貞操観念が逆転したアイドルマスターミリオンライブ!   作:Fabulous

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あべこべは良い文明


世界が変わっても就活は就活

朝起きると世界が少しおかしい。

 

だがそれがどうした。私は今日就職のための大事な面接があり、多少世界が変わったところで私は就職活動に勝利しなければならないのだ。だから女性アイドルが男子中学生との不純異性交遊が明らかになり謹慎するとか男性保護法改正に国会紛糾とか全く私に関わりない。

 

きっかけは昨日両親から大学卒業後どうするのだと聞かれ就職するとうっかり答えてしまいじゃあどこに就職するのだと聞かれ手近にあった求人雑誌から765プロと答えてしまったのがことの始まりだ。

 

私の現状を説明すると大学進学のため実家から引っ越し大学近くのアパートに住んでいる。そして現在入学から既に四年が経過している。大学卒業は問題ないが問題は未だ就職が決まらないことにある。もちろん就職活動は他の就活生同様に就活をしていたが何故か連戦連敗。友人たちが次々に内定を決定していく中今日まで内定0の燦燦たる事態に私自身危機感を抱いていた。

 

今までの育ててもらい現在も大学近くの賃貸アパートに暮らす援助をしてくれている両親のためにも私は就職しなければならない。またそれとは別に少し年の離れた妹のためでもある。妹は中学生でそろそろ反抗期がきそうな年齢だが幸いなことに妹は兄のひいき目を除いても一般的な女子中学生に比べ非常に純真無垢で私のような内定0男にも好意的に接してくれる。(この前も落選の書類を送付され落ち込んでいる私に励ましのメールをくれた)

そんな両親と妹の期待のためにも何としても内定を獲得しなければならない。

 

 

 

 

もうこんな時間だ。こうしてはいられない。私は身だしなみを整え面接会場である765プロに行くため家を出た。

 

私の住む賃貸アパートから765プロまでは少し距離があるので移動手段は万が一も考えて遅延証明ができる公共交通機関を使う。最寄りの駅まで徒歩で行きそこから電車に乗るが普段使わない移動ルートの為私は前日に一度765プロまで出向きしっかりと予習を済ませたので問題はない。

 

時間通りに来た電車に乗る。よし予定ピッタリだ、と思っていたがここで想定外の事態。下見の際は昼間に行ったせいで電車の混み具合を考えていなかった。午前の時間に加えて就活シーズンのため皆リクルートスーツを着た大学生が電車に乗り込んでいる。車内がOLや就活生で満杯になり女性だらけなのは些か気になったがきっとそういう時間帯だったのだろう。見れば就活生達はこれから私と同じように面接に行くのか皆一様に緊張した様子だ。気持ちはいたいほどわかる。私の周りの人達など混雑して密着してしまう始末で男としてちょっと嬉しい反面痴漢と疑われてしまうのではないかと非常に動揺した。

 

これはまずい。就職もできずに痴漢冤罪の濡れ衣を着せられたら両親や妹に顔向けができず、もう二度と妹の笑顔が見られない。

 

そんなこと考えていた私だがどうやら彼女等は私などまるで眼中にないようだ。吊革を持つ手は小刻みに震えるか万力のように握りしめている。聴こえる息遣いは荒く密着している部分は汗で蒸れているようだ。驚くことによく見れば彼女らは皆とても美人だ。私はなんとも言えない不条理さに嘆いた。彼女等のような華の女子大生がどこの誰かが始めたかは知らない就活などというものによってその美貌をゲドゲドに緊張させているのは実に忍びない。是非とも応援をしたいところだか悲しくも今は就活戦争。今日の戦友が明日敵に変わるかも知れぬ哀しき闘争。残念だが彼女等と内定を奪い合うことが無いように祈るしか私には出来ない。許せ就活生達よ、これも全て就活が悪い。

 

 

 

その後目的駅で下車し765プロへ再び徒歩で向かいようやく面接会場である765プロへと到着した。予定外のトラブルもあったがあんなのは些少だ。これからが本当の戦いの始まりだ。

 

面接という限られた時間の中、如何にして面接官に好印象を与え自社に率いれたいと思わせられるか、成功させるには高度のコミュニケーションスキルが要求される。多くの就活生同様に大学での模擬面接に苦しんだ私だがここまで来ればもはややるしかない。

 

私は飲食店の二階に上がり765と書かれたドアをノックし要件をドア越しに伝え返事が聞こえたことを確認し開ける。返事の声がおかしかったのは気にしないことにした。

 

中に入るとそこは意外なほどこぢんまりとしておりアイドル業界を躍進している765プロのイメージとは程遠い。そもそもこの建物も正直どうみても吹けば飛ぶ零細企業のようで昨日下見の際に初めて目にしたときは本当にこの会社に就職しようか迷った程だ。

 

しかし最早私に退路はない。両親や妹にも765プロの就職面接に行くと連絡し期待してくれ、と大見得をきった手前ここで敵前逃亡するわけにはいかない。

肌に感じるエアコンの空気はさながら戦場の空気そのものであり私の覚悟を試している。何度か他の企業の就職面接に参加した経験からいえば覚悟なきものはこの時点で激しく動揺し結果戦場に屍を晒すことになる。

大丈夫だ。両親と妹のためにも私の覚悟は既に完了済みなのだ。

 

私の前に二人の女性が立ちはだかる。事務員風の女性とどこかで見た覚えのある眼鏡の女性だ。

事務員風の女性の案内に従い机と椅子がおいてある面接室に通される。

 

後で気づいたことだか眼鏡の女性は765プロのアイドル兼プロデューサーの秋月律子だとわかった。

 

この時点でわかるかもしれないが私はアイドル関連というか芸能関係に非常に疎い。765や961や346などのプロダクションや日高舞等の超ビックネームは知っているがそれ以外は顔と名前が一致してなかったりそもそも知らなかったり酷い有り様だ。大学の友人が熱心に応援しているアイドルの魅力を私に語っていたが私は既にそのアイドルの名前を忘れていたのは内緒だ。

 

よくもまあこんなふざけた奴がアイドル事務所の面接に恥ずかしげもなく来れたものだなと自分でも思うが背に腹は代えられない。どんなに不純な動機だろうとも内定をゲットすればこちらのものなのだ。

その友人も内定を獲得するために面接官に、やったこともないボランティアやお涙頂戴の感動秘話をしゃべりまくったそうだ。確か父親が蒸発して母親が獄中出産だったかな。

 

彼曰く就活は最早戦争であり就活戦争で馬鹿正直にフェアプレーなどしていたらたちまち他の就活生達に食い殺されると血走った目で私に言っていた。

それを聴いた際はそこまでするかと友人の倫理を疑ったがいざ自分の身になれば彼の言ったことがあながち間違いではないと私は考える。

昨日の今日とはいえこの瞬間のため私は蔵書の『これで面接官も即堕ち!悔しいのに内定決定しちゃう』ハウツー本を読み直し一般的な受け答えをマスターした。今の私は就職希望理由から恋人の有無まで淀みなく受け答える自信がある。まあ、恋人などいないが。

 

眼鏡の女性が口を開く。いよいよ面接の始まりだ。さあどんな質問でも完璧に答えようではないか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

時は少し遡り765プロ

 

二人の女性が頭を抱えていた。

 

「どうします?」

765プロ事務員音無小鳥が呟く。

「どうするもこうも、面接をするしかないですよ…」

もう一人の女性、秋月律子が陰鬱な表情で答える。

 

「でも私…男の方なんて最近は社長以外まともに話したことが…」

 

「そんなの私だって同じようなものですよ!最近はいとこともなんだか疎遠で…」

 

「せめて社長がいてくれたら助かるんでしょうけれども急な面接で連絡がつかないんですよね」

 

「確かに事務員とプロデューサーは募集していますけど前日いきなり面接希望の連絡でしかも男性の方からなんて想定外ですよね…」

 

そんなやり取りを朝から続けている二人だが次の瞬間彼女等の動きが止まる。

 

「失礼します。本日御社の就職面接に参りました春日ですが」

「はっはぃぃ!」二人の声が重なる。

 

 

現れたのは予想以上の人物だった。

 

見た目は悪くない。というかかなりいい。身だしなみはきちんとしているし身長は175~180程で体型は肥りすぎず痩せすぎずといったところで正に女の理想的体型だ。

私のいとこが庇護欲をそそるなら彼はダイレクトに女の本能を刺激する。

まずい、顔が火照ってきた。秋月律子は目の前に現れた就活生を冷静に分析しようとするが理性と本能のせめぎ合いに苦しんだ。因みに音無小鳥は彼を案内した後では私はこれで…律子さん後はお願いしますといって席を離れたが実際は即トイレに駆け込んでいた。

 

小鳥さんの裏切り者ぉ!彼女は心の中で慟哭した。

ひとまず面接をしなければと彼を席につくよう促し自分も席についた後彼女は己の間違いを悟った。

 

めっちゃ近い!

 

そう、彼と律子はテーブルを挟んで向かい合っている。こんなことなら面接会場のレンタル代をけちったりしなければよかった。秋月律子は激しく後悔したが最早遅い。律子の目と鼻の先で彼の瞳や唇、呼吸の度に膨らむスーツが彼の胸板を暗に主張していることが見てとれる。

 

秋月律子此の場にあの子達がいなくて良かったと思っていた。

 

自分ですらこんな状況なのに彼女達が彼と対面したらどうなるか分かったもんじゃない。通報ものだ。

 

しかし公私は切り替えねばならない。発足当初に比べれば現在は業界で一定の地位に位置している765プロだがまだまだ慢心はできない。しかも今年から新たに新アイドル達を大量に売り出していく予定であり、いくら男性とはいえそれだけで採用するわけにはいかない。

芸能界は厳しい。男性であることがイコールプラスになるとは限らず、むしろ逆効果になる危険性をはらんでいる。

もっとも考えられるのは自社他社関わらずのアイドルへの悪影響だ。間近に彼のような男性が居ればそれこそまだまだ子供の彼女達はきっと舞い上がりアイドル活動に支障をきたす恐れがある。さらには仮に他社のアイドルとのスキャンダルが発覚すれば業界のなかで765が弾き出されかねない。そんな事態はなんとしても避けたい。

 

 

よし、残念だけど断ろう。そもそも男性が芸能界なんて…

きっと彼も何かの気の迷いだったのだろう。当り障りのない質問でお引き取り願おう。

そう結論付けた律子は彼に向かい口を開く。

 

 

「えーと…春日さん。なぜ我が765プロをご希望に?」

 

「御社のアイドルに対するプロデュースの在り方に大変感銘を受け御社に入社し私もアイドルを支えゆくゆくはプロデュース業を通して御社のアイドル活動を更なる高みへ引き上げたいと考えております」

 

 

律子は初め彼が何をいっているのか理解できなかった。幻か何かを見ているように茫然と口をパクパクさせ普段の彼女を知っているものが目にしたならば信じられない光景だった。

 

 

なんなのだ。この人は?

 

「で、ですが失礼ですが芸能界は貴方が考える以上に…」

 

「もちろん理解しています。ですがそのためならば私は御社のためにどんな苦労も困難も厭わず765プロそしてアイドル第一をモットーとして働きたいと考えております」

 

 

信じられない…何でも?どんなことでも?ならあんなことやこんなことや…

 

そこまで考え律子は正気に戻る。

 

いけない。これじゃあまるで亜美と真美がふざけて言っている妄想みたいじゃない。

 

 

でもこれは予想外。まるで想定していない。こんな(ひと)が本当に存在するのか?もしこんな(ひと)と一緒に仕事ができたらそれこそ…

 

 

様々な希望・展望・妄想が律子の脳内を駆け巡る。

採用か不採用か。

 

彼女の口が開く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

よし今のところうまく答えられているな。

 

私は面接官の二つ目の質問に答えたあと心のなかで静かに安堵していた。しかし本番はここからだ。最初は当り障りのない質問でこいつはまともな奴かどうかを調べてくるがおそらく次からは会社の色によって違ってくる変則的質問だろう。ここで動揺してはいけない。面接官はその揺れを見逃さず減点してくるだろう。しかし残念だが私はすでに退路を断った背水の陣を敷いている。どんな質問でもお望み通りの答えを聴かせよう。

 

「もう結構です」

 

ん?

 

「もう十分です。春日さん」

 

私は背筋が凍った。どういうことだ。まさかもう面接が終わりだということなのか?そんな…まだ二回しか答えていないのに。ひょっとして私は知らない間に地雷踏み抜いてしまったのか?ただのテンプレート質問だと思っていた面接官の計二回の質問は実は巧妙に罠を張り巡らした地雷原だったのか―――っ!?嵌められた。面接官は敵でも味方でもない中立の存在だと思っていた私が馬鹿だった。

結局私は狼にも蛇にも成れないただの羊だったのだ。

 

そんな絶望の淵に立たされていた私に面接官は思いもよらない言葉を言い放つ。

 

「我が765プロはあなたを採用します。詳しい内容につきましては後日書類を送付させていただきます。本日はありがとうございました。気を付けてお帰り下さい」

 

「…あ、はい」

 

 

 

 

お父さんお母さん妹よ

765プロ就職決定しました。

 

 

結果的に私が質問に答えた回数は二回。

 

たった二言で面接官をおとした私はサイキッカーなのか?それとも事前に読んだ就活ハウツー本が素晴らしかったのか疑問は残るがそんなことはどうだっていい。とにかく就職決定だ。急いで両親と妹に報告しなければ。

 

765プロを出て早速両親には電話、妹にはメールで内定の旨を伝えたところ何故かとても驚かれ就職などしなくてもいいから家に来いと両親に言われた。なるほど。私自身親離れがなかなか出来ないと思っていたが両親も私を心配してあえてそんなことを言っているのだろう。私は心配いらないと安心させ正式に就職した後また改めて連絡すると両親に伝え電話を切った。その後妹からメールではなく電話で返信が来た。妙に上擦った声だったが私の就職を喜んでくれた。ただ妹からも私を心配する声を聴いたがきっと芸能界という未知の世界に足を踏み入れる兄を気遣ってくれているのだろう。妹よ。心配ご無用だ。芸能界といっても私自身が商品になるわけではなくあくまでサポート、裏方役だ。そんな心配するようなことは起きないと伝えると、妹は何故か渋々わかったと言い電話を切った。

 

 

何はともあれ就職できたことに変わりはない。人生思い立ったが吉日というが本当にそうだったようだ。私はなんだかとてもうれしくなりお気に入りのうどん屋に祝杯をあげに行った。そのうどん屋は都内でも穴場のうどん屋で卵を繋ぎとした細麺はしっかりとコシがついており、アワビ、ネギ、昆布、キジなどの多様な素材をじっくりと煮込んでうまみを抽出した汁との調和はまさにパーフェクトコミュニケーションというべき逸品だ。

 

店に付き暖簾をくぐると木材をふんだんにあしらい畳や障子など純和風に統一された店内が一層うどんの味を引き立てる。早速テーブル席に付き注文を終えると向かいの席に客が座っていた。これはいけない。あまりのうれしさと注文のことで頭がいっぱいで図らずも相席になってしまった。私は席を移すため立ち上がろうと思った時丁度店内に団体客がどっと入ってき、ほかの空いている席を占領してしまった。

私は席を移すのをあきらめ向かいの客に相席の許可を取りうどんを待った。

失礼とは思ったが他に見るものもないので向かい客をよく見れば妹と近しい年代の少女だった。醸し出す雰囲気からしておそらく妹より一・二歳年上だろう。髪は背中まで掛かるロングで細身。全体から清楚な感じや育ちの良さが感じられる。妹が愛らしいなら彼女は凛々しいといったところか。そんなことを考えていると

 

 

 

「あの…何か御用でしょうか?」

 

注視していた私を不信に思ったのか彼女の方から訪ねてきた

 

これはいけない。アイドル事務所に就職が決定して舞い上がっているとはいえついプロデューサーのまねごとをしてしまった。しかし正直に話すのもややこしくなるしここは多少かいつまんで…

 

 

「失礼しました。御用というほどではありません。ただあなたがとても魅力的に思え、それこそアイドルのようだと見惚れてしまいました」

 

言っておくが私は正気だ。これは愛読書の一つである『フランス人に学ぶセリフ一つで劇的男女の良好な関係指南』にも載っている答え方だ。

 

「ええぇ!?」

 

何故か彼女は驚きの声を上げてまだうどんも食べていないのに顔を赤面させた。

 

「じょ…冗談はやめ…」

 

そうこうしているうちにお目当てのうどんが運ばれてきた。汁と麺以外ネギすら無く、うどんに麺と汁以外なにが必要か、と言わんばかりのシンプルな一品。汁を一口すすり口の中と鼻腔でその芳醇なダシを堪能する。(この時点で向かいの客への意識は消失した)

あえて薄口の汁はダシ本来のうまみの味が十全に引き立てられこの汁の前では添加物など立ち入るスキがない。

汁の次は麺をすする。店長自家製の麺は一本一本手作りでありながらすべて均等の長さと太さであり大量生産品では決して出すことができない舌触りとコシで食感を刺激する。箸がどんどん進む。最後の一本、一滴に至るまで食べ尽くして540円(税込み)ワンダフォー…完璧だ。

 

器をカラにした後顔を上げると向かいの少女にすでにうどんが運ばれていたが、一切手を付けていなかった。

 

「冷めてしまいますよ」

 

親切心から指摘すると彼女はハッとしたようにうどんを啜り始めた。

 

 

 

大変満足して店を出た後、家に帰ろうと駅に向かうところ急に天候が怪しくなる。これはもしやと思い足を速めるがすぐに雨が降り始め数分後には傘が無ければ全身ずぶ濡れになってしまうほどの大雨になっていた。

 

だが私は焦らない。こんな時の為に私は鞄の中に折り畳み傘を年中持ち歩いており死角は無い。突然の自然の猛威にも打ち勝つ私にさらに機嫌がよくなる。そんな時―――

 

 

「あーあ、もうこんなに降ってきちゃった。どうしようかなぁ」

 

 

ふと見ればシャッターの閉まった店先の雨よけの下にこれまた妹世代の少女がいた。妹やうどん屋の少女以上により男性に人気があるだろう容姿や雰囲気をしていて可愛らしいといえる。どうやら急な天候変化により立ち往生しているようだった。しかも見れば彼女の手にはショッピングの結果と思しき紙袋が握られており、今日買った品物を雨で濡れさせたくないから雨宿りをしている事が推察される。

 

私はしばし逡巡した後彼女の下に駆け寄り、

 

「大丈夫ですか?雨で大変でしょう。差し支えなければどうぞこの傘を使ってください」

 

『気になるあの娘と100点相合傘』のワンフレーズを応用しながら引用する。

 

これならどこからどう見てもただの親切な素敵紳士だ。

 

「え…どうして?」

 

当然相手は突然のことに動揺する。しかしこういった事態もハウツー本にしっかりとは対処法が書かれてある。

 

「勿論です。私は駅に向かうのですがひょっとしてあなたもですか?」

 

「うん…そうだけど」

 

「なら丁度いい。どうでしょうあなたさえよろしければこの傘を二人で使いませんか」

(この時点で私はハウツー本のセリフをそのまま引用してしまっていることに気づいていなかった)

 

「へ?」

 

 

「…本当にいいんですか?」

 

「もちろんですよ。私もそれを望んでいますので」

 

「…うん!分かりました」

 

 

ほら。完璧だ。見事不憫な少女に傘を使ってもらえるように説得したぞ。やはり私の持っているハウツー本は完璧なんだ!

 

 

 

 

 

 

 

「えへへ♪」

どうしてこうなった…

 

 

あの後傘を少女に渡し颯爽と雨の中に消えようと思っていた私はなぜかその少女と腕を組み相合傘をしている。

なぜだ、いったいどこで間違えたんだ…

 

 

相合傘とはいえ所詮折り畳み傘なので二人が入る面積は無くどうしてもお互い密着してしまい彼女も不快だろうと思っているとさらに私の腕に寄り添う形で密着を強め私は少女とは思えない少女の豊かさに感嘆と驚愕と感動で半ば思考停止しながら駅まで彼女と相合傘をした。

 

別れ際の際何故か名残惜しそうにする少女にせがまれ連絡先を交換しさらに半ば強引に別れのハグまでされてしまったのは秘密だ。信じてくれ…勿論最初は断ったが最終的に彼女が上目遣いで「…ダメぇ?」などと言われてしまっては私も抗うことは出来なかった。

それにしてもいくら少女が私に恩義を感じていても流石にヤバイ。知り合いの童顔のおまわりさんに見つかったら間違いなく職質案件( シメられる)だ。

 

 

 

 

 

そんなこんなで紆余曲折あったが私はようやく家に帰ることができた。

 

 

今日の面接を振り返る。

そう遠くない日に私は765プロの社員になるのか。不純な理由ではあったが採用してくれた以上私の精一杯を仕事に活かそう。それが私を評価してくれた面接官に出来る恩返しだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

今日の興奮冷めやらぬ中私は枕元で愛読書の一つ『70億人から選ぶディスティニー・これであなたも愛情いっぱい』を読みながら

 

 

ところでアイドルとのロマンスはありえないとしても恋人は欲しいなあ。

 

 

なんてことを考えていた。

 

 

 




主人公は基本この調子です

デレやMはメインでは出ません。フレーバー程度です
シチュエーションやキャラの要望は活動報告でお願いします

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