」
「ん……」
「今見せたように、仲間と一緒なら遊びなんて何だって出来るんだ。無ければ作れば良い。みんなで話し合って、ルールを決めてね。その板も凄いが、外だって面白いよ。少しは、出てみないかな?」
「うーん……」
少しだけ悩んだようなポグルだったが、それも僅かな時間だった。
「そうっすね~。この板も時々日に当てないと動かなくなるし、たまにはファイアと遊ぶっす~」
板を持つと、立ち上がった。
しょくしゅとカワウソは、ハイタッチを交わし合う。
こうして、ポグルは洞窟から出てきた。
「ああ!! ポグル!! 心配したのよ、もう!! これからは時々、私と散歩しましょう!!」
「あ……心配かけて悪かったっす~……ファイア……」
抱きつかれたポグルは、流石に凄く心配させてしまったのが分かったのだろう。申し訳なさそうな顔になった。
「……」
こうらは、ぐっと親指を立てる。しょくしゅも同じポーズを返した。
ともあれ、これでファイアからの依頼は完了。後はさばんなちほーに戻るだけだが……
そこで、ファイアに呼び止められた。
「ここまで世話になったのに、何もしないのは心苦しいわ。何かお礼をさせてほしいのだけど」
「別に私たちはお礼が欲しくて来たわけではないし……ねぇ、こうら?」
「……」
しょくしゅに言われて、こうらも頷く。
「まぁ、そう言わずに……あぁ、そうだ!! あのこうざんのてっぺんに、紅茶っていう美味しい飲み物を出すお店があるって、私の友達が言っていたわ。これから私が飛んでいってその飲み物をもらってくるから、是非ご馳走させてよ」
ファイアが指さす先には、高い高い山が聳え立っていた。
「ファイアの、友達っすか~?」
「えぇ、友達の、グレートブルーウインドランナーが言っていたわ」