貞操観念が逆転したアイドルマスターミリオンライブ! 作:Fabulous
未来ちゃんの表情がまるで主人公のようだ。
本日も私は仕事の為765プロへと出社する。
この仕事をして分かったことがある。
プロデューサーという仕事は私に向いていない。
だってそうじゃないか…秋月さんの仕事を拝見すればプロデューサーの仕事は各アイドルのスケジュール管理に仕事先との交渉などまるでマネージャー兼管理職だ。
プロデューサーとはもっとクリエイティブな業種だと思っていた私は初日から肩透かしを食らった。
しかもプロデューサー業務は大学で習ったことが何も生かせられない。学校では仕事先の監督やスポンサーとの正しい会話方法など教えてくれない。十代の少女に対する正しい接し方なんて教えてくれない。
数ある私の蔵書を駆使しても八方塞がりであり、未だ現代の日本男子達が解決できない問題をこの仕事では嫌でも日常業務になってしまう。
入社時からは幾分か仕事にも慣れ、アイドル達との交流も深まりようやく全員の顔と名前を一致させることが出来たのは数少ない良い成果だ。
とは言えシアターアイドル達はまだ世間に殆ど認知されておらずそのための私だと高木社長に期待されるのは嬉しいが、プロデューサーとしての仕事は未だ律子さんの付き添いやレッスンを見る事しか出来ず、つい先日まで大学生だった私にいきなり任せられた重責に胃が痛い日々が続いていた。だが弱音を吐くわけにはいかない。
やる気がないと判断されてはもしもの時の真っ先なリストラ対象だ。今の世の中再就職先が直ぐに見つかるとは限らない。
だから私は今日も笑顔で入社する。
今日は765プロの個室に秋月さんから呼び出しをされている。
何か叱責を受けるのかと身構えたが秋月さんの嬉しそうな表情を見る限り、そうではないようだ。
「テレビ出演?本当ですか秋月さん。」
「そうです!我が765プロが今期より始動する劇場とシアターアイドル達を宣伝するために〇〇局でシアターアイドル達に出演してもらいます。」
「なるほど。凄いですね。いきなり出演出来るなんて。」
「と言っても春香達の番組の抱き合わせ出演ですけどね…」
「それでも凄いことですよ。まだ4月ですしシアターアイドルの殆どがテレビどころか本格的なアイドル活動もしていませんからね。」
自社のアイドルがテレビに出演出来るのは喜ばしいことだ。いくらバーターとはいえ専門チャンネルに出ることすら簡単ではないことは私でも分かる。それが地上波テレビに出演とは改めて765プロの業界での影響力を認識する。
「それでどういった内容の番組なんですか?」
「春香達の番組のアシスタントとして登場してもらう予定です。番組の最後には劇場の宣伝をシアターアイドル達に任せるつもりなんです!」
まだ新設間もない劇場の知名度を上げるためには地上波テレビでの宣伝はまたとないチャンスだ。ついでにシアターアイドル達も紹介出来れば当に一石二鳥だろう。
「それじゃあ早速皆に伝えてきますね。今日はレッスン室にシアターアイドル達が結構居ますので…」
「ストップです!春日さん!」
レッスン室に向かおうとした私を律子さんが制止する。
「どうしたんですか?まだ、何か?」
「話はここからです。実は出演出来るのはシアターアイドル達全員じゃないんです。」
「あ、なるほど…確かに全員はさすがに大所帯ですよね。」
所謂「765PRO ALLSTARS」と呼ばれる先輩アイドル13人に対して「765THEATER ALLSTARS」通称シアター組は37人だ。いきなり37人全員がスタジオに押し掛けるのはいくらバーターとは言え物理的にも番組的にも厳しいだろう。
「そうなると何人か出演アイドルを選別すると言うことですか。」
「まだ出演アイドルは決まっていませんがそうなりますね。なので今彼女達に伝えると余計に意識してしまうと思うので出演が決まるまでは教えないつもりなんです。」
「伝えた方が皆やる気が出るのではないでしょうか?」
「そういうメリットもありますけど殆どのシアター組はアイドル経験がありませんし所々でまだ集団に馴れていないアイドル達も居るのでここでいきなり彼女達同士で競わせるのはあまりいい影響を与えるとは思えなくて…ならいっそ秘密裏に選んだ方が恨まれるのは私達で済みますので少なくともアイドル同士でギスギスする事は無いかなと…」
秋月さんの考えは最もだろう。そして同時に自分の浅はかさを反省する。彼女達はまだ10代の超新人アイドルだ。仲間内で競争することもいずれは避けられないがまだ時期尚早だろう。
「そこで春日さんにも協力してもらって候補を何人か選んで欲しいんです。」
「私がですか?ですが私はまだ経験が浅いですし私で良いのでしょうか?」
「だからこそです。春日さんもプロデューサーとしての目を養うためにも仕事やレッスン中にこれだ!と思う娘を報告して下さい。責任を感じるかもしれませんがプロデューサーとしての第一歩だと思って頑張ってくださいね。」
さらっと頼まれたがこれは責任重大だ。テレビ出演が叶えばそのアイドルは他のシアター組と違い明確に大きなリードを手にいれるはずだが選ばれたアイドルにとっても大きなプレッシャーでもあるはずだ。
律子さんも言っていたが選ばれなかったアイドル達からは何故に自分を選ばなかったのかと非難されるかもしれない。
「お兄ちゃん、どうして私を選んでくれなかったの?もうお兄ちゃんなんて嫌い…」
「……」
胃が痛い。
「大丈夫ですよ!春日さん!この前も早速新しいアイドルをスカウトしてきたじゃないですか!社長も喜んでいましたよ。」
以前のゴタゴタによって急遽スカウトに成功した百瀬莉緒さんはあれから熱心にレッスンに励んでいる。あの時は酔っている姿しか見ていなかったが素面の彼女は見た目に反して実にしっかり者であり年長者として年少組をよくサポートしてくれて私はとても助かっている。
少し困っているのは何故か私に対してボディタッチが多くて困っている。百瀬さんのような美人にグイグイ迫られては向こうが冗談とは言えこちらがつい勘違いしてしまう。
それにあまり一人のアイドルに構い過ぎると他のアイドル達が良い顔をしないのだ。特に妹の未来や伊吹翼や最上静香等はすぐに機嫌が悪くなってしまうので贔屓はしないよう十分に気を付けている。
「今の話本当ですか律子さん。」
「志保!?…あなたいつの間に…」
振り返るとそこに居たのは北沢志保だった。
北沢志保。
中学生だが初めて目にした際は高校生かと思った程大人びていた少女。一言で彼女を言い表すなら、一匹狼、といったところか。しかし別に集団行動が出来ないわけではない。レッスンには真剣であるし私や秋月さんの指示にも一応なりとも聞いてくれる。私は何故か無視されることが多いが‥。
私の被害妄想かもしれないが彼女は私を煩わしく思っているようでまだ出会って間もないが私は彼女に嫌われている節がある。先ほども述べたが私の指示は無視するか素っ気ない態度をとるが同じことを律子さんが指示すると素直に従うのだ。何故だ…。
「盗み聞きは感心しないわよ志保。」
「すみません。でもテレビ出演と聴こえればアイドルとして気になるのは当然だと思いますが。」
「…しょうがないわね。まだ出演メンバーは決まってないからこのことは私たちが発表するまで秘密よ。」
「その出演メンバーの一人に私を出させてください。」
「あのね志保…はいそうですかって決めれるわけないでしょう。それにこんな決め方であなたを選んじゃ他の皆に角が立っちゃうでしょ?テレビに出たいのは貴女だけじゃないのよ。」
そうなのだ。北沢志保の特徴としてこの上昇志向は外せない。とにかく野心的と言うか仕事に対してストイックでありやる気に満ちている。新人アイドルとしては良いことかもしれないが今回のようにその熱意が行き過ぎてしまうことが稀に見られるのが彼女の欠点だと私は憂慮している。
「志保さん。秋月さん言う通りですよ。ここは私たちの選考に従ってもらえませ…」
「律子さん、私はレッスンでも同年代の誰より上だと考えていますしトレーナーの方の評価も高いと自負しています。遅いか早いかの違いです。なら今私を出演させると決めたっていいじゃないですか。」
これだ、彼女はことあるごとに私を無視する。明らかに意図的だ。今も目も合わせてくれない。
『落とし神の恋愛指南~THE GOD WORLD~』ではそういった娘は総じて恥ずかしがりやであり脳内ではあべこべにキツい態度をとっている主人公にデレデレなので思いきってアプローチしてみようと記されているが、北沢志保に限ってそんな事はあり得ないだろう。
志保の言動に律子さんも苛立ったのか語気を強める。
「いい加減にしなさい。そんなこと出来るわけないでしょ。それに自信があるなら回りくどい事しないで何時でも仕事が来てもいいようにレッスンをしてなさい。」
「…わかりました。失礼します。」
そう言い志保は不満げながらも去って行く。私は何も言えずその背中を見送る。
「まったく志保ったら…すみません春日さん。あの娘もやる気があるのは良いことだけど…」
「そうですね。彼女のやる気がもっと良い方向に向かうことが出来るように私もプロデューサーとして頑張りますよ。それと秋月さん、私のことはわざわざ名前で呼ぶ必要はありません。プロデューサーで結構ですよ。」
「そ、そんな…なら私のことも秋月じゃなくてり、り、り、律子と呼んでください。」
「いいんですか?なら、律子さん。プロデューサーとしてこれからも頑張りますのでどうか私にご指導ご鞭撻のほど宜しくお願い致します。」
「!…はい勿論です!私、プロデューサーにたっぷり指導しますね…たっぷり…ね?」
寒気がしたがきっとまだ春先だからだろう。
「うわ~律っちゃんデレデレだよ~亜美?」「デレデレだね~真美。」
「しょうがないよね~今までアイドルやプロデューサー一筋で頑張ってたもんね。律っちゃん。」
「そこに来てあのプロデューサーだもんね~そりゃ運命感じちゃうよね~。」
「それに新人ちゃん達も大分デレデレだよね~。これは一波乱あるかもしれませんな~♪」
「にシシシッたーのしぃ!わくわくが止まりませんな~♪」
二人のトリックスター達はこれから押し寄せるであろうハチャメチャに胸を踊らせていた。
私は律子さんに謝罪しその場を去りレッスン室へ向かう。だが胸中は穏やかではない。
律子さんも甘い人だ。能力が優れた人間がより先頭に立つのは当然の事なのに…妙な気遣いでレベルの低い人間に合わせられるのは癪に障る。
レッスン室に入るとちらほらとアイドル達が思い思いのレッスンをしている。一部妙な輩も居るが…もう慣れた。いや、慣れてしまった。
まったく…もう戦いは始まっているのにどうしてここのアイドル達は皆能天気なの?
彼女等はまるで部活動でもしているようで見ているだけで腹が立ってくる。
私達は友達を作りに来たんじゃない…アイドルに成りに来たんだ。それに低ランクアイドルで終わるつもりはない。やるからにはトップアイドルになる。一位に成れなかったけど二位だから良いなんて、そんな妥協は絶対にしない。
「あれ?志保ちゃん、どこ行ってたの?」
「可奈…別にどこでもいいでしょう。」
矢吹可奈…その能天気なアイドルの一人。個人的にはアイドルと言うか、アイドルのような娘の一人。ボーカル組としてレッスンをしているがお世辞にも上手いとは言えない。と言うか酷いレベルだ。よく合格したものだと思っている。しかも現在まで大して上達していない。
「よっしゃ!バッターアウト!」
「うわー!歩の投げるボールほんとに曲がったぞ♪」
「へへーん!どうだ環!これがカーブだぞ!」
そしてレッスン室で何故か野球をやっている二人は大神環と、永吉昴。アイドル以前の問題だ。
「だーかーらー!茜ちゃんの可愛さを広めるためにまずは劇場に茜ちゃんショップを開店してね~」
「それがOKならロコはロコミュージアムを作ります!」
「なら私はアイドルちゃん達のお宝ショットを展示した写真展を…ムフフフフ~♪」
馬鹿なこと言ってるのが野々原茜、ロコ、松田亜利沙の三人組。この三人は見ていて頭が痛くなる。
「星梨花ちゃん。あのアニメ見た?」
「はい♪育ちゃんに進めて貰ったアニメ、とっても面白かったです♪」
箱崎星梨花と中谷育。
年齢的にしょうがない部分もあるがここは小学校の休み時間じゃない。
ここに来て最初に分かったこと、
765プロはどうかしている。
けど、田中琴葉や高山沙代子など、しっかりしている人達も居るには居る。だが、そんなまともを塗り潰すほどのおかしなアイドル達でシアターアイドルは構成されていた。初めて彼女等と対面したときはこの空間だけ別の国のような、まるで私だけが異邦人になってしまっているような感覚を覚えた。
しかも悔しいのは、そんな彼女達のアイドルとしての能力が私を上回っていることだ。
先程の律子さんへのアピールは少し誇張がある。私のアイドルとしての能力は高いと自負しているがそれでもまだまだ足りないところが多くある。
ダンスでは翼に遅れを取るし、ボーカルでは北上さんの方が上だろう。ビジュアルは…豊川さんにまだ勝てない。勝てないがまだであって絶対ではない。あと2、3年経ったらきっと勝てるはずだ。
自信のある演技でも周防桃子には劣っている。
事務所の中にも強敵は居る。だからこそまずは事務所内で優位を決定付けないとそもそもの仕事のチャンスが回ってこない。だからこそ私は彼女等より一歩でも先にでなくてはならない。ならないはずなのに彼女達は何の危機感もなく今も無駄な時間を浪費している。
……別に構いやしない。ライバルが減るのは私にとっても良いことだ。彼女等が努力を怠っている間に私は更にレベルアップをする。
幸いと言うか春香さん達先輩方にそれほど文句はない。強いて言えば私達に甘すぎる節が在るのは事実だが其処はポジティブに捉えている。先輩等がトップアイドルであるのは間違いない。そんな先輩達の後ろ姿を間近で見ながらアイドル活動が出来るのは大きなアドバンテージだ。
だが、最後にとても大きな問題がある。最近の私を悩ませ続けている問題が……
「ね♪ね♪志保ちゃん!プロデューサー見た?今日も素敵だよね♪」
「そ…そうかしら?別にいつもと同じでしょ…。」
そう。プロデューサーだ。一番の問題…諸悪の根元、もとい男のプロデューサー。
初めて目にしたとき私が思ったのは、
「男のプロデューサーが居るなんて聞いていない!」
だった。
確かに高木社長は男性だが所属契約を結ぶ際は、プロデューサーが若い男の人なんて何処にも書いていなかった。(書いてたら書いてたで問題だが…)
10代の女達が集まっているこの職場で20代の男を一緒に働かせるなんて高木社長もプロデューサーもどうかしていると言わざるをえない。
「カッコいいよねー、未来ちゃんのお兄さんなんだよねー、いいなぁ羨ましいなぁ。」
「貴女いったい何しにここに来てるのよ…男なんかにうつつを抜かしている暇は私達には無いのよ?」
嘘だ…本当は私も興味津々だ。うつつをヌキまくっている。
「うぅ…それは分かってるけどさぁ…プロデューサーさんみたいな男の人、私…テレビや漫画の中でしか見たことなくて…」
「男のプロデューサーに舞い上がる気持ちも分からないでもないけどいい加減冷静になりなさい。そんな浮わついた気持ちじゃいつまでたってもステージに立てないわよ。」
会うたびに興奮している。弟以外の身近な異性、大人の男性に私は毎日舞い上がっている。
「は~い…。それにしても志保ちゃんはクールだよね。プロデューサーが来てから事務所のみんなも様子が変わったよ?美奈子さんは毎日すごい量の料理をプロデューサーさんに作ってきて律子さんに怒られてたし、昴さんはプロデューサーの前だと急に女の子らしくなるし…他にも色々…」
「全くどうかしてるわ!これからアイドルデビューするアイドルが担当プロデューサーとどうのこうのなんて現実的に無理があるしあり得ないでしょっ。絵本だってもっとましな展開をするわ。」
期待している。スマートフォンで閲覧しているえっちなサイトにある荒唐無稽なとんでもな展開を毎夜毎夜ベットで妄想して悶えている。
「志保ちゃんの言うの通りだけどやっぱり気になっちゃうよ。だって男の人なのに凄く優しいんだよ?紳士だよ!日本男児だよ!それにすごく無防備でこの前なんか…シャツの第2ボタンまで外してたんだよ!む、胸板とか結構見えちゃってたよ!」
「プロデューサーの仕事だからよ。勘違いしない方がいいわよ?それにあまり露骨に見たらセクハラよ可奈。」
羨ましい!私もその場に居たかった…
可奈の言っていることは間違ってはいない。プロデューサーは私が出会ってきた男性の中で家族を除き堂々の第一位に輝く素晴らしい男性だ。しかも…しかも…滅茶苦茶エッチだ。無防備だ…誘っているとしか思えない。事務所のメンバーの何人かは露骨にプロデューサーを狙っている。私はもう眺めているだけで幸せだ。しかしどうしてももっと近くで眺めたいもっと近くで触れ合いたい…だけど…、
「みなさーん、お疲れ様です。」
「あ!プロデューサー!」
「プロデューサー!オレ…っじゃなくて、わっワタシ、レッスン頑張ってるぜ…ます。」
「アハハ♪すばる~また変なしゃべり方してる~。」
「う、うるせぇ!…ウルサイデスヨ…タマキサン。」
「プロちゃんプロちゃん!やっぱり茜ちゃん人形を全面にプロデュースすべきだと思うよ!」
「アカネ、抜け駆けはBANですよ!それよりプロデューサーはロコミュージアムに展示する裸夫画のモデルに…」
「ななななならっ亜利沙のプロデューサー写真集の作成に協力をっ!」
「プロデューサー♪わたしと星梨花ちゃんのデビューまだなの?」
「早く育ちゃん達とステージに立ちたいです♪」
「あはは…皆さん落ち着いて下さい。そんなに一度に聞けませんよ。」
プロデューサーがレッスン室に来た途端これだ。皆目の色が変わっている。
「あ…志保さん。」
「!…なんですかプロデューサー。いつかのチャンスのために私はレッスンで忙しいんです。」
「そ、そうですか。頑張ってください…。」
私の馬鹿…どうしていつもいつもプロデューサーに素っ気ない態度をとってしまうの?さっきもそう…結局恥ずかしくてまともにプロデューサーを正面から見れないし声もどもっちゃうから必要最小限でしか会話もしていない。折角アイドルとプロデューサーと言う絶好のシチュエーションなのにこれじゃプロデューサーに嫌われちゃう…。そうなったらテレビ出演のメンバーにも選ばれないかもしれない…。
レッスンが終わり皆一様に帰路に着く頃、私は一人レッスン室で自主トレをしていた。結局あの後もプロデューサーとはまともな会話も出来ず別れてしまった。
「どうしたら…」
一人レッスン室で弱音を吐く。その時…
「「しほりん、その願い聞き届けたり~!」」
「双海先輩!?」
現れたのは先輩アイドルの双海姉妹だった。
「んっふっふ~♪プロデューサーとお近づきになりたいんだよね~しほりん。」
「な!?そ、そんなこと…」
「隠さなくたって良いじゃんしほりん。兄ちゃんのこと狙ってるライバルは多いよ~?」
「そうそう!もたもたしてると誰かさんに兄ちゃん、お持ち帰りされちゃうかもね~?」
「それにライバルは事務所の中だけじゃないもんね~。兄ちゃんみたいな男が居るって知ったら怖~い芸能界が黙ってないよ~?」
「そんな!?…あ!いやっこれは…」
「ぐふふ、いやいや~いいんだよそれで~。」
「わっ私は別にプロデューサーの事は只のビジネス上の付き合いであってそれ以上なんて私は…私は…」
「何で否定する必要があるかな~?しほりんも兄ちゃんが危なっかしいのはよく分かってるよね?あんなに不用心だと今の世の中生きていけないよ~?」
「あんなおいちぃ獲物はすぐに狼女達の餌食だよね~。」
「いいのかな~?しほりんみたいな綺麗な女の子が黙って指をくわえて見てるだけ?」
「何を迷う必要があるかな~。奪いとっちゃえば~?」
「「今は悪魔が微笑む時代なんだよ!」」
「しっ失礼します。」
私はレッスン室を飛び出しそのまま逃げるように家路に着く。
道中私の心はぐちゃぐちゃだった。
プ、プロデューサーが私の物に…そうなったらあの肢体を思う存分…あの本やゲームみたいな事を…フフフ、フフフ…
そういえばプロデューサーは度々私達の胸をチラチラ見ていた。特に風花さんや可憐さんなどを…
以前母が女は男に見られると分かると言っていたがどうやら本当のようだ。
プロデューサーは女性に興味がある、そしてその視線はスタイルの良い女性に向けられている。この事から導き出される答えは1つ。
つまりプロデューサーはおっぱいフェチということなのよ!
私は店先のショーウィンドーに全身を写した。
スタイルなら自信はある。自分の体形が同年代に比べ突出している事は分かっている。風花さんや可憐さんには敵わないが私もプロデューサーの興味の対象なのは間違いない。
なら、やりようはいくらでもある。私は帰りを待つ弟のもとへと急ぐ
「…待っててね。もうすぐ貴方にお義兄さんが出来るわよ♪あと甥っ子も♪…フフフ♪。」
「もぅ…恵美ったら…。」
私は自室でスマフォのメール添付画像を見ながら狼狽した。視線の先には私達のプロデューサーが写っている。しかし画面のプロデューサーはカメラ目線ではなく明らかに隠し撮りされたのワイシャツ姿の写真が納められていた。
メールにはこう記されている。
ヤッホー\(^o^)/琴葉♪
亜利沙が激写✨した超お宝写真あげるよ~♪
これで夜が寂しくなくなるね(*´ω`*)
「………ゴクリ。」
「今日はこれぐらいにしておこうかな。」
私は部屋での自主レッスンを切り上げタオルで汗を拭きシャワーを浴びにバスルームへ向かう。
眼鏡を外し衣服を脱ぎ去り、シャワーのバルブを回す。
汗と一緒に疲れも洗い流すようなシャワーの心地好い温かさが全身を伝う。
湯船に肩まで浸かりホッと一息を着く。
先輩達や他のシアターアイドルを見れば嫌でも分かる…私の実力はまだまだだ。
今の私じゃとても事務所の看板を背負ってステージやテレビにはとても出演出来ないしさせてはくれないだろう。
今日も課題のダンスで脚がもたついてしまい律子さんに怒られてしまった。
だけど私は絶対にへこたれない…っ!
あの子との約束を守るためにも!
決意を胸にお風呂から上がり自室へと戻ると携帯がメールの受信を知らせていた。
……来たッッ!!
私は猛獣の如く携帯に飛び付きメールを確認する。正しくはメールの添付ファイルを。
「ふあぁ…すごい…っ、本当にプロデューサーのワイシャツ生写真だ…。」
送られてきたのは亜利沙ちゃんから一部を除きシアターアイドル達に無料配布されているプロデューサー秘密写真集『今日のプロデューサー』だ。
そのクオリティーは下手なグラビア雑誌やDVDを軽く凌駕していて女子中高生の夜に欠かせない存在となっている。
「えへへ♪私は今日も頑張りました。一杯褒めてください♥」
「…!」
またも寒気がした。というかここ最近、765プロに入社してから謎の寒気が頻発している。一度に病院に行ってみようかな?
「ちーひっひっひっ!ちょっと手違いもあるようですが良い夢見てますね~♪でも私からは逃げれませんよー。」
リクエスト話も書いておりますので気長にお待ちください。