この素晴らしい世界にデストロイヤーを!   作:ダルメシマン

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一部 8話 フォーメーションΔ

「あらどうしましたマサキ。また顔色が優れませんね。それにボロボロじゃないですか。なにかあったのです?」

 

 次の日の朝。

 俺はグッタリした姿でギルドにたどり着いた。はぁはぁと息を切らしている。そんな俺様子を見てマリンが聞く。

 

「くっそう! どうやって俺の宿の位置がわかったんだ! おのれあのメンヘラヤンデレ女め!」

 

 どうせ言ったところでどうしようもないため、無視して俺は愚痴る。

 

「マサキ様の居場所なら、どれだけ離れていても見つけ出して見せますよ! ねえダーリン!」

「ひいいっ! 出た!」

 

 後ろから不気味な声がしたので慌てて飛びのける。案の定そこにはメンヘラヤンデレ女レイが立っていた。早く何とかしないと。こいつをどうにかしない限り夜も眠れない。

 

「なあ頼むから夜は近寄らないでくれ。寝不足のせいでクエストに支障が出る。そういう気分になったら俺から呼びに行くから」

 

 レイに頼む俺。もちろん自分からそんな気分になることは絶対にない! これからもどこぞのラノベの鈍感主人公並みにこいつのアピールをかわし続けるつもりだ。

 

「大丈夫ですよ。マサキ様の身はこの私が守ります! なんなら何もしなくてもいいですよ? クエストなら全て私が引き受けます。マサキ様は家で私の帰りを待っててさえくれればそれで……」

 

 まさかのニート完全肯定宣言。なんて魅力的な提案だろう。そう、目の前にいるのが貞子的少女じゃなければ喜んでその申し出を受けるだろう。こいつに養われるとか碌な目に合わなさそう。っていうか普通に監禁状態にされそうだ。嫌だよそんな一生。

 

 

『Warning! 警告! 危険!』 

 うん。俺の眼鏡も真っ赤に警戒している。この申し出は断固拒否する以外ありえない。

 

「せっかくだがレイ、男たるもの自分で稼ぐのが務めだと思ってるからね。それにモンスターの危機に晒されてるこの町を! この国を! この世界を! 守るのが冒険者の仕事だから!」

 

 心にも思っていないことをペラペラと話す。本音は宝くじが当たれば一生寝て過ごしたい! 魔王とかマジでどうでもいい。世界の半分をくれるとか言ったら即答してOKしそうだ。その後内部からジワジワと魔王の権力を奪っていって、この俺が影の魔王として君臨する。めんどくさい現場での戦いは魔王に押し付けて、可愛い女の子と美少女モンスターと一緒にハーレムして面白おかしく暮らしたい。それが俺の真の望みだ。

 

「さすがは私の運命の人! ご立派です! 私の目に狂いはなかった!」

 

 感動するレイ。うん、お前の目は狂いまくってピンポン玉がビー玉と摺りかえられてるよ。早く交換した方がいいぞ? 頭もな。そう心で毒付いておいた。

 

「おおお前ら! 昨日はよく寝れたか! さあ今日もモンスターを殺しまくろうぜい!」 

 

 相変わらずドアを破壊しようとしていたアルタリアは、直前に職員に止められて今度は大人しく普通に入ってきた。こいつはなんでこんなにドアを壊したがるんだ? なんの病気だよ。

 

「アルタリアか。おはよう。今日は簡単なクエストにするよ。お前達三人の能力がわかってきたからね。それなりの戦い方を考えるつもりだ。そう、作戦を立てるんだ」

 

 挨拶をした後、アルタリアに応える。

 

「作戦なんていらねーよ! こっちには上級職が三人もいるんだぜ? グリフォンだろうが、ドラゴンだろうがぶち殺してやろうぜ!」

「ゴブリン相手に死に掛けたお前がなにを言ってる! 今日は俺の命令に従ってもらうからな! 絶対だぞ!」

「私より弱い奴になんで命令されないといけないんだ! どうしてもというなら私を倒してみろ! かかって来い!」

 

 くっ。この脳筋野郎! 女だが。なんでも暴力で解決しようとする典型的な馬鹿だ。っていうか一番困るのはお前のその紙装甲なんだが。

 

「いやわかったアルタリア。言い方が悪かったよ。お前に一番いいところを持って行ってやる。だから話を聞いてくれ。これはお願いだよ」

 

 今度は腰を低くしてアルタリアに頼み込む。

 

「お願いかあ。おいしいとこもってくれんのか? だったら聞いてやってもいいかな?」

 

 命令ではなく嘆願と言う形にしたらあっさりOKするアルタリア。

 ふう、馬鹿でよかった。俺はため息を吐く。これでまともにクエストをこなせそうだ。

 ていうかなんで俺はクエストを受ける前からこんなに疲れてるんだ?

 

 

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

「はっはっはっは! 私に追いついてみな! 無理だろうけどよう!」

 

 草原を走り回るアルタリア。彼女は《デコイ》スキルを発動。スキルの効果により後ろにはモンスター達が引き寄せられている。コボルトの群れやトロール、灰色の狼など様々な種類のモンスターがアルタリア目掛けて襲い掛かる。

 だが。

 

「私のスピードを舐めるなよ! お前ら如きに追いつかれるものか! だけどよう、マサキ。このまま逃げ回っているのもよう。いい加減攻撃していいか?」

 

 攻撃とスピードに特化したアルタリアに追いつけるモンスターはいないようだ。だが思ったより集まったモンスターが多いな。しかも強さもバラバラだ。この街アクセルは出来たばかりのためか、高レベルモンスターを駆除仕切れていないため、強さがまちまちの敵が同じテリトリーに暮らしているみたいだ。

 

「我慢だアルタリア! 今は我慢しろ! 敵の数が多い! 一匹ずつならまだしもこの数だとお前はまた絶対負ける! 一番強いのはちゃんと残してやるから、作戦通りに走り続けろ!」

「わかったよ! あのトロールは私のだからな! 倒したら許さないぞ!」

 

 俺はアルタリアに頼む。どうやら彼女も納得してくれたそうだ。大きなトロールは足が遅いのか他と引き離されている。これなら彼女の要望どおりになりそうだ。

 

「マリン! 配置に付いたな! そろそろ来るぞ!」

「マサキ! わかっています! 今こそアクシズ教の力を見せ付けてあげましょう!」

 

 プリーストのマリンが俺の指示を聞いて頷く。手には杖を持ち、モンスターの軍勢を前に立ちはだかる。

 

 

「よしアルタリア! 《デコイ》を解除! そのままマリンと交代だ! お前は一度離脱しろ!」

 

 俺は現時点で作戦通りなのを見てアルタリアに叫ぶ。

 

「しょーがないねえ。ちゃんと私の分も残しとけよ」

 

 アルタリアはそのままマリンとすれ違って走り抜ける。モンスターの眼前にはマリンが杖を持って構えている。

 

「食らいなさい! アクア様の加護の力を!」

 マリンは杖でコボルトに殴りかかるが、その見た目だけの役に立たないゴミはすぐにへし折れた。 

 

「よくもアクア様の杖を! 許しません! 天誅! 『セイクリッドブロー!』」

 

 杖を失っても怯まないマリン。まあ元々ただの飾りだから何の影響もないんだが。近接格闘スキルでコボルトを殴りまくるマリン。うん、こいつはプリーストじゃないな。格闘家にジョブチェンジしろよ。まあ別にいいんだけどね。

 

「今だレイ! モンスターたちの足が止まった! この隙に魔法を撃ち込め! マリンには当てるなよ!」

「わかりました! 『ライトニング!』」

 

 マリンにてこづっているモンスター目掛けて、レイが強力な雷を浴びせる。次々と倒れていくモンスターたち。特に一番数が多い低レベルなのはほぼバタバタと倒れている。

 

「いいぞ! 敵は壊滅状態だ! アルタリア! 倒していいぞ! 残った敵を駆逐しろ!」

「任せな! ひゃっはあああ!!」

 

 レイの魔法で混乱している軍勢目掛け、アルタリアが引き返して特攻する。

「貰ったああ!」

 

 敵の中でも強そうなトロール、灰色の狼の不意を付き、瞬殺していくアルタリア。

 

「アルタリア戻れ! もう一度離れろ! ヒットアンドアウェイだ! それがお前に一番適した戦い方だ! チャンスはまだあるから安心しろ!」

「わかったわかった! じゃあまた呼べよ!」

 

 アルタリアは素早く魔物の群れから離れた。強いものが急に殺されて倒されてさらに混乱するモンスターたち。そこへレイの強力な魔法が浴びせられ、敵は次々と壊滅していく。

 

 

「ふぅ……」

 

 俺はその様子を眺めながらホッとする。どうやら上手く言ったようだ。

 

 

 ――フォーメーションΔ

 俺はこの戦法をそう名づけた。

 まずアルタリアがモンスターを誘き寄せ、マリンの元へ向かいタッチする。プリーストなのに無駄に頑丈なマリンがタンク役となり、敵の足止めをする。そこへ控えていたレイが強力な魔法を浴びせまとめて始末する。それにも耐える強そうな奴は引き返してきたアルタリアに処理させる。

 この三人の連携がこの戦法の要となる。そう、固いプリーストのマリン、優秀な魔法が使えるアークウィザードのレイ、攻撃力とスピードだけは誰にも負けないアルタリア。彼女たち三人の力を合わせることで完成したフォーメーションだ。

 え? じゃあ俺はなにをしているかだって? それは。

 

「おいマリン! 深追いしすぎだ! 下がれ! レイの魔法範囲内から出るな!」

「レイ! 気をつけろ! 今魔法を撃つとアルタリアに当たる!」

「アルタリア! 今かすったな! 悪いマリン、攻撃を中止してアルタリアに回復魔法を!」

 

 俯瞰できる位置からこうやって三人に的確に指示を出している。このフォーメーションは微妙なバランスの上に成り立っている。いくら硬いといってもマリンはあくまでプリーストだ。他の前衛職のように安心は出来ない。せめて頑丈な鎧を着せたいのだが、頑なに女神のコスプレを脱ごうとしない。めんどくさい奴だ。レイはちゃんとウィザードとしての役割を果たしている。これで性格さえまともならなあ。そしてアルタリア。彼女は残念なほどの紙装甲だ。下手すら冒険者の俺より低いかも。どんなクルセイダーだ。少しの傷でも命取りになる。

 

「ああ! くっそう! 巨大ガエルまで出てきやがった! あいつはマリンの天敵だ! アルタリア!あの巨大ガエルを優先して駆除してくれ!」

 

 色々と引き寄せられたモンスターの中にあの巨大ガエルが現れたのをみて血の気が引いた。

 

「ジャイアントトードですマサキ様。ですが今の私ならあの憎きモンスターも倒せるような気がします」

「錯覚だ! お前はいったん下がれ! 頼むから! レイ! マリンを援護しろ! 無事撤退させるんだ!」

 

 懲りてないマリンに怒鳴りながらレイに次の指示を出す。

 

「はいマサキ様。あのカエルならお任せください。『ライト・オブ・セイバー』」

 レイは光の剣でカエルを切り裂くが。

「おいお前! そのカエルは私が倒す予定だったのに! 人の獲物を奪うなよ!」

 

 それを見たアルタリアがレイにいちゃもんを付け始める。戦いの最中にやめてくれよ。

 

「アルタリア! 気にするな! まだまだ敵はいるぞ! ほらなんかヤバそうなの出たぞ! なっ! ミノタウロスなんてどっから出たんだ!? こういう敵は普通中盤から終盤にかけてからだろ! なんでこんな何もないド田舎で出現するんだよ! ゲームバランスどうなってんだ!」

 

 俺はミノタウロスの姿を見て文句を言った。

 

「よっしゃーーー!! ミノタウロスだあ!!!!」

 

 ミノタウロスの姿をみて興奮したアルタリアが特攻する。この女は本当に戦いが大好きだな。

 

「アルタリア! 足だ! 足を狙え! 一度転ばせて! 後は好きに料理しろ!」

「いい考えだな! やってやるぜ!」

 

 アルタリアはまず右足で斬撃を食らわせた。倒れたところに止めを刺す。

 

「ミノタウロス討ち取ったりいい!!」

 

 叫ぶアルタリアだが。

 

「おい後ろ! よくやったと言いたいが勝ち誇るのは後だ! 戦いが終わってからにしろ!」

 

 アルタリアの後ろにコボルトの残党が迫っていた。

 

『ファイヤーボール』

 

 レイがコボルトを吹き飛ばした。

 

「いいぞレイ! よくやった! アルタリア! お前はとっととそこから離れろ! っていうか新しいモンスターをこれ以上引き寄せるな! 今回はこれで終わりだ! いいな!」

「えー」

「えーじゃない! マリンもレイもそろそろ魔力の限界だ! そろそろ潮時だぞ!」

 

 まだ暴れたりないのか、駄々をこねるアルタリアに叫んだ。

 

 

――フォーメーションΔ

 俺は直接戦いに参加してないのだが、凄く疲れた。指揮するのがこんなに大変だとは思わなかったぜ。

 ふと冒険者カードをみる。

 レベル5。

 全く上がってない。経験値もゼロだ。

 確かにこの俺の手で倒したモンスターはいない。

 だからといってこれはあんまりじゃないか? 正直言ってこの三人に指示を出すのは凄く疲れるぞ。

 特にアルタリア。ほおっておくと次々と新手のモンスターを連れてくる。勘弁して欲しい。

 

「いやあ今日は楽しかったぜ。あんなに沢山のモンスターを倒したのは初めてだ。お前たち最高だよ!」

 

 そんな俺の気も知れずに、アルタリアはすっきりとした表情で言った。

 

「アルタリアさん、ミノタウロスを倒した時はお見事でした。まさかあんな高レベルのモンスターが潜んでいるとは。心強い味方がいて助かりますわ」

 

 ボロボロになりながらもマリンがアルタリアを褒める。いいのか? お前はタンク役でいいのか? 本来ならそれはクルセイダーの仕事だぞ? プリーストのお前がそれでいいのか?

 

「あのミノタウロス、多分きっと迷子でしょう。今までこの街付近で目撃されたことはなかったですから。でも私達の敵ではありませんでした」

 レイも結果に満足して言った。まあ今回はかなりの数のモンスターを倒したのだ。報酬もかなり貰えるだろう」

「そうだ! 私達三人が揃えば無敵さ! はっはっは?」

「三人だと?」

 

 俺は思わずアルタリアに突っ込みを入れた。

 

「そういやお前なんもしてなかったよな?」

「ふざけんなよ! 俺がどれだけ気を使ってたと! ていうかアルタリア! ちゃんと指示に従え!」

 

 アルタリアの言葉にイラっときて反論する。

 

「私は誰の命令にも従わない! どうしてもというなら私を倒してみろ!」

 

 もういやだこの脳筋。

 

 

「フォーメーションΔ。もう少し改良が必要だな」

 俺は悲しそうに冒険者カードを見つめて呟いた。


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