この素晴らしい世界にデストロイヤーを!   作:ダルメシマン

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 ついに最終章です。


三部 デストロイヤー編
三部 1話 開戦! ノイズ草原の戦い


 鶴翼の陣

 それは古代より伝わる戦術。幾たびの戦争にて、自らよりも多い数の敵を破ってきた由緒ある陣形。

 今! 俺率いるノイズ軍は、数で勝る魔王軍を迎え撃つ。

 空からの攻撃の心配は無い。毎日のように紅魔族は空から襲ってくる魔物たちを叩き落したため、向こうの空軍は壊滅している。

 紅魔族による猛攻撃で損害を食らった魔王軍は、どうやら本腰をあげたようで、大量に兵を動員し、地上戦で決着をつけにきた。

 俺は特に何もしていなかったんだが、かつて魔王軍幹部バラモンドを討ち取った功績により紅魔族の隊長に任命され、さらにノイズ軍の指揮をとるように任命された。

 つまり軍の指揮官はこの俺だ。

 ククク、どうやら俺の時代がやってきたようだ。この俺の活躍が! この世界の歴史に名を刻むときがついに来たのだ!

 

「装甲を強化した特別仕様のゴーレム軍を前面に、中央に配置。これでそう簡単に突破される事はないだろう」

 

 左翼に紅魔族、右翼には傭兵の冒険者達。正面にはノイズ中からかき集めたゴーレムを横に広く並べている。俺が開発部に作らせた、頑丈なゴーレムも実戦配置についている。

 俺はゴーレムたちの後方にて、戦闘機能をオミットして人が乗れるようにした指揮官用のゴーレムに乗っている。

 紅魔族はたった9人だが、前回の戦いでその実力は目の当たりにした。少数でも十分すぎるほど敵を圧倒するだろう。正式な制服がまだ決まってないため、彼らにはとりあえずジャージを着せられている。

 後は中央がぶつかり合うのを待つだけだ。

 俺の思い通りに行けば、ノイズ軍と魔王軍がぶつかり合っている隙に、左翼の紅魔族部隊が敵右翼を突破。そのまま敵左翼も突破し、自由になった紅魔族と傭兵部隊が中央の魔王軍本隊を後ろから排撃し、包囲殲滅が完成する。

 戦いの火蓋が気って落とされるのを、まだかまだかと待っていると……。

 

『紅魔部隊、なにをしている。お前たちの出番はまだだ。今すぐ定位置に戻れ!』

 

 後方から監視していると、まだ敵と相当距離がある状態だというのに、紅魔族が突撃するのを確認する。慌ててノイズの通信機で連絡を取ると。

 

『悪いな。獲物は早い者勝ちだ!』

 

 返事はこうだった。

 

『まだ早い! 勝手に飛び出すな! お前たちがやられたら全体の危機になるんだぞ? 歩調を合わせろ!』

『私たちを倒せる奴らなんてどこにもいない! いるならやってみればいいんですよ!』

 

 ダメだ。全然いうことを聞いてくれない。どうしよう。このままだと各個撃破される。

 案の定、勝手に飛び出した紅魔部隊を魔王軍が包囲していく。

 

「やばいぞ! マリン、れいれい、アルタリア。このままだと紅魔族だけで魔王軍全体を敵に回すことになる。そうなればさすがのあいつらも……」

 

 そこまで言ったとき、戦場に大きな雷が走った。

 

「あいつらも……」

 

 紅魔族は魔王軍相手に奮戦。次々と雷を落とし、更に大きな爆音。

 

「……この音は、あの頭のおかしいのが爆発魔法を使ったな……」

 

 魔王軍の陣の中央に大きな空白が発生した。

 爆発で崩れたところを、文字通り次々と引き裂いていく9人の影。

 

「あ、あのマサキ? 右翼にいる傭兵達から連絡です。我々も突撃していいかって?」

「もう好きにすればいいんじゃないかな?」

 

 ヤケクソ気味に、無線を持つマリンにそう返した。

 もう俺の作戦も何も無い。紅魔族が魔王軍に特攻し、次々と撃ち破って行く。それを見て負けられないと同じく特攻する傭兵達。逃げ惑う魔王軍。動く必要のなくなった中央ゴーレム軍。この会戦の勝利は明らかになった。

 ゴーレムの後方で、ただぼんやりそれを眺めているだけの俺たち四人。「私も行けばよかった!」と悔しそうなアルタリア。

 

「おお! 見事な指揮っぷりでしたね、隊長。ノイズ軍の快勝です!」

「全然嬉しくねえよ! こんなん誰でも勝てる! 仮に猿が指揮官でも勝てるわ!」

 

 結果を確認したノイズの調査官に八つ当たりする。

 

「上層部は決戦に出るのを反対していました。大量のゴーレムを失う羽目になり、ノイズの防衛力の低下となると。それを押し切ったマサキ隊長の判断は正しかった」

「ちーがう! 違うって! 俺はこんな結果望んでなかった! もっとがちゃがちゃと包囲殲滅する気だったのに! せっかく用意したゴーレムなんか全く何もしてねえし! 装甲強化した俺がバカみたいじゃん!」

 

 俺の事を褒めてくれる調査員だが、はっきり言って全然嬉しくない。だって俺なにもしてないし。苦戦もクソもない。ただただチート種族が暴れてるだけだった。

 

「今回の戦いの勝因はなんでしょう? この戦いは後世に残るでしょうし」

「しるか! 『紅魔族でごり押し戦術』とでも名付けておけ!」

 

 更にピカピカと光る無傷のゴーレムを見ながら言う。

 

「そもそもこれじゃあ俺の戦術の意味が無い! 俺の目的はな! 魔王軍を中央に集結させた後に包囲殲滅することだった。それで魔王軍をほぼ全滅に追いやる事だった! それをだな! 紅魔族が勝手に独走したせいで魔王軍の大半が戦う前に逃げ出したじゃないか! ゴーレムで押しつぶす予定だったのに全くの無傷だぞ? おかげで魔王軍はまだまだ健在だ! せっかくの俺の策が台無しなんだよ!」 

 

 今回の結果に満足できなくて怒鳴った。

 

「もういい、ゴーレムたちを帰還させるぞ。あとは紅魔族と傭兵にやらせておけ。そういえばれいれい、今日はやけに大人しいな」

「……」

 

 ゴーレムに引き上げを命じて帰ろうとすると、無言で、どこか遠くを見つめているれいれいがいた。

 

「れいれい! 帰るぞ! 聞いてるのか? おい?」

 

 なんだこれは。

 目がうつろな様子で、顔を真っ赤にしながら、何も聞こえないようで、ただただ一点を見つめている。

 

「ああああああああああああああああああああ!!」

 

 すると急にレイレイは体中にスパークを弾けさせながら――大声を上げたあと。

 

『炸裂魔法』『炸裂魔法』『炸裂魔法』

 

 無差別に周囲を攻撃する。

 

「どうしたんだ! れいれい! なにをしてるんだ!?」

「うわっ! れいれいさん! どうしました!?」

「パシったことまだ根に持ってるのか? 謝ったじゃん! なぁ!」

 

 大慌ての俺たち四人。

 

「ど、どうしたんです? 何が起きたんですか? 敵襲です?」

 

 調査員もパニックになって叫ぶ。

 

「全員! ゴーレムの盾にして隠れろ!」

「うおおおお!!! 壊す……壊すんだ。力が、力が止まらない。魔力が溢れ出す! 限界だ!」

 

 目を真っ赤に光らせながら、物騒な言葉を言って次々とゴーレムを破壊していくれいれ。

 

「な、何事ですか? なんで味方のゴーレムを壊してるんですか?」

「わ、わからん! わからんが危険な状況なのは確かだ! れいれいも、俺たちもな! 全員物陰に隠れろ!」

 

 破壊されていくゴーレムを見て数少ない兵士、調査員や技師、ゴーレムを操作していた魔術師に命令を出す。

 

「コワス! ゼンブコワス! 破壊シロ! ハカイダ! ブッコロス!」

 

 れいれいはいつもとはまた別のベクトルの怖さで、カタコトになって大立ち回りをしている。

 

「よせ! れいれい! 俺だ! 俺の事がわかるか!? どうしたんだ急に!」

「……ううう、マサキ様? ああっ! うっ! 逃げてください! コワス! ゼンブコワス!」

 

 少し正気を取り戻したが、またすぐに破壊活動を再開するれいれい。

 

「くっ! 『バインド』 これで少し落ち着いて――」

 

 れいれいをスキルで拘束した後、押し倒して押さえつけようとするが。

 

「あつッ!!」

 

 れいれいのあまりの高熱に、思わず手を放してしまった。

 

「これは絶対やばいぞ! れいれいの体……人間の体温じゃない! 触った俺が火傷しそうだ……。おい! 頼むから落ち着いてくれ!!」

「ま……まさ……き……さ。ううっ! ああああ! 逃げて! 逃げ――ああああああ!」 

 

 れいれいはバインドを自力で吹き飛ばし、手のひらをこっちに向けてくる。

 

「『炸裂魔法』 あう!」

 

 ギリギリのところで手を真上に掲げ、空目掛けて特大の炸裂魔法を打ち上げた。

 

「うっ……ううううっ」

 

 そのままばたりと倒れるれいれい。

 

「だ、大丈夫かれいれい? うっ! あつっ! まだ体が熱いぞ?」

「……マサキ……さま」

 

 そのままグッタリと気を失うれいれいだった。

 

 

 

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 戦場は調査員に任せ、俺たちパーティーは気を失ったれいれいを博士の研究所までダッシュで連れて行った。

 

「博士! どうなっている! れいれいが! れいれいが暴れたんだ! しかも高熱をだして! 原因はわかるか?」 

「こ、これは……!? 少し待ってくれ。すぐに原因を探すよ」

 

 倒れた彼女をベッドに載せ、すぐに調査を始める博士。

 

「な、なるほど……魔力が過剰にたまりすぎたのが原因だね。そういえばプロトタイプことれいれいは、改造されてから今回までまともに戦闘をしていなかったね。その間に溜まった魔力が限界を超えそうになってしまったのか。急速に魔力を補充するようにしたのが裏目に出ちゃったか。改造人間にこんな欠陥があったとは。他の紅魔族にも起こりえるかもしれないよ。これはやっべーな」

「なんだと博士! 俺の仲間になんてことをしたんだ! で、れいれいは大丈夫なのか?」

「ああ、それなら心配要らないよ。溜まった魔力を放出すればいい。とりあえずあそこにある設備の中に入れれば熱暴走は止まるよ」

 

 魔力排出用の機械に乗せると、れいれいの真っ赤だった顔が元に戻って行く。

 

「ごめんな、さい。マサキ様……私の……せいで。作戦が」

 

 少し楽になったのか、目を覚ましたれいれいが俺に謝る。

 

「誤ることはない。これはお前のせいなんかじゃない。改造人間の欠陥は博士の責任だしな。そもそも作戦を台無しにしたのはあの紅魔族の奴らだ。ゆっくり休むといい」

 

 こうして弱っているれいれいの姿を見ると……普通に可愛いんだがなあ。このままずっと弱っていてくれれば、なんてゲスな考えが頭をよぎる。いやいや、れいれいは俺の大事な仲間であり、野望に絶対に欠かせないコマでもある。失うわけにはいかない。そう首を振って思い返す。そして疲れた彼女を寝かせた後、今度は博士に尋ねる。

 

「で、博士よ。この先どうするんだ? れいれいが破壊したゴーレムは魔王軍の仕業と報告することにしてだ。紅魔族はいつ爆発してもおかしくないんだろ? 危険な状態になるたびにここに連れてくる気か? 今回はなんとかなったが、もし間に合わなかったらどうする?」

「そ、そうだねえ。国内で爆発とかしたら俺って普通にテロリストじゃん。人間爆弾とかシャレになんねーよ。この魔力の上昇は、睡眠時が一番危険だな。ううーん、睡眠中に自動的に魔力を放出出来ればいいんだけどねぇ……」

 

 

 

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「君たち、集まってくれてありがとう。残念なお知らせだ。紅魔族に重大な欠陥が発見された。紅魔族は睡眠時の魔力の回復量、吸収量が自分の限界を超えても供給し続けるらしく、容量オーバーでいつ爆発してもおかしくない危険な状態にあることが判明した」

 

 戦いから帰還した紅魔族を、すぐさま改造人間の実験室に集合させた。手には先に地面に突き刺す棒が付いた針金を持ってきた。

 

「これは、アースって言ってな。地面に余分な魔力を流すもんだ。れいれいが危うくボンッてなりかけた。博士の再チェックによれば、お前たちも同じようにいつかオーバーヒートで暴発するそうだ。それを防ぐためにだな、寝ているとき体にアースを付けて、オーバーした魔力を自然放出するんだ」

 

 突貫で作らせた、アースを紅魔族に手渡そうとすると。

 

「ふざけるな!」

 

 バンっと払いのけられた。顔を見ると皆激怒している。

 

「気持ちはわかるよ。体を改造された上に、記憶まで無くして、今度は体が爆発するかもしれないなんて耐えられないよな? だがこらえてくれ」

 

 同情的に紅魔族に話しかけると。

 

「「「そんなことはどうでもいい!」」」

「えっ!?」

 

 いいのか? その返事に驚く俺。

 

「改造人間が爆発するのは別にいい! むしろ当然!」

「そんなことより! なによその変なものは!」

「その針金のようなものだ! そんなのダサすぎる!」

「そうだ! あんたは前から思ってたけどセンスがわかってない!」

「針金を付けて寝るとか。そんなのなんか違う!」

 

 なにを言い出すかと思えば、そんな事を言い出した。

 

「で、でもこれが無いとお前ら死ぬんだぞ?」

 

 呆れた顔で言い返すと。

 

「ちょっと貸せ! ふむふむ……仕組みはわかった。あとはもっとかっこよくしよう」

「魔法使いのローブに魔力排出機能を組み込むのはどう?」

「それはいい。一人一人にあったローブを作るぞ」

 

 アースを奪い取った紅魔族は、それを参考にし勝手に自分達で新しい装備を作り始めた。

 

「あ、あの、それとだな。俺の考案した制服が出来上がったんだが。目立たないように暗めにしている。あとポケットもいっぱい付いてるからそこに魔道具を色々と入れられる用になっている」

 

「ダサい!!」

「ダサいダサい!!!」

 

 俺の制服をその場で投げ捨てる紅魔族。そしてまた勝手に、赤く目立つ服を作り始めた。

 

「やっぱこいつら、苦手なんだよなあ」

 

 紅魔族を見てそう呟く俺だった。

 




 最終章が始まりました。この先ノイズは、博士は? 紅魔族は、マサキはどうなってしまうのでしょう?
 終わりの幕開けが、スタートです。

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