この素晴らしい世界にデストロイヤーを!   作:ダルメシマン

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三部 最終話 この素晴らしい世界にデストロイヤーを!

 天気は快晴。雲ひとつ無い晴れ渡った青空。

 俺達がたどり着いたのは、お馴染み魔王城の眼前。

 紅魔族とアクシズ教徒という、この世界で思いつく限りの最悪の組み合わせで向かったためか、さえぎるものは何もなかった。

 魔王城といえば、前の戦いで色々壊してやったにも関わらず、すっかり元通りだ。

 さすがはこの世界の悪の親玉。魔王といったところか。

 <レッドフォース・ゼロ>を先頭に、後方に魔道ゴーレムを引きつれ、長蛇の陣形で一直線に向かう。

 長蛇の陣……縦方向にはめっぽう強いが、横からの攻撃には成すすべもないという、弱点をむき出しにした形。

 だが関係ない。俺は別に魔王と戦いに来たわけではないからだ。

 

 

「……また来たのか。今度はなにが目的だ?」

 

 俺の姿を確認するやいなや、ウンザリしたような顔で登場する堕天使。もとい白マント。

 

「サトー・マサキよ。史上最低最悪の冒険者よ。貴様の邪道な行いは神の怒りに触れ、ついにノイズを滅ぼした。これは天罰であろう。堂々と戦うならまだ遅くは無い。受けて立つとうではないか!」

「貴様に用は無い、白いの。俺はサトー将軍! 魔王に話がある! 魔王を出せ!」

 

 巨大ゴーレム艦から降りて、堕天使に興味ないと言い返した。

 

「なんだと? ここまで我を侮辱するとは。魔王と会いたければ、まずこの我を倒してから――」

「俺は、いや俺達は魔王と戦いに来たわけではない。話し合いだ。さあ出せ!」

 

 堕天使を無視して地べたに座り込んだ。

 

「どこまでもどこまでもこの我を舐めおって。全軍、今すぐあの男を始末して来い!」

 

 堕天使が命令を下すが、魔王軍は紅い眼の紅魔族に睨まれた上、ダメ押しとばかりにアクシズ教徒の存在を確認しガタガタ震え上がり、全員魔王城の奥へと引っ込んでいった。

 

「腰抜け共が! もういい! こうなったらこの我が直々に消し去ってくれる! 魔王軍一の魔力を誇るこの我の、必殺の奥義を見るがいい!」

 

 堕天使はスッと浮き上がり、結界の外に出ようとしたそのときだった。

 

「下がれ。いつまでオレを玉座で待たせるつもりだ。待ちくたびれたぞ!」

「魔王よ! 古来から勇者と魔王の戦いは一対一で行うものだ! あなたの出番はまだだ!」

「どうせ相手は一対一で挑んでこない。魔王のルールは適用されんだろ? いつまでもゴチャゴチャ城の外でやられるとい加減頭にくるんだよ。一気に消し去ってやる」

 

 堕天使を制止し、ついに魔王がその姿を現した。赤い肌をした大柄な男。若々しく力に溢れたその体。半裸なのは少し笑える。さらに巨大な角が頭に生えている。日常生活で凄く邪魔そうだ。なんだあのヘラジカは。

 まぁあのわかりやすい姿に、誰が見てもこう呼ぶだろう。

 

 魔王、と。

 

 

「お前か、噂のサトー・マサキとかいうのは? とんでもなく姑息で卑劣な男と聞いたが、ただの弱い人間にしか見えねえな。弱い人間がこのオレになんの用だ? 一瞬で捻り潰してやるぜ?」

「始めまして魔王様。本日はお日柄もよく。戦うなんてとんでもない。我々は降伏にきたのです。ノイズは崩壊し、恐ろしい兵器が世界を蹂躙しています。こうなれば魔王様の配下になるしか道はありません」

 

 やる気満々で手に魔力を溜めていた魔王は、俺がすぐにゴマスリを始めるのを見て戸惑った。

 それから少し考えた後。

 

「お前を受け入れたところで何の得がある? 虫けらが」

 

 よし、待ってたぞ! この質問をな。

 

「魔王軍には強力な魔力結界を始めとする、古代の魔法や新たな魔道生物を生み出す高い技術力があります。ノイズで数々の武勲を立て、将軍にまで上り詰めたこの私の実力はご存知でしょう? 今度は魔王軍のために働きたいと思います」

 

 もう一度頭を下げ、話を続けた。

 

「なるほど。内部から破壊するつもりか。貴様の魂胆なぞお見通しだ」

「違います。レイ、スクリーンを出せ!」

 

 さあ来るぞ。

 この世界の命運をかけた、プレゼンテーションの始まりだ。

 魔王によく見えるように、空中に魔道具で自分の計画を書いた企画書を投影させる。

 

「魔王軍の所有する、最先端のモンスター改造技術を植物に使います。品種を改良し、冬に強く、暑さにも強い食物を作り出します。またモンスターも家畜化し、より美味な品種を作り上げます。結果年中美味しい料理を味わうことが出来ます」

「そんなことをしなくても、襲って奪ったほうが早い!」

 

 魔王が馬鹿馬鹿しいと首を振るが。

 

「奪うには限度があります。それより自分で生産したほうが効率がいいですよ。魔王様や一部の限られた幹部だけではなく、兵全体に安定した食料を提供できるようになります。農地を作り、モンスターたちを働かせます。また、過剰な食物は他の国家に輸出し、貸しを作ります。そう、まずは農業大国を目指します! 魔王製のブランドを作り、経済的にこの世界を支配するのですよ!」

 

 そのまま紹介を続ける。

 

「魔王様。耳を傾けてはなりません」

「だれがするか!」

 

 堕天使の忠告に魔王が怒っている。

 

「次に貨幣制度! 魔王様の元に集まった大量の金を元に、独自の通貨を発行します。そうなれば人間たちも魔王様の圧倒的な富を前に、自然とひれ伏す事になるでしょう」

 

 もう自分がなにを言ってるのかよくわからない。今まで培ってきたテキトーな知識をつなぎ合わせ、それっぽいことをいい続ける。

 

「どうでしょうか魔王様? これなら完全に世界を支配できますね。勇者と魔王の戦いなんて古い古い! これからは経済の時代ですよ。さらに稼いだ金で新兵器を作り、武力でも圧倒的に世界を上回る。おお、見事で完璧なプランだと思いませんか?」

 

 必死な俺の言葉に、魔王はあまり興味を示さない。

 脳筋なのか? まぁ見た目からしてパワー形なんだが。

 クソッ、馬鹿には俺の話が理解できないのか?

 

「その話乗ったああ!!」

 

 俺がなんとか魔王の注目を引こうとしている中、急に後ろから声がした。

 

「アクシズ教徒の未来を背負って立つこの俺様、ストックが世界を制する姿が見えたぞ! さあマサキ、一緒にやろうじゃねえか!」

「お前には言ってねえよ! 黙れ!」

 

 ストックだ。

 こいつめ。俺のプレゼンテーションをすぐに理解しやがった。さすがは無駄な野心家だけの事はある。

 

「……貴様、見たところアクシズ教のようだが。魔王しばくべしの教義があるんじゃないのか?」

 

 魔王がストックに尋ねると。

 

「そこは解釈の問題でさあ。しばくって言っても殺せとは書いてない。ちょっと棒でつついただけでも一応しばいたことにすればいいじゃねえか。一々こまけえなあ」

 

 それは流石に無理があるだろう。

 

「俺とマサキと魔王の、三頭政治で行くか! それで決まりよ!」

「だから入ってくるなよ! お前の席なんてねえ! 話がややこしくなるからしゃべんな!」

 

 ストックと掴み合いをしていると。

 

『コール・オブ・サンダーストーム!!』

 

 無視されてイラついたのか、魔王が天に手を突き出し、強大な魔力を使い天候を操作する。

 空がみるみるうちに暗雲垂れ込み――

 垂れ込まなかった。

 透き通るような晴天の青空が続いた。

 

「……? アレ? なんでだ? いでよ雷! 『コール・オブ・サンダーストーム』」

 

 首を傾げる魔王。

 だが何度やっても何も起こらない。

 なぜなら。

 <レッドフォース・ゼロ>の先には、てるてる坊主が吊るされていた。

 

「……一応持ってきたけど。役に立つとは思わなかったなあ」

 

 天候を強制的に晴れに出来るという、誰が作ったのかよくわからない魔道具。

 雨が少ない季節しか使えないため、失敗作として捨てられていたのを回収しておいた。

 

「オレを馬鹿にしてるだろ! オレの城の周りがなんでこんなに晴れてるのかと思ったら、それもお前のせいか!」

「誤解ですよ魔王様! もし雨が降れば声が聞こえなくなると思って、念のために用意してただけですから!」

 

 魔法を解除させられてキレた魔王に必死で謝る。

 

「それより魔王様よう! とっとと俺たちと一緒に世界を征服しようぜ!? なあに、魔王の力、マサキの知恵に、この俺様の溢れ出る野心があれな、こんな世界あっという間じゃねえか!」

「うるせえ! 黙ってろ! バーカ!」

「なんだと! 魔王のこのオレに向かってバカだと? いいだろう。今すぐ殺す!」

「違う魔王様! 今のはストックに! アクシズ教徒の愚か者に言ったんですよ! 魔王様では無いですって!」

「おい魔王!? お前は本当に力が欲しくないのかよ!? そんなんじゃあ魔王として恥ずかしいぜ?」

「ケッ、欲深いアホ女神に仕えるクズめ!!」

「言ってくれたな魔王! このストック様を怒らせたことを後悔させてやるぜ!」

「おいストック、止めろ。落ち着け!」

 

 俺、魔王、ストックの三人で、ごちゃごちゃと言い争いが始まった。

 もうグダグダだ。

 まさかストックが食いつくとは思わなかった。

 やっぱりこのバカは置いてきた方がよかったかも。 

 どう収集をつけようか困っていると。

 

 

「魔王様! 私です! ヒューレイアスです!」

 

 突如ひゅーこが俺の前に出て、叫んだ。

 

「私の事をお忘れですか!? 魔王様!」

「クックック、久しぶりだなヒューレイアス。もちろん、忘れてはいないぜ」

 

 魔王はひゅーこの姿を見て、にやりと笑って答えた。

 そんな馬鹿な!?

 ひゅーこが名前を覚えられているだと!?

 いやあ、流石に失礼だったか。

 

「私が一人になったとき! この世界で立った一人ぼっちになったとき、助けてくださったあの時の恩は今でも覚えています! ゲセリオン様が私を始末しようとしたのは何かの間違いですよね!?」 

 

 ひゅーこは必死で、魔王へとすがりつくような声で話を続けた。

 その様子を見て、空気を呼んで口を閉じる俺とストック。

 

「そう、私がかって人間だったころ……。仲間と共にダンジョンへ挑み、そして全滅して……。気が付いたら自分だけ生き伸びてて! だけど体が魔族に改造されてて! かっての故郷に戻れば化け物だと石を投げられ! この世界でたった一人になった私を受け入れてくださった、魔王様への恩は!」

 

 急にそんな重い設定を語りだすひゅーこ。

 え!? こいつ元々人間だったの?

 てっきり最初から魔族かと。しらねーよそんなの。

 

「覚えているともヒューレイアス。お前を受け入れた時の事を。なんとも傑作だったぞ。かっての同胞だった人間たちを、葛藤しながらも手にかけるその姿。罪悪感に苛まれながらも、オレへの忠誠を示すために必死で戦ってくれたなあ。オレは影で笑ってたんだ。悪魔たちも言ってたぜ。最高の悪感情を味わえたとな!!」

「え……。嘘ですよね。そんな!」

 

 魔王から悲しい事実を知らされ、信じられないといった顔で頭を抑えていた。

 

「人間に戻れてよかったじゃないかヒューレイアス。今までオレに尽くしてきた礼だ。今度は魔王には向かった冒険者としてなぶり殺しにして……いやもう一度魔族に改造してやろうか? そうすればまた友達だなヒューレイアス。クッ、ハッハッハッハ!」 

「…………うっ」

 

 ひゅーこは静かに、袖に顔を押し付けて泣き始めた。

 

「うわぁ……なんという鬼畜」

 

 魔王の所業にドン引きして呟くと。

 

「お前が言うなあ!」

「お前にだけ! お前にだけは言われたくないわ!」

 

 ひゅーこ、魔王双方に何故か罵倒される俺だった。

 

 

「大丈夫です? ひゅーこ?」

「私たちはあなたを裏切ったりしませんからね」

 

 ひゅーこを慰める紅魔族。

 とりあえず彼女の事はあいつらに任せよう。

 

「フン、少しは面白いものが見れたな。サトー・マサキ、ひゅーこを人間に戻すとは中々わかってるじゃないか。あの女は人間と魔族の狭間で苦しむ。それが楽しくてな」

 

 このクズめ。

 なんて事は言わない。

 俺もあまり人の事は言えないからな。

 しかも少し魔王の態度が軟化したぞ。こういうわかりやすい悪っぽいことをすれば魔王は喜ぶのか?

 ひゅーこは可哀想だったが、感情的になる必要は無い。

 最初の計画通りにことを進めるだけだ。

 時計を見る。

 まだだ。もう少し時間が必要だな。

 

「魔王様に質問です!」

「なんだ?」

 

 下らない話でもするか。

 

「魔王様の角、凄く立派ですが……邪魔じゃあないですか? 寝るときとか首痛くない?」

 

 体に比べて大きすぎの、アンバランスな角の事を聞いた。

 

「教えてやろう。別に隠すことでもないしな。この角はな、魔力を込める事で何よりも鋭く、その辺の鎧だろうが軽く貫通する硬度に変えることが出来る。でも逆にやわらかくする事も出来るんだぞ。寝るときや日常生活では下に下ろしている」

「へー、そうなんですか。それなら楽ですね」

 

 どうでもいい事を聞き、ウンウンと頷く。

 

「ところで……ずっと気になっていたのだが。こっちからも質問だ。その変わった形のゴーレムはなんだ?」

 

 四歩脚の、機動要塞ほどではないが大きなゴーレムを見て、魔王が尋ねる。

 上には誰も乗っていない。

 

「これは贈り物です魔王様。今世間を騒がしている機動要塞の原型となったもの。我が妻にちなんで名付けた……その名も<レッドフォース・ゼロ>。いかがですか? 改造次第ではあの機動要塞をも上回る戦力になると思いますが?」

 

 <レッドフォース・ゼロ>を魔王に紹介して答えると。

 

「ほう、昔旅の勇者から聞いたことがある。降伏すると見せかけて贈り物をし、中にトラップをしのばせる。確か……トイレの木馬かな?」

 

 惜しいな。ちょっと名前が違う。トロイだよ。

 まぁ俺は、そんなバレバレな作戦なんて立てないがな!

 

「結界の中に入れる必要はないな。なんならここで飾っておいてもいいですよ!」

 

 魔王の疑惑の視線に安心させるように答える。

 

「ほう? じゃあなぜ持ってきたんだ?」

「単なる贈り物としてですよ。要らないならこのままでいいです」

 

 不味い、不味いぞ!

 これだけは壊されるわけにはいかん。

 何も乗っていない、四歩脚の大型ゴーレムだから気にしないで欲しいのだが。

 

「怪しい」

「えっ? ただのデカイだけのゴーレムですよ? 機動要塞みたいに魔法結界も付いてないし。ぶっちゃけ大きいだけ。何の役にも立ちません。失敗作なもんで」

 

 思わず声が裏返ったが、それでも何とか納得させようとする。

 

「……」

「……」

 

 俺と魔王の間で、一瞬静寂が流れた後。

 

「『カースド・ライトニング』!」

「マジックキャンセラー」

 

 魔王が突然、<レッドフォース・ゼロ>に向けて魔法を放つ。

 すぐさまマジックキャンセラーで魔法を打ち消させるが。

 

「し、しまったぞ将軍!」

「魔王の魔法だけではなく、我々の魔法まで消されました!」

 

 巨大ゴーレムの真上に突如出現する巨大アンテナ。

 ゴーレムの上には何も無かったわけではない。紅魔族がかわりばんこに光の屈折魔法を使い、スーパー結界キラーが置いてあるのを見えないように隠していたのだ。

 『マジックキャンセラー』に巻き込まれる形でその魔法がかき消され、ついに姿を現してしまった。

 クソッもう少し時間を稼げれば……。

 

「サトー・マサキ、それはなんだ!? なにを隠していた。説明しろ!」

 

 急に出現したアンテナを見て怒鳴りつける魔王。

 

「違います! これは単なるおまけで! 大したものじゃないです」

「じゃあなぜ隠していた。それで何をするつもりだったんだ! 言え!」

 

 魔王に必死で言い訳するが。

 

「降伏するなど真っ赤な嘘だったのか。わかってはいたが許さん! 『カースド・ライトニング』!」

「マジックキャンセラー」

 

 魔王の魔法を消し去るが……。

 まずいな。このままでは作戦は失敗だ。

 頼む、アルタリア、早く来てくれ!

 

 

『……マサキ! 聞こえてるか! アルタリアだぜ。もうすぐそっちにいく!』

 

 もうダメかと思ったとき、アルタリアから通信が入った。

 

「急げ! もう魔王の奴にバレた! 早く来い!」

『任せなマサキ、もう魔王城が見えるぜ』

 

 アルタリアからの返事と共に、あの何度も味わった、軽い振動が聞こえた。

 間に合ったか。

 いやギリギリかもしれん。

 遠く離れた森の向こうから一直線に、機動要塞がこちらへと向かってくる。

 機動要塞を誘導するのはアルタリアだ。

 紅魔族、アクシズ教徒たちからありったけの速度強化の支援魔法を浴び、超スピードで走っている。

 『デコイ』スキルを起動し、あの巨大な化け物を引き寄せながら。

 機械相手に囮スキルが通用するかは賭けだったが、ノイズ跡地から引っ張り出したマジックポーションを飲ませて無理やりドーピングさせることでなんとか可能になった。

 

『でもよ、マサキ。ちょっとまずいことになっちまって』

「なんだ!?」

『私の囮スキルが効きすぎたのか……デカイのどころか周りのモンスターも全部引き寄せてしまって……。あのポーションの効果やばすぎるぜ』

 

 千里眼でよく見れば、アルタリアと機動要塞の後ろに大量のモンスターたちが押し寄せている。

 俺たちノイズ残党は事実上、前方の魔王城、後方のモンスターたちに挟み撃ちにされた状況だ。

 

「想定内だ! 構わず来い! 全員モンスターの大軍に注意せよ!」

 

 機動要塞だけを引き付ける都合のいい薬なんてあるわけない。野生のモンスターを巻き込むだろうと思った。だが数が多すぎるな。

 酷い戦いになりそうだ。 

 とりあえず、魔王に紹介でもしておくか。

 

「ではご覧下さい魔王様! この地響きが聞こえますか? あれぞ魔道技術国が生み出した恐怖の破壊兵器でございます!!」 

 

 俺が指をさした先には、圧倒的な威圧感を誇る巨大な蜘蛛型兵器。

 不気味な七つの眼を紅く光らせ、まっすぐと魔王城目掛けて凄まじい衝撃を放ちながら向かってくる。

 地面の揺れがドンドン大きくなっていく。

 このまま行けば、俺の長蛇の陣の最後方部に配置してあるゴーレムに接触するだろう。

 それでいい、ゴーレムを破壊し続けて、まっすぐ俺の所へ。魔王城の目の前に来い機動要塞!

 

「ぬうっ、だが魔王城には結界がある。結界があるからあんなものは通用せん。だよな!?」

「その通りです魔王様。我が無敵の魔力結界がある限り、魔王城は絶対に安全です」

 

 焦りを感じた魔王を安心させる堕天使。

 

「そうでなくては困るのだ魔王様よ! 機動要塞の相手を少しの間頼みますよ! だいたい一分くらいな!」

 

 これこそ俺が立てた最後の計画。デストロイヤー・プランだ。

 機動要塞を魔王城にぶつけ、苦戦している隙にスーパー結界キラーで機動要塞の結界を解除する。

 あの圧倒的な存在感を持つ機動要塞を足止めするには、同じく圧倒的存在感のある魔王城しかない!

 とても無理がある作戦なのはわかっている。危険だし、上手くいく確率も低い。

 下手をすれば魔王軍と機動要塞を同時に相手をしないとならない。アルタリアにたかるモンスターを含めれば更に増える。

 だが解除に1分もかかるスーパー結界キラーの使い道が、他に思いつかなかったのだから仕方ない。

 ベルゼルグの王都にやったら殺されそうだし、その上1分持たないかもしれない。

 防波堤の役目はこの世界で悪を気取っている魔王に任せよう。

 

 

「あぁ魔王様。最後のお願いでございます。これより機動要塞は魔王城を襲うでしょう。ですが魔王城は強力な結界に阻まれ安全でしょう。ですからここは黙って見逃してください。そうして下さるなら恩は決して忘れません。魔王様のためにしばらく尽くしましょう。私の前に散っていったあなたの幹部、バラモンド、あの黒いドラゴン、ゲセリオン以上の働きをしてみせましょう」

「人間風情が調子に乗りおって! 貴様の力など必要ないわ! 全軍! あそこにいるクズの人間を殺せ! 殺した奴は魔王幹部に取り立てる!」

 

 交渉決裂! 魔王の命令と共にモンスターたちが飛び出してきた。

 

「そうか。それなら交渉ごっこはもう終わりだ! 全軍! 魔王軍を撃退せよ! <レッドフォース・ゼロ>を全力で防御しろ!」

 

 俺も部下達に命令しかえした。

 最終決戦の始まりだ。

 

「ぶっ殺せええ!!」

「やらせるかああ!!」

 

 続々と城から飛び出す、ありとあらゆるモンスターに、紅魔族が先制とばかりに魔法の雨を浴びせる。

 消し飛ばされるモンスターたちだが、幹部になれると聞き命がけで特攻をしてくる。

 混乱の間に俺はそそくさと、<レッドフォース・ゼロ>の上に避難した。

 

「全軍<レッドフォース・ゼロ>を何とかして守れ! 俺も守れ! 近づかせるな!」

 

 激を飛ばす。

 鎧を来たモンスターは紅魔族の『カースド・ライトニング』を前にズタズタになり、それでも潜り抜けたものはブラックネス・スクワッドの『バインド』で拘束される。さらにそれすら越えたものに待っているのはアクシズ教徒たちによる激しい可愛がりだ。

 正直あまり見たくはない光景だったが、次々とモンスターを戦闘不能にしていく姿は、さすがこの世界一の嫌われ者集団と言ったところか。

 血みどろの戦いが繰り広げられる中。

 激戦区とは離れた場所に闇色のローブをまとった魔導師風の者たちが整列し、俺目掛けて魔法を浴びせてきた。

 

「『マジックキャンセラー』! おい! あっちの魔法使い集団に気をつけろ! 誰か突撃して切り刻んで来い!」

「無理ですよ隊長! いえ将軍! 『マジックキャンセラー』 みんな目の前の相手だけで精一杯です! 数が圧倒的に不利です!」

 

 マジックキャンセラーを発動させながら答える副隊長、いやもう隊長だ。

 

「魔道ゴーレムを動かす。機動要塞のコースはもう変わらないだろう。手が空いたものは敵魔法使いに向けて攻撃せよ!」

 

 コントロール用の水晶に手を当て、機動要塞を誘き寄せるエサ用として後方に並べていたゴーレムたちを前進させた。

 

「少しは楽になったぜ。お返しといくかな。『カースド・ライトニング』」

 

 紅魔族の一部が敵魔法使い目掛けて撃ち返す。

 避けそこねた敵は雷で黒コゲになっていた。

 これで予定どおりに……。

 

「大変です隊長! いえ将軍! 『マジックキャンセラー』のスクロールがあと僅かです!」

「スーパー結界キラーを守りきれません!」

 

 くっ!

 なんということだ。

 すでに機動要塞は魔道ゴーレムの最後尾を破壊。

 まっすぐこっちに向かってくる。

 魔王城接触までもうすぐだ。

 そこまではいいのだが、それからも1分以上持ちこたえねばならないのだ。

 現時点で敵の雑魚を蹴散らして優勢とはいえ、まだ向こうには結界を張っている堕天使と魔王がいる。

 あの二人の攻撃をマジックキャンセラー無しで凌ぐことは……無理だ。

 計画は失敗か……。

 

 こうなったら……

 こうなったら……

 こうなったら! 

 

 

「間に合わん! スーパー結界キラー、目標を変更! 魔王城結界に定めよ」

 

 最後の手段だ!

 

「ええ!? じゃあ機動要塞はどうするんです!?」

「諦めろ! 俺は最善を尽くした! こうなったらヤケだ!」

「このスーパー結界キラーは、機動要塞用に作られ……魔王城の結界には……」

 

 反論する元所長だが。 

 

「なんだと元所長! お前は自分の発明に自信は無いのか! 出来るはずだ!」

「元所長って言うな! ……確かに機動兵器も魔王城の結界も原理は一緒だけどね……。でも――」

「だったらできるはずだろうが! やれ!」

 

 俺の迫る気迫に、コクコクとうなずく元所長。

 

「わかりました! スーパー結界キラー、ターゲット変更! 発射!」

 

 アンテナの向きがガクンと逆方向に向き、白い光線が魔王城結界に向けて放射された。

 

「結界を破壊しろ! 魔王よ、この俺の申し出を無視したことを後悔するがいい! こうなったら道連れだあ!!

 

 魔王の結界が不気味にレインボーな色をして揺らぎ始めた。

 

「結界同期完了! フン、この私の発明品にかかれば、魔王結界だろうが機動要塞だろうがお手の物です。はぁ、はぁ。ビビったわー」

「信じてたよ元所長! いや所長! あんたはやれる奴だと!」

 

 あまり知り合いでもない女研究員に、嬉しくてついハイタッチしてしまった。

 

「なんだ!? 何をした!?」

 

 巨大なアンテナから発せられる強い光を見て、思わず目を反らす魔王。

 

「おそらく我が結界を破ろうとしたのでしょう。だが所詮は人間の戯言。こんなものきかぬわ! 残念だったな!」

 

 と返す堕天使。

 だがその台詞とは裏腹に、顔は汗でダラダラ、両腕を上げて必死で歯を食いしばっている。 

 明らかに強がっているぞ!

 

「見ろあの姿! 効いてる! 効いてるぞ!」

「結界がめっちゃ薄くなってますよ。これ、強化しなくても普通の魔法で穴が開くくらい」

「お、こんなんアークウィザードどころか、見習い冒険者でも突破できるんじゃねえの?」

 

 魔王軍のモンスターを蹴散らし前進した紅魔族が、結界を見て言った。

 

 

「なんだこれは! どんな手を使ったんだ!?」

 

 ガクっと膝を付き、ひいひい言う堕天使。

 そんな堕天使の横に立つ魔王。

 

「だが完全な破壊まではいかなかったな。結界さえ残れば問題ない。あのおかしな兵器さえ壊せば我らの勝利だ!」

 

 スーパー結界キラーを指し、勝ち誇る魔王だが。

 

「お前達が有利に見えるか? 違うな。状況はイーブンだ! あの魔法使いを狙え! 今なら結界を楽に通過できる! 直接攻撃だ! 魔法使いを殺せば結界も消える! チャンスだ! 殺せ!」

「なっ!?」

「お前らがスーパー結界キラーを壊すか、俺たちが堕天使を殺すか!? 競争といこうか魔王よ!」

 

 <レッドフォース・ゼロ>の上で高らかに宣言した。

 

 

「紅魔族! 一番乗りだ! 最強の魔法使いを倒し、称号を奪い取れ!」

「アクシズ教徒! 全軍出撃!! 今こそ魔王をしばけ! アクア様のために! そしてこのストック様がニューリーダーになってやるぜえ! 行けええ!」

 

 いっくん、ストックの号令と共に、次々と結界内に飛び込んでいく紅魔族&アクシズ教徒。

 

「もういいわ! こうなったらこのオレ自らここで相手してやろう。魔王が魔王たる所以を! 真の力を見せてやる!」

 

 今の魔王の能力は知っている。だから直接戦わない方法をずっと考えてきたんだ。

 いかにして魔王と直接戦わず、奴の地位を奪い、孤立したところを紅魔族に処理させる。

 それが俺の魔王攻略計画だったのだが、いまやどうでもいい。

 

「全員! 魔王なんて無視だ! 魔法使いに集中砲火!」

「このオレの力は! 倒された幹部の怨念を吸収し、パワーアップすることだ。貴様らに倒された者の恨みを……。っておい! 無視するな!」

 

 俺が指示を出す前から、すでに紅魔族は堕天使の方に集中狙いだ。

 

「オレが真の力を見せてやる! 見せてやるって言ってるのに! 無視するな。お前は下がれ!」

「ひいいいいい! 無理! 今下手に動くと結界が壊れます!」

「くっ!」

 

 魔王が必死で部下を守るという、シュールな光景になっている。

 紅魔族が堕天使の方を狙っている一方で。

 

「アホ女神アクアなんか知ったこっちゃねえが! よくもこの俺様を人前でクズ扱いしてくれたな! 許せねえ! パッド光線を食らいやがれ!」

「逆ですわよストックさん! それは神に仕えるプリーストとしてアウト!」

 

 ストックが魔王に魔法を浴びせる。思わずつっこむマリン。

 

「そんなへなちょこ光線効くか! 本物の魔法と言うのを見せてやる」

 

 魔王は平気な顔をしてストックのパッド光線を受ける。

 パッド光線……っていうか祝福魔法なんだが、幸運の女神を裏切ったため真逆の効果が発生する。

 アレは実質デバフだ。

 

「食らえインフェル――うっ」

 

 魔王が魔法を発射する直前に、城壁の煉瓦が落下し、手に当たった。

 

「ぎゃあああああ! 魔王様! こっちは味方ですよ! どこ狙ってるんですか!」

「熱! 死ぬ死ぬ!」

 

 魔王の灼熱の炎が配下の軍勢に浴びせられる。

 

「岩が手に当たっただけだ。今度こそ! 食らえ! 『インフェル――」

 

 また二発目を撃とうとしたところで、魔法の直撃で背後の城が崩壊し、魔王の真上に瓦礫が注ぎ込まれ埋まっていく。

 ……魔王にも効くのか。ストックのパッド光線、いやアンチ祝福魔法。

 運を一時的に下げる効果って結構怖いな。

 

「ざまあねえぜ! 見たかアホ魔王!」

 

 ストックは思ったよりずっと危険な人物かもしれない。

 味方にしたくはないけど、敵にもしたくないなこいつは。

 

「ぬうう!」

 

 瓦礫を吹き飛ばして、おそらくダメージは受けてないが、キレ気味の魔王。

 

「おのれえ! なんで簡単に城が崩壊したんだ!」

「修復は突貫作業だったので!」

 

 部下にキレる魔王に。

 

「もっともっとお見舞いしてあげまさぁ。魔王様よお!」

 

 パッド光線を浴びせ続けるストック。

 

「そんなの効かぬと言ってるだろが! 食らえ! 『カースド・ライト・オブ・セーバー』」

 

 しかし魔王の魔法は不発。光で作り上げた剣はその場に落ちた。

 魔力不足でなく失敗だろう。とことんついてないな。

 その間にも魔王に向け、次々と石を投げつけるアクシズ教徒たち。

 

「なぜだああ! なぜ食らう全ての攻撃が『改心の一撃』なんだ! しかもこっちの攻撃はほぼ当たらん! なにをしたああ!」

 

 ノーガードでパッド光線を食らいまくった魔王は、今頃になって異変に気付いた。

 

「お前たち、俺の活躍ぶりをよく目に焼き付けとけよお! アルカンレティアに帰ったらあの老いぼれゼクシスに聞かせてやれ! 『パッド光線!』」

「これ以上あいつの光線を受けるのはまずい!」 

 

 魔王はたまらずストックから背を向けた。

 

「見ろよ! 魔王様ともあろう方が逃げ出してやがる。あんなんで魔族のリーダーとは笑わせるぜ。俺様が変わってやろうかこのウスノロが! HAHAHAHAHAHA!」

 

 魔王がかわしたため、今度は堕天使にパッド光線が当たる。

 

「我には聖なる力は――ってウエッ! なんだこの歪な聖なる力は! こんな穢れた『ブレッシング』見たことがないぞ! いったいどれだけ神を馬鹿にしたんだ! 吐きそう!」

 

 同じ神属性の力を持つであろう堕天使は、腐った物を食べたようにおなかを押さえ始めた。

 過去に何をしたんだストック。

 

 しかし

 これだけやってもまだ魔王の結界は壊せないのか。

 紅魔族の魔法を次々と食らい、パッド光線も食らい、それでもなお体を再生させながら結界を維持する堕天使。

 最強の魔法使いの称号は伊達ではないようだ。

 だがあと一撃だ。決定的な一撃を食らわせれば戦いは終わる。

 後ろで凄まじい轟音を立てて迫る機動要塞が来る前に。

 

「そろそろ紅魔族最強の切り札の出番ですよ。こんな薄まった結界。この私の爆発魔法で粉々にしてあげましょう! 我が名は――」

「魔王様! いや魔王よ!」

 

 ななっこが今こそ時が来たとばかりに、戦闘前の口上を上げようとしたとき、ひゅーこが変わりに出た。

 

「なんだヒューレイアス! 貴様はすでに用済みだ!」

 

 ひゅーこに言い返す魔王。

 

「魔王! 煽らないで下さい! ヒューなんとかは元は優れたアークウィザード。魔族に悪落ちした事でパワーアップしてました。その上更に改造を受けたなら……どんな力を秘めているか、想像したくもありません」

「なんだって!? あんな弱虫に何が出来るってんだ! あの狂ったプリーストの方がよっぽど危ないわ!」

 

 ストックの光線を本気で避けながら魔王は言った。

 

「あの魔王城での日々は! 私が魔王軍として過ごした日々は! 偽りだったんですね魔王!」

「何度言わせる気だ! お前もこのふざけた連中共々! 皆殺しだああ!」

 

 その言葉を聞き、ひゅーこは納得した顔で俺の元に来た。

 

「そうですか! ではもう迷いは無くなったわ。マサキ! 冒険者カードを渡して頂戴!」

「ドサクサに紛れて俺に攻撃しないよね?」

 

 ビビりながら聞き返すと。

 

「なんて疑り深いの!? せっかく決めたのに台無しじゃない! 空気読んでよ! あんたにもいつか仕返ししてやるけど、今じゃないわ!」

「いいぜ。受け取りな!」

 

 仕方なく冒険者カードを投げ渡した。

 

「ねぇ、知ってる?」

「なにをです? ひゅーこ」

 

 自分の見せ場を止められて、ちょっとすねているななっこ。

 

「爆発魔法は最強の魔法じゃないの。実はもう一つ上があって、その名は――」

 

 そんなななっこにニコりと笑いかけて。

 

「――爆裂魔法!」

 

 

 冒険者カードを弄り、凄まじい魔力をついに解き放ったひゅーこ。

 その激しい魔力の流れは、最強の魔法使いであるななっこや、最悪のストーカーのレイを遥かに上回っていた。

 

「我が名はひゅーこ! 元魔王軍幹部候補にして、今や紅魔族の一員なる者!」

 

 あれほど嫌がっていた、中二くさい紅魔族流の名乗りをあげるひゅーこ。

 バサッとマントを翻し、空に手を掲げ詠唱を始める。

 

「ナンバーBCMW-EX! 最強のポテンシャルを秘めた改良型紅魔族! 封印されし古代の禁呪……爆裂魔法を操るもの!!!」

 

 まるで封印された力を解放するかのように、眼帯を投げ捨て、紅く目を輝かせながら宣言する。

 

「……うっ……うう……っ…………!」

「ひゅーこが! ひゅーこが! ひゅーこが」

「元魔族のひゅーこが、とうとう……」

「あのひゅーこが、本当の意味で仲間に!」

「カッコイイ! ひゅーこ、カッコイイ!」

「ひゅーこが秘めたる力に目覚めたんだ!」

 

 紅魔族は攻撃を停止し、全員がひゅーこに注目し、涙を流して喜んでいる。

 

「ああああ、どうしたら! どうすれば!」

「もうダメだあ、オシマイだあ……!」

「何なんだ! 何なんだアイツは、魔王軍のパシリじゃなかったのか!」

「結界がもう保たない! 早く逃げないと、結界の崩壊と同時にあの巨大な化け物に踏み潰されるぞ!」

「なぜ突然、あんなラスボスみたいなのが出てきたんだ! どうして詠唱の段階でこんなに大気が揺れるんだ! アイツこそが魔王様みたいだぞ!」

「お、お母さーん!」

 

 その一方、多少は魔法を使えるモンスターたちは、目を白黒させて怯え始めた。

 

「……黒より黒く闇より暗き漆黒に我が深紅の混淆を望みたもう。覚醒のとき来たれり。無謬の境界に落ちし理。無行の歪みとなりて現出せよ!」

 

 一刻一刻と強大になっていくひゅーこの魔力。

 

「誰だああ! あいつに『爆裂魔法』なんて教えたのは! いやあの古代の魔法を使える奴はそんなにいるわけないな! お前だろ!」

「た、確かにこの我だが……」

「お前はなんてことをしてくれたんだ! お前のせいで!」

「だってアレは魔王様が……いやお前がやれって言ったからではないか! 最強の魔法使いの力を見せ付けろって! 使うと一時的に結界が維持できなくなるから嫌だって何度も止めたというのに!」

「でもお前も! あんなスキル習得したところで、ヒューレイアスには使いこなせないって言ってた! 言ったぞ!」

「あの時のあいつなら無理だったよ! でもまさかパワーアップして帰ってくるなんて、しかもスキルポイントを溜め直すのは無理だと思ったからだわい! あいつが再リセットするとか想定できるわけなかろうが!」

 

 この状況になり、魔王と堕天使が内輪もめを始めた。

 

「フッ。もう幕引きは近いな」

 

 互いに責任転嫁をする魔王軍トップの姿を見て嘲笑った。

 

 

「……踊れ踊れ踊れ、我が力の奔流に望むは崩壊なり」

 

 ひゅーこの詠唱が続くやいなや、モンスターの大群がこっちへ押し寄せ――

 死に物狂いで特攻して――。

 目の前で90度方向転換し、遠くへ走り去った。

 

「迎撃ぃ……する必要はないか。ほおっておけ」

 

 魔王城に潜むモンスター達は、どうやら魔王を見捨てて逃げ出したようだ。

 

「並ぶ者なき崩壊なり。万象等しく灰塵に帰し、深淵より来たれ!」

 

 ひゅーこは魔法を完成させ、今にも弱りきった魔王の結界向けて振り下ろそうとした。

 

「ま、待て! ヒューレイアス、悪かった! いやさっきのは冗談だよ! 今からでも遅くない、帰ってきてくれぬか? ヒューレイアス・サルバトロンよ!」

「サルバトロニアだよ! 今更もう遅いのよ! よくも私の心を踏みにじったわね! これが私の最大の威力の攻撃手段、これこそが究極の攻撃魔法よ! 裏切られた私の憤怒を思い知りなさい!」

 

 完全にキレたひゅーこは、顔と目を真っ赤にしながら魔王に言い返す。

 

「……これからは、オレも心を切り替えて、部下に優しい魔王になろうと思います!」

 

 城を見捨て、ガシャポン機から吐き出される玉みたいにポンポン逃げてくモンスターを見て、後悔する魔王に。

 

「もう遅いいいい!」

 

 堕天使が最後のつっこみをした。 

 

「『エクスプロージョン』ッッッ!」

 

 

 

 

 

 

 

 凄まじい衝撃と、舞い上がる爆煙、城を中心とした巨大なクレーターが、戦いの終わりを告げた。

 

 

 爆裂魔法。

 これがそれか。

 魔王城の結界はおろか、城の上部ごとごっそりと消し去っていた。

 おまけの衝撃でスーパー結界キラーもぶっ壊した。

 この世界最強の威力を誇る魔法か。なるほど、看板に偽りは無いな。

 

 

「……この爆裂魔法が禁忌とされた理由はね、あまりの絶大な威力に……敵はおろか周囲の地形すら変えちゃうの。なにより自分の限界を超える魔力を消費しちゃうから、一撃撃てばろくに身動きすら出来なくなるのよ。こんなのネタ魔法よ」

 

 ぐったりして倒れているひゅーこが説明した。

 

「さ、さすがは我がライバル、ひゅーこです。ですが最強の魔法使いは私です! 私の爆発魔法もこのままでは終わりませんよ! 伝説には宿敵がつきものですからね!」

「何よそれ! いつの間にライバルになったのよ! そんなの初耳なんだけど!?」

 

 ななっこに背負われながら反論するひゅーこ。

 

「将軍! 魔王を発見しました」

「ああ、見えてるよ。目の前だな」

 

 城は一応まだ半分以上残っているが、部下に見捨てられた魔王が地面に倒れていた。

 

「貴様ら……! よくも!」

「魔王よ。俺は本当に戦う気は無かったんだ。だけど信じてくれないんだったらこうなるよね。協力してくれればこんな酷い事にはならなかったのに残念だよ」

 

 悪い、と言う風に軽く魔王に告げた。

 

「魔王……もう無理だ。魔方陣は滅茶苦茶……我が体も限界……。当分結界の仕事はお暇を貰います。地獄に帰らせてもらう」

「おい!」

 

 粉々になって死んだと思った結界担当の堕天使は、最後のひと踏ん張りで体を再生させながら、魔王に告げて消えた。

 これで魔王は完全に一人ぼっちだ。

 

「こうなったらサトー・マサキ! 貴様だけでもころ――ぐはっ」

 

 魔王が俺に向かい魔法を唱えようとしたそのとき。

 

「オッラアア! マサキ! 間に合ったか!? で、どうなったんだ! あのでかいのを止めるんだろ? 魔王は騙せたのか!?」

 

 アルタリアが超速で到着した。

 

「アルタリア。お前はよくやった。だが失敗だ。機動要塞を止めることはできなかった」

「そうか。だったらしゃーねえなあ。で、今斬り付けた奴は誰? なんか敵っぽかったからとりあえずぶっとばしといたが」

 

 アルタリアに出会いがしらにやられるとは、どこまでもついてない奴。

 

「それが魔王だよ」

「おいマジかよ!? だったら私が魔王を倒した勇者って事に!?」

 

 首をふって答える。

 いくらアルタリアの攻撃が強いとはいえ、一撃で倒せるほどやわな相手じゃない。

 案の定瓦礫のなかから起き上がる魔王。

 そういえばこいついっつも瓦礫に埋もれてるな。

 

「よくもやったな女騎士! 不意打ちとはな! だがオレはこの程度では!」

「やるか!」

「いや待て、お前が来たってことは、アレも来たってことだろ? 戦う暇なんてねえよ。とっとと撤収するぞ。レイ!」

「はいマサキ様!」

 

 ノイズ残党軍にわかるように、レイが炸裂魔法で撤退信号を上げた。

 みんなで仲良く撤収だ。

 

「さぁここからが本当の勝負だ! オレの真の力! これまで倒された幹部の怨念を吸収し、最終形態へと変身して皆殺しにしてやるぜ! 恐るべき姿を見るがいいぜ!」

「魔王さんよ、あんたと遊ぶ時間は無いんだ。来るぞ? 本当の破壊者が。早く逃げるが吉だ」

 

 魔力を高め戦闘を継続しようとする魔王に、冷静に告げた。

 

 

 この振動。

 激しい振動。

 このプレッシャー。

 爆裂魔法の煙が晴れると同時に、その凶悪な巨体が姿を現した。

 魔道技術国ノイズが、対魔王用に作り上げた機動要塞が、魔王城のすぐ側に到着した。

 魔王城を守る結界はもう無い。

 機動要塞は立ち止まり、7つの目で魔王城を確認し、大きく震えた。まるでにっこりと笑ったかのようだった。

 それから子供が要らない玩具を壊すように無邪気に、執拗に破壊活動を再開した。

 

「ぐぐぐぐぐ! おのれええええええ!!」

 

 魔王は城を守るように立ち塞がる。

 そのまま崩れ行く城の中に消えた。

 

「……見ているか? 博士よ」

 

 撤退の最中にふと呟いた。

 元々対魔王軍用に作られたものだ。

 ならばその目的は果たされたのだ。

 博士よ、中で見ているなら、安心するといい。

 

 

「人類も、モンスターも平等に破壊する。これぞデストロイヤー計画! ここに完了!」

「そういう計画でしたっけ?」

「うるせえ! 計画に変更はつきものだ! 帰るぞ!」

 

 口うるさいマリンの突っ込みにいつものように答え、壊されていく城を後にし帰還した。

 こうして俺の、いや俺たちの最後のクエストは終わりを告げた。

 




サトー・マサキの冒険! これにて終了!
まぁエピローグが残ってますけどね。

書き始めたときから、最後のオチはデストロイヤーを魔王城にぶつける事でした。
長かった……すべてはこの時のために書いていた。
このタイトルだと普通博士が主人公じゃね? と何度も思ったけど
そうすれば最終回で戦うラスボスがいなくなるからなー。女研究者をいびってもなー。
今思えばタイトル詐欺だったかもしれない。
だって三部行くまでデストロイヤーどころか機動要塞のきの字も無いからなあ。
それまでクズ主人公がクズなことをやるだけっていうただ性格が悪いだけの作品……。


色んなオリキャラを登場させたり、原作キャラを変に改変しないように考えたり、Web版設定を引っ張り出したり。
半分オリジナルじゃないキャラを出したり……ストックとか。
実質クロスオーバーじゃん……特にストックとか。

女研究員とか、名前も無いモブで設定も考えてないキャラの台詞長かったりと、プロット通りにはいかないものです。
ノイズの説明要因として丁度よすぎたからなあ。

色々と悩んで寄り道もあって、でも

「博士がデストロイヤーを作って、そのせいでノイズは崩壊した」

という筋道は一応たどれてよかったです。


ぶっちゃけこの作品の一番の功労者は、ブラック・ワンくんだと思います。
マサキの糞みたいな命令に黙って従う彼は本当に苦労人でいい人だと思います。
それではエピローグで。

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