屋上で寝転べば、くそったれなほど、に清々しい青空が、俺を見下してきやがった。
雲ひとつない晴天の青空。俺がこのくそったれな世界にきてから、はや35年がすぎたが、しかし、この空は今も35年前も変わらずに存在をしていて、いつまでも俺を見下ろすのをやめることはない。
それにこの世界に生まれて、いや生まれる前からのこの空が、存在しているとなると、せめて汚らしく濁ってくれるようタバコを吸うことにした。どうせならあの蒼もタバコのヤニで黄ばみはしないかと、ありえない空想を立てながら。
一本二本とタバコをふかしていると、階段に貼られた俺の円にだれかがふれるのがわかった、おれも人気者になったものだなと自嘲し、気にせず3本目のタバコに火をつける。
相手の人数は3人か。丁度火をつけたタバコのかずと同じことがおれにとっては無性におかしかった。ゆっくりとタバコをふかしながら、そいつらの到着をまつ。まったく、今時絶も満足にできないとは悲しくなるね。そう思っていると、扉が勢いよく開かれた、会わられたのは黒いスーツを見にまとった筋骨隆々のおとこたちである。
そのなかの一人が、俺をみつけると大きな声でさけんだ。
「みつけましたよ、トンパさん。早く一次試験の準備に入ってください。」
まったく、そんな大きな声で叫ばなくても聞こえているよ。
俺は仕方がなくこしをあげると、その黒服たちの側に行き、見上げながら。
「いくから、案内しろ」
「はい‼」
そういって案内を促した。その俺の声に震えながら黒服のひとりが大きく返事を返す。
全くなにをこんなにチビで中年のおっさんをびびってんのだか、理解ができなくて仕方ないね。俺よりもよっぽどあの化け物ジジイの方が怖いだろうに。
俺は黒服の様子に苦笑しながら、一度くそったれな空を見上げると、三本目のたばこを踏み消す。
それにしても、今回はどんな雛鳥が集まっていることやら、若いって言うのはいい。高く高くあの忌々しい空に羽ばたけるのだから。
まぁ、でも、どんなに高く飛べても、落ちる時は一瞬だ。だからこそ、その顔をしっかりと見てやらなければな、翼をもがれた鳥がどんな顔をするのかをよ。
「さて、今回はどれだけのこすかな。」
俺の一言に黒服たちがびくつくが、それを無視して俺は歩むのであった。
トンパが屋上から過ぎ去ったあと、残った黒服たちが話し始めた。
「おい、見たかよあの顔」
「ああ、あれ絶対、何かやらかすぞ」
彼らも立派ハンターである。しかも協会所属の。しかしながら彼らからしても、先ほどの小さな中年ハンターは別格の、いや彼らからすれば恐怖の象徴であった。
彼のハンターの名前はトンパ、その経歴は飛び抜けたものではない、20歳でハンター試験に合格すると、そのまま協会専属として過ごしてきたハンターである。確かに20歳でハンターとは非常に若いし、ハンターとしてみればすぐさま協会所属とは、少し毛色の変わったものではあるが、だからと言って恐れられるような経歴ではない。では、何故彼が恐れられるのか、それは、彼の異名にあった。
"新人潰しのトンパ”
彼は協会専属となってからいままで、ハンター試験の試験管をこなしてきたのだ、その時についた異名がこれである。彼が試験管となってから、ハンター試験の合格者は減り、重傷を負う人が大きく増えたのだ。
ただでさえ、ハンターの数は少ないそんななか合格者が全くでないのでは。どんどんとハンターが減ってしまう。この状況にハンター協会も重いこしをあげ、釘をさした。
だが、ここでトンパが試験管を降ろされるとはなかった、何故ならばそもそも率先して試験管を受けるハンターが存在せず。トンパの存在自体がハンター協会にとっては非常に助かるものであったからだ。
そんなトンパだからこそ釘は刺されたが、辞めさせられなかった。そしてこのことは彼にとっては僥倖であり、ハンター協会にとっては悲劇であった。
釘を刺されたトンパは、方針を転換することにする。合格者がでないこと、重傷者がでることが問題ならば、それ以外の点で痛めつける。つまり精神を追い込んでやればいいのだと。
その結果、合格者はもとにもどり重傷者は大きく減った。精神に異常をきたすものの増大とともに。
ただでさえ過酷で、殺伐としていた試験が、さらに陰険さと憂鬱を併せ持ってしまったのである。
もちろん良識あるハンターたちは彼の試験に、異をとなえた。だが、ハンター協会はそれには取り合わなかった。その程度を耐え着れないものがハンターになろうとするのが悪いのであると、文句があるのならば君たちが試験管をやればいいと。それに対してハンターたちは口を噤むしかなかった。そもそもハンターという人種は求める者がありそれを追い求めることで手一杯なのである。その点トンパは異色のハンターなのであった。
このような結果と経緯から新人潰しトンパが生まれ完成したのである。
つまり、彼が試験を受け持ったここ15年にハンターになったものはその洗礼をうけているのだ。恐怖するなと言う方が酷であろう。
「今回はどれだけつぶされるんだ」
「俺実はいまだに、あの時のことが夢によみがえるんだよ」
「俺もだ」
屈強で強靭なハンター達がいまだに、夢に見るほどの試験とはいったいどういったものなのだろうか。
俺が俺をトンパと自覚したのは五つくらいのことであったか、なんてことはないどこでもあるような話さ。階段から足を滑らして落ちて頭を打った、ただそれだけさ。な、よくある話だろ?
それからの俺の人生は変わる……、わけがないよな。
当時の俺は5歳のガキだぜ?
自分の中に知らない知識があったからって、それを不自然に思う頭んかねぇ。
俺はそのまま輝かしい青春を謳歌したわけだ。
しかしながらちょっとだけ変わったことがある、それが念てわけさ。
念を知らないって? そうだろうなお前じゃ一生かかっても知ることはできねぇだろうよ。
俺もそうなるはずだった。
しかしながら俺は幸運なのか不幸なのかこの存在を知っちまった。
そして、知っちまったが最後、ガキにとってはこれほどのおもちゃはなかったわけだ。
だって考えてもみろよ。もしかしたら空を飛べるかもしれない能力たぜ? 誰よりも早く走れる能力だぜ? ガキの俺にしてみればこれほど魅力のあるものはなかったわけだ。
それはもうそっちのけで練習をしたわけよ。
自分だけの必殺技が手に入る。手を抜けるわけがないだろう。
さらには、俺にはそれを効率的に鍛えるための方法も頭の中にあったわけだ。
ガキの俺はどうやら素直でね、忠実にそれを行ったんだよ。そう漫画の中の主人公が行うような特訓を忠実に毎日にな。ガキってのは怖いものでね、一度やると決めれば全開でやり通しちまう。そう空っぽになるまでな。
何よりも子供ってのは運が良くできているらしくてな、漫画のような無茶をしても俺の身体にはがたが来なかったわけだ。
なに? 漫画を読まないってお前それは人生損してるよ、あんな面白いものはないのに。
まぁ、べつにそれはいいか、何が言いたいかと言うと、俺はその漫画のような効率のいい訓練を5歳のころから続けてきたわけだ。
わかるかこの意味が? わからなくてもいい。ようはこれがお前と俺との差になったわけだ。なんてことはない俺は幸運だっただけなのさ。
そして、お前は不運だっただけさ。
さてと、一次試験もだいぶ人数が減ってきたな。おい、見ろよ全員今にも倒れそうな顔をしてるぜ。
なあ、笑えるだろ?
おっとすまねぇお前は笑えなかったよな、今それどころじゃないもんな。
なに、やさしい俺が二次試験会場には連れて行ってやるよ、それが俺のバディであるあんたの特権だからな。
まぁ、どうせもう聞こえちゃいないだろうがな。