「うわぁ、食べないで下さいぃ」
「食べないよ!!」
ある日のさばんなちほー。
昼寝から起きたサーバルは、近くを通り掛かったフレンズを見かけて、本能的に追い駆けっこを始めた。
大好きな狩りごっこである。
一時は見失ったものの、得意のジャンプからのし掛かりで捕獲。
しかし、捕まえたのは見た事のないフレンズだった。
「えっと……あなたは、ここの人ですか? ここ、どこなんでしょうか?」
「ここはジャパリパーク。私はサーバルキャットのサーバル。このへんは私の縄張りなの!!」
「えっと……じゃあ、そのお耳と尻尾は……?」
「どうして? 何か珍しい? あなたこそ、尻尾と耳のないフレンズ? 珍しいね!!」
サーバルもこのジャパリパークで過ごしてそれなりに長く、色んなフレンズを見てきたがこの子はその中のどれとも共通点がない。
「どこから来たの? 縄張りは?」
「えっと……分かりません」
「あぁ、昨日のサンドスターで生まれた子かな?」
「サンドスター?」
「うん、昨日あの山から吹き出したんだよ。まだ周りがきらきらしてるでしょ?」
説明しつつ、サーバルは眼前のフレンズをじっくり観察していたが、羽が無いから鳥のフレンズでもないし、フードが無いから蛇のフレンズでもない。
良く分からないながらも観察を続けていると……このフレンズが背中にしょっていたものが目に入った。
「あれ? これは?」
「えっと……鞄、かな……」
「かばん……かばん……かばん……」
「ヒントになりますか?」
「分かんないや。でも、バブカリが作るのに少し似てるかも」
「バブカリさん……ですか?」
「うん、このさばんなちほーで、『どーぐ』を作れる二人のフレンズの中の一人なんだよ。バブカリなら、何か分かるかも。ついてきて、案内するよ」
「あ、ありがとうございます……」
「あ、そうだ……何の動物か分かるまでは……あなたの事は『かばんちゃん』で、どう?」
「あ、ありがとうございます……」
「むぅ……今日のは失敗作……」
長い尻尾を持った赤ら顔のフレンズは、気難しい顔をしてたった今編み上げたカゴをひっちゃぶいてしまった。
先程サーバルの話題に上った『どーぐ』を作れる二人のフレンズの一人、バブカリである。
バブカリは激しい気象の変化を生き残った唯一の猿で、元々は樹上の生物であったのが草原に適応するように進化している。
彼女の頭脳は知恵を失っておらず、彼女の手は、器用さを失っていない。
彼女は草の茎を使って複雑な構造をしたものを編む事が出来る。そしてそれをどのように使えば良いのかも理解している。
……の、だが。
このバブカリはどうやら職人気質のようだった。今日の作品は満足行くものではなかったらしい。
「私にはどれも同じに見えるけどね……使えば変わらないと思うよ?」
「手触りが微妙なのさ」
「ふーん? 私には分からないけど」
すぐ傍らには、『どーぐ』を作れるもう一人のフレンズ、しょくしゅが座り込んでいる。彼女も一心不乱に、何かを作っているようだった。
「しょくしゅ、そう言う君は何を作っているのかな?」
「ああ……最近、この辺りでもセルリアンが増えたらしいじゃない? 私も、こうらに守られっぱなしという訳には行かないからね」
しょくしゅが、頭から伸びたうねうねしたもので道具を掴んでバブカリに見せる。
長く真っ直ぐな木の枝の先っぽに、尖った石が蔓で括り付けてある『どーぐ』だった。
「? それは、何に使うのかな?」
「セルリアンが出たら、こいつで石を一突きしてやっつけてやるのさ」
しゅっと、石が付いた方を前にしてその『どーぐ』を突き出すしょくしゅ。
「すごい。君はこんなのを作れるフレンズなのか」
「ふふふ……」
「おーい!!」
話していると、馴染みのある声が聞こえてきた。二人がそちらを向く。
「バブカリ!! しょくしゅちゃーん!!」
「ああ、サーバル」
「サーバルじゃないか。元気そうだな? おや……そっちの子は?」
「かばんちゃんだよ」
「ど、どうもよろしくです……」
「よろしく」
「こちらこそ、ご丁寧に」
頭を下げるかばんに、しょくしゅとバブカリも釣られたように頭を下げた。
「かばんちゃん、何の動物か分からないらしくて。でも、こんなのを持ってたから、バブカリなら何か知ってるかもと思ったんだけど……」
サーバルから鞄を受け取ると、バブカリはしばらくはそれを揺すったり匂いを嗅いだりして観察していたが……
やがてくわっと目を剥いて、舐め回すように鞄をあらゆる角度から調べ始めた。
たっぷり十分もそうしていただろうか、彼女はやっと我に返ったらしい。咳払いして3人に向き直る。
「あぁ、ごめんごめん……こんな凄いのを見るのは私も初めてでね。つい我を忘れてしまったよ」
「凄いの?」
「そうさ。この鞄……だったかな? これは、私のカゴなどとは比べ物にならないほど、細い物がびっしりと頑丈に編み上げられている。隙間も無いし……どうやったらこんなのが造れるのか……私にも分からないな」
「うーん、じゃあ、かばんちゃんが何の動物かはバブカリにも分からないの?」
「残念ながら……力になれなくてすまないね」
「い、いえ……」
「これはとしょかんに行かないと分からないかも」
「図書館……ですか?」
「うん、分からない事があったら、としょかんに行って調べるんだよ!! ついてきて、途中まで案内するよ!!」
「あ、ありがとうございます……」
立ち上がるサーバルとかばん。
「じゃあ、私も一緒に行こう。最近はセルリアンが増えているらしいし……二人だけでは危ないからね」
しょくしゅも、作りたての『どーぐ』を杖にして立ち上がった。
「かばんちゃん、だったね? 私はしょくしゅだよ。自分が何の動物か分からないらしいけど……あまり深く悩む必要は無いよ。私も自分が何の動物かは分からないけど、かれこれ一年、楽しくやってこれたんだから」
「よ、よろしくお願いします……」
「よーし、じゃあ、まずはゲートに向けてしゅっぱーつ!!」
「おーっ!!」
「お、おーっ……」
「気を付けてね。セルリアンを見かけたら、逃げるんだよ」
バブカリはそう言って3人を見送った後、カゴ作りを再開した。