フューチャー・フレンズ   作:ファルメール

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第09話 さばくちほー 2

 

「おお、ではホッパー、あなたはセルリアンからこのちほーのフレンズ達を守っているのか」

 

「立派デス」

 

 しょくしゅとフリッシュからの賞賛を受けて、まずはえっへんと胸を張るホッパー。

 

 しかしすぐに、残念そうに肩を落としてしまった。

 

「でもさばくちほーは広いからNE。いくら私のジャンプでも、一度に沢山の場所へは行けないからどうしてもどこかでフレンズ達の犠牲が出てしまうんだYO」

 

「成る程……」

 

 腕組みして、ついでに頭から生えているうねうねも同じように絡み組ませて考える姿勢を見せるしょくしゅ。

 

 ホッパーは一人だが、さばくちほーは広大。そしてそこに住むフレンズ達も多いのでどうしても手が回らない部分が発生してしまう。

 

 この問題の肝は、セルリアンが群生しているポイントにフレンズ達が立ち入らないようにする事だ。

 

 だが今はほとんどホッパーしかデスボトルプラント型セルリアンの存在を知らないから、話して回るにも時間が足りずに、対応がどうしても後手後手に回ってしまう。

 

「うーむ……どうにかして、ここに入ってはいけないと知らせられればな……おや、あれは……?」

 

 うんうんと唸りながら周辺を歩き回っていたしょくしゅは、少し離れた岩陰に小さな建物がある事に気付いた。

 

 近くまで行ってみたが、フレンズやセルリアンの気配は感じない。

 

 用心深く扉を開いてみると、やはり中は無人だった。

 

「ここは……」

 

 小屋の中には、ロープや棒、それに均等な大きさに切り揃えられた木材が無造作に並べられていた。

 

 しょくしゅ達には知る由も無い事だが、このさばくちほーの地下には広大な迷宮が広がっている。これは遙か過去に建造されたものであり、迷宮の拡張や補修工事を行う為にさばくちほーの各所には資材小屋が設置されていた。

 

 かつてこのちほーに迷宮を築いた者達はもう居ないが、彼等が残していった物は彼等が去った後もサンドスターの効果によって経年劣化が抑えられ、建設作業が行なわれていた当時のそれに近い状態のまま、資材小屋も中の資材も保存されていたのだ。

 

「ここには私もあまり入った事がないけDO、良く分からない物が沢山あるYO」

 

「ふむ……」

 

 しょくしゅはそこに積まれていた資材の中で、固くて真っ直ぐで中が空洞になっている棒。遠い過去では鉄パイプと呼ばれていた道具を手に取った。

 

 自分の身長ほども長さのある棒を、折ったり曲げたりしてみようと力を入れるが鉄パイプは中々に頑丈で、それなりに本気を出さなくては形が変わる気配を見せなかった。

 

「そして次は……」

 

 鉄パイプを置くと、今度はロープを手に取るしょくしゅ。

 

 軽く引っ張ったりして、強度を確認する。こちらもそれなりには頑丈で簡単には千切れそうにはなかった。

 

「うん、長さも堅さも十分……」

 

「どうしたNO、しょくしゅ?」

 

「何をしているデスか?」

 

「……」

 

 ホッパーとフリッシュは近付いてきて、こうらは小屋の入り口から目を覗かせて中の様子を伺っている。

 

「ホッパー、手伝ってくれるかな? 何とか出来るかも知れない」

 

「?」

 

 こうして、しょくしゅのアイディアが実行に移された。

 

 デスボトルプラント型セルリアンの群生地を囲むようにして、一定間隔で鉄パイプを打ち付けていく。これはこうらの役目だった。超重量級フレンズの彼女のパワーはケタ外れで、ハンマーのように上から叩いたりなどせずとも、指で摘まんで地面に埋め込むだけで、しょくしゅやホッパーの力では引っこ抜けないほどに強く固定出来た。

 

 そしてその鉄パイプに沿うようにして、ロープを張り巡らせていく。これはしょくしゅとホッパーが担当した。まだ怪我が治っていないフリッシュは、見学である。

 

 ロープを上中下の三段に分けて回して、簡単な作りだが(勿論しょくしゅやホッパーはそんな名前など知る訳がないが)プロレスやボクシングのリングロープのような形になった。

 

「どうかな、ホッパー。これなら何も知らないフレンズが、簡単にこの内側に入る事もなくなると思うのだけど」

 

「おー、これは良いNE!! 流石はさばんなちほーで一番賢いしょくしゅ!! 素晴らしI!!」

 

 手を叩いて喜ぶホッパー。その後、すぐに上目遣いになった。

 

「では、他の場所にも同じように作業するから、手伝ってくれるかNA?」

 

 しょくしゅが、目を丸くする。

 

「…………何? 他にもこんな群生地があるの?」

 

「……実は、後3カ所ほDO」

 

「……そうか。まぁ良いや、私達も急ぐ旅な訳じゃないし。行こう、こうら」

 

「……」

 

 いつも通り何も言わずこうらがぬっと左手を伸ばすと、しょくしゅとホッパーが両手に抱えて何往復かが必要だった量の資材は、全て彼女の小脇に軽く抱えられてしまった。そうして空いた右掌が差し出されて、しょくしゅ達3名はそこに乗る。全員が安定した姿勢になった事を確認すると、こうらはいつも通り泰然とした足取りで歩き始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 ずしーん、ずしーん……

 

「な、何だ!?」

 

「わぁ、揺れてるよ!!」

 

「二人とも伏せて!!」

 

 さばくちほーの地下迷宮。

 

 そこでは迷い込んでしまったかばんとサーバル、そしてこの迷宮の調査を行なっていたツチノコが出口を探して彷徨っていたが……

 

 唐突に迷宮全体がぐらぐらと揺れて、震動で天井からパラパラと埃が落ちてきた。

 

 反射的に、姿勢を低く取るかばん。

 

 ずしーん……ずしーん……………ずしーん………………ずしーん……

 

 揺れは、少しずつ遠くなっていく。

 

 やがて震動が無くなったのを確認すると、3人は立ち上がった。

 

「何だったんだろうね、今の」

 

「俺もこんなのは初めてだが、地面が揺れたんだ。としょかんではかせから聞いたじしんというヤツかな?」

 

「い、いや……まるで何か凄く大きな物がこの上を通ったような……」

 

 そう呟いたかばんは、さばんなちほーで出会った大きなフレンズ、こうらを思い出した。

 

「あんな風に大きなフレンズさんが、このちほーにも居るのかな?」

 

 

 

 

 

 

 

 ホッパーに案内されたしゅくしゅ一行によるバリケードの作成は、まずまず順調と言って良かった。

 

 二番目と三番目のポイントも、同じように鉄パイプとロープを使って封鎖することに成功した。

 

 そうして残る四番目のポイントに差し掛かろうという時だった。

 

「うわーっ、助けてーっ!!」

 

「「!!」」

 

 絹を裂くような叫び声が聞こえてきた。

 

「大変DA!! 誰かがセルリアンの群生地に落ちたんDA!! 助けないTO!!」

 

「こうら、急いで」

 

 しょくしゅの指示に従い、こうらは少し足取りを早める。

 

 ややあって、最後のポイントに到着した。

 

 最後のセルリアン群生地は、ちょうど窪地のようになっていた。

 

 その真ん中辺りにある岩場に、フレンズが一人取り残されている。

 

「おーい、大丈夫か!!」

 

「あっ、お願い、助けて!!」

 

 窪地の淵から手を振るしょくしゅに気付いたそのフレンズは、彼女も手を振って助けを求めてくる。

 

「大変DA、すぐに助けなKYA!!」

 

「ストップ!!」

 

 ホッパーが飛び出そうとするが、しょくしゅに制された。

 

 何で邪魔をするのかと一瞬だけしょくしゅを睨むホッパーであったが、すぐに彼女の行動の意味を悟った。

 

 誤って落下してしまったのであろう要救助フレンズが居るのは、デスボトルプラント型セルリアンの群生地の、そのど真ん中だ。つまりはこの窪地の中は、落とし穴だらけである。

 

 とてもじゃないが、あのフレンズの所にまで辿り着くことは出来ないだろう。下手に助けに行っても二次遭難してしまうのがオチだ。

 

 こうらが巨体とリーチの長さを活かして手を伸ばすが、さしもの彼女をしても、窪地の真ん中にまでは手が届かなかった。

 

 ……と、なると後は空からの救助であるが……

 

 残念ながらこの中で唯一空を飛べるフレンズであるフリッシュは、まだ怪我が治っておらず飛べなかった。

 

「すまないデス。私が飛べたなら、簡単に助けられるのに……」

 

 申し訳なさそうに、フリッシュが目を伏せる。

 

 そんな彼女の頭にぽんと置かれたのは、しょくしゅの頭から伸びているうねうねだった。

 

「大丈夫だよ、フリッシュ。ここは、私達に任せて。怪我している子は、ゆっくりして美味しい物を沢山食べるのが仕事だからね」

 

 そう言ったしょくしゅは、相棒を見上げた。

 

「こうら!!」

 

「……」

 

「その辺りにある岩を拾って、この窪地の中に投げ入れて!!」

 

「……」

 

 相方の意図は分からないが、しかし今迄、しょくしゅが間違った事を言った試しは無い。

 

 こうらは指示に従って、片手で持てるぐらいの大きさの石(とは言っても彼女は巨体なので、しょくしゅやホッパーの身長よりも大きい)をひょいと掴むと、窪地に放り投げた。砂漠の殆どは岩石で覆われているので、岩は無尽蔵にある。

 

 どすん!!

 

 重い音を立てて、岩が窪地の中に落ちる。

 

「わあっ!!」

 

 窪地に落ちたフレンズが、涙目になって悲鳴を上げる。

 

「ちょ、ちょっTO!! しょくしゅ、何をやっているNO!?」

 

 ホッパーが詰め寄ってくるが、しゅくしゅは涼しい顔だ。

 

「まぁ、見ててよ。こうら、もっとだ!! もっと岩を投げるんだ!! 絶対にあのフレンズには当てちゃダメだよ」

 

「……」

 

 こうらは頷くと、次々に岩を窪地の中に放り投げていく。あっという間に窪地の中は岩だらけになった。岩の何個はデスボトルプラント型セルリアンの口の上に落ちて、落とし穴を塞いでしまった。

 

「……よし、これぐらいか。こうら、もう良いよ」

 

 しょくしゅがさっと手を上げた動作に連動して、こうらが投擲を中止した。

 

「さぁ、ホッパー。ここからはあなたの出番だ」

 

「……?」

 

 しょくしゅの意図を掴みかねたように、ホッパーは首を傾げる。

 

「ふふふ、分からないかな? 岩の上なら、落とし穴は無いよ!!」

 

「おおっ、成る程デス、流石はしょくしゅ!!」

 

「……とは言え、私では岩から岩へと跳び移ってあのフレンズを助けるのは無理。そこであなたの出番だよ、ホッパー」

 

「……そうKA!!」

 

 しょくしゅが岩を投げさせたのは、落とし穴の位置を確認する為だったのだ。彼女が言った通り、岩の上ならばワナは無い。単純だが中々素晴らしい発想だと言えるだろう。

 

 後は岩から岩へ、安全な足場を文字通り跳び石のように跳躍して移動して、フレンズを助けに行く者が必要になるが……

 

 ジャンプこそは、その名前に『跳躍する者(ホッパー)』を戴く、デザートホッパーのホッパーの十八番であった。

 

 まさしく水を得た魚の如く、滑らかで生き生きとした動きで岩から岩へと飛び移り、造作も無く要救助フレンズの元へと到着すると、彼女を抱えてそのまましょくしゅ達の所へと戻ってくる。

 

「やったー!! 凄いデスよ、しょくしゅ!!」

 

「いや、私だけじゃない。岩を投げて足場を作ったこうらと、見事なジャンプで助けに行けたホッパー。みんながいたからこそだ。ジャパリパークの掟は自分の力で生きる事。でも、自分の力だけで出来ない事を、他の誰かに助けてもらう事も同じぐらい大切な事だと、私は思うよ。だからフリッシュ、あなたも怪我が治ったら、私やこうらを助けてね」

 

「……はい、しょくしゅやこうらが困った時には、必ず助けに行くデス!!」

 

 そう話していると、ホッパーがフレンズを抱えて戻ってきた。

 

 そのフレンズは、すぐにしょくしゅの側まで来ると、両手を取って握手して、深々と頭を下げる。

 

「ありがとう、ありがとう!! もうダメかと思ったよ!! あなた達は命の恩人だ!!」

 

「なに、困っているフレンズを助けるのは当たり前だよ。私はしょくしゅ、こっちのがフリッシュで、大きいのはこうら。あなたは?」

 

「スクローファ。私はスクローファだよ」

 


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