先手必勝!!
と、ばかりセルリアンは全身から生えたうねうねをこうらめがけて伸ばしてくる。
うねうねの先端はワニの口のようになっていて、牙にも思える突起が生えていた。
うねうねは、いくつかはこうらの足に絡みついて引っ張り、引き倒そうとする。
いくつかのうねうねは、先端の口がこうらの体へと噛み付く。
「こうらちゃん!!」
サーバルが叫ぶ。
「……」
しかし、こうらは蚊が刺したほどの痛みすら感じていないように表情を変えない。
こうらがその名の通り身に纏う甲羅の鎧の上からでは、セルリアンの牙は文字通り歯が立たない。
鎧の無い所に噛み付いた牙も、分厚く固いこうらの皮膚はまるで角質。こちらも歯が立たない。
セルリアンは力一杯、こうらの両足に巻き付けたうねうねを引っ張って巨体を転ばせようとするが、こうらはびくとも動かない。
「そのうねうねを掴むんだ、こうら!!」
「……」
肩に立つしょくしゅの指示通り、こうらは巻き付いたうねうねの一本をむんずと掴む。
そして引っ張る。
セルリアンは、一瞬も持ち堪える事が出来ずにアメリカンクラッカーと呼ばれたオモチャのようにこうらによって振り回される。
こうらは掴んだうねうねを使ってそのまま頭上で何度もセルリアンをくるくる回すと、たっぷり遠心力を乗せて地面に叩き付けた。
何かが爆発したかのような轟音。そして土煙が上がって、クレーターが出来た。セルリアンはその中心に居る。流石の大型セルリアンもダメージが大きかったのか動きが鈍いようだった。
だが、弱点の石を破壊していないのでまだのろのろとだが動いている。
まだやっつけていない。
「よし!! こうら、こいつを押さえ付けて!!」
「……」
再びしょくしゅの指示に従い、こうらは右手でセルリアンの全身を地面に押し付けるようにして動きを封じる。
しょくしゅは先端に尖った石を付けた棒状の「どーぐ」を手にすると、滑り台のようにこうらの腕を下りていく。
そうしてセルリアンに肉迫すると、弱点の石に思い切り「どーぐ」を突き立てた。
今度は先程と違って、弱点を的確に貫いたので効果は覿面。
セルリアンの巨体は、粉々に砕け散った。
「やったーーーっ!! すっごーい!!」
「こ、こうらさんもしょくしゅさんも……すごいですね……」
こうらの左手の上でサーバルはぴょんぴょんと飛び跳ねて、かばんはぽかんと大口を開けていた。
「……うーん、まだまだ、このどーぐにも改良が必要かな……」
手にした「どーぐ」をまじまじと眺めながら、しょくしゅはぶつぶつと呟いている。
と、何かに気付いたように視線を上げる。
自分を見下ろしているこうらと目が合った。
ぐっ、と親指を立てる。
「……!!」
同じようにこうらも親指を立てて返した。
こうした一幕を経て、三人はこうらの肩に乗ってさばんなちほーとじゃんぐるちほーを繋ぐゲートの入り口まで移動した。
「じゃあ、気を付けてね。じゃんぐるちほーでもとしょかんに行きたいって言えば、フレンズの子が次のちほーまで案内してくれるよ」
「ありがとうございました。サーバルさんやしょくしゅさん、こうらさんが居なかったら……僕、どうなっていたか……」
「かばんちゃんはすっごい頑張り屋さんだし、こんな凄い技を持ってるんだから、どんなちほーに行っても大丈夫だよ!!」
サーバルの腕の中には、幾つもの紙飛行機が抱えられている。これはかばんが作り方を教えたものだ。
「何の動物か分かったら、是非また会いに来て欲しいな……この……かみひこーき以外にも……色んな「どーぐ」の作り方を教えて欲しい……」
しょくしゅも、うねうねで紙飛行機を触りながら、名残惜しそうに語る。
「……」
こうらは何も言わずに、手を振る。
「はい!! 必ず、また会いに来ます!! じゃあ……」
ぺこりと頭を下げると、かばんはゲートへ向かって歩きだした。
途中で一度振り返る。サーバル、しょくしゅ、こうらはそれぞれ手を振る。
かばんはもう振り返らなかった。
ゲートをくぐって真っ直ぐじゃんぐるちほーへ入っていって、やがて木々に隠れてその姿は見えなくなった。
「では……私達は帰ろうか」
「……」
しょくしゅがそう言うと、こうらはしゃがんで掌を上にして左手を地面に置いた。乗れ、という意味の動作だ。
しょくしゅは「よいしょ」とこうらの手の上によじ登る。
「ほら、サーバルも」
そう言って促すが、サーバルは動かない。
ゲートの方を、じっと見ている。
「? サーバル?」
「しょくしゅちゃん、こうらちゃん……私、もう少しかばんちゃんについて行ってみるよ!! ちょっと……心配だし」
「そう……」
しょくしゅはそう言って、ちらりとこうらを見る。
「「……」」
視線を合わせた二人は、それぞれサーバルに視線を送る。
「そう、か……そう言うような気がしていたよ。では、君とかばんがいつ帰ってきても良いように、君の縄張りはしっかりと私達が守っておくよ」
「……」
しょくしゅの申し出を受け、こうらも頷く。
「二人とも、ありがとう!! じゃあ、行ってくるね!!」
サーバルはそう言うと走り出して、じゃんぐるちほーに入っていった。
先程のかばんの時と同じように、しょくしゅとこうらはその姿が見えなくなるまで見送っていた。
「じゃあ、こうら……私達は帰ろうか」
「……」
左手にしょくしゅを乗せて、こうらはずしーん、ずしーんと足音を響かせつつ、さばんなちほーへ戻っていった。
二人がさばんなちほーの縄張りに戻ってみると、バブカリが会いに来た。
「しょくしゅ、これを見てくれ。新作だよ」
バブカリ特製のカゴは、その品質の良さから愛用するフレンズも多い。
しかし今日、彼女が持ってきたカゴは普通の物と少し違うようだった。
大きさはしょくしゅの上半身ぐらいもあって、二本の蔓が半円を描くようにその側面に付けられていた。
「これは、いつものとどう違うんだ?」
「ふふふ……」
よくぞ聞いてくれたという自慢げな顔になって、バブカリはさっとそのカゴを持ち上げた。
そして、蔓が作っている輪っかに腕を通す。
するとカゴは、ひょいっと彼女の背中に背負われる形となった。しょくしゅは思わず「おお……」と声を上げた。
「かばんちゃんの道具……鞄、だったかな? あれにヒントを得た新作だよ。これなら手で抱えられるぐらいの大きさにせざるを得ない従来のカゴよりもずっと沢山の物が入れられるし、何より荷物を運ぶ時に両手が自由になるんだ」
「凄い。流石だね、バブカリ。私も負けてられないな」
「ふふふ、それほどでもあるよ」
自慢げに胸を張ったバブカリだが、しばらくそうしていて満足したのか「うん」と一つ頷いて話題を切り替える。
「さてと、しょくしゅとこうら。今日は新作のお披露目もあるが、もう一つ用事があって来たんだ」
「用事? 何か頼み事かな?」
「いや、お客さんが来ているんだ。じゃんぐるちほーから。出て来て」
バブカリがそう言うと、それが合図だったのだろう。木の陰から、一人のフレンズが現れた。
オレンジ色の美しい体を持った、鳥のフレンズだ。
「君は……」
「初めまして。私はスピットファイアバードのファイアだよ」
鳥のフレンズは、丁寧に自己紹介する。
スピットファイアバードは一億年後の、かつて南極大陸と呼ばれた土地に発生した森林地帯で繁栄すると考えられている、フラッターバードと総称される鳥のグループの一種である。
最大の特徴は派手なオレンジ色の体と、その武器であろう。
彼女は敵に襲われそうになると、腐食性の酸を鼻から吐いて身を守るのだ。
「あなた達がしょくしゅとこうらね?」
「私達の事を知っているのかい?」
「ええ、あなた達は有名よ。さばんなちほーで一番賢いフレンズのしょくしゅと、一番強いフレンズのこうら。二人揃えば出来ない事なんてないってね」
「う、うん……そう言われると照れるな……」
バブカリの赤ら顔と同じくらい顔を赤くし、うねうねで頭を掻くしょくしゅ。
「……」
こうらも少し、顔が赤いようだ。
「その二人に、是非頼み事があるの。私の友達を助けてほしいのよ」
「助けるのは良いけど……まずは事情を話してもらわないと。何があったの?」
ファイアは「確かに」と頷いて話し始めた。
「……実は、私の友達のフレンズが、もうずっと住処の洞窟から出て来なくて引き籠もってしまっているのよ……このままじゃ病気になってしまうんじゃないかと思って……心配なの」
「成る程、それで何とかその友達が出てくるようにしたいと。それに私達が協力すれば良いのだね?」
「……引き受けてくれるかしら?」
「喜んで力を貸すよ。それにしても、じゃんぐるちほーか」
ちらっと、しょくしゅは顔を上げてこうらと視線を合わせる。
「……!!」
こうらは、しょくしゅの意図を察して頷いた。
じゃんぐるちほーとは。
これは向こうで、かばんやサーバルと会えるかも知れない。
「? どうしたの?」
「ああ、いや……こちらの事だよ。じゃあ、じゃんぐるちほーに行こうか。その友達の所まで、案内してもらうよ」
「ええ……ポグルの事、よろしく頼むわ」
「ポグル!!」